日常部へ、ようこそっ!   作:雨宮照

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真相と、新境と。

生徒たちもだんだんと打ち解けて、初日よりも若干喧騒が増した翌日の放課後の教室。

その端の方の席で、俺ーーご存知蛍原大輔は、これまでに類を見ないほどの緊張を身にまとっていた。

いやだってみんな緊張するだろ、ラブレターくれた相手のところに断りに行くんだぞ!

まあ、どっちかといわなくてももちろんラブレター出した側の人間の方が緊張してるには決まってるんだけど。

それでもやっぱり、緊張する。

一体どんな女の子が俺のことを好きになってくれたんだろうとか、一体俺のどんなところを好きになってくれたんだろうとかーーあとは、俺がもし振ったら、どんな顔で悲しむんだろうーーとか。

色々と考えていたらだんだんと頭の整理がつかなくなってきてしまった。

そして、とりあえず呼び出された先の交流棟へと向かいながら頭を冷やすことにした。

 

……とりあえず、今日あった出来事でも回想してみるとするか。

特にこれといった出来事はなかったけど、一つだけ引っかかったことがあったんだよな。

それは昼休みのことだったんだけど、昨日話しかけてきたギャルが今日も俺に話しかけてきたんだ。

まあ、話しかけてきたことはいいんだけど、その内容が問題だった。

「ねえ、蛍原? あたし、始めたよ!」

「え? 始めたって何が?」

俺はさっぱりなんのことか分からず、聞き返した。

すると彼女は笑顔で言ってきたんだ。

「昨日蛍原が言ってた、スーパーありんこ対戦デラックスだよ。始めてみたんだぁ」

「…………へっ?」

いやー、びっくりしたね。

だってさ、昨日みたいな感じでやってるアプリとか読んでる小説とかの質問してくるやつって、大体それに興味ないけどなんとなく聞いてくるやつらだろ?

だから、始めたって聞いて本当に驚いた。

それと同時にーー嬉しかった。

本来俺が人に心を開くことってないんだけど、今日はなんか不思議な感じだった。

これまで生きてきた中で初めての経験だったからなのかもしれない。

俺がやってるゲームをわざわざ他の人が始めて、それを報告してくれるっていうのは、結構なインパクトがある行為だったみたいだ。

……昨日はギャルだと決めつけて少し彼女を邪険に扱ってしまった節があったが、今日は普通にクラスメイトとしていいやり取りができたと思う。

これは、俺にとっては結構な不思議な出来事だったと思う。

 

そうして昼間の嬉しかった出来事に思いをめぐらせているうちに、交流棟奥の、教室の四分の一程度の大きさの部屋の前に着いた。

そして、しばらくドアノブを見つめてしまう。

……既に相手が到着しているかどうかはわからないが、反応は準備しておくべきだろう。

やはり冷静な男の方がかっこよく見えるだろうな。

ってことで、俺は冷静沈着、クールな男子生徒を演じて入室することにした。

 

……ドアノブに掛けた手が、カタカタと震える。

そこで一度最後に深く深呼吸をして、静かに扉を開け放った。

すると目に飛び込んだのは、部屋の中央に置かれた大きな会議用のテーブルと、1台のノートパソコンとーー椅子に座ってそれに向かう、一人の女子生徒の姿。

……よく見なくてもその女子生徒は紛れもなく……俺が想いを寄せている女子生徒ーー糸ちゃんだった。

(ええええええええええええぇっ!)

一瞬の驚愕。そして……

(かわいいいいいいいいいいいっ!)

驚愕を凌駕するほどの勢いで突如湧き出す愛おしさ!

ここが自室のベッドの上だったなら、布団をきつく抱きしめて、ぐるんぐるんと激しく転がってることだろう。

……まあ、実際にそんなことしたらほたるにうるさいって怒られそうだけど。

そこで、もう一度今目の前に置かれてる状況を整理する。

まず、目の前の糸ちゃん。

彼女が昔クラス掲示用の自己紹介欄にハリネズミが好きだと書いていたが、そのハリネズミみたいな、非常に愛らしいフォルム。

そして、彼女の美しく長い黒髪はウェーブがかかったような癖っ毛で、今は耳にかけていて、これまた非常に愛らしい。

耳がちょこんと髪の間からこちらを覗いているのが、なんとも言えない可愛らしさを演じている。

それから、彼女のトレードマークと言っても過言ではない、いつものマスクを着用していても分かる、驚きに満ち溢れた可愛らしいくりくりの瞳!

……突然の天使との遭遇に、俺の頭はもう、ショート寸前だった。

 

しかし、こうなると手紙を出したのは糸ちゃんだってことになるはずなんだけどーーなんであんなに驚いた表情をしてるんだ?

俺が手紙を無視して、ここに来ないとでも思ってたんだろうか。

そうしたら、心外である。

俺がそんな考えから唇をとがらせていると。

「ぁ……なんの……よう、ですか……?」

すぐ前方から、今にも消え入りそうな細い声がした。

それはまるでフルートのソロ演奏のように美しい繊細な音で問いかける。

よく見ると、目の前の糸ちゃんがこっちを向いて声を出そうと、頑張っていた。

「……ぇぇと……ここに、なんの、ようで……?」

……ん?

なんの用でって、どういうことだ?

だって俺は、手紙を貰ったからここに来たわけで。

そうしたらそこで糸ちゃんがパソコンを広げて待っていたわけで。

そうしたら当然、糸ちゃんが俺を呼び出した張本人であるはずで……?

突如として起こった想定外の事態に、頭が追いつかなくなる。

「え、ええと……」

とりあえず何か話さなければいけないと声を発してみると。

「ぅ……こ、ここに……なん……の、よう……ですか……!」

糸ちゃんが、さらに頑張った。

「あ、ごめん! 聞こえてはいるから大丈夫だよ!」

俺は、慌てて彼女に手を振る。

「でも、これは一体……?」

俺が再びどういうことかと思考を開始すると……。

「うぃー! お疲れー!」

『!?』

「ん? どうしたん二人ともそんなビックリして」

突如開かれた俺の後ろのドア。

そして、元気な声とともに入室してくる……あ! クラスのギャル!

「……茨木さん、今ね、蛍原くんがここに入ってきて……理由を、聞いてたところなの」

「ほほう、そういうことね。それで驚いた顔で二人が向かい合う、こんな構図になってると」

ふむふむ、と何故か訳知り顔で頷く茨木とやら。

自己紹介は授業であったはずなのに、今まで知らなかったな。

……席順も名前と関係ないから、推測もできなかった。

「ええと……茨木は何か知ってるみたいだけど、これはどういう状況だ?」

とりあえず、この状況に陥った理由を知りたくて、すっかり入室して隣に立ったクラスメイトに質問する。

口調も最初のときと違って、今日たくさん話したから大分フランクになったなぁ。

すると、茨木からは意外な答えが返ってきた。

「ああ、じゃあこの状況、説明するね。あの手紙出したの……あたしなんだ」

「……えっ?」

手紙を出したのが、茨木。

ってことは、俺を呼び出したのが、茨木。

つまり……?

「茨木、お前俺の事好きだったのか!」

「なんでそうなるの蛍原! 意訳の飛躍がすごすぎるよ!?」

「おっ、ダジャレか? ダジャレを言ったのはダレジャ?」

「違うわ! あとうるせえ!」

なんか茨木がぜえぜえしてる。

……ツンデレかな?

「つまり、ここに呼び出したのは、あたし」

茨木が、呼吸を整えてから続ける。

「……ようこそ、日常生活に彩りを! 天地に潤いを! ……部へ」

「……は?」

何言ってんだこいつ。

「だーかーら! ようこそ、日常生活に彩りを! 天地に潤いを! ……部へ!」

若干怒りながら言う茨木。

「部って……どういうことだ?」

それに答えて、今までずっと居心地悪そうにしていた糸ちゃんが言う。

「ここはね、さっきのを略して日常部っていって、日常生活で楽しいことを見つける部活なの」

「……ふへえ」

かわいい。

ひとことひとことを頑張って振り絞って喋ってて、めちゃくちゃかわいい。

控えめに言って抱きしめたい結婚したい。

「そう。……で、先輩が卒業して部員が足りないから、蛍原には新入部員として入って欲しいってわけ」

「でも……なんで俺に?」

女子がこれだけいるなら女子部員の方が安心できるだろうし、男子だとしても俺が選ばれる理由がわからない。

「そっ、それは……」

なぜかそこでうっすら頬を赤らめて黙ってしまう茨木。

すると、また背後のドアが開いて、誰かが入室してきた。

「私がいるから、でしょ?」

入って来たのは、ほたる。

「兄さんが怪しかったからついてきてみたら、部室に来てるなんて驚いちゃったよー」

おい、ナチュラルに兄をストーカーするんじゃない。

「でも、日常部に兄さんが来てくれるなんて嬉しいなー。茨木さん、よくやったね!」

「お、おう……」

なぜか悔しそうに返事をする茨木。

ほたるのことが苦手なんだろうか?

「と、とりあえずっ!」

と、茨木が再び会話の主導権を握って畳み掛ける。

「あたしたちと一緒に、今日から活動してもらうからな!」

 

続く。

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