「……で? ここは何をする部活なんだ?」
先ほどの強引な勧誘劇から少しして。
俺たちは、中央のテーブルを囲む形に椅子に座り、会議を行っていた。
まず俺が疑問を口にすると、答えたのは部長の茨木だった。
「日常部は、文字通り日常生活に彩りを与える部活ね。例えば……」
茨木は、自身のスマートフォンを驚異的なスピードでタップすると。
「この間蛍原が教えてくれたありんこ対戦デラックスみたいなゲームをやったり……」
と、スーパーありんこ対戦デラックスのオープニング画面を見せて。
「あとは、自分に秘められた能力を解放させようと頑張ったり、漫画のシーンを再現したり!」
と、ほたるが続きを受け取る。
「あとは……ゆるスポーツとかもやったよね」
そして、最後は糸ちゃんも内容を教えてくれた。
「ええっと……ゆるスポーツって、なんだ?」
またも、新しく湧いた疑問を口にする俺。
「えっとねー……あ! そうだ〜」
そして、説明しながら何かに気付いた様子のほたるがニコッと微笑んだ。
「折角だし、今からみんなでやってみようよー」
ーーー五分後。
みんなで机を片付けたり要らないものを端に寄せたりして、再集合。
ここに、第一回ゆるスポーツ選手権が開催された!
「今回は百センチメートル走をやるよ!」
と、主催者のほたるが宣言する。
「百センチ走って、どんなことをやるん?」
「百メートル走みたいな感じで、一メートルを速く走るんじゃないのか?」
「……私、運動苦手だから、あんまり走りたくない……」
「えっへん! この競技を説明するね」
なんだか得意げにほたるが宣う。
「この競技では、通常の百メートル走とか五十メートル走とは違って、一メートルを走る遅さを測るんだよ!」
な、なんだと……!
こっちのさじ加減でいくらでもゆっくり出来ちゃうじゃないか!
「ルールとかはないん?」
「ほんとは厳しいルールがあって難しいみたいなんだけど、今日は難しいルールなしでやろうね」
「うん……私、その方がいい……」
「よし、じゃあ決まりだね! だれからやろうか?」
公平なじゃんけんの結果、ほたる、茨木、糸ちゃん、俺の順番でやることになった。
「トップバッターは、私だよ〜」
ほたるが、一メートルを測ってテープを貼っておいたスタートに立つ。
そして、戦いの火蓋は切って落とされた!
計測係の糸ちゃんがストップウォッチを押す。
すると、ほたるがゆっくり、ゆっくりと右脚を上げ始めた。
そして四十秒ほどかけて脚が頂点まで上がると、またもゆっくりと、ゆっくりと脚を下ろしていく。
そして、今度は左脚を上げて……。
「地味だな」
「地味だねぇ」
「……地味……」
全員が、退屈になった。
まあ、俺は愛する妹がプルプル震えながら頑張ってるのが見られていいんだけど、他のみんなはこれじゃあ完全に暇だろう。
そんな部員たちの「早く終われ〜」っていう視線にも耐えながら、見事一メートルを歩き切ったほたる。
記録は、七分四十二秒。
世界には十分を超える強者がいるらしいが、それに迫ったいい記録だと思う。
それに、ほたるが俺たちに見本を見せてくれたお陰で、大体のやり方も理解出来た。
まず、既に着いている足の爪先より後ろにもう片方の足を着いてはいけない。
そのため、既に着いている足の爪先に、次の足のかかとが触れるのが基本的なやり方なようだ。
「じゃあ、二番手はあたしだね!」
続いて、ギャルこと茨木が緊張しながらスタートラインに立った。
そして、ほたるの合図とともに片足を上げて……。
「うわっ! ちょっ! 何するん! くすぐったいってぇ……んっ」
盛大にくすぐったがった。
「ちょっと! 誰がやってるん〜!」
「ふはは! 俺だ!」
「や、やめっ……ぁっ……んんっ!」
真っ赤な顔で片足を上げながら悶える茨木。
その足を俺は、部室に転がってた猫じゃらしのおもちゃみたいなやつでこちょこちょしていた!
「はっはっは! 悶え苦しめ〜!」
「ちょっ、あはっ! 蛍原ぁ〜!」
「兄さん……」
「ほ、蛍原くん……」
あっ、二人がこの世のものとは思えないほど冷たい目でこっち見てる。
ごめんなさいごめんなさい。
そして、俺がくすぐったことによって早く足を着いてしまった茨木は、記録二分でフィニッシュした。
「三番手……行きます……っ」
続いてスタートラインに立ったのは、我らがアイドル糸ちゃん。
糸ちゃんは不安そうに、何度もイメージトレーニングをしているようだ。
そして、ついに意を決したかのように第一歩を踏み出す。
「頑張れ糸〜!」
「頑張ってねー」
「糸ちゃんファイトー!」
全員が応援する中踏み出した、最初の一歩は安定して、三十秒程で地に着き。
そして、代わりに踏み出した第二歩目はーー。
「ぁ……」
バランスを崩してレーンの横に着いてしまい、失格となってしまった。
彼女の愛らしいハリネズミっぽい丸さが仇となってしまったようだ。
「糸、大丈夫だよ! 難しかったよね」
「う、うん……」
「よっしゃあ! 糸ちゃんの仇は俺が取るぜ!」
そうして最後にスタートラインに立ったのは、この俺。
神妙な面持ちで見守る糸ちゃんと、なにか企んでいそうな茨木。
そしていつも通りフラットなほたるに見つめられ、ゆっくりとスタートする。
一歩、また一歩と足を踏み出すも、なかなかゆっくり歩くにも限度がある。
どうしても早く足を着いてしまうのだ。
……うん。見てる分には簡単そうだけど、実際にやってみるとすげえ難しいな。
「兄さん頑張れー」
「蛍原くん……がんばって……」
二人の応援が周りから聞こえる。
それを感じるだけで、少しでも足をゆっくり動かせる気がした。
それでも、だんだんとゴールは近付いてきてしまう。
この分ではどうやってもほたるの記録を抜くことは出来ないだろう。
……と、そこで。
何やら足の付け根に違和感を感じて仰け反る。
そしてバランスを崩して足をついてしまってから、俺はその違和感が来た方向に目を向けた。
すると、棒を持ってニヤニヤする一人のギャル女子高生。
もしかしなくても我らが日常部の部長、茨木なんとかだった。
……そういや下の名前は聞いてなかった。
「おいやめろ! 茨木なんとか!」
「なんとかってなんなん! あたし、茨木薫だけど!」
茨木薫って名前だったらしい。
そういえばクラスの自己紹介で聞いた気もするが。
「で、茨木。棒で俺の股間を突くんじゃない」
「へへっ、やだよ〜! だってさっき蛍原、あたしがやってるとき猫じゃらししてきたじゃん! 仕返しだよ!」
「やれやれ。そうやってやられたらやり返す。だから戦争はいつまで経っても無くならないんだぞ」
「いや、先に攻撃してきたあんたが言うんじゃないよ」
ブスッ、ブスッ。
話しながらも容赦なく股間付近に突き刺さる棒。
「ほたるも! 見てないで助けてくれ」
「え〜。いじめられてるときの兄さん面白いんだもん〜」
「このサディストが!」
「兄さんだってMじゃん」
「そうだけど兄の性癖をやすやすと口にするんじゃないよ!」
くそう。
助けを求めたつもりが俺の性癖を部員全員にばらす結果になってしまった。
「ぁ……ちなみに、私もM……」
「糸ちゃん!?」
いや、なんで言った!
でも糸ちゃんもMかぁ……。
相性悪いじゃねーか、ほんとなんで言ったし!
「糸、話に混ざりたかったんだよね〜」
「……こくん」
うおっ、そうだったのか。
今の頷く仕草からなにから、糸ちゃんは何しててもかわいいな!
糸ちゃんが動くだけで俺は幸せでならないよ。
その間にも、ブスブスと容赦なく刺してくる茨木。
しかしながら、俺には全く効かなかった!
「おい、なんで止まってるん! こんなに刺してるのになんでバランス崩さないん?」
「……はっ。ふふふっ、凄いだろ! 俺の平衡感覚のなせる技よ!」
とかなんとか言ってるけど、実際には糸ちゃんに見とれてゆっくり動いちゃってただけだった。
恐るべき魅力の糸ちゃんである。
そして、棒での攻撃が全く効かないことに気付いた茨木が攻撃をやめ、普通に俺が六分でゴール。
結局、言い出しっぺのほたるが優勝する結果で百センチメートル走グランプリは幕を閉じたのだった。
続く