指揮官が不細工すぎる   作:排無

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またエンタープライズ視点です。


4話

「エンタープライズ様、明日の秘書艦を代わってもらってもよろしいでしょうか?」

「別に構わないが…理由を聞こう」

「実はですね…」

 

聞くところによると明日は新しいロイヤルメイドが増えるという。その名もシリアス。戦闘はメイド隊でもピカイチだが残念なことにメイドとしてはまだまだ未熟らしい。

そこでメイド長たるベルファストが仮にシリアスが粗相を起こしてもすぐさまフォローできるようにしたいとのことだ。

 

「未熟だからと言っても明日は指揮官に挨拶するだけだろう。私がそのまま秘書艦でもいいんじゃないか?それともそんなに問題児なのか?」

「いえ、シリアスは問題児なんかではなくむしろ頑張り屋です。しかしその頑張ろうという気持ちが空回りしてしまうというか…とにかく、彼女のメイドとしての教育の意味も込めて明日だけでも秘書艦を代わってほしいのです」

 

頑張る気持ちが空回る…確かに善意で取り返しのつかないことになってしまう可能性があるな。

 

「わかった。明日の秘書艦は任せよう」

「ありがとうございます」

 

その時点ではなんの問題もなくベルファストと別れた。

 

ところでロイヤルメイド隊は現在ほぼ機能停止状態である。ほとんどが指揮官の顔を見てしまったからだ。ベルファストとニューカッスルが問題なく活動しているのはその顔を見ていないからに過ぎない。あの冷静で無愛想なシェフィールドでさえガタガタ震えて泣き出したほどだ。

そんな中に未熟者のメイドが入隊するのだ。ベルファストが教育したがるのも無理はない。いや、流石に挨拶するだけでアクシデントが起こるとは…でもあのベルファストの様子は結構焦っていたな…

 

「…眠れない」

 

その夜は無理矢理に目を閉じて意識を落とした。

 

 

 

今日はシリアスの着任日。今日のことが心配で全然寝れなかった上にやたら朝早くに起きてしまった。

彼女の着任まではまだ時間がある。艤装の調整でもして気を紛らわせよう。

 

 

 

「………」

 

だ、ダメだ。指揮官とシリアスのことが気になって全然矢が真っ直ぐに飛ばない。

 

「お、グレイゴースト?こんな朝早くに珍しいじゃん」

 

しまった。今一番会いたくない相手に見つかったぞ。負けず嫌いの瑞鶴に手合わせを挑まれると長いんだ。

 

「…艤装の調整だけだ。手合わせはまた今度にしてくれ」

 

瑞鶴とは目を合わせずに次の矢を装填した。こうやって素っ気なくしていれば彼女も諦めやすいだろう。

 

「ちぇっ、今日こそは勝てる気がするのになぁ…あれっ?なんか本当に調子悪い?」

 

雑念まみれの矢は明後日の方向に飛んで行った。

 

 

 

結局気になって執務室に向かうことにした。

今頃はシリアスも着任の挨拶をしていることだろう。いや、心配することはない。あのベルファストがついているんだからきっと大丈夫…

 

「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 

「何事だ!?」

 

紅茶で濡れた机。顔を押さえる指揮官。石膏のように真っ白に固まったシリアスと思しき艦船。そして膝立ちで真っ青な顔で白目を剥き泡を噴くベルファスト。

 

「……うわぁ…」

 

何が起こったかは大体把握できたがこんなにグロテスクなことになった艦船は初めてだ。あの悲鳴の主は誰だったのかはもうどうでもいいことだった。

 

「エンタープライズ、タオルを取ってくれないか?」

「あ、ああ…それにしても何があったんだ」

「恐らく君の予想通りだ。しかしシリアスの運動神経の良さが仇になったようだ」

 

シリアスがミスで紅茶を溢し、指揮官の顔にかけてしまう。ここまではまだベルファストがカバーできた。だがシリアスは指揮官の顔を拭くためにベルファストが静止するより素早くサングラスとマスクを剥ぎ取ってしまったのだという。

その結果がこの惨状だ。ベルファストから噴き出す泡は止まるところを知らない。

 

「もしもしヴェスタル?急患だ。場所は執務室。担架と何か掛けるものを持ってきて欲しい。できるだけ大きいので…」

 

 

 

まるで遺体を扱うかのようにベルファストを医務室へ運んだ。彼女が目を覚ましたのは三日後のことだった。シリアスは自分のしでかしたことを深く反省し自ら進んで謹慎している。

メイド長を失ったロイヤルの士気はさらに下降。もう片手で数えられる程度しか出撃できる者はいなくなった。

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