魔法少女まどか☆マギカ [別編]~再臨の物語~(第3部)   作:マンボウ次郎

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魔法少女まどか☆マギカ 別編~再臨の物語~(第3部11話)

螺良あかねは、部屋の中にある半円形のソファの周りを歩き始めた。

ゆっくりと、時計回りに。

 

そして四角いソファの上にピョンと飛び乗ると、映像を映し出しているディスプレイモニタの1枚を見た。

そこには、ワルプルギスの夜がモノクロに映っている。

 

「ワルプルギスの夜……ねえ、史上最強の魔女に挑んだ時、どんな気持ちだった?」

 

「くだらない質問ね」

 

「恐ろしかった? 怯えた? 身がすくむ思いだった?」

 

「時間の無駄だわ」

 

「うふふ、クールなんだよね。じゃあ、ここからが本題」

 

あかねの魔力に反応し、ディスプレイモニタの映像が切り替わった。

映し出されたのは、漆黒のドレスを纏い、天を仰ぐ黒い少女。

 

あれは、無花果(イチジク)の魔女を消し去り、天生目涼子を救済し、巴マミを天(そら)へと導いた、円環の……

 

「これは、円環の理じゃないよね」

 

あかねは半身だけほむらに向き、モニタを指さして言った。

 

「え?」

 

「正確には、これは鹿目まどかであって、円環の理ではない」

 

「何を言っているの? まどかはまどかよ。彼女は私を救うために契約をして……」

 

「やっぱりね。時の魔法少女さん、あなた勘違いしてるの」

 

わけがわからなかった。

ほむらには、あかねの言っている意味が理解できなかった。

鹿目まどかであって、円環の理ではない。

 

鹿目まどかは魔法少女の契約を交わし、ワルプルギスの夜を浄化し、宇宙法則の概念となった。

その概念、つまり円環の理が、魔法少女を魔女化する前に救済する。

 

これが、ほむらの認識。

ほむらが見てきた世界。

ほむらの中にいる、円環の理。

 

すなわち、鹿目まどかの存在。

 

「あなたは何を知っているの?」

 

鹿目まどかの願いとその存在の終焉を見守り、魔法少女たちの中で唯一、すべての記憶を持って生きているのはほむらだけのはず。

 

「ワタシはすべてを知っているんだよ」

 

「私の記憶をのぞき見したのでしょ」

 

「あなたの記憶はあなたの物。ワタシの記憶とは別物」

 

あかねはディスプレイモニタをぐるりと眺めた。

ほとんどがワルプルギスの夜に関わる映像なのは、ほむらが当時の戦いに備えた記憶の欠片。

そのひとつひとつを見終わると、最後に漆黒のドレスを纏い、天を仰ぐ黒い少女の姿に向かって言った。

 

「こいつは円環の理ではなく、鹿目まどかの意識が具現化した姿。それも正真正銘、本物の魔女だよ。魔法少女の絶望の因果を解き放つ、救済の魔女」

 

「まどかが魔女? バカを言わないで」

 

「ほらね。だから感情に負けているあなたには、本当の彼女が見えていないの。だいたい、円環の理は、概念であって存在ではない」

 

ほむらの方を振り向き、ソファの上からピョンと飛び降りた。

 

「簡単に言うとね、円環の理というのは、魔法少女を導く考え方そのもの。そして救済の魔女は、数多の魔法少女たちの呪いを受け止めた、絶望の集合体」

 

救済の魔女と呼ぶのは、救われる側に都合の良い呼び方。

あの魔女を正しく呼ぶなら、絶望の魔女。

 

「現在、過去、未来……すべての世界、すべての宇宙、すべての時間軸で絶望を受け止めた彼女が抱える呪いは、どれだけの規模だかわかる?」

 

――史上最強の魔女と言われた、ワルプルギスの夜?

 

「いいえ、あんなのは小物。せいぜい、街をひとつふたつ壊す程度の力」

 

――じゃあ、無限の絶望を抱え続け、巴マミと共に救済された、螺良くるみという少女?

 

「いいえ、あの子は特別だったけど、彼女が抱えた呪いは魔法少女数百人分。せいぜい、国をひとつふたつ壊す程度の力」

 

あかねは、ひとり問答してみせた。

 

「絶望の魔女が抱える呪いの規模は、宇宙そのもの。この宇宙すべてを消滅させてしまうほどのエネルギーを抱えている。そんな存在を……あなたは解き放とうとしている」

 

その言葉を聞いて、ほむらは咄嗟に返した。

 

「嘘……」

 

「だと思う?」

 

あかねの視線に、ほむらは目を逸らした。

ほむらの認識、ほむらが見てきた世界、ほむらの中にいる鹿目まどかの姿が、崩されていた。

 

「うふふ、わかるでしょ? 絶望の魔女を開放するということは、彼女の抱えるすべての呪いを開放するということ。そんなことをしたらどうなるか……想像できるでしょ?」

 

すべての呪いが解放され、世界を覆いつくす。

すべての絶望が希望を飲み込み、この世は暗く閉ざされる。

それはきっと、終末を意味する。

 

「ワタシの言った意味ががわかるでしょ? 魔法少女は、この世に終末を告げる悪魔の子。これまで幾人もの魔法少女が辿ってきた運命。あの魔女は、絶望の到達点なんだよ」

 

救いようがない現実を突きつけられ、ほむらは蒼白になった。

絶望の魔女に対して、ほむらはあまりに無力だった。

 

――まどかを救う。それが、たった一つだけ最後に残った道しるべ。

 

ただそれだけの為に、ここまで歩んできた。

運命に抗い、絶望に負けず、希望を力に変えてきた。

 

しかし、鹿目まどかを救うことは、世界の終わりに繋がる。

 

「まどか……」

 

ほむらはうつむいてしまった。

身体の力が抜けたように、その場で立ち尽くしてしまった。

 

「ねえ、鹿目まどかを救えないってわかった今、どんな気持ち?」

 

「……」

 

「悲しい? 苦しい? それとも絶望?」

 

「……よ」

 

「え? 何? よく聞こえないよ」

 

「望むところよ」

 

ほむらは、冷たく刺すような目で、あかねを見据えた。

 

「このニセモノの世界は、誰のもの? この狂った運命は、何のため?」

 

突然、自分に問いかけるように呟くと、魔力を開放し、全身に紫色の光を纏った。

 

「悲しみと絶望ばかりを繰り返す救いようのない世界でも、まどかへの想いで希望に変えられた」

 

「ふうん……」

 

「まどかを救うためなら、私はどんな過ちも厭わない」

 

「世界を滅ぼすことになるよ」

 

「ええ、構わないわ」

 

八咫の盾に右手を当て、その縁をツツっと撫でた。

 

「あなた、狂ってる」

 

「そうね、私は狂ってる」

 

盾から自動拳銃のグロック17を取り出すと、カチリと音をたててセーフティレバー(安全装置)を外した。

 

「あなたのグリーフシード、私にもらえるかしら」

 

「うふふ。時の魔法少女さん、凌霄(りょうしょう)の魔女と同じ顔になってるよ」

 

あかねが産み出し、ほむらが殺した魔女。

執着心を現す、ノウゼンカズラの花。

まどかへの強い執着は、ほむらの心に凌霄の花を息吹かせた。

 

「たとえ世界が滅んでも、まどかだけは救ってみせる。彼女が抱えたすべての呪いは、私が受け取ってみせる」

 

「無理だよ」

 

「私は、このソウルジェムを懸けてあなたを殺し、グリーフシードを頂くわ」

 

「それも無理だよ」

 

「やってみなければ、わからないわ」

 

そう言ってほむらは、八咫の盾を廻した。

 

「さあ、終末へのカウントダウンを始めましょう」

 

 

続く

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