魔法少女まどか☆マギカ [別編]~再臨の物語~(第3部)   作:マンボウ次郎

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魔法少女まどか☆マギカ 別編~再臨の物語~(第3部15話)

「コイツまさか、あの……ちびっ子なのか?」

 

杏子の脳裏に、螺旋階段での出来事が蘇った。

 

自らの槍を突き刺され、瀕死に陥った白い影との戦い。

胸元にあるソウルジェムを狙われて死を覚悟した杏子は、最後の「賭け」で変身を解いた。

肉体を引き裂かれても、ジェムが無事なら死ぬことはない。

身体の損傷と痛みはガマンして、ソウルジェムを守った。

 

「赤い魔法少女さん、生きてたんだね。あの時、ソウルジェムを砕いたはずなのに」

 

「へっ、アンタなんかに殺されてたまるかっての」

 

「ふうん……」

 

「しかし、アンタのその身体、ずいぶんと変わり果てたもんだな」

 

失っている半身は、ほむらの光の矢でやられたものだ、と杏子は思った。

あれだけ強い魔力を秘めている螺良あかねに、あんな深手を負わせることができるのは、ほむらの力でなければ成せないはずだ、と思った。

ということは、ほむらがもう一度、あの弓矢を使うことができれば……

 

「ワタシのこと?」

 

「そうさ、あたしとやり合った時は、そんなんじゃなかった」

 

杏子はそう言いながら、ゆう子にテレパシーを送った。

 

『ゆう子、聞こえるか? ゆう子』

 

『杏子ちゃん? うん、聞こえてるよ』

 

「一体、何があったんだい?」

 

テレパシーを送りながらも、あかねと会話を続ける。

 

『さっきの話は一旦ナシだ。もう一度だけ、お前の力を借りたい』

 

『私の、魔法だね』

 

『ああ。ほむらのソウルジェムを、癒してやってくれ』

 

「何って、これがワタシの本当の姿」

 

「え? (コイツ、何を言ってるんだ?)」

 

「忘れたの? ワタシも、『まだ』魔法少女なんだよ。これがワタシの本当の姿」

 

ここまでのふたりの話は、噛み合っていなかった。

杏子は、半身を失っている訳を尋ねていたが、あかねは『幼い少女の姿ではない理由』を答えていた。

 

そしてあかねは、特殊な魔力を解き放っているゆう子を見ていた。

 

ほむらのソウルジェムに小さな魔法陣を当てて黒い結晶を取り出し、癒しの魔法の反作用で穢れの結晶を浄化させる。

ほむらはすぐに気付き、目を開けると、上半身を起こした。

 

「へえ、面白い魔法を使うんだね」

 

「なに?」

 

『言ったでしょ。ワタシも、まだ魔法少女なの』

 

あかねは口を開かぬまま、杏子にテレパシーを送った。

 

「しまった!」

 

あかねに向き合う杏子の横を、一筋の白い光線が通り抜けた。

光の線は、あかねの指先から杏子の横をすり抜けていく。

 

「魔法で穢れを浄化するなんて、初めて見せてもらったよ」

 

あまりに一瞬の出来事で、その光が何なのかは見えなかったが、何が起こったのははすぐに理解した。

白い光の行く先は、ゆう子の左耳。

そこにあるのは、魔法少女の魂の宝珠。

ゆう子が左耳につける、イヤリング型の、赤紫色のソウルジェム。

 

「でも……それはルール違反だね」

 

ゆう子のソウルジェムに、白い羽根が突き刺さっていた。

ほむらの穢れを浄化したゆう子は、その光に気付かぬまま、何が起きたのかすらわからぬまま、何かに気付いたのは、自分のソウルジェムが砕ける音だった。

 

パキーン

 

という音と共に、赤紫色のソウルジェムは綺麗に砕けた。

意識を失いながら目を閉じていくゆう子の視界に、ジェムの細かい破片が少しだけ映った。

 

「なっ!?」

 

ソウルジェムは、魔法少女の命。

外付けのハードウェアである肉体がどんなに傷付いても、魔力で修復すれば死ぬことはないが、ソウルジェムを砕かれれば魔法少女は死ぬ。

生命の鼓動は直ちに停止し、身体は活動を止め、魂は朽ち果てる。

 

ゆう子は、崩れ落ちるようにその場に倒れ込んだ。

ドサッと身体が倒れる音と、ゴツンと頭を打ち付ける音が、ほとんど同時に聞こえた。

 

その光景を、ほむらもすぐ傍で見ていた。

ほむらの傍らには、まるで眠っているようなゆう子と、砕けたソウルジェムと、白い羽根。

 

「息を、していない……」

 

ほむらは、その横たわった身体に触れてすぐにわかった。

 

ゆう子の身体は、完全に生命活動を停止している。

息はない。

脈もない。

ソウルジェムは見事に砕け、天生目ゆう子は確実に死んでいた。

 

「テメエ……!」

 

杏子は八重歯を剥きだし、目を尖らせ、身体を震わせながら、腹の底から声を振り絞った。

眉間に電光が走るようにあかねを睨みつけ

 

「許さねぇ!!」

 

ダッと足元を蹴り、一足飛びであかねの正面から槍を振り下ろした。

凄まじい殺気。

裂ぱくの気合を込めた、憤怒の一撃。

 

ガキーン!

 

という金属音で杏子の槍は止まった。

あかねが立てた左手の人差し指一本で、その槍は止まった。

あかねは、その槍の穂を指先ひとつで受け止めていた。

 

「クソッ!」

 

杏子はすぐに槍を引き、身体を捻って横なぎに薙ぎ払った。

狙うのは、半身を削られているあかねの右側。

槍の遠心力と、杏子の身体の捻りで、さっきよりも速い、さっきよりも強力な二撃目。

 

しかし、これも激しい金属音であかねの左手に捌かれる。

 

三撃目、四撃目と、突く、振り上げる攻撃も、同じように弾かれてしまった。

 

「無駄だよ、そんなんじゃワタシは殺せない」

 

氷のように冷たい目で、あかねは言った。

 

「うるせえ! あたしは怒った! テメエは絶対に許さねえ!!」

 

杏子は怒りを全面に表した。

目は怒りに燃え、顔は紅潮し、声は怒気を発する。

全身を躍動させ、目にも止まらぬ槍捌きで、振り下ろす、薙ぎ払う、突く、振り上げるコンビネーション攻撃を繰り出した。

槍の穂に赤い光を纏いながら、怒涛の波状攻撃をあかねに見舞う。

一撃一撃の槍の攻撃が、いくつもの赤い光の弧を描いてみせた。

 

 

あかねはそのすべての攻撃を、冷めた表情で難なく防いでいた。

 

「ワタシの相手はあなたじゃない。あなたの相手はこっちだよ」

 

あかねの言葉に反応してか、影の魔法少女たちが舞い降りてきた。

真っ先に仕掛けてきたのは、薙刀の少女。

上空から大きな刃を杏子の頭上に振り下ろした。

 

杏子はそれを目で見ることもなく槍で受け止め

 

「邪魔すんじゃねえ!」

 

と怒鳴り、返す刃で薙刀の少女を一刀両断にした。

続けて槍の少女と杖の少女が同時に迫ったが、これも杏子の一閃で塵と消えてしまった。

 

「うふふ、やっぱりあなたは強い。でも、これはどう?」

 

あかねは再び左手の掌を天にかざし、涅槃の空に星を掴んだ。

暗い空にジェムがまたたき、輝く雨のように、流星群のように、次々と降り注ぐ。

そのひとつひとつが肉体を形成し、数えきれないほどの影の少女が降り立った。

 

「コイツらは何なんだ!? 使い魔なのか?」

 

「この子たちは魔法少女。過去に力を使い果たし、円環の理によって導かれた魔法少女たちを、ワタシの魔力で蘇らせているの」

 

「なんだって!?」

 

杏子は影の少女たちを見つめた。

そのひとりひとりの身体には、魔法少女のカラーを表す光が宿っている。

 

「テメエは……自分が何をしてるかわかってんのか!?」

 

「何って、あなたも気付いているんでしょ? もう魔法少女は、この世に必要ないんだって」

 

あかねの合図で、影の少女たちは一斉に杏子に向かってきた。

そこに彼女らの意思などなく、ただ操り人形のように、各々の武器を振りかざす。

 

「だから、最後は殺し合えばいいんだよ。魔法少女が魔女を殺してきたようにね」

 

「ざけんじゃねぇ! 他人の生命を操って殺し合いをさせようなんて、テメエは魔女よりよっぽどタチが悪いぜ」

 

襲いかかる幾重もの波状攻撃を、槍一本で防ぎながら杏子は叫んだ。

たったひとりの杏子を相手に、何十何百もの少女が迫るが、それらをいとも簡単に弾き返していた。

 

(コイツら大して強くないけど、ソウルジェムを砕いたら殺しちまうってことか?)

 

槍を旋回させ、向かってくる武器だけを弾き返す。

これだけたくさんの相手に一斉攻撃をされても、杏子はかすり傷ひとつ負うことはなかった。

それだけ杏子の強さは群を抜いていた。

 

しかし……

 

その中にひとり、杏子の身知った少女がいた。

 

大きなマントを広げた、剣士のような姿。

片側が長い斜めラインのスカート。

後ろ髪が斜めにカットされたアシンメトリーな髪型。

 

その影の少女は、バサっとマントをなびかせると、両手にサーベルのような剣を構えた。

 

「……さやか!」

 

 

続く

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