魔法少女まどか☆マギカ [別編]~再臨の物語~(第3部)   作:マンボウ次郎

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魔法少女まどか☆マギカ 別編~再臨の物語~(第3部21話)

パキーン

 

という音を立てて、ほむらのソウルジェムは砕けた。

魂の宝珠である紫色のソウルジェムが砕け散り、そこから産まれるのは、まどかの受け止めたすべての呪いを引き継ぐ、暁美ほむらという魔女。

 

「ほむらちゃん! ほむらちゃん!!」

 

杏子の静止を振りほどこうとしながら叫ぶまどかの声は、もう届かなかった。

辺りは青と黒の結晶が広がってゆき、暗黒の空と涅槃の空間を包む。

激しい地響きが鳴り、壮絶な魔力の波動で空気までが振動していた。

 

「まずいよ」

 

表情はいつもどおりのキュゥべえだったが、声だけは珍しく慌てたように言った。

 

「あんな規模の呪いで魔女になるなんて、これは宇宙の法則を捻じ曲げるなんてレベルの話じゃない」

 

鹿目まどかが持っていたのは、現在、過去、未来、すべての魔法少女から剥ぎ取った、呪いという名の負の力。

有史以前から続いた魔法少女の歴史で、存在していた魔法少女たちの、絶望という名の感情エネルギー。

 

円環の理となったまどかの概念で、この世にもあの世にも存在しなかったはずのものを

 

「たったひとりの魔法少女が受け取ってしまった」

 

魔女へと姿を変えたほむらは、黒いマントをバサっと広げ、みるみる立ち上がっていく。

その巨躯は、いわゆる魔女のような魔女の姿。

頭の上に乗せた黒い三角帽子を目深にかぶり、その脇からは漆黒の長い髪の毛が垂れ下がる。

毛先の方は大きく編み込まれたように束ねられており、まどかと初めて出会った頃のほむらの姿を彷彿とさせた。

 

「暁美ほむら……君の行きつく終着点は、この世を見下ろす此岸(しがん)の魔女だったのか」

 

「此岸の……魔女」

 

見上げる杏子の目にも、さやかの目にも、この魔女の存在がさっきまでのほむらの姿が豹変したものだと疑う余地はなかった。

暁美ほむらの、変わり果てた姿。

禍々しく、恐ろしく、そしてどこか悲しげな雰囲気が特徴的だった。

 

「ほむらちゃん、どうして……どうしてこんなことを……」

 

まどかは涙をポタポタと流しながら悲痛な言葉を発した。

唯一、魔法少女ではないまどかには、此岸の魔女が発する魔力の波動はわからない。

まどかが感じているのは、自分を救うために自分を犠牲にしたほむらの優しさだった。

 

が、他の魔法少女たちはそうはいかない。

 

此岸の魔女は、この世のすべての呪いを魔力に変えた魔女。

その魔力は、先のキュゥべえの言葉を借りるならば、宇宙規模の魔力を有している。

ワルプルギスの夜も、螺良くるみも、螺良あかねも、その足元に遠く及ばない。

まさに絶対的に、圧倒的に君臨していた。

 

その魔女が目の前に存在しているだけで、魔力の弱い魔法少女たちは金縛りにあったように動けず、震え、背筋が凍り付く。

ある者は呆然と涙を流し、ある者は恐ろしさのあまり身体が硬直し、またある者はその魔力の強さに意識を失ってしまいそうなほどの力。

 

そして杏子も同じだった。

 

「くっ! 恐怖で……身体が動かない……!」

 

足が震え、立っているのがやっとといった感じで、口を歪めながら杏子は怯えていた。

さやかもまた、その場にひざまずき、動けずにいた。

 

此岸の魔女は巨大な躯体を動かし、まどかに向かって左手を伸ばした。

真っ黒な腕が、まどかを掴む。

 

杏子もさやかも、他の誰も、その動きを邪魔することはできなかった。

いや、もし手を出そうものなら、一瞬で消されてしまいそうな恐怖で動けなかった。

 

まるで小さな人形を抱えるように、此岸の魔女がまどかを掴んだ。

優しく、柔らかく。

頭と両手両足の先がはみ出ているだけで、身体のほとんどがその手の中に握られている。

握り潰そうとしてるわけではないのは、まどか本人が一番よくわかった。

 

此岸の魔女は、もう片方の腕を空に向けると、人差し指を伸ばし、スッと空をなぞった。

指先で夜空を斬るように、ゆっくりと。

 

指先の軌跡に沿って、白い筋が夜空に描かれる。

 

と、次の瞬間。

 

物凄い爆風が吹き荒れ、涅槃に立つ魔法少女たちを襲った。

此岸の魔女は、夜空の空間を斬っていた。

その烈風というか、太刀風というか、たった一本の指先に魔力を込めて空間を斬った威力が、まさにこの世の終わりと言わんばかりの暴風を巻き起こしたのだった。

 

「みんな、あの樹に掴まるんだ!」

 

激しい風に吹き飛ばされそうになる魔法少女たちに向かって、杏子が叫んだ。

雄大にそびえる無花果の樹は、巻き起こる暴風に大きく揺れていたが、吹き飛ばされることなく太い根と強靭な幹で耐えている。

 

みな恐怖でおののく身体を必死で駆りたて走り寄ると、しがみつくように大樹を抱いた。

 

やがて吹き荒れた暴風はおさまり、窮地を脱したかのように思えたが、今度はさっきと真逆の風が吹き出した。

 

「あれは……空間を斬ったというより、時空が裂けたのか?」

 

辛うじてその場に立ち残った杏子は、裂けた空間がすべてを吸い込もうとしている様を見て言った。

 

「信じられない。魔力で時空を裂くなんて……」

 

指先ひとつで時空を裂いた此岸の魔女の魔力を目の当たりにし、キュゥべえも驚愕していた。

空間の切れ目、時空の裂け目、それはつまり、ブラックホールのようなものだった。

どこへ通じているのか、あの先に何があるのか、誰にもわからない。

そんな裂け目が、此岸の魔女の上に大きく口を開けていた。

 

「それより、まどかは!?」

 

遠目で探すさやかの目に、此岸の魔女が掴んでいるまどかが見えた。

あの爆風も、魔女の手の中にいたから無事だった、とも思える。

 

時空の裂け目が吸い込もうとする力は次第に強くなり、無花果の大樹に掴まる魔法少女たちも必死で身体を支えている。

杏子はまだ地に足をつけて耐えているが、吸い込む力が増してくるにつれてジリジリと引き寄せられていった。

 

「おい、キュゥべえ! ほむらは魔女になっちまった……そうなんだな」

 

杏子は赤い槍をガキンと地面に立て、それを支えにふんばりをきかせた。

 

「確かに暁美ほむらは魔女になってしまった。けれど、あれはもう魔女と呼ぶことすらおこがましい」

 

「ど、どういう意味だよ」

 

「あれは、まどかが抱えていた呪いを受け取った、円環の理と同等の者。円環の理と対を成す者。つまり、神をも超える存在だよ。あんな魔力、君たちがどう抗ってもどうにかなるものじゃない」

 

「じゃあ、アイツを救うことはできないってのか?」

 

「救う? 何を言っているんだい? 彼女はもう救われているんだよ。彼女の心はすでに満たされているんだ。自らの願いを遂げて、自らの終着点に辿り着いた。今の姿がどうあれ、あれが彼女の到達点なんだ」

 

いくつもの時を彷徨い、ようやく辿り着いた安息の刻。

ようやく願いを遂げ、まどかを救い、まどかを抱きしめた。

すでにほむらは人としての意識は失っているだろうが、その心は此岸で安らぎを得ているのだろう。

 

と、キュゥべえは思った。

 

「ただ、あの魔力はどこにも行き処がない。存在しているだけで世界を壊滅させてしまうほどだ。今はまだ、この涅槃の空間にとどまっているからいいとして、これが君たちの星に降り立てば一瞬で何もかもを壊してしまうだろう」

 

神をも超える存在を、止める手立てはない。

人も、魔法少女も、科学も、文明も、どんな力をもってしても抗うことすらできない。

 

暁美ほむらという最期の神が

 

人と、魔法少女と、科学と、文明をすべて消し去るだろう。

 

キュゥべえはパチリとまばたきをしてから、無表情のままに杏子を見て言った。

 

「世界は、終わる」

 

「な……っ!」

 

キュゥべえの話は、さやかにも、他の魔法少女たちにも、そして天生目ゆう子と涼子にも聞こえていた。

誰もが言葉を失った。

そして誰もが、終わりの始まりを告げるような時空の裂け目をだた見つめていた。

 

此岸の魔女が切り裂いた時空の切れ目は、ひたすらにすべてを飲み込もうとしていた。

 

 

 

続く

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