魔法少女まどか☆マギカ [別編]~再臨の物語~(第3部)   作:マンボウ次郎

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魔法少女まどか☆マギカ 別編~再臨の物語~(第3部4話)

その後キュゥべえは隣の見滝原市へと渡り、そこでマミと出会う。

 

春になり、天生目涼子は尾島中学を卒業、六千石町を離れ県外の南の街へと越していった。

キュゥべえをして「魔法の寵児」と称された涼子は、新しい街でも魔女退治を続けていた。

学校や陸上など、忙しい合間を縫っては精力的に魔女探索を行ない、卓越した魔力のコントロールで魔女を滅し、グリーフシードで自らの穢れを浄化する。

涼子は自分の運命を素直に受け入れていた。

 

――妹の、ゆう子の足を治して欲しい。

 

涼子の願いで、生まれつき足が悪く、歩くこともままならなかった妹の足はすっかり治り、中学に進学して陸上部に所属したらしい。

現代の医学ではどうしようもなかった難病は、魔法の使者であるキュゥべえの奇跡によって驚くべき治癒を遂げた。

 

「自分の足で走るのは、気持ちがいいだろう?」

 

涼子の移動能力は速さを極め、その走る姿はまるで瞬間移動のように映った。

 

 

 

時は流れ、巴マミ、佐倉杏子、暁美ほむらが魔法少女となり、希望と絶望の連鎖は続いていった。

 

やがて世界は円環の理を迎える。

円環の時は、廻り廻る運命の環(わ)。

魔法少女の救済を繰り返し、自らの魂は救われることなく永遠に空を環(めぐ)っていた 。

 

 

 

「それじゃあ暁美ほむら、君の目的を聞かせてもらおうか」

 

杏子とゆう子が部屋を出てから、キュゥべえは白い尾を振りながら問いかけた。

グリーフシードの転生の時に聞きそびれたことを覚えていたようだった。

 

「何のことかしら?」

 

「今さらとぼけても仕方のないことじゃないのかい? これまで君のしてきたことは、ただ状況に応じてきたんじゃないことくらい僕にもわかってるさ。最初から意思を持って、目的を遂行するための行動だったんだろう?」

 

ほむらは黙ったまま答えない。

 

「これまで起こった出来事はすべて偶発的なことじゃない。すべて君の描いたシナリオ通りに事が進んでいる。ただ恐らく、巴マミの死は予定外のことなんじゃないかな。いくら目的遂行のためには冷静で冷酷な君でも、仲間を見殺しにするとは思えないからね」

 

魔法の使者でありながら、傍観者でもあるキュゥべえは、すべてを見てきた。

時には魔法少女の契約をし、時には彼女らにアドバイスをしながらも、決して誰の味方をするわけでもなく、ただ自分たちの存在意義をまっとうするために存在していた。

キュゥべえというこの宇宙生命体は、あくまで中立。

利己的な思考を持つだけであって、感情という概念を持たないことで、常に客観的に物事を判断していた。

 

「残るひとつのグリーフシードを使って、君は何をしようというんだい?」

 

「インキュベーター、あなたは今の世界が正しいと思う? 魔女が産まれない世の中になり、円環の理によって救済されるだけの魔法少女が存在する、この世の理は正しいものだと思う?」

 

「一体、何が言いたいんだい?」

 

この世の当たり前を正しいかと問うほむら。

当たり前のようにある世界は、当たり前ではない。

誰もが正常と認識するこの世界は、ほむらにとっては正常な世界ではない。

これは、ほむらにしか感じることのできない世界感だった。

 

「いま私たちが生きている世界がニセモノだと言ったら、あなたは信じるかしら」

 

「平行世界線のことを言っているのかい? 君は時間を遡行する能力を持っているから、どこかで派生した、いや、どこからか分岐した世界線を生きているのはわかってる。そして、それらの世界線は僕らには認識できない時間のパラドックスだ。この世界がニセモノという仮説を唱えるのであれば、君の知り得る他の時間軸もすべてニセモノということになる」

 

「仮説じゃなくて、本当のことよ。私が言うニセモノという根拠、ニセモノをニセモノとする確固たる証拠。そのひとつが、円環の理」

 

「君は、この世の概念をニセモノと言うつもりかい?」

 

唯一、絶対の象徴である円環の理はまがい物だ、とほむらは言った。

 

「そして、そのニセモノを生み出してしまったのは私と、あなたよ。インキュベーター」

 

「数多の世界の運命を束ね、因果の特異点である円環の理。その成り立ちは、僕らには想像もつかない。神をも超える存在である円環の理は、複雑であり単調、永遠であり一瞬、始まりであり終わりでもある。宇宙の概念を覆す程のものは、決して人の手で創造されるわけはないんだ。それを君はニセモノだと言い、まるで僕らが干渉してきたような言い方をする」

 

「覚えていないのも無理はないわ。これは私の記憶にある、私だけに残された、あの子の形見なのだから」

 

「あの子?」

 

「ええ。過去の全ての魔法少女を、諦めかけた私を、絶望の淵から救うためにあなたと契約を交わした魔法少女のこと。私は、彼女の願いとその存在の終焉を見守り、魔法少女たちの中で唯一すべての記憶を背負って生きているのよ」

 

ほむらの目に蘇る、因果律への叛逆と、宇宙の再編の出来事。

自分以外に誰ひとりとして覚えていない、ある魔法少女の記憶。

絶望によって魔女になる寸前の魔法少女の前に現れ、呪いを受け止めるだけの概念とも呼べる存在、円環の理となった少女の姿。

ほむらは話を続けた。

 

「今のあの子は、本当のあの子じゃない。言わばニセモノの存在。私の繰り返した因果と、あなたとの契約によって、誰にも手の届かない領域に辿り着いてしまった、神ならぬ神をも超える存在」

 

「なるほどね、円環の理はもともとは魔法少女だったというわけか。僕の知らない時間軸で起こった契約が、この世の絶対神を創り上げていたと。それで、神ならぬ神をも超える存在となったその子と、最後のグリーフシード、そこから導き出す答えは何だい?」

 

「本当の彼女を、取り戻す」

 

ほむらは今まで、何度も何度も繰り返してきた。

その少女を救うために魔法の契約を交わし、少女を守るためだけに時間を費やし、生命を削ってきた。

 

――彼女との出会いをやり直したい。彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい。

 

ほむらの願った魔法少女への祈りは、一点の曇りもない、ただその少女だけに向けられた願いだった。

しかし、出会いをやり直すという願いで時間操作の魔法を身に付けたものの、少女を守るという願いはついぞ叶うことはなかった。

 

「インキュベーター、私の願いは未だ叶わぬままなのよ。これがどういう意味かわかる? あなたは言ったわよね、どんな願いも叶えてみせる、と。あなたの起こす奇跡は間違いなく本物。人の生命を繋ぎとめることから神の創造まで、すべてを叶えてきた」

 

マミの願いも杏子の願いも、天生目涼子の願いもゆう子の願いも、ひとつとして反故になることなく、その後の結果がどうあれ間違いなく遂げられてきた。

どんな小さな願いも、宇宙を再編させるような大きな願いも、魔法の使者であるインキュベーターの力によって実現されてきた。

が、暁美ほむらの願いだけは完全な成就を遂げることなく、ただ時間操作の魔法を得て、少女との出会いを何度も繰り返しただけの宙ぶらりんな状態だった。

 

ほむらは長い黒髪を撫でてから、左手の甲にあるソウルジェムに揺れる僅かな穢れを見つめた。

 

「勘違いしないでね。私はあなたの力を責めているわけではないわ。中途半端に叶ってしまった私の願いは、私の責任。これまで何度も繰り返してきた彼女との出会いが膨大な因果となり、この世にニセモノの彼女を生み出してしまったのは私の失敗。私はあまりにも知らなすぎた。軽率な時間遡行を繰り返し、この世界を歪めてしまった」

 

それからソウルジェムに右手を重ね、静かに目を瞑った。

 

「でも、幸い私の魔法は時間操作。この八咫(やた)の盾に施された砂時計は、すべての物質の時間に干渉できることが証明されたわ」

 

紫色の光と共に、ほむらの左腕には時を操る盾が装着された。

ほむらは、グリーフシードの転生で失った盾を蘇らせたのだった。

と同時に、ほむらの左手にあるソウルジェムに黒い揺らめきが舞った。

穢れが、増したのだ。

 

「そうか、天生目ゆう子は、その実験だったんだね」

 

天生目涼子のグリーフシードを手に入れ、時間操作の魔法を駆使することで、グリーフシードを元のソウルジェムへと転生させる。

ほむらの時間遡行という魔法は、自らの身体と記憶だけに囚われずに、他人の魂の宝珠さえも時を逆行させた。

 

「最後のグリーフシードは私が手に入れる。そして私の物語は、本当の彼女を取り戻すことで幕を閉じることになるわ。私の奇跡は、これから始まるのよ」

 

ほむらは盾の中から、大型拳銃のIMIデザートイーグルを取り出すと、ガチャリという音を立ててスライドを引いた。

 

「暁美ほむら、君のやろうとしていることは、因果律そのものに対する反逆だ。幾多の並行世界を横断し、自らの到達点を探し求めた結果に得られた答えが、この世の絶対の象徴である円環の理を覆すことだとはね。まあ、いいさ。僕はあくまで傍観者だ。君が望む結末をゆっくりと見させてもらうよ」

 

ところで……、とキュゥべえは部屋の壁に掛けられているディスプレイモニタのような絵画の1枚を見て

 

「あそこに映っている少女が、君の言う魔法少女かい?」

 

ほむらがこれまで出会ってきた魔女や使い魔や、魔女の結界らしき風景が描かれている絵画の中に1枚だけ、ひとりの少女が映っているのを見つけ尋ねた。

その少女は大人しそうな、優しそうな笑顔を浮かべていた。

他の絵に紛れて目立たない場所に映っていたが、部屋の隅にいるキュゥべえの角度からだけ覗くことができる位置に飾られていた。

 

「あの子の名前は、何ていったかな」

 

「……まどか。鹿目まどか、よ」

 

 

続く

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