魔法少女まどか☆マギカ [別編]~再臨の物語~(第3部)   作:マンボウ次郎

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魔法少女まどか☆マギカ 別編~再臨の物語~(第3部5話)

夜の見滝原市は、立ち並ぶビル群が煌びやかにライトアップされ、川沿いの舗道にも眩い光が灯り、夜空を薄明るく照らしていた。

近未来的な都市は、白色や黄色やオレンジ色の光に飾られ、空に浮かぶ望月と共に幻想的な夜曲が奏でられているようだった。

 

その中で、ひと際高くそびえる高層ビルの屋上。

あまねく散りばめられた光の群れに立つ、見滝原で最も高い建物の上に、杏子とゆう子はいた。

市内を一望できる場所から、まるで眼下の星空を見下ろすように目を見張っていた。

穢れた魔力を発していないソウルジェムを持つ螺良あかねは、魔力探知で居場所を特定することができない。

だから杏子は、見つけるというよりも、起こるのを待っていた。

 

「アイツの狙いはあたしたちだ。魔女ではないから、呪いを振り撒いて普通の人間に危害を加えることはしない……はずなんだよ」

 

こちらが魔力を行使しなければ、相手も自分たちを見つけることはできない。

きっと何か動きを見せるはずだ。

ほむらと3人、それぞれが役割を分担し、杏子が見つけ、ゆう子の移動能力で適当な場所に誘導し、ほむらの光の矢で仕留める。

これが杏子の考えた作戦だった。

 

(マミは命懸けで、あの黒いヤツを救ってみせたけどな……)

 

弱き者を救うのが本当の魔法少女、マミはそう言っていた。

 

「あたしには、コイツを守り通すことで精一杯さ」

 

「え? 杏子ちゃん何か言った?」

 

「いや、何でもない。それよりも……」

 

杏子は屋上の欄干から上半身を乗り出し、遠くを見つめ

 

「あそこを見てみろよ。川の向こう……もっと右の方の、あの時計が付いてる建物の右」

 

そう言って指差した先には、小さく火の手が上がり、黒い煙が立ち上っていた。

 

「火事、かなぁ」

 

近代設備の整った見滝原で、火事は珍しい。

すべての建物は外壁に耐火建築がされており、また自動消火設備も施されているので、建物から火が出ること自体、ほとんどなかった。

 

「炎が、揺れてる」

 

杏子には、踊るように揺れている炎が見えた。

 

「あんな遠くなのに、よく見えるね杏子ちゃん」

 

「へへ、あたしは目がいいんだ」

 

他の誰に褒められてもあまり嬉しさを見せない杏子だったが、ゆう子の前では素直だった。

が、照れる顔もほどほどに

 

「火の勢いが強いな。どんどん燃え広がってる」

 

と、少し不安げに言った。

週末の夜、明かりの灯る建物から火が出ているということは、中にいる人に被害が及ぶかもしれなかった。

 

「どうする杏子ちゃん?」

 

「こんな時だ、できれば関わりたくないけどな」

 

「うん、そうだけど……」

 

「あれがただの火事なら、あたしたちの出番じゃないさ。だけど、目の前で起こっている不幸を放っておくなんて、あたしたちにできるわけないよな」

 

杏子は「よっ」と言って欄干の上に飛び乗ると

 

「ゆう子、お前の翼で、あそこまで飛んでいけるかい?」

 

後ろに手を伸ばした。

 

「杏子ちゃん」

 

ゆう子はニコっと笑い、その手を握ると

 

「しっかり掴まっててね」

 

勢いよく、ビルの屋上から飛び立った。

瞬間移動のまばたきを繰り返し、数十メートルおきに現れては消え、消えては現れながら、ほんの数秒で川向うに辿り着いてしまった。

 

揺れる炎は、思ったよりも大きかった。

目の前で燃える建物は、遠くから見たよりも激しく、メラメラとした火炎が噴き出していた。

さっきまで見えていた建物の姿は、ちょうど時計が付いているビルの裏側に位置していたので、杏子には小さく揺れる炎が垣間見えていただけだった。

しかし、近くまで来てみると炎の大きさは想像以上で、側面の窓から立ち上る火の粉、黒い煙、焼けつくような熱気は、杏子たちがこれまで見たこともないような火災だった。

 

「こ、こいつはすげえ……こんなに燃えているんじゃ、中に人がいたらひとたまりもないぞ」

 

杏子は、炎の熱気を片手で遮るようにして建物を見上げた。

 

「でも、周りに人がいないのは変だね。誰もこの中にはいなかったのかな」

 

「ああ。それに、これだけ火の手が上がっているのに、助けにくるヤツも、見に来るヤツもいないってのはおかしいな」

 

逃げる者も、消防も、見物人も、辺りには人の気配すら感じられない。

目の前の炎だけが、だた揺れているだけだった。

 

「おおい! 誰かいるのか!?」

 

逃げ遅れている人がいないか、助けを求める者はいないか、杏子は大声で呼びかけた。

が、返ってくるのは轟轟と燃え盛る炎の声だけだった。

 

「杏子ちゃん、あんまり近くに寄ると危ないよ」

 

「わかってる。誰かいないか確認してるだけだ」

 

杏子が再び声を上げようとした時、炎の熱で上階の窓がバーンと砕け、ガラスの破片が降り注いだ。

 

「うわっ!」

 

ふたりは慌てて後ろにさがり、落下してくるガラスの破片から身を躱した。

地面に落ちた破片から小さな火が噴き、ポゥっと燃えた。

 

「……えっ?」

 

ガラスは跡形もなく焼け消え、路面に黒いコゲを残した。

 

「ゆう子、今の見たか?」

 

「うん」

 

ガラスに火が付くのを目の当たりにし、ふたりに緊張が走った。

これは、普通の火ではない。

 

「ひょっとしたらあたしたちは、まんまと誘いに乗っちまったのかもしれないぞ」

 

やがて建物の内部を燃やしていた炎が外壁を覆い、大きな火柱のようになった。

見滝原の夜空を焦がすほどに立ち上る炎は建物全面に廻り、やがて火炎の先が生き物のように持ち上がる。

その形は、花弁が開いた花の形を象った。

 

波打つ紅い花びらをなびかせ、美しくも禍々しい大花が開く。

建物を覆う火柱を茎のように伸ばし、巨大な炎の花が咲いた。

 

「こいつ、ただの炎じゃない」

 

「一体どういうこと?」

 

「これは、ただ燃えているんじゃない。炎の花が咲くなんて、普通は起こることじゃないってことさ」

 

そう言って杏子は、炎の熱気にたじろぐゆう子をさがらせようとした。

赤々と燃え盛る炎に、ゆう子の顔が照らされている。

その左耳にある赤紫色のソウルジェムが、眩い光を放った。

 

「やっぱり、そういうことか」

 

杏子はソウルジェムの光を見て確信した。

そしてもう一度、炎の花を見上げると

 

「こいつは……魔女だ」

 

落ち着いて、ゆっくりと言った。

炎の花はよく見ると、真っ赤な火が揺れているようでもあるが、妙に立体的で、形がはっきりしている。

具体的というか、実体的というか、炎の肉体を持った生き物のようだった。

 

(でもおかしい。魔女はこの世に産まれないし、円環の理だってある)

 

円環の理は、すべての魔女の存在を許さない。

魔女を産みだすことも、魔女が存在することも認めないこの世の理に反して、ゆう子のソウルジェムを発光させている。

 

巨大な炎の花が、大きく揺れた。

風になびく野花のように、ゆったりと、おおらかに、茎から先の大花が揺れた。

その動きは意思があるように、炎の光をゆらめかせた。

 

辺りに熱気が振り撒かれ、夜の見滝原は炎の街へと変わった。

夜空を焦がし、周囲の建物を紅く染め、街はたなびく炎に巻かれた。

 

「これは、魔女の結界!?」

 

熱く、厚い炎の結界が包み、杏子たちをジリジリと熱した。

右も、左も、上も、すべてが炎の壁で覆われてしまった。

 

「火……火の穂だよ」

 

ゆう子は炎を見上げて言った。

 

「火の穂?」

 

「そう。炎のことを、そうやって呼ぶことがあるんだって」

 

「なるほどな。魔女は産まれないはずなのに、ソウルジェムに反応する火の穂の化け物、か」

 

紅く澱み、ジリジリと肌を焦がす異空間。

火の穂の花びらからポタリと炎の雫が垂れ落ち、地面をじんわりと溶かした。

 

「今の世の中で、こんなことできそうなヤツはひとりしかいねーな。アイツは何でもできる万能魔法少女ってことか」

 

「これが、魔女なの?」

 

「ソウルジェムが光るのは、魔女の証だ。あのちびっ子は魔女が産まれない世の中で、魔女を産み出しやがった」

 

未だかつて見たこともない化け物を前にし、焼け付く熱気で杏子の頬に大粒の汗が流れた。

 

「ったく、とんでもないヤツを敵に回しちまったモンだ。あたしたちの第2ラウンドは、火の穂の魔女……か」

 

 

続く

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