魔法少女まどか☆マギカ [別編]~再臨の物語~(第3部)   作:マンボウ次郎

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魔法少女まどか☆マギカ 別編~再臨の物語~(第3部6話)

「おいほむら、聞こえてるか?」

 

揺れる火の穂の魔女を前に、杏子はゆう子を背中にかばいながらテレパシーを送った。

魔法少女同士のテレパシーは、半径100メートル程が圏内だが、キュゥべえという電波塔を介すことで、ほむらにも声を届けることができた。

 

『ええ、聞こえてるわ。とんでもない魔力の波動と一緒にね』

 

ほむらの声が、杏子たちに伝ってきた。

ここから数キロメートルは離れているであろうほむらのソウルジェムにも、火の穂の魔女が放つ、魔力の波動は伝わっているらしい。

 

「あのちびっ子は、魔女を産み出したみたいだぞ。一体どうなってんだ?」

 

『すべての絶望を忘れるソウルジェムの特性かしらね。魔女は呪いや絶望が実体化した姿。螺良あかねは、自らの呪いや絶望を吐き出すことですべてを忘れていく、ということかしら』

 

「溜め込むよりもよっぽどタチが悪いじゃねーか」

 

『それと、そいつは成り立ちこそ魔女と同じかもしれないけど、グリーフシードを宿していないはずよ。簡単に言うと、魂の無い魔女ってところね』

 

「なるほどな。魂を持たないから、円環の理もお構いなしってことか。ますます何でもアリなヤツだ」

 

円環の理が救済するのは、穢れが溢れたソウルジェムと、その魂の器である持ち主の身体。

魂を持たず、穢れた肉体のみでこの世に産み出された魔女は、意思もなく、ただ呪いと絶望を振り撒いているだけだった。

 

『思っていたよりも頭の切れる魔法少女ね。街を燃やすことで、あなたたちを見事におびき出したわ』

 

「ちぇっ……余計なお世話だっての」

 

ほむらもまた、杏子と同じ見解だった。

魔法少女はソウルジェムの魔力探知で魔女を見つけることはできても、呪われた魔力を発しない魔法少女を見つけることはできない。

が、事を起こせば杏子たちは現れる。

ふたりは見事に引っ張り出されてしまった。

 

「とにかく、こんなヤツが現れるってことは、あのちびっ子が近くにいるってことだ」

 

炎の結界に閉ざされた杏子は、注意深く辺りを見回した。

が、周囲の建物を紅に染め、肌や髪を焼きそうな熱さの中に見えるのは、ただ揺れる炎の空間だけだった。

 

(おかしいな、どこにも姿は見えないぞ)

 

それどころか、火の穂の魔女も、大花を揺らしているだけで杏子たちを攻め立てようともしなかった。

 

「杏子ちゃん、服が……!」

 

乾いた空気に火の粉が舞い、杏子の服に火が燃え移った。

ミントグリーンのパーカーの裾に小さな炎がポッと灯る。

 

「え? うわっちちち!」

 

杏子は慌てて火を払い落とした。

魔法少女でない杏子は、魔力の熱をもろに受ける。

長い髪の毛先も、火の粉に煽られて焼けた匂いを漂わせた。

 

「くそっ! あたしは生身のままだからな。このままじゃ丸焼きになっちまう」

 

魔法少女であれば、身体の周りが薄い魔力の膜で覆われるので、この程度の放射熱で焼かれることはない。

しかし今の杏子は魔法少女にもなれず、魔力も纏っていないので、灼熱の空間で身体が焼かれようとしていた。

 

「杏子ちゃん、さがってて。コイツは私がやっつける」

 

「ヒヨッコのくせに何言ってんだ。お前ひとりで何ができるってんだよ」

 

「杏子ちゃんは戦えないんだから、私がやるしかないんだよ。だからお願い、どうしたらやっつけられるか、教えて」

 

「はは……一人前なことを言うようになったなぁ」

 

と、杏子は苦笑いをしながら火の穂の魔女を見上げ

 

「アイツはグリーフシードを持たない魔女だから、つまり使い魔と同じってことだと思う」

 

物理的に叩き伏せれば、倒すことができるはずだ、と言った。

杏子の考えは間違っていなかった。

魔女も使い魔も、つまりは呪いや絶望が具現化した姿。

その肉体を破壊すれば、倒すことができる。

しかし、

 

『使い魔と決定的に違うのは、魔力の大きさと生命力の強さよ』

 

ほむらのテレパシーが、ふたりに聞こえてきた。

 

『私たちのいるところにまで伝わる、この魔力の波動。そいつを産み出した本体とまではいかなくても、相当な魔力を宿した魔女よ』

 

「ああ、わかってる。でも、やってみるしかねぇな」

 

それからゆう子をチラっと見て

 

「魔法少女ゆう子サマの、初魔女退治、か」

 

目を瞑り、八重歯を覗かせた。

 

「いいか、ゆう子。お前の短槍じゃ、短くて間合いが足りない。だから、あたしの槍を使うんだ」

 

そう言って杏子は、自らの赤い長槍を出現させ、ゆう子に手渡した。

杏子の額に、じっとりと汗が滲んだ。

 

「あたしの槍は伸縮自在だ。もうあたしはチリ程も魔力を使えないから、お前が魔力をコントロールして、その槍を使うんだ」

 

「わかった」

 

「それと、あの炎の熱はヤバイ。いくら魔力の膜を纏ったお前でも、炎に直接焼かれたら黒コゲになっちまう」

 

「うん」

 

「そこで、お前の移動能力が役に立つ。一瞬で間合いを詰めて、その槍でアイツの中心部分を貫いて、またすぐに離れるんだ」

 

「私にしかできない戦い方だね」

 

「そういうこと。でも……チャンスは1回だ。1発で仕留められなきゃ、その槍は……もう、出せない……からな」

 

杏子の声が、だんだんと苦しくなってきた。

息が荒く、ビッショリと汗をかき、目の周りが黒ずんできた。

 

「杏子ちゃん、平気? 具合でも悪いの?」

 

「へへ、その槍を出すのに、ちょっぴり魔力を使っちまったからな。大丈夫……この程度、へでもねぇ」

 

杏子は、片頬を歪めながらゆう子の肩に手を置き

 

「魔法の力は腕力や体力じゃない。魔力のコントロールが大事だ。あたしの槍を貸してやるんだから、しくじるんじゃねぇぞ?」

 

苦し気な顔を隠すように、ニカッと笑った。

 

「ありがとう、杏子ちゃん。私に任せて」

 

ゆう子は精悍な表情で火の穂の魔女に向いた。

 

(クソっ、マズったかな……槍を出すだけならまだイケると思ったんだけど……)

 

杏子のソウルジェムが収まる指輪から、黒いモヤが漏れ出した。

魔力の限界は見切っていたはずだったが、穢れを浄化していない状態で使った微量な魔法で、最後の一線を越えてしまったかもしれなかった。

 

(どっちみち、ゆう子の槍じゃ仕留められない。あたしが戦えないんだから、仕方ないよな)

 

ゆう子は杏子の元を離れ、火の穂の魔女に近づくと、足を大きく開き、槍を構えた。

赤い長槍にゆう子の魔力が同調し、赤紫色の光を帯びた。

別人の魔法少女の武器がシンクロすることは、普通はあり得ないが、杏子とゆう子は魔力の波長パターンが酷似している。

それゆえに成せる、魔力のクロスオーバーだった。

 

(なんとか、最後まで見届けることはできると思うけど……)

 

これまで火の穂の魔女は、その大花を揺らしているだけだったが、ゆう子の魔力に反応したのか、揺らめく花びらをピタリと止めた。

轟轟と燃える音を響かせたまま、花弁の頭をゆっくりと垂らし、灼熱の身体をゆう子に近づける。

足元の路面はその熱に晒され、灰色の煙を立ち上らせた。

 

(まだだ、ゆう子。いま仕掛けたら、先に攻撃されちまう。タイミングを計るんだ)

 

杏子は声を発しなかった。

テレパシーも送れなかった。

一切の魔力を使うこともできず、熱波に押されてよろめきながら、後ろへ後ろへと追いやられていた。

 

ゆう子も動かなかった。

炎の大花を見上げたまま、目を見張り、焼け付く熱気を魔力の膜で相殺しながら、ただじっと構えたまま動かなかった。

 

(そうだ。アイツが何か動きを見せたら、そこがチャンスだ)

 

ゆう子の移動能力なら、どんな攻撃も一瞬で躱して攻撃に転じることができる。

誰よりも速い移動能力は、必ず先手を取ることができるが、後の先を取る方がその効力を発揮する。

ゆう子もそれをわかっているのか、杏子の考えどおりに機を待っていた。

 

 

続く

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