魔法少女まどか☆マギカ [別編]~再臨の物語~(第3部)   作:マンボウ次郎

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魔法少女まどか☆マギカ 別編~再臨の物語~(第3部8話)

火の穂の魔女と、ゆう子の対峙は続いていた。

赤紫色に発光した長槍を構え、灼熱の炎に照らされるゆう子の顔は、とても落ち着いているように見えた。

 

が、杏子は平静ではなかった。

 

(……くっ! この熱気、どんどん激しくなってる)

 

轟轟と燃え盛るこの空間は、生身の杏子を容赦なく焼こうとしていた。

紅く咲く魔女の花だけでなく、周囲の空気までもが燃えている。

ゆう子の後方から見守る杏子だったが、魔女から近かろうが遠かろうが、その熱波はもはや身体を焼くギリギリのところだった。

 

そして、それよりも

 

(穢れの溢れが、止まらない……)

 

杏子の左指に収まるソウルジェムからは、ゆっくりと着実に黒い穢れが溢れていた。

魔女の熱に焼かれるのが先か、ソウルジェムがグリーフシードに変わるのが先か。

どちらにしても、杏子の生命は風前の灯火だった。

 

その時、火の穂の魔女が動いた。

 

炎を象ったような巨大な花びらを一旦閉じてから、再びそれを開く。

花びらの中心が白く光り、魔力のエネルギーが集約された。

ゆう子はフッと後ろの杏子を振り返ったような動きを見せてから、力いっぱい飛び上がり、瞬間移動を伴って、火の穂の魔女の真上に現れた。

 

(ダメだ! まだ早い!)

 

杏子は心の中で叫んだ。

ゆう子が飛び上がったタイミングは、火の穂の魔女が攻撃を仕掛ける寸前だった。

杏子の思ったとおり、火の穂の魔女は真上に現れたゆう子に反応し、首をもたげるように花弁を上向けた。

そしてゆう子の身体を正面に捉えると、真っ白な炎を吐き出した。

 

今までの炎とは、比べものにならないくらい強力で、美しい光焔。

膨大な魔力のエネルギーを、真っ白な炎にして放出し、一瞬でゆう子を飲み込んだ。

 

「―――!」

 

魔女の光焔は杏子の叫び声をかき消した。

すべての物質を焼き尽くす炎と閃光が、辺りを白一色に染めた。

まるでホワイトアウトしたかのように白の乱反射が杏子の視界を遮る。

 

(なんて魔力だ……何をどう間違えたら、あんなのを産み出すことができるってんだ)

 

杏子は目を細めながら、ようやく開けてきた視界の中にゆう子を探した。

あの光焔をまともに受けていたら、跡形もなく消えてしまうだろう。

が、ゆう子には瞬間移動能力がある。

光焔を躱し、どこからか反撃を仕掛ける手はずだったが……

 

「……ゆう子?」

 

見上げた上空には、白く焼けただれた夜空が広がっているだけで、ゆう子の姿が見当たらない。

まさか、あの光焔を躱せずに焼失してしまったのか。

 

(いや、魔力の波動は感じる。ゆう子はどこかにいる)

 

見滝原の夜空を焦がした火の穂の魔女が、再び魔力を込め始める。

花びらを閉じ、中心部分を白く光らせ、光焔が集約されていく。

 

(またあれをやる気かよ)

 

さっきと同じく、上空に向かって構えていた。

 

(え? 上に、いるのか?)

 

上空遥か彼方から、赤紫色の光がどんどん近付いてくる。

 

それは巨大化された杏子の槍だった。

 

「あれは!」

 

燃え盛るビルと同じくらいはありそうな、巨大で壮大な赤い槍を抱えたゆう子が、火の穂の魔女に向かって落下してきた。

花びらの口を開けた魔女が、再び白い炎を吐き出す。

 

「ゆう子、飛べ!!」

 

吐き出された炎がゆう子と槍を飲み込もうとした刹那、まばたきによる瞬間移動が発動する。

一瞬で消え、炎を掻い潜ったゆう子は、火の穂の魔女を真上から

 

「えええぃ!」

 

と気合の声と共に、一直線に突き刺した。

巨大な槍は、炎を纏う魔女を上から下まで見事に貫いた。

着地の衝撃でゆう子は地面に落ち、固い路面に弾かれて杏子の目の前まで転がってきた。

 

「いてててて……」

 

身体の所々に軽い焦げ跡を残したゆう子が、起き上がりながら頭を抑える。

 

「えへへ、着地は失敗しちゃった」

 

が、杏子の視線は、槍の突き刺さった魔女に向いていた。

 

紅炎の大花が、徐々に黒く朽ちていく。

やがて魔女の身体は炭を砕くようにパーンと割れて、粉々になって消えてしまった。

赤紫色の魔力を帯びた槍は元の大きさに戻り、地面に突き刺さっていた。

 

その様子を、目を丸く見開いて眺めていた杏子はやっと、自分の足元にいるゆう子に気付き

 

「スゲぇ……」

 

と呟き、さらに

 

「スゲぇぞ、ゆう子」

 

驚いたように、呆れたように、そして嬉しそうに言った。

 

「最初に姿を消した時、一体どこに飛んでたんだ?」

 

一撃目の真っ白な炎を瞬間移動で躱した後、しばらく姿を見せなかったのはどこにいたのか。

ほんの数秒ほどだったが、杏子の視界からは完全に消えていた。

 

「あの時は、ずぅっと空高くに行ってたんだ。私の瞬間移動はね、まばたきで消えて現れるんだけど、目を開けるまでの時間を延ばせば移動距離も増えるし、姿を現すまでの時間も長くなるんだよ」

 

「そうか、だからどこにも見当たらなかったのか」

 

「うん。それに、私はあの大きな槍を振り回す力はないから、落下のスピードで突き刺すのが一番いいと思ったから」

 

「お前……」

 

魔法少女としての戦いのセンスが高い。

ヒヨッコだと思っていた半人前の少女が、わずか1日でこれだけの戦い方をできるようになるとは。

 

「大した……もんだ」

 

「ううん、違うの。杏子ちゃんの槍が凄い。私の魔力を受け入れて、本当にあんな大きくできるなんて」

 

ゆう子はそう言って、地面に突き刺さった槍の方を見ると、元の大きさに戻っていた赤い槍が、青白い光の揺らめきに包まれて立ち消えた。

杏子の槍は、その魔力を失った。

そして、すぐ後ろで

 

ドサッ

 

と、人が倒れる音がした。

振り向いたゆう子の目の前には、杏子の身体が力なく倒れていた。

 

「杏子ちゃん?」

 

目の周りが黒ずみ、唇は色を失い、精気を無くした顔で、杏子は横たわっていた。

 

「杏子ちゃん!」

 

「最後に凄いのを見せてもらえたよ。……見事なモンだった」

 

「どうしたの杏子ちゃん!」

 

「へへ、元々あたしの魔力はもう限界だったんだ。あの槍を出したのが、あたしの最後の魔力だったんだ」

 

杏子の左指、銀の指輪に収まるソウルジェムから、黒い穢れがゆらゆらと溢れていた。

これまで一度も穢れを浄化せず、ほとんどすべての戦いで魔力を使い続けてきた。

その魂の宝珠が今、穢れの限界を超える。

 

「ダメだよ、杏子ちゃん。グリーフシードになんか、なっちゃダメだよ!」

 

「仕方ないんだよ。これがあたし達の運命なんだ。遅かれ早かれ、魔法少女はこうなるのさ」

 

「待って、私だって癒しの魔法は使えるんだよ! 杏子ちゃんの身体を癒すことができれば……」

 

ゆう子は慌てて魔力を開放し、杏子に癒しの魔法を当てる。

 

 

「無駄だって。あたし達はグリーフシードがなきゃ、穢れを浄化することはできないんだ。余計な魔力は使うな」

 

「でも、でも……」

 

ゆう子は涙を浮かべながら、必死で魔力を向けた。

 

「ありがとな、ゆう子。お前がいてくれたおかげで、あたしはマミの言ってたことが分かった気がするよ」

 

「杏子ちゃんダメだよ、諦めないで!」

 

杏子のソウルジェムが、穢れの解放を始めた。

 

「いいんだ、もういいんだよ。あたしは良くやった……だろ? ただひとつ、残念なのは……」

 

杏子は言葉に力を失い

 

(あたしが守るべきものを、最後まで守り通せなかったこと、かな……)

 

静かに目を閉じた。

 

 

続く

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