……何故こんな事になったのだろうか。薫に連れていってもらった豪邸。その中にいたのは、まるで太陽のような笑顔で自分を見つめる少女。彼女の笑顔に、僕はただただ困惑するばかりだった。
「ねえ!あなた、お名前はなんて言うのかしら?」
「えっ……。……本田光瑠です」
「ひかる……。とっても良い名前ね!」
「は、はぁ……」
何でこの子、こんなに笑顔なんだろう。初対面の筈なんだけどな……。ちらりと薫の方へ目をやると、いかにも楽しそうに口角を上げていた。
「ところであなた、どうして顔を隠してるのかしら?」
あ、やっぱりマスクの事について触れるんだ。まぁたしかに今の時期にマスクしてるのは珍しいから、気になるのも無理はないか。詮索されると面倒だから風邪予防とでも言っておこうか。
「風邪予防の為……」
「光瑠はこう見えてすごく恥ずかしがり屋でね。それで顔を隠しているのさ」
「薫。君は何を言ってるの……?」
僕が理由を言い終わる前に薫が勝手に金髪の少女にあらぬ事を教えてしまった。勘違いも甚だしい。僕がそんな理由で顔を隠している訳じゃないのに。
「あら、そうなのね!でも、そうやって顔を隠してたら、笑った顔が見えないじゃない!それ、外してほしいわ!」
納得されたし。しかもマスクを外してだなんて。急に何を言い出すんだこの子。初対面の僕に対してよくそんなに話しかけられるね。すごいよ。
「いや、マスクはちょっと……外せないです」
「……わかったわ!じゃあいつか、とびっきりの笑顔を見せてちょうだいね!」
「え、ええ……」
数秒の間の後、彼女は満面の笑みでそう言った。……ダメだ。着いていけない。ずっとニコニコしてるから段々不気味に見えてきた。この子と仲良くなんて一生かかっても無理な気がするんだけど。この子、学校でどういう立ち位置なんだろう。彼女のテンション、苦手な人は本当に苦手だと思う。僕もこういう人は苦手な部類に入るのだけれど……。
「そろそろ美咲達も来そうね!」
「あの、まだ来るんですか……?」
「当然だろう。君に会わせたい人達は、こころだけではないよ。昼休みにもそう伝えた筈だよ」
「そういえばそうだったね……はぁ……」
あの子と話してもう既に疲れたんだけど。ここから数人来るとなると、もっと疲れそうな気がする。帰りたい。
「あら、どうしたの光瑠?すごく疲れてるように見えるわよ?」
「あ、いえ大丈夫ですお気になさらず」
出会って数分なのにもう呼び捨て……。ほんとにすごいなこの子。疲れてるのは主に貴女のせいなんだけどね。女子ならまだわかるけど、男にもこういう接し方するって今時珍しいと思う。一体どういった育てられ方をしたらこんな性格になるのだろうか。
「おっと。子猫ちゃん達が来たみたいだ」
薫がそう言い、部屋の入り口の方を見ると、3人の女子達が中に入ってきた。
「やっほー!こころん!薫くん!」
「お邪魔しまーす」
「お、お邪魔します……」
オレンジ色の髪の活発そうな子、黒髪の真面目そうな子、青髪の内気そうな子が挨拶をしてあの子と薫の方へ近付いた。すると、黒髪の子が僕がいることにすぐに気付いた。
「あれ、こころ。そこにいる人は?」
「光瑠よ!薫が連れてきてくれたの!」
「えっと、彼女が言った通り、光瑠と申します。よろしくお願いします」
「あっ。はい。
黒髪の子が自己紹介をしてくれた。軽く会釈した後、家の中で追いかけっこをし始めたオレンジ髪の子と弦巻さんを止めて、注意していた。これを見る限り、この子はいつもこの2人に振り回されてそうな感じがする。水色の髪の子はそれを見ながら苦笑していた。彼女はこの中だと1番大人しそうな印象を感じさせる。
「そうだわ!せっかくここに来たんだから、光瑠も一緒に、世界を笑顔にする方法を探しましょ!」
「……はい?」
世界を笑顔にってどういうことだろう。そんなこと、簡単にできる訳ないというのに。でも、なんでこの子はこんなに自信ありげなんだろうか。
「あの、世界を笑顔にってなんですか?」
「あたし、世界中にいるみんなを笑顔にしたいの!今日はその会議の日なのよ!」
「な、なるほど……」
「そうさ。私も彼女達と共に、世界を笑顔にする方法を考えている。さぁ、光瑠。君も私達と一緒に、世界を笑顔にしてみないかい?」
いきなりそんなこと言われても。薫も含め、ここにいる人達皆、本当に世界中を笑顔にできると思ってるのだろうか。もしそうなら、能天気にも程がある。人を笑顔にするなんて具体的にはどうすればいいかわからないし。無理に決まってる。
「嫌です。世界中を笑顔になんて、できる訳がないじゃないですか。もう少し現実を見た方がいいですよ」
「あら?光瑠は誰かの笑顔が見たくないの?」
「別に、そういう訳ではないですけど」
「じゃあどうして嫌なのかしら?」
この子、すごく直球に質問してくるな。いかにも何故?という表情で首を傾げている。
「だって、貴女がしようとしていることは現実的じゃないんですよ。はっきり言って、子供の絵空事です。叶う筈もないことを手伝う程、僕は優しい人間ではないんです。しかも、貴女達とは会ったばかりで、仲が良いって訳でもないじゃないですか。なのでお断りします。ごめんなさい」
どうしてと聞かれたので、僕が思う事を彼女に言ってみた。多少きつい言い方かもしれないが、こういう言い方をしないとわかってくれなそうだから。
「? 光瑠とあたしって、もうお友達じゃないの?」
「……え?」
「薫があなたを連れてきてくれて、もうあたしとあなたは話してるじゃない!だからあたし達はもうお友達よ!」
「いや、あの、僕はまだ貴女達を友人とは思ってないんですけど……」
「だったら、これから仲良くなっていけばいいのよ!みーんなで、世界を笑顔にしましょ!」
「……」
随分と簡単に言ってくれるね。それができたら苦労はしないよ。会って話しただけで友達だなんて初めて聞いた。僕と彼女の声に釣られ、他の4人が一斉に僕を見た。弦巻さん以外、皆不思議そうな顔で僕を見てきた。その視線に、僕は背中に寒気が走った。
「……ごめんなさい。帰ります……」
「なっ……!光瑠!待つんだ!」
薫に待てと言われたが、構わず僕は小走りで屋敷を抜けた。あの人達が僕を見る目には既視感があった。中学校の頃に経験した、複数人からのあの視線。それとあの視線が重なって見え、怖くなって逃げてしまった。ふと我に返ると、自分はすごく失礼極まりないことをしたのだと、屋敷からだいぶ離れた場所で自覚したのだった。
「光瑠……」
「光瑠、どうして行っちゃったのかしら?」
「……わからない」
「光瑠さん……でしたっけ。あの人、薫さんが連れてきたんですよね?結局なんだったんです?急に走っていっちゃったし」
「はぐみ、あの人と話してみたかったのにー!」
「あの人……ちょっぴり怖かったかな……」
光瑠が出ていった後、私達はこころ達と光瑠の話題を出していた。何故急に出ていったのかはわからない。だが、何か事情があって出ていったのだと私は思っている。
「大丈夫。光瑠は怖くないさ。本来は誰よりも人を思いやれる優しい人間だよ。だが、今は誰にも心を開きたがらないようでね……」
「まあでも彼、優しいんだろうなーって思いましたけどね。話し方とかでなんとなくわかりましたし。初対面なのにこころにあんな感じで話されたら、困惑するのも無理ないですよ。あたしだってそうだったし」
「やはり、私1人では光瑠を笑顔にするのは無理だ。だから、皆に協力してもらいたい。光瑠の笑顔を取り戻してほしいんだ。こころ、頼まれてくれるかい?」
「もちろんよ!光瑠の笑った顔、見てみたいわ!今日はみんなで、光瑠を笑顔にする方法を考えましょ!」
「あたしも手伝いますよ。薫さんにはいつもなんやかんやお世話になってますし」
「はぐみも手伝うよ!薫くん、ひかるくんを笑顔にしよー!」
「私もお手伝いします……!」
皆、快く承諾してくれた。こころ達がいてくれれば、光瑠に心を開かせることができる筈だ。
「ありがとう。皆で、光瑠を笑顔にしようじゃないか。皆で力を合わせて幼馴染の笑顔を取り戻す……。あぁ……。儚い……」
「さぁ、会議を始めるわよー!」
「「「おー!」」」
今日この日から、私達ハロー!ハッピーワールドの5人は、光瑠を笑顔にする方法を模索する事になった。先は長いかもしれないが、絶対に成し遂げてみせる。また昔のように、笑顔で一緒にいられるようにね。
お久しぶりです。だいぶ更新が遅れてしまいました。申し訳ございません。ここから光瑠くんの生活が急激に変化していきます。お楽しみに。
感想、評価もらえると嬉しいです。
それではまた次回のお話でお会いしましょう。