今回は光瑠くんが抱えている
気持ちについてのお話です。
浅い眠りについた僕は、夢を見た。
幼い頃の自分と、自分と一緒にいる
2人の女の子との思い出が視界に入る。
近くの公園で、僕を含めた3人の子が、追いかけっこをしている。
「あはははっ! 」
「ちーちゃん、まってよー! 」
「ああっ、ちーちゃん、ひかちゃん!
おいていかないでー! 」
幼い頃の無邪気に笑う僕と、その横で楽しそうに笑う女の子と、泣きそうになりながら2人を追いかけるもう1人の女の子。
これを見ると、この頃の僕は本当に純粋だったのだと再認識する。
まだ人の闇を知らないとき。
純真無垢だった自分を、今では呪いたいとまで思う。
今となっては忌々しい思い出だ。
できれば思い出したくはない。
だが、夢は自分で選んで見ることは絶対にできない。僕の望みを無視し、思い出したくないと願っている幼い日の出来事が夢に出てくる。
それが嫌で嫌で仕方がない。
しばらくすると徐々に周囲が黒くなっていき、気がついた時、僕は目を覚ましていた。
僕の目から一筋の涙が伝った。
「……またか」
僕は低くそう呟き、腕で涙を拭ってベッドから出る。
幼い頃の夢を見ると、自分の意思とは関係なく目から涙が頰を伝う。
何故涙が出るのか。
自分ではわからない。だが、ひとつだけ思い当たる理由としては、あの頃のようには戻れないという悲しみや後悔。それらが原因であると、僕はそう思っている。
あの2人が今どうしているかなんてわからないし、多分、僕が知ったところでなんの意味もないだろう。
もう、二度と関わることなんてないんだから。
いつも通りマスクを着けて着替えを済ませ、部屋にこもって勉強する。
ひたすら問題集を解いて疲れた為、ペンを置いた。
軽く伸びをした瞬間、部屋のドアがノックされた。
母親が静かにドアを開け、中に入ってきた。
「光瑠。おつかい、頼んでもいいかな?」
母親が僕にエコバッグとメモ、千円札3枚を僕に差し出した。
「どうしたの?」
「今、手が離せなくて。残ったお釣りでプリン買ってきてもいいから、行ってきてくれない?」
「…わかった。行くよ」
母には迷惑をかけてばかりなので、自分が母にできる限りのことをすると決めている。
そうでもしなければ、親への罪悪感でおかしくなりそうになる。
差し出されているエコバッグ等を受け取ると、母はたちまち笑顔になり、ありがとうとお礼を言い、部屋を出て行った。
「……さて、行こう」
黒い上着を羽織り、僕は家を出た。
時刻は16時。
今はもう5月の下旬。
暖かくはなったが、この時間帯は少し寒い。上着を羽織って正解だった。
家の近所にあるスーパーへ行き、メモ用紙に書いてある食材を買い物かごに入れ、レジへと向かう。すると、50代くらいのおばさんがレジを担当してくれた。
商品のバーコードを読み取りながら、おばさんが僕に話しかける。
「お兄さん、なんでマスクしてるの?風邪かい?」
「え、……まあ、そうですね」
「気を付けなよー? 誰かに移したら大変だからねぇ。」
「・・・そうですね」
別に風邪をひいている訳ではないのだけれど。
変に理由を言って詮索されるのが面倒なので、理由を聞かれたら大抵は風邪か、花粉症だと偽り、誤魔化している。
「お会計、2280円です」
「あ、これで」
千円札3枚で会計し、エコバッグに買ったものを入れた後、僕はスーパーを出た。
帰り道を歩いている途中、制服を着た生徒と何人もすれ違った。多分、学校帰りなのだろう。
「それで、B組の◯◯がさ〜」
「えー、まじで!?あははっ! 」
他愛のない話をする2人の男子生徒とすれ違う。
僕は一瞬顔をしかめたが、不審に思われないようにすぐに真顔になる。
こういうことが起きるから、この時間に外に出るのはあまり好きではない。
極力同年代の人の顔は見たくない。
ずっとそう思っている。
だが、笑いながら話をする男子生徒の姿を見て、僕は不覚にも、それを少し羨ましいと思ってしまった。
きっと彼等は充実した学校生活を送っていて、なにひとつ不自由なことなんてないのだろう。
僕みたいに、常に罪悪感に苛まれることなんて、
ないのだろうと。
全ては自分の我儘でこうなっている。
学校へは行かず、同年代の人間を見ると嫉妬をする。
つくづく、そんな自分を愚かで醜いと思う。
歩きながら僕は考え事をした。
本当に、このままでいいのだろうかと。
今の生活は自分にとってストレスはないが、それと同時に、なんの成長もないんじゃないか。
このままあと1年間、親に迷惑をかけっぱなしで、本当にそれでいいのかと。
本来なら学校に行かなければならないのを、親の情けで不登校だということを認めてもらっている。
母はそれを言ったら違うと言うだろうけど。
僕はそう勝手に捉えている。
自分のことを考え直すと、いかに自分が悪い人間だということを思い知らされる。
どんなに取り繕っても、身内に迷惑をかけてばかりの不届き者。
その事実が変わることは決してない。
そんなことを思いながら自宅に到着し、玄関に入った。
「あ、おかえり光瑠。早かったね。ちゃんと買ってきてくれた? 」
「うん。買ったよ。はい」
母にエコバッグを渡し、買い忘れがないか確認してもらったところ、母が笑顔でサムズアップをした為、買い忘れはないことがわかった。
「光瑠、浮かない顔してるわね。なにかあった?」
僕の顔を覗き込みながら、母はそう聞いてきた。
「マスクしてるんだから、浮かない顔かどうかなんてわからないでしょ」
「わかるわよ。何年あなたの顔を見てると思ってるの。
目を見るだけでわかる。なにか悩み事とか、あるんじゃないの?」
「……」
母親は妙なところで勘が鋭い。
僕の考えてることは全部、お見通しってことか。
…あんまり詮索してほしくないんだけどな。
「別に。お母さんが気にすることじゃない。ごめん。部屋に戻る」
「あっ、光瑠!ちょっと! 」
僕は母に構わず二階へ上がり、自室に入った瞬間にベッドにうつぶせになった。
苛立ちでも悔しさでもない、なんとも言えない感情が、僕の頭の中でいっぱいだった。
「……僕は…」
なんとも言えない謎の感情を抱きながら、僕は現実から逃げるように、静かに目を閉じた。
いかがだったでしょうか。
光瑠くんはずっと罪悪感を
抱えて生活しているのです。
そんな彼は、この生活をどうするのでしょうか。
次回もお楽しみに!
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それではまた次回!