そんな君、こんな僕   作: 龍也/星河琉

7 / 11
彼の綺麗な瞳が、私はとても好きだった。 その綺麗な瞳は、今はもう陰を纏ってしまっているように見えた。


第7話 不審

 

 

 

 

 

騒がしい「彼」との昼食が終わった後、5、6時間目の授業を受け、帰りのSHRの時間となった。先生からの連絡を聞き、帰りの挨拶が終わったと同時に、僕はリュックを背負った。授業が終わったのだから、学校に残る理由はない。早く家に帰ってゆっくりしたい。隣の彼とのやりとりにも疲れたし。

 

足早に教室を出ようとすると、またしても後ろから声をかけられた。

 

「待てよ光瑠!俺と一緒に帰ろうぜー! 」

 

……彼は今日何回僕に突っかかれば気が済むのだ。彼と会話をするとものすごく疲れる。早く帰りたいという僕の気持ちを無視して彼は話しかけてくる。正直もううんざりしてきた。

 

「……はぁ……」

 

「おい!なんでそんな嫌そうなんだよ!? 」

 

「あのさ、僕1人で帰りたいんだよね。悪いけど他の人と帰ってよ。君が大好きな女の子と一緒に帰ればいい」

 

「あのなぁ……生憎、俺にはそういう女友達はいねえんだよ!俺もう1人で帰るの嫌なんだよ!帰り道で一緒に話せる奴が隣にいてほしいんだよ!だから、な!頼む! 」

 

「嫌だ」

 

自分でも驚く程に即答してしまった。彼の気持ちはわかるが、申し訳ないけど僕はもう君の相手をできる程元気ではないんだよ……。

 

「そこをなんとか! 」

 

「お断りします」

 

「丁重に断ったつもりか……。そんなに俺と一緒に帰るの、嫌なのか……? 光瑠……」

 

そんな泣きそうな顔になりながら言われても。彼でもこんな顔できるんだ。ちょっと意外だな。 ……しょうがない。

 

 

「ごめん。今日は1人で帰らせて」

 

「そんなぁ……まじかよ……」

 

ものすごく残念そうにしていた彼だが、あまり罪悪感はなかった。だって、一緒に帰るのは今日じゃなくてもいいからだ。

 

 

「……今度ね」

 

「へ? 今なんつった? 」

 

「……だから、今度一緒に帰ろうって言ったの。これで、いいでしょ?」

 

「……言質、とったからな」

 

「うん。約束は守るよ」

 

「……よっしゃあああっ! 」

 

僕がそう言うと、彼はすごく喜んでいた。さっきまで落胆していたのが嘘みたいだ。意外と彼、単純なんだね。一緒に帰るのはいつになるかな。

 

 

「……じゃあね」

 

「おう。またな! 」

 

彼に挨拶してから、僕は教室を出て、生徒玄関へと向かった。一緒に帰れなくてごめん。お隣さん。いつか一緒に帰ろうか。心の中で彼にそう言いながら、僕は階段を降りた。

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱ面白いな。アイツ」

 

 

光瑠がいなくなった教室で、俺はそう呟いた。あんな奴、生まれて初めて見た。マスクつけてっから表情はあんまり読み取れねえけど、どことなくアイツから優しさを感じる。俺から話しかけても、みんなほとんど生返事か塩対応しかしなかったのに。アイツだけ唯一、俺とまともに会話してくれた。それがすっげえ嬉しかった。今はまだ俺の事を友達って思ってないとしても、いつかは俺の事、友達だって言わせてやる。俺はいつまでもお前の中に居座ってやるぞ。光瑠。覚悟しとけよ? また明日、アイツと喋るのが楽しみだ。

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

生徒玄関で靴を履き替えた僕は学校から出て、校門を抜けようとした。やっと帰れる。そう思った矢先、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。何事かと思って振り返ると、紫髪の女子生徒が、息を切らしながら僕の方へ近付いてきた。

 

「……え……? 」

 

「はぁ……はぁ……。 やぁ、光瑠。相変わらず…綺麗な眼を…しているね……」

 

僕の事を名前で呼んだ女子生徒は、紫髪を後ろで束ねており、僕より背が高かった。彼女は確か、僕と同じクラスにいた人……だったような。

 

「君は……僕と同じクラスにいた……。というか、何故僕の名前を?」

 

「えっ……? ひ、光瑠!私を、覚えていないのかい!? 」

 

僕と関わった人の中で、こんなに演技がかった口調で話す人はいないと思うが。たしかに、紫髪の女の子に見覚えはあるんだけど……。

 

 

「……休憩時間と昼休みは、子猫ちゃんの相手をしていたから君に話しかけられなかったが……。 ようやく君と話せたよ。この時を、私はずっと待ち望んでいた……! 」

 

「……えっと、あの、どちら様ですか? 」

 

 

やっぱりこんな口調の人とは関わった覚えがない。名前を聞けば誰かわかる。そう思ったので、彼女に名前を聞いてみた。すると、予想だにしなかった名前を、彼女は言った。

 

 

「……薫。瀬田 薫(せた かおる)だ。君は私の事を、かおちゃんと呼んでいたね。思い出せたかい? 光瑠」

 

「え……!? 」

 

驚いて言葉が出なかった。昔の記憶が次々と呼び起こされる。幾度となく夢に出てきた少女。もう2度と会うことはないと思っていた幼馴染。全てが繋がった。

 

 

「……薫……!? 」

 

「ようやく思い出せたみたいだね。良かった……」

 

「……えっと、その……」

 

頭の中が混乱して、うまく言葉を紡ぐことができない。しかも、しばらく会っていない間に、彼女は変わってしまっていた為、どう接すればいいのかわからなくなった。

 

「しばらく見ない間に、変わってしまったね。光瑠。そのマスクは……どうして着けているんだい? 君らしくないじゃないか。昔の君は、ありのままの自分を出していたじゃないか……」

 

変わった? それはこっちの台詞だ。似合わない演技がかった口調を使って。自分を偽っているのは君の方じゃないか。本当に彼女が薫なのかと思い、不信感が募ってきた。

 

「僕のことなんかどうでもいいよ。変わったのはお互い様でしょ。君だって変わったよ。昔はそんな胡散臭い口調を使ってなかった。なのにどうしてそんな風になったの? 」

 

「なっ……! そ、それは……」

 

先程までの余裕ぶっていた態度から一変し、取り乱している。

 

「僕の知ってる薫は、そんな男みたいな言葉は使わない。昔の君はもっと、女の子らしくて、お化けが苦手で、よく泣いていた。それが、僕が知ってる薫だよ。今の君は…… 薫じゃない……」

 

 

「そ、そんな……!私は君の幼馴染の瀬田 薫だ……!例え昔と違っても、その事実は変わらないよ……!」

 

 

たしかに彼女の言う通り、幼馴染ということは変わらないのかもしれない。だけど僕は、目の前にいる彼女を、幼馴染として見ることができなかった。まるで別人と話しているようで、気味が悪くなった。

 

 

「……悪いけど、今の君とは、どう接していいのかわからないよ……。本当にごめん。瀬田さん。 僕はこれで……」

 

「あっ……!待ってくれ!光瑠!私は…………!」

 

彼女が何を言おうとしたのか、僕にはわからない。この場から離れる為に、全力で走って帰ったから。久しぶりにこんなに走った為、息が切れ、胸が苦しくなった。マスクを着けている為、余計に息苦しい。走るのをやめてゆっくり歩いても、胸の痛みはしばらく消えなかった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

「光瑠……。どうして……? 」

 

ずっと彼に会いたかった。あの日の事を、ずっと謝りたかったから。あの時、お礼を言っていなかったから。しばらく見ない間に、光瑠は変わってしまっていた。マスクを着けて、表情を悟られないようにしていた。久しぶりに会って話した時の光瑠の眼はとても綺麗で、とても、悲しそうだった。

 

彼から告げられた、どう接すればいいかわからないという一言が、私の心を貫いた。胸が苦しい。やっと会えたのに、大切な幼馴染が私から離れていってしまった。それがものすごく辛かった。

 

 

「るるる〜ん♪ ってあれ、薫くんー!何してるのー?あ、薫くん、また面白いこと言ってよ! シェイクなんたらが〜みたいな! 」

 

「や、やぁ。日菜。申し訳ないが、今は、そんな気分じゃないんだ……」

 

日菜が私に話しかけてきたが、私は彼女と会話をする気分ではなかった。

 

 

「えー?つまんないのー。るんっ♪ってこないなー。いつもの薫くんじゃないから、なんか嫌ー!」

 

「すまないね……」

 

「ねえ、なんで今日は面白いこと言ってくれないのー?ねえ、どうしてー? ねえってばー! 」

 

「日菜。今日はもう、1人にしてくれないかい……? 」

 

「……ちぇー。つまんないのー。バイバイ。薫くん」

 

「……ああ」

 

不服そうな顔をしながら、日菜は行ってしまった。今日はもう、何もする気が起きない。こころの家に行く予定だったが、まっすぐ家に帰るとしよう。 私は校門を抜けて、通い慣れた道をふらふらと歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は家に着き、玄関のドアを開けた。すると、母がすぐに出迎えてくれた。

 

「おかえり光瑠!久しぶりの学校、どうだった?」

 

母が僕にそう尋ねた。だが僕は、正直に答える気にはなれなかった。

 

「……別に。何もなかったよ……」

 

「……そう。なら良かった! 」

 

 

母は笑顔でそう言った。母はこれ以上何も言わず、静かにリビングに戻った。僕は無言で自室へ行き、制服のままベッドに座った。

 

 

「薫……。どうして……? 」

 

 

幼馴染とこんな形で再会するなんて、僕は微塵たりとも思わなかった。成長してお互いこんなに変わってしまうなんて。僕は若干ヤケになり、立ち上がって口元のマスクを外し、それをゴミ箱へ放り投げた。

 

 

 

 

 





それではまた次回のお話でお会いしましょう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。