受験生たちはある二人を除いて何がなんだか分からない状況だった。
プレゼントマイクの突発的なスタートの合図がされた直後、ある二人にはウンザリするほど聞き飽きた声が各試験会場に響いたのだ。
その結果、各試験会場前に巨大モニターが突如として現れ、画面には何も映し出されてはいないが、声が聞こえてきた。
『諸君私だ』
『誰!?』
おそらくこの時ほど、受験生たちの息がぴったりだったことはないだろう。緑谷、爆豪両名は周りと違い肩を落とした。ロクでもないことが起きると二人は確信していた。
『スマイリー!! 何をしているんだ!』
「え、スマイリー? あのヴィジランテの?」
新たな声(オールマイト)が最初の人物の名前を言ったことで、周囲がざわつき始めた。
『あー、受験生の諸君。とりあえずこの試験はこのスマイリーが受け持つことになった。そして、本来の方法ではヒーロー科にふさわしくない人間まで合格してしまいかねなかったため、新しい物を用意した』
すると、各試験会場と現れたモニターたちが突然動き出し、町を作り上げた。ついでにモニターも一つになった。
『題して、ハジケロワイヤル。ドキドキサバイバル試験!! だ』
モニターにデカデカと文字が表示される。
『ルールは単純明快。町に侵略してきたロボット軍団を払いのけ、町とそこに暮らす人々を守って見せろ。ロボットに設定されたポイントは一律で1ポイント、制限時間は三十分だ。さて、用意をしな』
スマイリーは散らばっていた受験生たちがいた床を動かし、一つの場所に移した。
『試験スタート!!』
はじめこそ動かなかった受験生だが、その中から緑谷、爆豪の二人は飛び出した。
「かっちゃん!」
「うっせ! 言われんでもわかっとるわ!! あの仮面野郎のことだ、どうせなにか隠してんだろ」
「うん! ポイントも取りたいけど、町の人っていうのが気になるんだ。あの人なら本当にやりかねないし」
「あとでぶっ殺す」
「や、やめといた方がいいと思うよ? 前みたいに牛乳タンク一気飲みさせられるかも」
「うるせ!! 今度は負けねぇ!!」
二人は町に入ると何も言うことなく二手に分かれた。
それを見ていたほかの受験生たちも急いで会場へと入っていった。
「さて、話してもらうよスマイリー。なぜこんなことを?」
オールマイトがいつにもなく怒っている。
「というより不法侵入で捕まえているところだぞ」
オールマイトが現れたあとからイレイザーヘッドを始めとする雄英教師陣も合流しており、スマイリーを取り囲むように構えている。
「というか、あの程度のセキュリティーで満足してんのか? ヤバすぎじゃない?」
ギャル風の格好になったスマイリーがスマホをイジりながら答える。
「答えになっていないぞ、あと着替えろ」
「だって~イレイザー君怖いんだもん」
「…………っ!!!」
殺意を隠そうともしないイレイザーを周りが止める。
「落ち着けイレイザー! やつを殺すな!!」
「むしろ死なないだろう。問題ない」
「問題ですよ!?」
「きゃーオールマイト怖い~」
「……スマイリー真面目に答えてほしい。なぜ試験をめちゃくちゃに?」
「それは、この試験が合理的じゃないからでございます」
眼鏡をかけたスーツ姿に変わったスマイリーはしっかりとした口調で答える。
その言葉にイレイザーの殺気は収まりを見せる。なにせ自身も合理性に欠けると思っていたからだ。
「どういうことだい?」
「元々の試験を受けさせた場合、このような生徒が合格する可能性が著しく低下する」
スマイリーは一枚の写真を見せる。
「この少年は?」
オールマイトが訪ねる。
「心操人使。現在実技試験を受けている。個性は洗脳」
「……ふむ、確かに本来の試験では厳しいってもんじゃないね。しかしこの試験なら受かるのかい?」
「さあ? 本人次第だろ。体力もないみたいだし」
「え!? 君がこっそり鍛えてたとかは!?」
「ないよ」
「じゃあなんでさ!?」
「そいつは昔からヴィランみたいだって言われてた」
「!?」
「でも憧れてんだよヒーローに。ならチャンスを与えてやるのもいいじゃんか。体力がないなら入学後にきっちり鍛えればいい。能力の活かし方を指導してやればいい。サイドキックに欲しい奴は結構いるだろうからな」
スマイリーは現在試験が行われている町を見る。
「俺がやったのはお前らが用意した試験より少々厳しいがより平等な試験だ。ま、それに気がつかないやつはポイントをちまちま取るしかないな」
「いつまでも俺みたいなヴィジランテがいちゃダメだろ。ちゃんとしたヒーローたちを育ててやれよ」
「スマイリー……」
「あ、でも今年から俺ここの教師だから」
「え…………マジ?」
「マジマジ。校長から許可もらったから」
「……脅した?」
「交渉と言え。てなわけで、よろしくなオールマイト」
「ああ、うん……嫌な予感がするなぁ……」
オールマイトの呟きは教師陣全員の言葉でもあった。
「やああああああっ!!」
振りぬいた右腕はロボットを破壊することは出来ずに外れる。
「くそっ、動きが俊敏すぎる」
現在緑谷は、ロボットたちに苦戦を強いられていた。
「攻撃! 攻撃! 攻撃!!」
手に持っていたトリモチ弾を装填した銃を緑谷に向け放つ。
「っ!」
オールマイトから継承されたワン・フォー・オールを全身に纏い、自身の身体能力を底上げする。遊園地内で習得した体の使い方でトリモチ弾を回避し続けるが、そこへほかのロボットが回避の隙を見計らうかのように攻撃を仕掛けてくる。
「ぐうっ!」
ロボットたちの連携によって攻撃を受けてしまった緑谷はビルの壁にたたきつけられる。安全面を考慮されているのか、壁は多少弾力性があった。
(スマイリーさんのことだから安全面の配慮が少ないかなって思ったけど、案外そうでもない……? なにか意味があるんだろうけど、その前にこいつらを倒さないと)
目の前にいる三体はサンバを踊りながら緑谷の様子を見ている。
「誰かー助けてー!」
「っ!? この声は!!」
緑谷はスマイリーが町の人役を実際に用意していたと確信。しかし、今までも戦闘が行われていたが、なぜ今になって聞こえてきたのか。その答えはすぐに分かった。
『残り十五分です。町の人々が逃げ惑っています。保護しましょう』
あらゆるところにセットしてあったスピーカーから声が聞こえた。
「くそっ、まだロボットたちから1ポイントも取っていないのに……けど、仕方がない」
緑谷はロボットたちから距離を取り、声がした方向へと走り出す。
『ミドリヤイズク、市民ノ安全ヲ優先。10ポイント』
ロボットたちはそれだけ言って別々の場所へと移動した。
「大丈夫ですか!? 安全な場所までお連れ――――ってハジケ横丁にいた大栗さん!」
「あら、目つきの悪い子といた子ね」
「な、なんでここに……ま、まさか町の人役って」
「そっ、私たちよ。ささ案内して」
「あ、はい」
緑谷は自分たちでなんとかなるんじゃないかと考えたが、言わないことにした。
『緑谷、1人を救助したから5ポイントだな』
スピーカーからスマイリーの声が聞こえた。
(まだ5ポイントか、もっと頑張らないと)
実際には15ポイント取っているが、そんなことも知らない緑谷は大栗さんを避難させたのち、再び町の中へと駆け出した。
『緑谷、1人を救助したから5ポイントだな』
スマイリーの声は試験会場にいた者たちに聞こえており、爆豪もしっかりと聞いていた。そもそもこのアナウンスをした理由は始まってから15分が経過しているのに緑谷以外だれもポイントを取得できていないからだ。
受験者たちはロボットを倒すことに意識が集中しており、ろくに避難させようとしない者たちが多い。そこでスマイリーはロボットの回避能力をさらに上げた。もともと高かったが、さらに難易度を底上げしてしまったために撃破が難しいのだ。
スマイリーがオールマイトらに教えた心操人使も体力の問題が付きまとってしまい、上手く避難できずにいた。
「デクが俺より先にポイント取っただぁ! なにをしやがったデクゥ!!」
イライラが増した爆豪はロボットたちに攻撃を仕掛けるも、ラインダンスをするロボットたちになぜか命中せずに回避される。
『ヘタクソ! ヘタクソ!』
「~~~~~~~っ!!」
挙句ロボットからバカにされる始末で爆豪の怒りは頂点に達していた。だが、
「だれか、助けて……」
「っ!」
か細い声が聞こえたことで、スマイリーの言葉を思い出す。『町の人々を守って見せろ』という言葉を。
すぐさま爆豪は声がした方へと向かい、ガレキに足が挟まっているハジケ横丁で出会ったマダム・ルーラーがいた。
「なんでてめぇがいんだよ!!」
「私は町の住民なのよ、ほら助けなさいな」
「くそがぁ! さっさと行くぞ!」
ガレキだけを爆破で吹き飛ばし、マダム・ルーラーの手を取る。
「もう少し丁寧に扱ってほしいわ」
「うるせ!!」
やっぱりギャングオルカみたいな人がいいわ。などと言うマダムを連れて爆豪は避難場所へと急ぐ。
『残り五分だ。ボスの登場だぞー』
そのアナウンスが流れると、会場でもっとも大きなビル(200m以上)よりもさらに上回る巨大なロボットが現れた。
「か、敵うわけねぇだろ!! 逃げるぞ!!」
一部の受験者は逃走を開始する。
無謀な戦いを避けるのは悪いことではない。だが、町の人々と共に避難すればまだよかったが、自分ひとりで避難するとなれば、スマイリーは容赦がない。
「あいつは失格。あいつも……根性がないねぇ……」
どこかつまらなそうにモニターを見ながら受験生を不合格扱いにしていく。
「…………スマイリー。それでも何人かは無謀とはいえ、勇気を振り絞れるようだぞ」
共にモニターを見ていたオールマイトは嬉しそうに笑う。映っているモニターには緑谷と合流した爆豪が話し合っている。
「スマイリー、声を拾えるかい? 何を話しているか聞きたいんだ」
「OK」
リモコンのスイッチを操作して音量を上げる。
『ああ!? それ本気で言ってんのか!?』
『うん。かっちゃんはどれだけ稼いだか分からないけど、僕にはこの試験がポイントだけで済まされるとは思わないんだ』
『……仮面野郎の気分次第でさっき逃げたやつらが失格になるだろうな』
『うん。多分スマイリーさんは失格扱いにしてると思う。大事なのは町とそこに暮らす人々をどう守るかなんだ。』
『あれを倒した時の破片で町を壊したらポイントが減る』
『十分にあり得るね。それにこの試験は一人でできるものじゃないと思う。さっきまで物を浮かせる子と連携したんだけどそういう他の人とポイントを分け合えるかを見ている可能性もあるよ』
『けっ、あの野郎……』
「薄々気が付いているようだね」
「ま、あいつらがいるから元から難易度高めだったし、気が付いてくれなきゃ困る」
この試験は元より一人でやるために存在していない。1ポイントのロボットどちらが倒すか? ではなく、どちらが倒してもこの町を守ることを優先。という考えに至ってほしかった。そのための1ポイントだ。まして避難させなくてはいけない人々がいる以上戦いだけに集中するのは愚策だ。
とはいえ、スマイリーも町の人役の人数を少なくしていたミスがあるためなんとも言えない。
『僕があれを切るから、かっちゃんが落下してきた物を残さず消してほしいんだ。どうやら相当頑丈なバリアが張られているみたいだし』
『ちっ、しゃあねぇ……さっさと行け』
『うん!』
緑谷はなぜかジャージの上を脱ぐ。
『その脱ぐのなんとかできねぇのか?』
『こっちのほうが集中できるから……』
『そうかよ……』
呆れる爆豪を他所に、緑谷は集中する。
『ふぅー』
鍛えられた上半身の至る所に、模様が浮かび上がる。
(生命力を高めろ……この状態で何かあれば、ひとたまりもない……だからこそ集中できる。ワン・フォー・オールを高めることができる)
巨大ロボットは着々と緑谷たちに近づいていた。
『デク! まだか!?』
モニターで見ているオールマイトもハラハラしていた。
「だ、大丈夫なのか緑谷少年は!? てか、なんで脱いでるの!?」
「あのほうが集中できるんだと」
「コスチューム必要なさそうだね……」
試験会場は超巨大ロボットの出現で混乱していた。その中で逃げていく受験生を見て、避難させる人たちがいたことを思い出した心操人使は急いで自身の個性を使って、慌てている(ふり)人たちを誘導させる。
「よし、急いで逃げないとな」
心操は少しだけこの試験が自分にも可能性があることに幸運を感じていた。
「絶対合格する!!」
『洗脳の個性でもヒーローになれるか? さぁ、俺はヴィジランテだし分かんねぇな。それができるのはその個性を持っている奴だけだしな』
昔、この試験を乗っ取ったヴィジランテに尋ねた時の言葉は今も心操人使の心を支えてくれた。だからこそそのための第一歩を踏み出したい。心操は大勢の人たちを連れて避難を急いだ。
「いくよかっちゃん!」
「しゃあ!! ぶっ殺してやるぜ!!」
緑谷は個性を利用して跳躍した。
グングン上昇し、ロボットの頭上まで来た。
「少し高いけど……はぁぁぁぁぁ!」
力を右腕に溜める。
(この腕は一本の剣――――)
「――――SLASH!!」
腕を数回に渡り振る。するとロボットはスパスパと細切れになる。
「うおおおおおおおおおっ!!? ロボットが切れたぁ!!」
「やっぱり、斬撃に対してバリアが弱い」
予想通りだという言葉を言う前に、急速に落下していく自分に焦りだす。
「あ、どうしよう……」
受け身は取れないし……。などと考えながら落下していく緑谷に跳躍して接近してくる影があった。
ペチンという音とともに緑谷の落下は停止した。
「解除……ふう」
そこには先ほどまで緑谷と連携していた麗日お茶子と協力を頼まれた飯田天哉がいた。
「大丈夫か!?」
「な、なんとか……ありがとう」
「おい、デク! 細かすぎて処理が面倒だったぞ!! いくつか取りこぼすところだったわ!!」
「ご、ごめんかっちゃん」
『終了~これにて試験は終わりだ。お疲れさん結果はサクッと郵送しておくからお楽しみに』
「どうやら終わったようだな……」
「ふう、怖かった……」
飯田と麗日は安心したのか脱力気味である。
「デク! あの仮面野郎をぶっ殺しに行くぞ!!」
「ええ~やめようよかっちゃん。絶対返りうちだよ」
「一発ぶち込まなきゃ気が済まねぇんだよ!! 行くぞ!!」
このあと爆豪は返り討ちにあい、煮干し食べ放題(強制)に付き合わされた。