個性『ハジケ』   作:鴉星

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 あまりにハジケていなかったので後半部分を書き直しました。

 前よりはマシな筈です。多分。


全国一斉雄英体育祭テスト

 雄英ヒーロー科の一年から三年生はだれもかれもが疲れていた。

 

 いつどのようなタイミングでスマイリーから無理難題がやってくるかわからないからである。朝だとか夜だとか食事中であろうが関係なくスマイリーの無茶苦茶な授業が始まる。

 

 中には心が折れて学校から去ろうとほんの一瞬でも考えてしまう者もいた。スマイリーからしてみればそのような奴は初めからヒーローになってもなっただけの存在であるため金の無駄だし、すぐにでもやめてもらっていいと思っている。

 

 だが、スマイリーのことを多少は理解している緑谷がみんなを必死に鼓舞する。それによってか一年生たちはクラスなど関係なくコミュニケーションをとり、自分の個性を高めたり、連携の大切さを習得していく。それが二年生、三年生にも伝わり、さらには稀にスマイリーの襲撃を受けるヒーロー科以外の生徒たちにも伝播していく。

 

 かつてないほどの結束。そう校長である根津が言うほどの雄英は強いものになっていた。

 

 

 

 

 しかしながら生徒たちはスマイリーの規格外の領域をまだ知らない。

 

 

 

 

『宣誓。わたくしスマイリーは己の力を最大限に活用して、全国のプロアマ問わずヒーローたちのさらなる躍進のために貢献することを誓います!!』

 

 それは雄英体育祭が行われる日のことである。

 

 突如として寮内にスマイリーの声が響いてきたのである。

 

 ヒーロー科の生徒たちからしてみればプロになるための第一歩となる舞台である。だが、今年はスマイリーが何かをしてくることは入学してからの日々で理解していた。

 

 それでも生徒たちは予測していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさか、別惑星を作り出してそこに日本にいるプロヒーローを含めた。全国の高校生たちが一斉に転送させられることなど誰が予想できようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……どこ?」

 

 そんな言葉を言ってしまうのは仕方がないことであるが、雄英生徒たちはすぐに警戒を始める。

 

 周囲はビルなどが建て並ぶ街で、人の姿はない。

 

「も、もしかして、もう体育祭が始まってんのか?」

 

「ありうるぜ、なんたってスマイリー先生だからな」

 

 上鳴と切島は少し焦ったようで汗が出ている。

 

 幸いなことに1‐Aと1‐Bの生徒たちはそれほど離れた位置にいたわけでなくすぐに合流。探知が可能な障子、耳郎、宍田などを中心に周囲を探る。口田は動物が見つけられるず、残念ながら協力できなかった。

 

「説明もないってことはどうゆう状況なのかも自分で探れってことか?」

 

 瀬呂は緊張しているのか表情が硬い。

 

 

 その時。

 

『あーあー、大変お待たせしました。これより全国一斉雄英体育祭テストを始めたいとおもいます』

 

 突如として空にスマイリーの映像が映し出された。

 

「全国……」

 

「一斉」

 

「雄英体育祭」

 

「テストォ?」

 

「体育祭なのかテストなのかはっきりしろや仮面野郎!!」

 

 これにはさすがに爆豪がキレた。

 

『その名の通り体育祭をしつつテストをしようと思う。ヒーローに相応しいかどうかのな』

 

「…………は?」

 

『この体育祭テストで悪い点を取った生徒は除籍確定だ。マイナスだとか関係なく除籍とする』

 

「はあぁぁぁぁぁ!? んだよそれ!!」

 

『プロヒーローもそのライセンスを持つに値しなければ、そく剥奪とし、二度とヒーローができないと思え』

 

「そ、そんな……そんなのって……」

 

『理不尽か? 世の中は常に理不尽でいっぱいだぞ? 個性があるない。個性があっても差別される。異形の姿というだけで暴力を振るわれる。そんな世界なんだ。たかが別惑星に飛ばされただけで文句を言うな』

 

「いや、言うから! 文句しかないから!!」

 

 耳郎のツッコミなど聞こえているはずもないが、言うしかなかった。

 

『そこは俺が用意した別の惑星だ。お前たちはそこから脱出する。それだけでいい。だが、当然それを妨害する連中もいる。それを倒すなり隠れてやり過ごすなりして、唯一の脱出艦に乗れ。簡単だろ?』

 

(絶対簡単じゃない……)

 

 スマイリーのやり口を知っている生徒たちの思いは一致している。

 

『細かいルールは以下の通りだ』

 

 スマイリーの姿が消え、空中にはルールが表示された。

 

 

・参加している者たちは全員で脱出しなければならない。

 

・一人でも取り残した場合、全員失格となりライセンス剥奪か除籍になる。

 

・ヒーローらしい行動をした者にはヒーローポイント略してHPが加算される。

 

・ヒーローらしからぬ行動は減点される。

 

・ヒーローポイントが高ければ高いほど失格になりにくくなる。

 

・ポイントは敵からの攻撃などでも一定値下がる。

 

・敵から致死量のダメージを受けたと判断した場合。死亡扱いとし、失格となる。

 

・この失格者は強制的に帰還され、ライセンス剥奪または除籍とする。

 

・単独行動、集団行動は自身で決めること。ポイントの加点減点などはない。

 

・スマイリーがこの体育祭のために生み出した敵がいる。

 

・この敵役は一定のダメージを与えると撃破扱いとする。

 

・雄英講師、一部のプロヒーローは洗脳されている設定で登場する。

 

・上記の者たちは一定の時間ごとに登場する。

 

・この惑星はスマイリーの合図とともに四時間後に消滅する。

 

・四時間後までに脱出していなければ全員失格とする。

 

 

 

 十分間表示されたルールが消え、再びスマイリーが現れる。

 

『ルールをもう一度確認したかったら、各々の腕に装着した専用のスマイリーフォン略してスマフォで確認してくれ』

 

「うおっ!? いつの間に!? てかコスチュームに着替えてんぞ!!」

 

 いつの間にか生徒たちの格好が、以前用意されたコスチュームに気が付くことなく着替えさせられていた。

 

「ま、まったく気が付かなかった……どうやったんだ!?」

 

 全身を覆う飯田なども気が付くことがなく。かなり驚愕していた。

 

『なお、ヒーロー科以外の者たちはこちらで安全面を高めた服装にまとめさせてもらった防御だけならヒーロー科を上回るだろうな。ああ、そうだ。この惑星の地図もそのスマフォの中に入っているから確認するといい』

 

 緑谷たちのみならず、各地に転送させられた者たちは一斉にスマフォを操作する。

 

「ひ、広すぎる……」

 

 誰かが声を漏らす。それもそのはずで、緑谷がいるスタート地点は脱出艦があるゴールまでの距離がプロアマ問わず最も遠い位置にいるからである。その距離2500㎞。

 

 個性を除いて移動手段が自分たちの足のみである彼らにとって、厳しい戦いの始まりであった。

 

『それじゃスタート!! 頑張って帰って来いよ~』

 

 スマイリーの映像は消え、代わりに時間が表示された。

 

「ど、どうすんだよ!? 絶対無理じゃねぇか!?」

 

「こんなのクリアできっこないって!!」

 

「落ち着けみんな! いくらなんでもあきらめが早すぎるぞ! 先生のことだ何かがあるんだ!!」

 

 学級委員長にもなった飯田が落ち着かせようと声を発する。

 

「何かってどういうことかしら飯田ちゃん」

 

「俺たちの位置はどう考えても遠すぎる。だから、なにかほかの事があるんじゃないかと思ってね。入学してから先生の容赦のなさには本当に心が折れそうになったからな。制限時間を見せられてもなぜか落ち着いていられるんだ」

 

「飯田、それ素直に喜べねぇぞ」

 

 切島は呆れた表情でツッコミを入れる。

 

「と、とにかくこんな場所に飛ばされたんだ。なにか「カールボーカールボー」っ!? なんだ!?」

 

 彼らの近くに歌声が聞こえてきた。

 

「っ! 何か来るぞ!!」

 

 障子が指を向けるほうをみると、四車線の道路ギリギリの大きさで緑谷たちのほうへとやってくる大きな山車であった。

 山車には大勢の人間が乗っており、中央で左右に動いている男以外はただ座っているようにも見える。

 

「な、なんだありゃ……」

 

「みんな、気をつけて!」

 

 緑谷の声に、全員が警戒態勢を取るが、すぐにあっけにとられることになった。

 

 それは、山車が彼らの近くまでやってきたと思いきや、どうやってか、急に停止して、中央で動いていた男もピタリと動きを止めた。が、

 

「カールボー」

 

 そう歌うかのように声を発すると、

 

『カールボー』

 

 周りの座っていた者たちも同じように歌い始めた。

 

「カカカ、カールボーナーラー!!」

 

『ナーラー!!』

 

「……は?」

 

「カルボナーラ?? なんで」

 

 生徒たちの疑問はそっちのけで、中央の男が忙しなく動き始めた。

 

「日本と本場じゃだいぶ違う物だけどー」

 

『だけどー』

 

「美味しいパスタのカルボナーラー!!」

 

『ナーラー!』

 

「そ・れ・は魅惑の味でー」

 

『ついつい食べちゃうー』

 

「卵とチーズが」

 

『ベストマッチ!!』

 

「今じゃアレンジ豊富でー」

 

『簡単にできるぅー』

 

「人気のパスタ――」

 

『――カルボナーラァァァァァァ!!』

 

 歌い終えた中央の男は大なべにパスタフォークを入れてパスタを取り出す。その際に緑谷たちの方を見つめて、

 

「俺はミートソース派だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 取り出したパスタを緑谷たちへと放つ。

 

「うわああああああ!?」

 

「あっちいいいいいいいい!!」

 

「いきなり何しやがる!!」

 

「そうだよ! なんでミートソースなんだ!!」

 

「デクくん!?」

 

「貴様たちこそなにをしている。すでに戦いは始まっているのだぞ」

 

 男は呆れた表情をする。

 

「俺がここにいるのはお前たちを倒すためだ。そう、俺の名はペペロンチーノ男爵!」

 

「その名前でミートソース派なの!?」

 

 うっかり耳郎は突っ込んでしまった。

 

「パスタの好みは人それぞれだろうが!!」

 

 再びパスタが飛んできた。

 

『耳郎!』

 

「ゴメン! つい」

 

 みんなからの怒りの声に誤るしかない耳郎。

 

「さて、このペペロンチーノ男爵とパスタメンズがここからお前たちを通すことはない。通りたければ……」

 

 ペペロンチーノ男爵はパスタフォークを器用に使ってパスタをさらに盛る。そしてそれを頭の上に乗せた。

 

「俺を倒して見せろ」

 

「いや、今の流れなに? いる?」

 

「いるに決まってるだろう!! パスタの盛り付けだぞ!!?」

 

「頭に乗せるほうだよ! 気になったのは!!」

 

「何だそっちか、ふっ、素人が」

 

「え、なんで馬鹿にされてんのウチ」

 

「いいか、なぜ俺がパスタが盛られた皿を頭に乗せるのかというとだな」

 

「というと?」

 

「デクくん食いつきすぎや……」

 

「腹が減ったら食えるからだ」

 

「ええ……」

 

「なるほど、つまりペペロンチーノ男爵の個性のようなものであの麺を食べることで回復することもできる可能性があるわけで、いや、相手はあのスマイリー先生が用意した敵だ。なにかほかにも色々とできることがあるかもしれないハジケ横丁の人たちも規格外とも呼べるような人たちがいたし、ペペロンチーノ男爵もその一人なのかも……だとすると、一概に個性と決め付けることで視野を狭めることはしないほうが――」

 

「デク! 敵の前でブツブツ言うな!!」

 

「はっ! ご、ごめんかっちゃん!!」

 

「さて、お喋りはここまでだ行くぞパスタメンズ!! こいつらを倒すぞ!」

 

『カルボー!!』

 

「みんな! 必ず勝とう! この体育祭を必ず、必ず最後まで生き残ろう!!」

 

『おう!!』

 

「来るがいい、お前たちにミートソースの味深さを教えてやる!」

 

 

 

 雄英1‐A&B組VSペペロンチーノ男爵&パスタメンズ 戦闘開始。

 

 

 

 緑谷たちの戦いが始まった。

 

 

 

 それは各地に飛ばされた者たちも同じことである。

 

 

 

「よくきたなエンデヴァー!! 俺はピーマン大好き連合副団長のナス山三太夫だ!」

 

「……ナス?」

 

 エンデヴァーの前に立ちふさがったのは人並みに巨大なナスに人の手足と顔がある奇妙な男だった。

 

「なんだ! 俺の姿に文句でもあるのか!?」

 

「…………ナスなのにピーマンが好きなのか?」

 

「バッキャロウ!!」

 

「ぐっ!?」

 

 質問をした瞬間。ナス山は猛スピードで突進してきた。あまりの速さにエンデヴァーはガードすることはできたが、吹き飛ばされてしまう。

 

「ピーマンはナス目ナス科の食べ物だ!! トウガラシ属だけどそんなとこは気にしなくていい!!」

 

「ちっ」

 

 エンデヴァーは反撃といわんばかりに炎をナス山へと撃つ。

 

「ぎゃああああああ! 燃える! 燃えちまうううううううううう!!」

 

 苦しそうにしているナス山を見て、勝ったとエンデヴァーは確信して、自身サイドキックらを探しに向かおうと背を向けたそのとき、

 

「焼きナスヒップアタック!!!」

 

「ぐっあ!?」

 

 強烈な衝撃がエンデヴァーを襲う。受身を取れず、道路に顔面を打ち付けてしまう。

 

「ナスを舐めるなよ! 焼かれても俺はピンピンしてるぜ!!」

 

「おのれぇ!」

 

 再び炎をナス山へと向ける。しかしナス山はどこからともなくピーマンを取り出し、食べた。

 

「ピーマンパワー!!」

 

 緑色の光がナス山を包むと、エンデヴァーの炎はナス山ではなくエンデヴァー自身に襲い掛かってきた。

 

「っ、どういうことだ!!」

 

「これが、ピーマンの力だ」

 

「意味がわからん!」

 

「ならば教えてやる! 俺がピーマンを!!」

 

 エンデヴァーVSナス山三太夫 戦闘開始

 

 

 

 

「おい、Mt.レディ! お前なにしてんだ!!」

 

「す、すみません先輩方、私、洗脳されたヒーロー役でして」

 

「はぁ!? じゃあ……」

 

「はい、みなさんを倒さなきゃいけなくて……」

 

「じょ、冗談だろ!?」

 

「すみません! ちゃんと敵役やらないとあとでスマイリーさんに怒られるんです!」

 

 巨大化したレディは右腕を振り下ろす。一撃で道路を割り、衝撃破と割れたコンクリートの塊がヒーローたちを襲う。

 

「うわあああああああっ!!!」

 

「くそっ、冗談きついぞ!」

 

「どうする? 俺たちの中であいつを止められるやつはいるか?」

 

「無茶言うなよ、あいつの個性シンプルな分強力なんだぞ」

 

 ヒーローたちは何とか状況を打開しようとするが、現状のメンバーでは不可能を判断した。

 

「ここは距離を取るべきだ」

 

「よし、急いで――――あ?」

 

 空が暗くなった。先ほどまで明るかったはずなのに、急に影が差した。上を見上げると、そこには跳躍したMt.レディがいた。

 

『うわああああああああっ!!?』

 

 レディはそのまま足から着地。全体重をかけた一撃は先ほどの攻撃の比ではない。近くの建物はすべて倒壊している。

 

「ううっ、すみませんみなさん」

 

 スマイリーが作ったレディ限定使用のパワースーツを着せており、必要に応じて、無限の伸縮性。装着者の体重の増加(落下など一部の動作のみ)。装着者に負担を軽減する耐ショック性能。身体能力アップ。さらに、葉隠の物と同様の防弾などの作りにもなっており、レディは協力してくれたらこれをプレゼントするとして簡単につられてしまったのである。

 

 しかし、代償として、事前に他のヒーローがやらされているようなことを一人でやらされており、一生もののトラウマになっている。

 

『コラーMt.レディ。台本どおりの演技をしなさい!』

 

 スマイリーの顔が空に浮かび上がる。

 

「だって、私、一応ヒーローですよ!?」

 

『今は洗脳されたヒーローだけどな』

 

「ううっ、引き受けなきゃよかった」

 

『ほう。ならまたオールマイトロボ(全盛期仕様)千人組み手。逃げ遅れた人たちを守りながら戦え! をやるか?』

 

「おーほっほっほっ! さあ、次の相手はどこかしらぁ?」

 

 レディはすぐさま台本どおりの台詞を言う。

 

『うんうん。それでいいじゃ、頑張れよ』

 

 スマイリーの顔は空から消えた。

 

「…………はぁ……」

 

 後に残ったのはレディのため息だけだった。

 

 

 

 

 

 惑星消滅まで残り3時間57分。

 

 

 

 

 


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