凛として、生きて 後編   作:樋口晶子

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第11話 後悔

「…水神先生!今診察をしたところ駆逐艦の5名は意識もはっきりしていて歩行も問題なく脈拍呼吸数異常ありません」

 

「そう、なら先生はそっちの瑞鶴さんを診て私は大和さんと翔鶴さんを診るから、換気マスクちょうだい」

 

「はい!」

 

「大和さん!大和さん!聞こえますか!……頻呼吸。赤よ!看護師さん酸素マスク4Lとバイタル測ってCTとエコーよろしく」

 

「はい!」

 

「翔鶴さん!…………っ!…喉頭鏡ちょうだい!」

 

「喉頭鏡です!」

 

「……管!」

 

「はい!」

 

「………吸った!翔鶴さんを最優先よ!すぐに手術室に運ぶわ…瑞鶴さんは!」

 

「意識戻りました!」

 

「大和さんの次にCTとって!」

 

 

 

 

 

「…加賀先生、どこに行くんですか…」

 

「…………」

 

「……なんで、なんで止まるんですか!こんな、こんな寒いところに母はいないですよ!」

 

「……凛ちゃん」

 

「…赤城、先生」

 

「…鳳翔さん、凛ちゃんが来ましたよ」

 

「…い、いや…赤城先生まで」

 

「…凛ちゃん…最後の挨拶をしてあげて」

 

「…お母さん………………お、あ……おか、…お…お母さん!!!」

 

「…だから、帰りなさいと言ったの、あなたはもう背負わなくていいのに」

 

「そんな!!なんで!!いやよ!!目を覚ましてよ!!まだ…お母さんに、何もしてあげれていないのに!!なんで!!」

 

「…二日前よ、撤退の途中…味方を庇って」

 

「…そ…んな…そんな最近まで…母は、生きて…いや!!お母さんは死んでなんかいない!私が救ってみせる!!」

 

「凛ちゃん!」

 

「っ!やめろ!!」

 

「なんで!離して!!」

 

「おまえ一人だけが鳳翔さんの悲しみを背負ってると思うな!!鳳翔さんは私達の母でもあるのよ!!」

 

「加賀さん…」

 

「…いや!!私まだ、お母さんに今まで、今までありがとうって何にも…何も言えてない……このままじゃ…」

 

「…鳳翔さん、すごく…喜んでたんですよ…凛ちゃんが高校に入って鎮守府を離れ、今大学に通っているのを…」

 

「…お、お母さん!!」

 

「…帰ったら、凛ちゃんの下宿に…お邪魔するんだって…嬉しそうに…」

 

「…凛、あなたは充分に彼女の気持ちに応えていたわ…それは鳳翔さん自身が一番わかっていることよ」

 

「お母さん!!お母さん!!」

 

「…しばらく、二人だけにして…あげましょう加賀さん」

 

「…………」

 

「お母さん!!!」

 

 

 

 

母はすでに室温と同じく冷え切っていた

救うには手遅れすぎることは誰より理解してた

そのあとの事はよく覚えていないけど、鎮守府中の怪我人の手当てを手伝っていたらしい

加賀先生に言われた通り、私には計画性がなく全てが手遅れ

いつ帰ってくるかわからない人を待ち、その人が死んでいるかもしれないという不安から逃げ、何もかもが手遅れになって泣く

弱すぎる自分が本当に惨めで情けなくて哀れだった

 

 

 

 

「…こ、金剛…お姉様…」

 

「なんとか!お姉様を救ってください!明石さん!お願い!」

 

「…ごめん…なさい、もう私には…」

 

「いや!いやです!榛名は金剛お姉様まで逝ってしまわれるのなら、私も!」

 

「…榛名さんどいて!…脈弱い呼吸…チェーンストーク…鼻の周り微かに煤を確認…どういう状況でした?」

 

「凛ちゃん!…どうって…昨日よ、撤退の時に砲撃を受けて…でも!ここまでお姉様平然と何事もなく私たちと並走してきたのよ!傷はひどいけど…でも…いつものお姉様が突然さっき倒れて!!」

 

「何分前ですか!」

 

「…何分?…わからないけど、ほんのちょっと前よ!」

 

「…大丈夫です!金剛さんは死にません!いいですか、これから金剛さんを治療します、お二人は氷をできるだけ集めてきてください」

 

「あ、ありがとう…ございます!うん!いってくるわね」

 

「そこのあなた!」

 

「はい!ま、またあなたですか!一体何なんです」

 

「お願い…金剛さんだけでも救いたいの、私がすべて責任を持つ…だから挿管キットだけでもいい持ってきてください…おねがい。彼女は外傷とは関係ない気管熱傷で換気障害を起こしてる、救える命なのよ!」

 

「…わ、わかりましたすぐにとってきます!そのほかには何が要りますか」

 

「…そ、そうね呼吸器がほしいわそれと静脈ルートとるわリンゲル液もあるとうれしい」

 

「わかりました!」

 

「凛ちゃん!氷とりあえずこれだけ持ってきたけど」

 

「金剛さんの頭を冷やし続けてください!」

 

「うん!わかった」

 

「…ふぅ…では気管を切開します、目を閉じてください」

 

 

 

「……………ん………」

 

「っ!………お姉様!!!」

 

「…………は………る、な………きり、しま」

 

「よかった!お姉様!お姉様!」

 

「…………金剛さん、よく戻ってきてくれましたね、4日間ずっと寝ていたんですよ」

 

「…………り………ん」

 

「そうです!金剛お姉様、凛ちゃんがお姉様を助けてくれたんですよ!」

 

「…………あ………り………が、とう………デース」

 

「無理にしゃべらないでください、まだ気管の腫れは引いていないんですよ」

 

「…………」

 

「じゃあ私はこれで失礼します」

 

「…凛ちゃん!本当に、本当に!ありがとうございました」

 

「…この御恩、忘れないわ」

 

「………忘れてください、もともと救える命だっただけです、では」

 

「凛ちゃん………」

 

 

 

「…待ちなさい」

 

「…加賀先生」

 

「鳳翔さんの遺品を整理していたの、あなたの通帳が出てきたわ」

 

「…ありがとうございます」

 

「…遺品の中にあなたとの思い出だと思うものがいろいろあったわ、帰る前に寄って行きなさい。今鳳翔さんにお世話になったみんなでかたずけているのよ」

 

「…もう、ここにはいたくありません」

 

「…いいから、来なさい………あなたが一番、鳳翔さんにお世話になっているのよ」

 

「…無理です、もう一秒もここにいたくありません」

 

「…………頭に来ました。もう限界です」

 

「っ!………か!加賀先生………痛いです!やめて、やめてください!」

 

「この気持ちは!!墓場まで持っていこうと思っていた!でも限界よ!私は!!お前がずっと憎かった!!鳳翔さんは私たちの母なのに!!………お前が来たら、私たちのことよりお前のこと!!そんな私たちの気持ちも知らずに!!お前に勉学を教えなければならず、一人で成長したかのような態度をとり!!母の愛を当然なもののように扱い!!最後は鎮守府を捨て!………今更戻ってくるお前が憎い!!そして今度はここに1秒もいたくない?手前勝手もいい加減にしろ!!!………もう好きにしろなんて言わない、来てもらうぞ………お前は母に一番愛されて今まで生きてきた、母がいない苦しみも私たちと同様、いや!!それ以上に受けてもらわねば納得できない!!!」

 

「…………加賀………先生」

 

「…………正直、お前を殺しても悔いはない…選べ私に引きずられて行くか、自分で行くか」

 

「…………一つ誤解してますよ、加賀先生!!!」

 

「…っ!貴様!!!」

 

「お母さんの愛が当然だと思ったことなんか一度もない!!むしろいつ見切りをつけられるか不安で怖くて仕方なかった!!一緒に戦場に行けるあなたたちが羨ましかった!!………私は待つことしかできなくて、いつもお母さんの手伝いしかできなくて、あなたたちのように助けることができなくて!!………そんな待ってるだけの自分が一番嫌いだったのは私自身よ!!加賀先生に言われなくても私のことが一番嫌いなのは私自身!!そんなことわかってるよ!!!」

 

「…………なら、来なさい………本当に馬鹿な子ね、鳳翔さんがあなたに見切りをつけるはずがないじゃない………」

 

「…………え」

 

 

 

「あ…加賀さん………凛ちゃんも」

 

「赤城さん………」

 

「…………ごめんなさいね!お二人の思い出のお部屋だとは思ったのですが………やっぱり整理くらいはしないと!」

 

「いえ………本当なら私がすることを………ごめんなさい」

 

「…………赤城さん、あの日記を」

 

「え………加賀さんでもあれは」

 

「いいんです、この子は見なければならない」

 

「…………凛ちゃん………実は鳳翔さん日記を残してたみたいなんです………それも凛ちゃんと暮らし始めてからの」

 

「…………か、加賀先生!!私………私、耐えられません!!………」

 

「いいから読みなさい!!」

 

「…………加賀さん」

 

 

 

そこには私を鎮守府につれていった日から遠征に旅立つ前の日までのお母さんの心情が書かれていた

 

 

〔あの子の悲しみを私なんかが癒せるのかわからないけど…とにかく放ってはおけないわ〕

 

〔今日は言えなかった………提督には許可をもらったのだからあとは凛ちゃんに伝えるだけなのに………やっぱり怖い〕

 

〔やっと言えた!!一緒に暮らさない?って!そしたら泣いて喜んでくれて………ああ!よかった!〕

 

〔今日、凛が大きな痣を作って帰ってきた………原因は私の気持ちがまだ凛に伝わってないからだ………そう私のせい………母親失格だ〕

 

〔凛がこの頃隠し事をするようになった………私は母として頼りないのだろうか〕

 

〔凛が私の料理を教えてほしいと最近一緒に厨房に立つことがあるの…ふふふ、今日の肉じゃがとってもおいしかったわね〕

 

〔凛が私の誕生日会を開いてくれた!!とっても暖かいきれいなマフラーをプレゼントしてくれたの!私の宝物だわ!!〕

 

〔今日凛を………凜を叩いてしまった!!なにをやっているのよ!!私は………あの子の今の幸せを考えずに、心配するあまり………私は………今まで受けたどんな痛みより手のひらが痛む〕

 

〔あの子に怪我がなくてよかった…でもこれから戦闘が激しくなったらどうしよう〕

 

〔親として、凛が嫌がることは許せないわ…蒼龍ごめんなさい〕

 

〔私は、凛の母親でいられているのかな…〕

 

〔凛は18歳までしか鎮守府にいられないって………本当は………嫌、でも凜の幸せはどっちなの?あなたの気持ちが知りたい〕

 

〔ああ、ついに来てしまった…嫌だ凛と一緒に生きていきたい。だからここから抜け出すことも考えた、だけどそんな姿を親が見せてしまったら凜は………私はどうなってもいい。凛が正しく生きられるように、そんなことしてはダメ………今日凜が肩をもんでくれた、ああ、こんなに凜は優しい子に育ってくれている………この子だけは何があっても守る、そのために私は戦場に行く。待っていてね凛、必ずお母さんは帰ってくるから〕

 

〔凜は将来何になるのかしら………勉強ができるからやっぱり偉い仕事をするのかしら………それが凜の幸せなら私はいいわ………でも………昔のように一緒にお店をやっていけたら………〕

 

〔凛………お母さんはあなたを愛しています〕

 

 

 

なんで、人は素直にお互いの気持ちをぶつけられないのだろう

そうすれば解決することもあるし、少なくとも一人で堂々巡りはしないで済む

私は、そうしなかったがゆえに一生悔やんでも悔やみきれない過去をつくってしまった。

あの時に戻れたら………全部言えるのかな………

 

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