「…加賀先生、赤城先生…この日記、いただいてもよろしいですか」
「ええ!鳳翔さんも凛ちゃんにもらってほしいはずです」
「…鳳翔さんの生きた証よ、大切にしなさい」
「はい…」
「ふう、荷物を片付けたらスッキリしちゃいましたね」
「ええ、みんな形見分けで持って行ってしまいましたから」
「ごめんなさい、凛ちゃんへの形見はその日記と…鳳翔さんがいつも、大切そうに巻いていたマフラーだけなんです」
「これはいつか、あなたが授業を居眠りしてまで編んだマフラーなのでしょ」
「……っ…お母さん…」
「血がなかなか落ちなくて…ごめんなさい」
「…私が預かります…先生方ありがとうございます、これ以上はありません、この母の日記とマフラーだけで…私は」
「…そう」
「…さてと!私達は訓練に戻りましょう、加賀さん」
「ええ、赤城さん」
「え、お二人ともですか」
「今回、深海棲艦を倒しきれませんでした」
「…それどころか、今までの戦線を押し戻された…まだ敵の脅威がそこにある、私達は戦わなければならないわ…母の為にも」
「そうですね、お母さんの護った世界を、私も…」
「………また、戦いが始まるんですね…」
「あなたもよ、凛」
「ええ、凛ちゃんも戦いなさい」
「…はい」
「すみません、お二人とも忙しいのに見送りしてもらって」
「いいんですよ!だって、また凛ちゃんに会えるのはいつになるかわからないのですから」
「…最後かもしれないわね」
「加賀先生、縫合したところ痛みはありませんか?」
「ええ、大丈夫よあなたの技量、自信を持ちなさい…それなりに学んではいるようね」
「…凛ちゃんはこれからどうするんですか?」
「……ここにきて、決めました」
「聞かせてもらうわ」
「救命医になります、そしてここに帰ってきます…今度は悲しむ為ではなく救うために」
「…強い目になったわね」
「じゃあやっぱりまた会えるんですね!待ってますからね、ずっと」
「では、加賀先生、赤城先生…お元気で」
「ええ、あなたも」
「また会いましょう!凛ちゃん」
それから5年後、帝大医学部を卒業と同時に医師免許を取得
ERの本場アメリカに2年間留学して救命救急を学び
海軍の軍医となって鎮守府に転属希望をだした
鎮守府の医療全権を任され、機材の予算やスタッフの雇用も出来る限り支援を受けて私はここに戻った。
「…失礼します」
「どうぞ」
「…お久しぶりです、提督さん」
「ん?………もしかして、凛ちゃんかい!」
「はい!」
「え!ということはここに配属される軍医さんって凛ちゃん!」
「はい、今日からまたお世話になります」
「いやー!しばらく見ないうちに立派になって!まあ君が主治医ならここのみんなも安心できるだろう!いや良かった!」
「私が診るのは艦娘だけじゃなく、ここで働く職員も!ですからね、ここへ来る前提督のカルテ拝見しました」
「え!な、なんでそんなものを…」
「これから提督の健康管理も私の仕事なので、従ってもらいますよ?」
「は、はい…」
「では、私は診療所にいますね!」
「水神先生」
「なんですか提督?」
「みんなを…よろしくお願いします」
「はい、私こそ予算の優遇をしてくださり感謝しています。選んだスタッフは今週中には来ますのでよろしくお願いします」
「今日、新しくお医者さんが来るって知ってた?」
「え!電全然知らなかったのです!」
「こんなとこに来る医者なんて変わってるね」
「鳳翔さんのお店の隣、建物出来たじゃない?ほら、ここが病院になるんだって!」
「ああ、一時期取り壊し反対運動起きた?」
「そうそう!」
「あ!誰かいるのです!」
「女の人ね!」
「………凛、あれ!凛だよ!!」
「え…」
「さて!ここが新しい職場ね!…お母さん、帰ってきましたあなたの隣に…」
「凛!!」
「っ!…え、響!」
「ほんとだ!!凛ちゃんなのです!!」
「電ちゃん!?」
「……あんた…なんの音沙汰もなく、居なくなって!」
「暁…」
「一体、どれだけ心配したと思ってるのよ!!」
「ご、ごめんね!いろいろあって手紙とか書けなくて」
「もう!!凛のバカバカバカ!!」
「あはははははは!」
「ってことは凛ちゃんが新しいお医者さんなのです?」
「ええ!これからどこか具合悪いところあったらすぐにきてね!」
「凛、また鎮守府で暮らすの?」
「ええ!またよろしくね!」
「…やったー!!のです!」
「ねー!ちょっと開店前の病院入れてよ!久しぶりに話したいし!」
「ええ!いいわよ!…えっと、鍵は…これか」
「わー!!新しい病院なのです!!」
「でも何もないわね」
「明日からいろんな機器が届くわ、みんなが大怪我しても助けられるように」
「じゃあ久しぶりに4人で女子会よ!!」
「あ、長門さんレントゲンは奥の部屋に」
「ああ!了解だ」
「ちょ!金剛さん達!!そんなガンガンて!CTのマルチスライサーはとんでもない値段するんですから!億ですよ!億!壊したら自腹切ってもらいますからね!!」
「そ、ソウリー…デース」
「愛宕さん、人工心肺は手術室にお願いします」
「はーい!」
「…みなさん今日は機材の運搬ありがとうございました、久しぶりにこのお店で料理作ったのでいっぱい食べて行ってくださいね!」
「んー!この味です!おかわりください!!」
「赤城先生…はい、今日はいっぱい食べて行ってください!」
「ヘイ!凛!こっち天ぷら3人前おかわりネー!」
「あとお酒もおねがいね!」
「ああ、凛ちゃん榛名も手伝います!」
「ありがとうございます!榛名さん」
「ねー凛ちゃん、留学してたんでしょ?あっちにはいい男いた?」
「さ、さあ…ずっと救命をしていたので…」
「足柄…おまえというやつは…凛がそんなこと考えて海外に行ったわけないだろ」
「でも那智!凛ちゃんだってもう立派に女よ!ね?」
「あ、あははは…」
「凛ちゃーん、こっちに煮物お願いするわー」
「はーい!」
「…ふう、みなさん結構飲んでいかれましたね!」
「このお店もずっと閉まったままだったから」
「加賀先生、どうぞ熱燗です」
「あなたも気がきくようになったのね」
「提督はビールですね」
「ああ、ありがとう」
「じゃあ、乾杯ですね」
「水神凛さん…」
「ぷっ…どうしたんですか?提督」
「凛、聞いてあげて」
「はい…」
「本当に申し訳ありませんでした!」
「そんな!提督!頭をあげてください!」
「いや!!絶対に鳳翔さんを生きて帰還させると約束したのに君のお母さんを死なせてしまった…君に二度も家族を亡くさせてしまった!本当に申し訳ありませんでした!!」
「提督…」
「この人随分苦しんだわ、あなたの母を殺してしまったと。私にも毎日謝って」
「頭をあげてください、あの時何も出来なかった私に皆さんを責める権利はありません」
「凛ちゃん…」
「これから私は皆さんと同じ土俵で同じ敵とやり方は違いますが、戦います。その指揮が出来るのはあなたしかいないんです、頭をあげてください」
「ありがとう…凛ちゃん」
「そんなことより!お二人はお子さんはまだなんですか?」
「っん!凛!揶揄うんじゃありません!」
「ふふっ!加賀先生真っ赤ですよ?」
「いいかげんにしなさい…」
「はっ!はい!すみません…」
「提督、あなたはもう帰ってください」
「えっ…でもまだビール…」
「帰ってください」
「はい!」
「提督さん!お気をつけて」
「…この煮付け、美味しいわ」
「…母が教えてくれたものです」
「…忘れてなかったのね」
「一人暮らしのときも出来るだけ自炊してましたから…ご一緒してもいいですか?」
「…好きになさい」
「…まだ、私のこと。憎いですか?」
「忘れたわ、そんな昔のこと」
「…ありがとうございます」
「…今のうちに言っておくわね」
「はい」
「ここに医師として来たからには、あなたを戦力として数えるわよ?傷ついて帰ってきたあの子たちを治してはまた送る…今までより辛い思いをするのはわかってるわね?」
「私はもう逃げませんから」
「…頼りにしてるわ」
「…はい、島風ちゃん大きく息を吸って、吐いて…うん、もういいですよー」
「…どう?凛ちゃん先生」
「風邪ひいちゃったみたいねー?そんな薄着で走り回ってるからじゃないの?」
「ぶー早く治してよー」
「風邪の特効薬はないのよ?引いたらゆっくり休むこと!提督には言っておくから2.3日体調が良くなるまで寝ていなさい」
「ぶー!お薬でパッと治らないの?」
「じゃあお注射でもして行く?すっごく痛いの」
「そ!それはヤダぁー!!」
「もう、ほんとに困った子ね!じゃあ鼻水抑える薬と解熱剤出しておくからあとは寝てなさい!」
「…はーい!」
「苦しくなったらまた来なさい…お大事にね」
「うん!またねー」
「次の方ー!」
「…凛ちゃん、最近眠れないのよ」
「扶桑さん…あの……ごめんなさい私、精神科は専攻してなくて…」
「…不幸だわ」
「わかりました!わかりました!話くらいなら聞きますから!でも睡眠薬は出せませんからね!」
「うん!それでいいわよ!」
「…むー大淀さん、少し過労ぎみですね」
「でも仕事をしないわけには」
「わかりました、ではビタミン注射だけでもして行ってください。あと出来るだけ睡眠はとってバランスのとれた食事をするように」
「ありがとうございます、水神先生」
「いいえ!看護師さーんビタミンC10mg静脈注射お願いします」
「お世話になりました」
「お大事にー…次の方どうぞ!」
「おー!凛ちゃん、ちゃんと医者やってるんだねー!」
「…隼鷹さん……」
「今日は凛ちゃんに健康診断してもらいにきたよー!ま、あたしは完全無欠の健康体だから心配ないんだけどねー!」
「…ふふ、ふふふ」
「何!凛ちゃんコワイ!!」
「本当に健康かどうか…じっくり検査しましょう!!」
「ひぃぃぃ!」
「………」
「ど、どうだった?凛ちゃん」
「肝硬変一歩手前ってところよ、おまけに高血圧、高コレステロール値。隼鷹さん人工透析受けたいの?」
「それって…ちょっと不健康?」
「飲酒禁止ってことよ!!」
「いやーー!!それだけは!それだけは勘弁してください!凛様!凛様!あたしからお酒をとらないで!!」
「ダメです!これからは月一で来院してください、経過観察と毎回検査をするので飲んだら一発で分かりますからね!」
「そ…ん、な」
「…はぁ、わかりました。禁止まではしなくても一週間おきに1日だけとか、休肝日を多目に作ってください、あと飲む日も多量に摂取しないこと!いいですね?」
「は!はい!ありがとうございます凛様!」
「…肝臓を悪くするととても辛いんですよ?今はまだ大丈夫ですが、これからのことを考えて一緒にコントロールしていきましょう」
「はい!先生!!」
「じゃ、お部屋にあるアルコール類全部没収で。看護師さーん、隼鷹さんの家宅捜査お願いしまーす」
「凛!!!」
「あの先生、こいつ作業中に腕をぶつけたみたいで」
「すぐに寝かせてください」
「あ、ありがとうございます先生」
「ぶつけたのは右腕ですか?」
「は、はい…イテて」
「何かあったときは我慢しないで、すぐにきてくださいね」
「じゃあ先生、そいつよろしくお願いします」
「はい!みなさんもご苦労様です」
「痛ってーな!」
「もう、訓練でどうしてこんな傷つくってくるんですかねー?天龍さん」
「それが!イテ!…怪我人にかける言葉かよ」
「なーにが怪我人よ、そんなに元気なら大丈夫でしょ!」
「おいおい…扱いがイテ!…駆逐艦と違うじゃねーか!イテ!」
「はい!もう終わりましたよ」
「お…早いな…」
「頑張るのはいいですけど、お大事にしてくださいね…とりあえず破傷風のお薬だしておきますから様子見てください」
「…凛」
「どうしました天龍さん」
「あ、ありがとよ…」
「…お大事に!」
鎮守府のいろんな人達が平時でも、自分の体を気にかけて診察を受けに来てくれるのは本当に嬉しかった
だけど、私の本当の仕事は救急救命
ここにいるみんなの命を救うこと
もう、あのコスモス畑に石碑は一つとしてたてさせやしない。