「太刀川隊と全力で試合をしろ」
「パワハラっすか?」
おっと、いけない。つい心の声が漏れちまった。
けれども仕方ないことだと思う。
なんせ相手はA級1位。紛れも無くこの組織、いやこの世界で最強の部隊なのだ。
そんな奴らの相手をランク戦や自分の意思で申し込む模擬戦でなく、上司からの命令でやらされる。
パワハラだろ、これ。
急に城戸さんから司令室に呼び出されて要件を聞いたらコレだ。
流石は我らがボス。強烈だねー。頼もしくすらあるけど、それは敵に向けてね?話通じるか分からんが、ネイバーとかマスメディアとかに。
「口答えできる立場にいるつもりかっ!!散々規律違反をしおって、本来ならばとっくに記憶を消して追放しているのだぞ!!」
「それをしないのはオレ等への温情じゃなくて、オタクらの欲目だろ。強力で異常なサイドエフェクトに進化したサイドエフェクト。何とか制御したいし、解明したいですよねぇ?もしかしたら、新しいS級のサイドエフェクトを獲得できるかもしれない。自分達の陣営に」
小さい体で苛烈な性分の鬼怒田さんに皮肉交じりで応える。
ダメだな。別に嫌いなわけではないんだが、こう厚かましく言われるとついつい生意気になっちまう。
若気の至りだ。つまり大人が度量を見せて許すべきだ。
「まあまあ、2人とも落ち着いて。その話は今しなくていいでしょう。この話は別に罰という訳ではないんだよ、宗馬くん」
マジで大人の度量を見せられちまったぜ。タイムリーに。
流石は唐沢さん。何だ?アメフトやったら心もナチュナルに読めるの?ヒル魔?高見?あの「〜と言うと思ったかい?」の下り好きです。
話が逸れた。
「罰じゃないって言うと、どういう事ですか?」
「厳密に言えば、追加の罰じゃないってことかな。今君達が課せられている減俸処分を、太刀川君達との模擬戦で減らせるってことだよ」
「あー、成る程。何だそれならそうと言って下さいよー」
「勝手に話を進めたのはお前だ。まあいい、減刑については丸一日太刀川達の相手をすれば、最初の処分通りの3ヶ月間へ短縮する」
ふんむ、どうやら本当に拒否権は無いみたいだな。
仕方ないか、正直9割カットを半年ってのはキツかったからな。
3ヶ月間なら他所の作戦室に強奪、もといおやつを恵んでもらえば耐えしのげるだろう。
さて、本腰を入れるとするか。
「分かりました。了解です。けど、一ついいですか?何で模擬戦で減刑、なんて異例な判断をなさったので?」
さっきまでの緩い感じを消し、真剣な声音で場の空気を重くする。
そう、これは結構キナ臭い。
城戸さん達は規律を重んじ守る立場にいる側だ。勿論、組織の為になるのならば公にならない範囲、もしくは露呈しても余りあるリターンを得られるならば平然と違法行為を行うだろう。
しかし、組織を運営していく中でトップが毅然とした態度を示さなければ組織の統率は乱れてしまう。一度決定した処罰を覆すなんてことはあり得ない。
オレ達の生活を慮っての救済措置なんかでは絶対無い。これは確かだ。
ならば何がある?減刑なんていう甘い誘いでオレ達に模擬戦をさせる理由。
最悪の可能性として、オレ達のデータを集めて処分する可能性。
けれども、これはどうだろうな?たった丸一日の模擬戦で用済みに成る程十分なデータを取れるか?
データ収集も目的の一つかもしれないが、本命は別か。
「ハハハ、そこまで警戒しなくて大丈夫だよ。これは君達だからこそ頼める案件なんだ」
言葉通り、場の空気が和むよう唐沢さんが明るく話しかけてくる。胡散臭ぇー。
駆け引きとかそういうのだと、この人が1番警戒しなきゃいけない人なんだよな。
「ふー、いいか。今から話す内容は最上級機密だ。もし他言した場合、今までのように済むとは思うな」
警戒を解かないオレを見かねたのか、城戸さんが話し出す。
他の人達の様子を確認してみると、鬼怒田さんは渋い顔をしているが特に慌てたり止めようとしたりはしていなくて、唐沢さんはいつも通りの笑みを浮かべていて何も読み取れない。
どうやら理由を説明することは織り込み済みだったようだ。
「分かりました。お願いします」
「うむ。内密にだが、近いうちにA級上位のチームをあちら側に派遣する遠征計画を行う」
「・・・・・・それはまた、思い切った決定ですね」
告げられた内容はかなりの機密内容だった。
成る程、確かに今のボーダーの戦力は充実している。トップチームがいくらかいなくなって前回と同規模の大規模侵攻があったとしても、耐え切れるだろう。
そして現状、ゲートを誘導出来ているとはいえオレ達は一方的に攻められている。向こう側に渡って調査を行うのは必須だ。
だから注意するのはそこじゃない。この話の肝はA級上位を派遣するって所だ。
話の流れから言って、太刀川隊は決定だろう。上位ということは他にも行くか。太刀川隊は真っ当な戦士系のメンツだ。工作兵の冬島隊、隠密行動の出来る風間隊は有力だな。
そうなると、事実上ボーダーのトップ3部隊が行くことになる。そんな大事過ぎるメンバーを危険に晒すか?
いいや、そんな事は絶対にしないだろう。戦力的な問題は低い。問題は異世界に渡るって所だ。どのように渡る?意図的にゲートを操れる?本部の設備がなくても、向こうの世界からコッチに帰還できる?
つまり、この豪華メンバーを派遣するってことはこれらの問題技術的な問題は既に解決済みということだ。
どうやら、この大人達をまだ見誤っていたみたいだ。いくらボーダーがトリオン、トリガー等の未知の技術を大侵攻前から有していたとはいえ、開発局長の鬼怒田さんはそれ以降からの参加だろ。ゲート誘導装置も作ってるし、いくらなんでも早過ぎじゃね?
サイズと立ち振る舞いが小物感を醸し出してるけど、この人ノーベル賞ものの人だよな。
オレは最大限の敬意を表して鬼怒田さんを褒めちぎった。
「それで、その遠征に参加する太刀川さん達の相手をオレ達がすることにどんな意味が?」
「いくら太刀川君達が強いといっても、敵は未知だ。だったら、異質な相手と戦い慣れて貰いたいと思ってね」
横から唐沢さんが答えた。異質ってアンタ。
「ははは、ごめんごめん。まあ、それでも君達がユニークなのには違いないし、加えて君達はランク戦にも参加してないし、模擬戦も滅多にしないときた。こういう機会でもないと全力で戦わないだろう?」
うわぁー。
明るく笑顔で言ってるけど、言外に「それでも戦闘ブース以外で私闘をやってるけどね笑」って責められてる気がするぜい。
唐沢さんは特に怒ってないだろうけど、鬼怒田さんと城戸さんの機嫌はあからさまに悪くなったな。
「了解です。太刀川さん達との試合、喜んでやらせて頂きます」
「・・・ああ、日程については後で連絡をする」
これ以上ボスの機嫌を損ねる前にとっとと撤退するとしよう。
ボーダー基地内 廊下
さて、トッシーの奴にも伝えとかなきゃな。まー、流石に命令って言われりゃーアイツも本気出すだろ。
自分達の作戦室に戻りながら、さっきの話を思い返して今後のことを考える。
遠征ねー。これが成功したら、次はもっと大々的に動くのかな?
世論やら親御さん達やらが大分うるさくなると思うけど、そこは根付さんが上手くやるか。
オレ達はどうなんのかねぇ〜?実験段階の今じゃあ連れて行かないと思うけど、正式に派遣されるとなったら選ばれちまうかもな。まぁ別に選ばれても選ばれなくてもどっちでもいいけど。
意外かもしれないが、自分達の性格や今までの日頃の行いに問題があることは理解している。してるけどやめないけどな。面白いから。
そして、そんな自分達をある程度自由に放し飼いにしてくれている城戸さん達にも少しは感謝している。
人見たら殺しの手順が浮かんでくるサイドエフェクトや、成長したサイドエフェクトなんて解剖してでも分析したいよなー。特に成長するってのが組織的に喉から手が出るほど欲しいはずだ。あのエリート様が持つ未来予知なんて代物がゴロゴロ得られたら、こんな心強いもんは無いよなぁ。
トリオン量が関係するのに加えて何なんだろうな?感情か?
ヤベーな、オラ超サイヤ人の素質あったんか?
オレが自分の中に眠るとびっきりの才能にワクワクを止められず廊下を歩く中、
さっきまでの話なんかがどうでも良くなっちまう出来事が起きた。
思えば、もしこの出来事がなければオレはこの世のものとは思えない地獄をこの先何度も味わうことはなく、いつも通りの穏やかな日常を過ごすことができたのかもしれない。