バカがバカやる物語   作:柳龍

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第5話 執念の果てに

無人の街に、オレの魂の咆哮が響き渡る。

反応の無いこの街並みが、まるでオレの心の中の虚しさを表しているかのようだった。

 

「・・・・・・お前だったら出来ちまいそうだな、、、」

 

公平がオレを褒め称える。

 

「そう!出来たやもしれない!しかし、その可能性をオレは自分で棄てたんだぁ!

 

おれは人間をやめるぞ!ジョジョーーーッ!!」

 

「辞めろ。もう辞めちまえ」

 

何故か疲れ切って投げやりに言ってくる。

友人がこんなに追い詰められ一大決心をしたというのに冷酷なヤツだ。

 

「公平よぉ。油断してるようだが、いいのか?オレは自分の崇高なる可能性を捨ててまで別の力を得て、お前に報復しようとしたんだぜ?」

 

そう、これはまさに制約と誓約!リスクと覚悟が大きい程、念は強くなる!!!

 

オレの言葉によってようやく脅威を察したのか、公平の顔に緊張の色が戻る。

そうだ。もっと動揺しろ。貴様の心が揺れ動く程、この術の成功確率は高くなる!

 

「あの日、オレの心が傷付けられたあの日から、オレは一歩も外に出なかった。来る日も来る日も地獄を味わい続けたんだ。全ては、公平、お前にも地獄を味あわせる為にナ」

 

「回りくどいな。それで?結局お前はどうなったんだよ?珍しくぶら下げてるその孤月を使うのか?」

 

「いいや、コレは必要ないぜ。単純にトリガーの入れ替えをし忘れてただけだ」

 

そう、トリガーは要らない。オレのサイドエフェクト、オレ自身の力でお前を倒すのだ。

オレは更なる動揺を誘う為に、今日までの過酷な修行を打ち明ける。

 

「あの日からっ!オレはソッチ系の動画や漫画、小説を今日に至るまでひたすら見続けた!!!来る日も来る日も、ひたすら延々と!分かるか!?この苦しみが!!」

 

もう止まらない。もう洗いざらいぶち撒けたい。

 

「寝ても覚めても男と男の絡み合い!瞼を閉じちまったら自然と光景が浮かび上がる絶望!侵食が進めば進むほど、小説を読んでいてキャラクターはおろか、表情や濡れ場の描写が鮮明になっていく苦しみ!無意識の内に自分の中にBLの中から更に好き嫌いのシチュエーションの分類分けが出来ていて、ふと我に返った時に気付いた時の自分が自分でなくなる喪失感!危機感!!」

 

公平の顔が青ざめていく。あア、そういう系もあったナァ、、、、、、

 

「ひたすらに自分が壊れていく中!足を止めることが出来ない!止めちまったら今までの地獄が全てゴミクズと化すから!自分が壊れて汚れていくのを止めるどころか加速させなくちゃいけなかったっ!そうやって、ボロボロのグチャグチャのベチャベチャにして、ようやくサイドエフェクトが進化すると信じたから!!そシてぇェッっ!!!」

 

 

 

「・・・・・・・ついに至ったァ。」

 

ゾクッ

 

公平に悪寒が走る。今のオレには見て取れる。公平の外はもちろん、ナカもナ。分かりたくなかったが、必要なことだった。

 

「公平よぉ。貫かれた、オトコが、どんな表情をするのか、想像出来るかぁァ???」

 

(さあ、行こう。結局その先に地獄しかないとしても。大丈夫、オレは1人じゃないから)

 

一抹の諦観と道連れのいる安堵を抱えながら、オレが新技を公平にお見舞いする。

 

『左です!宗馬さん!!』

 

オペレーターの瀬戸ちゃんから危険信号が飛んできた。

 

オレは反対側の右に飛んだ。

 

「お?」

 

すると、さっきまでオレがいた空間を太刀川さんが切り裂いた。

 

ホッとする間も無く、すかさず公平の弾群が襲い掛かって来た。

 

「グラスホッパー!」

 

しかし、その動きは視えていた。グラスホッパーで距離を取ると同時に、公平の弾を太刀川さん避けの壁にする。

 

されども、流石はA級1位部隊。

公平の無数の弾群には一筋の隙間があった。丁度、剣幅一本分程の横一線。

 

「旋空孤月」

 

「チィッ」

 

今度は避け切れなかった。クリーンヒットこそしなかったものの、太刀川さんから放たれた旋空孤月はオレの右足を深く切り裂く。

 

倒れ込むのを堪え、アステロイドを自分の周囲に展開し、加えて孤月に手を掛けて牽制をする。

 

「2対1、いや3対1か。まさか、瀬戸ちゃんに裏切られる日が来るとはね」

 

『私はまあまあ感じていましたよ。というか、今日までよく頑張ったと思いません?」

 

うん。思う。

 

いや、本当に瀬戸ちゃんには苦労ばっかり掛けて申し訳ないと思ってるよ。

 

『出水さんはこれから遠征に行くんですよ。流石に、後遺症の残りそうな精神攻撃は看過出来ません』

 

大変ごもっともだ。しかし、それでも男にはやらなくちゃいけない時があるのさ。

 

「にしても、今のはどうやって避けたんだ?完全にお前の死角からだったはずなんだが?」

 

油断した様子は無いが、太刀川さんが普段の軽い感じで聞いてきた。

 

「公平の目ですよ。一瞬ブレて、後ろから誰か来たんだと思いました」

 

「成る程、ホントによく見えてるな」

 

ちっ、ヤバイな。流石にこの2人を相手取るとなると、勝ち目がほとんど無い。

 

だが、オレにも相棒はいるのさ。早く来い、トッシー!

 

『多分、支援を期待してるかも知んねーけど、言っとくが助けねーからな?』

 

まさかの相棒にまで裏切られた。

 

『テメェッ!そりゃー、どう『お前、さっきのアレだろ。作戦室に集まった時にオレのことジッと見てたのそういうこったろ?』、、、、、、チッ』

 

相棒を見捨てるとは、このゴミが。仕方ねーだろ、ぶっ壊れるまで追い込んでたんだよ。多少の暴走は大目に見ろよ。まあ、オレがそっちの立場だったら同じように見捨ててただろうが。

 

「もういいか?」

 

「ええ。しょうがない、こうなったらアンタを倒した上で公平には地獄を味わってもらうとしますよ」

 

「つーか、お前。もう女子隊員にあーだこーだ言われたことよりも、自分が苦しんだから巻き添えを増やしてやる、としか考えてないだろ?」

 

「当たり前だろ。こんなに苦しんだんだぞ。なんでオレ1人で終わらなきゃいけねーんだ」

 

「こんの、クズエロ馬鹿が」

 

不名誉な単語が増えた。おのれ、この弾バカめ。

 

 

 

 

 

 

 

まあいい、ここからは真面目ファイトだ。

オレは自分の右足の具合を確認する。踏み込みは甘くなりそうだが、どうやら一発分くらいならいけそうだ。

 

(弟子の義務は師匠を超えること、か。奇しくも同じ右足、いいだろう。今日、オレは師匠を超える)

 

周りに展開したアステロイドを意識しつつ、宗馬は左半身の構えを取る。そして、左手でまだ納刀状態の孤月を鞘ごと少し前に出し、右手で逆持ちの形で握りの所を持つ。

 

『気を付けろ、公平。空気が変わった』

 

『そうっすね。アイツはバカだけど、集中力だけはバカに出来ないですからね。高い集中力あるから、強化視力を使いこなして、コッチの初動の動きを見逃さない。まあバカだから、普段その集中力の向け方がメチャクチャなんすけどね』

 

軽口を叩きながらも、公平も太刀川も見慣れぬ構えをする宗馬への警戒を緩めない。

 

そして、お互いに膠着状態が続き、弾ける。

 

「っ!」

 

最初に動こうとしたのは公平。

太刀川の背後から、太刀川を大きく避けて左右と上の3方向から宗馬へと弾を発射する。

 

しかし、最初に動いたのは宗馬。強化視力のサイドエフェクトにより公平の初動を感知、先んじて前方の太刀川に突っ込む。

 

「上等」

 

自身に突撃してきた宗馬に対して好戦的な笑みを浮かべながら、太刀川も前に出る。

 

宗馬と太刀川が交差する前に、公平が放った弾、ハウンドが弾道を更に曲げて3方向から宗馬へと襲い掛かる。

 

対する宗馬。目線と神経を目の前の太刀川から逸らさない。

しかし、

 

「アステロイド」

 

周りに展開していた弾をもって、見向きもせずに公平も弾を迎撃する。

 

(やはりハウンド。軌道は常に最短ルート、機械的な無駄のない動きは軌道の予測つき易い)

 

普段、真っ当なことには発揮されない類稀なる能力を見事に発揮して、切り抜ける。

 

「神成流最終奥義、、、」

 

1対1、公平の次なる援護は間に合わない。

 

「卍抜き!!!」

 

宗馬と太刀川が激突した!!

 

そして、競り勝ったのは、

 

「くっ」

 

宗馬だ。

 

宗馬の孤月は振り抜かれ、逆手に持った孤月は太刀川の片方の孤月の先端部分が折り、左胸から左肩にかけて切り裂いた。

しかし、間に孤月を挟んだ為か太刀川の傷自体は深く無い。

 

つまり、

 

「チィッ!」

 

手傷を負わせたといっても致命傷には至らず。そして、通常の宗馬の腕ではボーダーNo. 1近接攻撃手を相手に孤月で勝つことは100パーセント叶わない。このままでは順当に敗北する。

 

(お前だけは!)

 

刹那、宗馬は切り替える。

 

(同時展開、そしてあらかじめ落ちる覚悟をしていればトリガーは起動できる!)

 

高まり切った宗馬の集中力は、ボーダー内の誰も思い付きも実践したりもしない偉業を成し遂げる。

 

逆手に持ち振り上げている孤月の側面に、グラスホッパーを展開し、

 

そしてっ、躊躇すること無く己の首を切り落とす!

 

グラスホッパーによって宗馬の生首が勢いよく公平目掛けて飛び出す!

 

そして、宗馬の執念が燃え上がる!

 

口の中にメテオラを展開し叫ぶ。

 

「狒骨大砲!ブッ」

 

ボッ、ドォン!!

 

哀れ。

宗馬の狒骨大砲は、公平のギムレットによって貫かれ、誘爆し自身を木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

「荒船から散々愚痴られたんだよ、それは」

 

どこか呆れた様子を浮かべた公平の呟きは、当然宗馬の耳に届くことは無かった。

 

宗馬、ベイルアウト!

 




元ネタ

「神成流最終奥義 卍抜き」
・出典:週刊少年マガジンにて連載されていた「我間乱」168話から172話
宗馬は漫画を読んでハマり、この技だけひたすら練習した。
なので、師匠云々はその場のノリであり実際に我間乱の登場人物が存在するわけでは無い。
作者は単行本もアプリでも購入しちゃいました。

「狒骨大砲」
出典:週刊少年ジャンプにて連載されていた「BLEACH」に出てくる阿散井恋次の技。
注釈 阿散井恋次の首が飛ぶ技ではありません。

当初の予定では、宗馬の新技によって公平が擬似的に掘られる考えだったのですが、流石に友人にそれやるのはどうよ?とか、そこまでいったら主人公ボーダー内で完全に腫れ物扱いになっちまうな、と思ったので止めました。日和ました。

けれども、味方でなければ問題無いと思うので将来的には日の目をみることになるやもしれません(エタらず続けば)。

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