目の前に広がる雄大にして宏壮な紅く染まる館。そこから放たれる威風堂々たる__威圧感。先程までは霧に隠れて気付かなかったが、その館は稗田家を超える程の圧をまるで洪水の様に放出し続けている。
しかし、豪壮な館とは裏腹に、門に寄りかかる門番らしき人物は……爆睡していた。
『えぇ……、どうする? リオル』
『さぁ……? というか、この人、自分の‘‘守る’’っていう職務を放棄しているんだけれど……』
困惑する二匹、彼らは脳内で三択の方法を考える。彼女を無視してそのまま館に入る、もしくは起きるまで待つ。最後に、何らかの方法で彼女を起こす、というもの。
だが、即座に前者の考えを切り捨てる。そもそも__それは普通に犯罪である。人の家に勝手に這入るなど、言語道断、即御用だ。
そうして悩んでいると早苗が二匹に声をかける。
「大丈夫。彼女は普段からあんな感じですし、それにそろそろ__咲夜さんが来るでしょうから」
いや、駄目だろう。そう思った二匹であったが、咲夜という人物が彼女とどう関わりがあるのかを疑問に思い、首を傾げる。
早苗が何かを思い出した様な仕草を見せ、二匹を門から遠ざけるた__そして彼女自身も。
そうしていると____
サクッ
小気味好い音が響く。音源は__門番の少女の額であった。
「痛ったい頭が――――ー!?」
「喧しい」
突如現れたメイド服を着た少女は、門番の少女の悲鳴を切って捨てる。とは言っても、彼女の表情や瞳には、冷酷さというよりも呆れの色が強かったのだが。
……門番の少女は地面を転げ回って__その前に、普通あそこまで深くナイフが刺されば死んでいるだろうに。彼女も妖怪とか、そういう類の者なのだろう__二匹はそう推測する。
それにしても、未だに血が出続けているのに、地面を転げ回るその様が__コミカルに見えてしまうのは何故であろう。
早苗から言わせてみれば、あの二人のやり取りはお約束というか、日常的なものであって__ぶっちゃけ、芸人のコントの鉄板ネタみたいなものであった。
二匹もそういう事をどこか感じ取れたのだろう。
しばらくすると、落ち着いてきた門番少女がナイフを引き抜いた。何故か出血は既に止まっている。
「全く……、酷いですよ。咲夜さんは。寝てたとはいえ、ナイフぶっ刺すのはやめてください。……私じゃなきゃ死んでましたよ」
「黙ってください、美鈴。はぁ……、よりにもよって、客人の前よ、あなた」
そう言って、もう一度深くため息を吐く咲夜。だが、口元にはじんわりと笑みが浮かんでいる。なんだかんだでこのやり取りを楽しんでいるのだろう。
それはさておき、彼女はコホン、と一つ咳払いをすると、
「ようこそ、早苗さん。今回は何か御用ですか?」
そう言って朗らかに笑いながら一礼した。しかし、それなりに仲は親しいのか、敬語も緩めだったが。
「えぇ……、紫さんの依頼でですね、紅魔館に立ち寄る事になったんですよ」
「彼奴の……、すみません。早苗さん、少し此処から離れさせていただきます……、『ザ・ワールド』」
瞬間、彼女の姿は消失した。二匹は目をパチクリさせた__のだが、数十秒経つと、今度は突如現れた咲夜に更に驚きを深める。
「お待たせして申し訳ございません……けれど、許可は貰えましたよ?」
「いやぁ、良かったです。……此方の二匹もですよね?」
「えぇ……勿論。当然、許可を得ておりますわ」
そう会話すると、早苗がもう一度良かった……、と呟くと、失礼しますと言いながら、門を潜るのだった。
因みに__いや、本当に蛇足ではあるが、美鈴は終始空気な事もあり、少し寂しげであった。
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「ようこそ……、いや、本当に良く来てくれたな、早苗」
そう言って玉座に座った童女は……見た目にそぐわぬ覇気を纏っていた__いや、それもそうだが__彼女の特異性はそこよりも__背中に付いた、蝙蝠の様な翼だろう。他には、癖の強い青髪に、ナイトキャップ……後は、尖りに尖った八重歯__こうして見ると、彼女は個性的なんて言葉では表せない程に、個性だらけであった。個性的ではない、個性の塊__こうして聞くと、変な表現ではあるが。
「えぇ、此度は宜しくお願いします__レミリアさん」
「気にしなくてもいいさ__何しろ、奴の依頼となれば__迂闊には動けないしな。一時期ではあるが__このレミリア・スカーレット、お前達を歓迎するよ」
永遠に幼き紅い月__レミリア・スカーレットの館にリオル達は招待されるのだった。