『んぅぅ……?』
おかしい、ドゴームの声が聞こえない。そう寝惚けながら考えたイーブイはもう一度眠りに就こうとする__彼が起こしに来ないという事は、まだ時間に余裕がある。つまり、二度寝してもいいと思ったから__しかし、それは違うと思い至り__思い出し、起き上がる。
『そうだ、もう此処はギルドじゃあ無かった……』
此処は紅魔館。吸血鬼の住まう赤く、朱く、紅い館だ。住民だって、天真爛漫で不思議なプクリンも、口がうるさいけど何だかんだで優しいペラップも、語尾が特徴的なビッパも、自身の仕事に誇りを持つダグトリオも、明るく元気なキマワリも、皆に優しいチリーンもいない。
此処にいるのは数多の妖精メイドや、吸血鬼姉妹、常に寝間着の魔法使い、よく寝る門番、時を止めるメイド長など欠片も似通わない__個性的という点では、似ているのだが。
『リオルはまだ……、寝てるのか』
そう言ってイーブイは昨日を振り返る。リオルは美鈴に修行を付けてもらっていた__凄い凄い、と興奮冷めやまぬと言った様子で、イーブイに話していたのだ。まだ可愛い所もあるんだなぁ、と考えながら聞いていた記憶がある。
そしてリオルは遠足前日の子供の様に中々眠れなかった為、未だ深い眠りに就いている。可愛い
『それにしても……』
何だこの感覚は、とイーブイは思案する。
朝起きた時から感じていた。力が張る様な、漲る様な__不思議な感覚。何か、タガが外れたというか、
そしてイーブイはふいに__徐に右手を掲げてみた。それは特に意識した行動ではなく、半ば__三割程は無意識に行ったものである。
何が言いたいかと言うと、動物の本能的なものが働いたというか、兎に角、イーブイは自身の変化にいち早く気付き、それを確認しようとした。
それだけだ。
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァあ!?!?!?!?』
イーブイの右足、その下半分__イーブイが見た視点だと上ではあるが__その部分が、水色の鱗の様に変質し__ピチョンピチョン、と水滴を垂らしていた。
……余談ではあるが、今の大音量の悲鳴で、リオルはドゴームの再来!? と、驚愕して飛び起きたそうだ。
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「おぉ〜、実験は成功だね♪」
はにかみながらそう口にするフランは見た目通りというか、無邪気さを感じさせるのだが……、やった事は悪魔の所業__悪魔なのだが。
その所業、イーブイの強化と言えば聞こえは良いが、やった事はイーブイを実験体にしただけだ。
勿論常識的な姉の方が何とか抑制しようとした為、細心の注意が払われた。というか、そうでないとイーブイに後遺症が残ったり__最悪、死んでいる。
当然そんな事を正直に話せば、前回の二の舞なので言わない__知らせようとも思わない。
知らぬが仏、という訳だ。
いや、ぶっちゃけてしまうと、レミリアが全力で能力を行使しないと多分__死にはしないと思うが、後遺症は一〇〇%残っていた。フランは馬鹿なのだ。
そしてレミリアはというと、その件で能力を使用し過ぎた結果、キャパオーバーして、執務室で突っ伏している__妹に対して呪詛を放ちながら。これには咲夜も若干引き気味だ__仕方ないかもしれないが。
「フランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめフランめ……」
閑話休題
『おぉ! すごいすご――ーい!』
何も知らないイーブイは素直に喜んでいた。星の泉__あの場所で、進化出来ないと言われて意気消沈した__そんな事があった為、本当に嬉しかった__喜色満面の笑みで、飛び跳ね回って全身で歓喜の念を表している。幼児化してるとか言わない
……余談ではあるが、(二回目)グロッキーで負の念を撒き散らすレミリアに、咲夜がこの状態のイーブイを送り届けたところ、一瞬で鎮静化したという。
イーブイは ブーメラン をなげた!