東方闇時空   作:よひつじ

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クリスマス? 聞いた事が無いですねぇ……。


修行その二

 リオルが美鈴に修行をつけ始めてから一週間が経過した。リオルは才能があったようで、この短い期間の間に驚異的な速度でぐんぐんと腕を上げていき__本人のやる気も関係しているだろうが__ついでに言えば、彼が格闘タイプだった事もその理由の一つに挙げられるだろう__よって、美鈴が驚愕する程には強くなっていた。

 

 そこで、美鈴がリオルの波導操作の技量を確かめようと言い出し__此処でその肉体を使った演武を披露する事になった__観客は一人であるが。

 

『やっ』

 

 手始めに右のジャブを放つ。スピードを軸に置いたその拳は残像が見える程である__どうしても威力不足が否めないが。

 

『ふっ』

 

 そして左のフックを放ち、その影響により少し後ろに引いた右拳を、続け様に下段から上段へ放つ__所謂、アッパーカットだ。そして、それには波動が込められていて__しかし、不完全な為威力は全力で放つ時より低いが__それでも十分だ。

 今回の二連撃、左フックはあくまでもアッパーカットを放つ為の前準備__フックを避けた相手に、息吐く暇なくアッパーを撃つ為の布石である。

 只一つ問題として、リオルの体格が挙げられる。ポケモンなら同じ様な身長、大きさの者が普通にいたのだが、此方の世界ではそうもいかない。特に美鈴は結構背が高い__女性としてはであるが__それ故に、本来顎を撃ち抜く筈のアッパーカットも、必然的にボディーブローに変化してしまう。

 ……それでも相手に手傷を与えられる事に変わりは無いが。それに、この問題を含めても、結果的にリオルにとってはメリットの方が多かった。

 よく考えてみて欲しい。彼がいた世界__正確に言えば、そこで戦ってきたポケモン達だが__虫だったり、魚だったり、甲殻類だったり、多種多様にも程がある。

 リオルからすれば、戦う相手が人型に統一される__以前の様に狼等もあるのだが、人間と人型の妖怪がメインになってくるので今回は除外しておく__それは有り難い事であった。理由が何であれ。

 

『せいっ!』

 

 トドメとばかりに、左回し蹴りを放つ。鞭の如くしなりを持って放たれたそれ__風を切り裂きながら進んでいく。それだけでも凄まじい事なのだが、なんと更にリオルは波導を使い、その上__打点に合わせて__あくまでも、目の前は空虚だが、空想の敵を撃ち抜く様に__くるぶしの部分を重点的に、それでいて腰から足先までもしっかりと波導を流し込み__振り抜く。

 

『でやぁ!』

 

 そのまま体を勢いに乗せ__一度回転__振り向きざまに拳を叩き付ける……、脇腹を撃ち抜く様に。当然波導を腕全体に流している。

 

『ふぅ……』

 

 計五連撃を終え、構えを解く。脱力し自然体で呼吸を整え、美鈴が座っている場所に視線を向けた。

 

「はぁ!」

 

 しかし、その目に映るのは……、彼女の履いた黒い靴であった。

 

『何っ!?』

 

 驚愕しながらもリオルはしっかりとその攻撃の軌跡を目で追い__右手で左方向へ弾きながら、右側に跳躍する。

 そして少し砂埃を上げながら華麗に着地して__再度、構えを取る。

 だが美鈴は蹴り終えた後__特に何もせず、既に自然体だ。

 

「成る程、まぁ、及第点でしょう……。しかし、リオル君。油断は禁物ですよ? ちょっと掠っていますし……、私なら、追撃も出来ました」

 

 そう言ってリオルの左頬に視線をやる。そこには一筋の赤い線があり__そこから雫が滴り落ちていた。

 

『うぐぅ……』

 

 ぐぅの音も出ないといった様子のリオル。その表情は悔しそうに歪んでいた。

 

「けれども」

 

 一度区切って、

 

「凄かったですよ! いや、本当。一週間でこれだけ伸びるとは思ってもいませんでした。いやぁ鍛え甲斐がありますね!」

 

 そう元気溌剌な満面の笑みを浮かべ__ただし、好戦的なものだが、それでも褒められて嬉しかったリオルは自分の怪我の事も忘れて喜んでいる。

 

「よって、一つ目の課題はクリア! おめでとうございます! 続いて……、二つ目ですが、これはもう既にクリア済みです。実を言うとですね、二つ目の課題……、波導の出力。これは使ってるうちに勝手に増えていくものなので、元から総量が多かったのもあるんでしょうが……、この一週間の間に、既にクリア出来ました。おめでとう!」

 

 パチパチ、と拍手をしてささやかながらも祝う美鈴と、更に感情を爆発させて全身で喜びを表現するリオル。背景が不気味な紅い館なのが少々残念だが、少なくともこの庭の間の雰囲気が良くなったのは間違いないだろう。

 

『やった!』

 

 ________________________________________________________

 

 

 そして数分後。沸点に達した湯の如く上がった気分も落ち着いていき、冷めていった__完全に、冷水とまではいかないが。

 

「落ち着いてきた所で、三つ目の課題を発表します。三つ目は……、ズバリ! 波導の放出です!」

 

 そう言って、右手を上に掲げてそこに集めた気を弾丸の様に放つ美鈴。

 

「貴方もきあいだまっていうのを撃ってましたし案外すぐに習得出来るはず……、って、どうしました?」

 

 目に見えて落ち込むリオル。彼女達は知る由もないが、外の世界では一般的にorzと呼ばれるものだ。

 

「えっ、いや、本当にどうしたの? ねぇ?」

 

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「難儀ですねぇ……」

 

 先程敬語が崩れたのは無かった事にして、思案する美鈴。落ち込んだリオルが何とか身振り手振りで伝えた内容は、種族特性上波導を使う事は出来ても放出は出来ない、との事。

 

「どうしようもない、かぁ……」

 

 結局、そういう結論になった。そして、解決策は『進化』しかないんだな、と悩む。

 実の所、美鈴は早苗に進化とはなんたるか(ポケモンの方、ダーヴィンの進化論ではない)を聞いていて、リオルが進化したらどうなるかも少し容姿等を教えてもらっていた。

 その内容は、全体的に体格が大きくなり、可愛い系からかっこいい系に、後は、手の甲辺りの部分の丸い所が針の様になる、と。

 だがしかし、それは不可能だ。現状、進化方法はフランが縛りを破壊する、というもののみ。だがフランは、少々危なっかしいものの趣味は少女然としていて、態々進化させようとは思わないだろう。

 結果、再度言うがどうしようもない。

 

 先程とは対照的に落ち込む一人と一匹。紅い館も相まって、少し不気味に見えた。

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