ウヴル大図書館にて、アンティークな雰囲気の机に、小悪魔、リオル、イーブイが揃っていた。
「取り敢えず、早見表を作ってみました。右上から『あ』、下に沿って『い』『う』『え』『お』……って、もう大丈夫何ですか?」
そう、文字の学習をしているのだ。紅魔館の住民達からすると英語を教えたい所だったのだが、幻想郷では使い所が限られてくるので却下。パチュリーの命令で、小悪魔が教師役を務めている。伊達眼鏡を装着して、彼女自身も結構ノリノリだった。
そしてまずは基本の平仮名を教えている。
だが、それ程時間はかからないだろう。早見表の構造を理解すれば、後は順当に足型文字を当て嵌めればいい。認識の刷り合わせに苦労するだろうが、所詮それまでだ。片仮名も同様。
暗記だけなら一週間程で済む筈だ。
「足型って……。分かりづらく無いのかな?」
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一週間後。
多少ムラがあるものの、ほぼ問題無く習得する事が出来た。
その結果を表した一枚の紙が机の上に鎮座していた。
内容は以下の通り、
『ぼくはりおるです。いまはこうまかんにいます』
『わたしはいーぶいです。たんけんたいをやってます』
未だ拙さが残るものの、完全に習得出来ている。文字のつくりが五十音からできているという共通点が有った事が幸いだったのかもしれない。
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更に一週間後。
『ぼくはリオルです。メイリンのおかげではどうをうてるようになりました』
『ワタシはイーブイです。さいきんフランがうっとうしいです』
段々現状報告になって来たが(イーブイに至っては愚痴である)上達しているのは間違いないだろう。
しかし、問題は漢字である。軽く千を越す程の膨大な量と、無限に存在するのではないかと錯覚する程の組み合わせの数々。
日本人ですら完璧にマスター出来る人間はいない。
実を言うと、フランさえもこれに関しては小学校低学年レベルである。その事でレミリアが寺子屋に通わせるかを悩んでいるとかいないとか。
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「と言った具合です」
「へぇ……。今更だけど、本当に人並みの知能を持っているのね。この調子で、英語にも手を出してみない?」
研究者然とした笑みを浮かべるパチュリー、実際は魔法使いであるが。
見方によってはあくどい笑みにも見えてくるそれは、小悪魔がいる事も相まって──何処かのカルト教団にも見えてくる。
悪く言えば、話す内容が動物実験なのも原因の一つに挙げられるだろう。
これで圧倒的カリスマ性を持つレミリアが加われば、それはもうアニメや映画の悪の組織にしか見えない。
「私は賛成ですよそれ。是非やらせてください!」
「あら、そう。でも御免なさいね、さっきのは冗談よ」
「えぇ……」
あからさまに落ち込む小悪魔と、それを見て優雅に微笑を浮かべるパチュリー。実を言うと小悪魔は殆ど教える事が無かったという事実を、あまり快く思っていない。
ノリノリで伊達眼鏡を(結構お洒落)スチャッと装着し、仕事モードの咲夜の如く瀟洒な雰囲気を頑張って醸し出していた事から、パチュリーにそれはお見通しであった。
そこで考えた作戦。完全に言語として別体系の英語を教える事を提案し、小悪魔のテンションが勢い付いた所で撤回する。
特に意味は無いが、パチュリーの嗜虐心が少し潤った。
もうどちらが悪魔か分からない。
ずれた眼鏡をかけ直した小悪魔は一度深呼吸をする。気分を落ち着かせようと図っているのだろう。それを見たパチュリーが少し口元を緩めるが、諦観の念を持ちながら限りなく無視をする。
そうしてしばらく時間が経ち、二人の思考から嗜虐心とストレスが発散される。そのまま四方山話に花を咲かせるのだが、突如何かを閃いた様に──天啓を得た様にパチュリーは、はっと声を上げる。
「どうしたんですか? パチュリー様?」
「いや、少し良い事を思い付いたのよ」
「へぇ、何ですか?」
「フランと二匹を共同学習させるの。今度レミィに話しておこうかしら」
へぇ、共同学習……。と、他人事の様に考える小悪魔であったが、教師役は自分であり、おそらく内容は漢字、そして今度は教え甲斐がある──という所まで思い至ると、眼鏡の中心をクイッと持ち上げ、立ち上がり、無駄に香ばしいポーズをキメながら。
「お任せください! この不肖小悪魔! その任務見事果たしてみせましょう!」
そう叫んだ。