二匹内で起こった昨日の作戦会議から翌日。きっかり二四時間……より、少し前。皆が就寝する準備を始める頃、二匹は行動を開始した。
リオルとイーブイの目の前には、アンティークな、それ以外は特にこれといった特徴が無い、少し洒落た凡庸な扉が映っていた。そこには『Patchouli Knowledge』と書かれた板が下げられている。お察しの通り、動かない大図書館ことパチュリー・ノーレッジの寝室前である。
先程偶然にも此処へと向かう彼女の姿を二匹が発見したので、リオルとイーブイの最初のターゲットに定められたわけだ。
……悪い事をする様な言い方だが、断じてそういう事では無い。
コンコンコン、と軽くリオルがノックをする。それに気付いたパチュリーであろう人物は、軽く「はーい」と返事をした。そしてパタンと本を閉じる音と、起き上がった際のベッドが軋む音が聞こえ、その後すぐにその扉は開かれた。
「はいはい……あら? リオルにイーブイじゃない……って、如何したの?」
パチュリーは疑惑を浮かべる、それも当然だろう。今迄描写こそしなかったものの、二匹には探検隊として──トレードマークの様なものである、スカーフを巻いていた。カラーリングは、リオルが赤でイーブイがピンクだ。
しかし今回はそれだけでは無い。その上から二重に、『おてつだい』と書かれた布が巻かれてあった。可愛い
先程取り消し線にて検閲された感情は如何やらパチュリーにも感染してしまったようで、その鉄仮面が少し緩んだ。一人の女性としてでは無く、一人の魔法使いとしての価値観を確立している彼女としては、中々にレアな光景だろう。
「お手伝いって何を手伝うのかしら……けほっ」
更にもう一つ疑問を呈したところで、パチュリーは一度咳をした。
「けほっけほっ、けほっ」
それは連鎖する様に──加速度的に続いていき、彼女の顔はみるみるうちに青ざめていく。……喘息だ。
彼女は魔法使いとして相当な実力を持つが、その分病弱のきらいがあった。
それも仕方ない事かもしれない……魔法使いを志してしまったからには、避けて通れぬ茨の道だ。魔法使いは触媒として水銀等の有害な物質を用いる事がある。それ故に、魔法使いは病弱な者が大多数を占めるのだ。魔理沙だって今は元気溌剌としたまだ幼い少女だが、いつかそうなる時が来てしまうだろう……当然彼女は覚悟の上だろうが。
症状は悪化の傾向にある。それは素人目から見ても……いや、例え三歳の幼児でも理解出来る事だった。それを見兼ねた二匹は、パチュリーをベッドに運ぶ。そして寝転がせると、リオルは彼女のお腹の上に跨り、イーブイは彼女の頭のすぐ横におすわりの様な形で座り込む。
すると、リオルの全身から青いもやの様なものが立ち上る……波導だ。イーブイも、ニンフィアへと進化した。
まずはリオル。ゆらりと立ち上る波導を、風向きが変わった時の煙の様に腕まで移動させる。その鮮やかな青色は、形状も相まって蒼炎に錯覚してしまう。
そしてその蒼き炎を纏った腕、それはパチュリーの心臓部に当てた。その波導……いや、生命力をパチュリーに流し込んで行く。そして彼女の生命力……彼女の波導と、自身の波導を
リオルが波導を用いた時……今迄は戦う為に使われていた。が、考えてみて欲しい。波導は生命力なのだ。そしてリオルは人や自然に流れる波導を視る事が出来、その上操る事が可能である。
この二つの技能が揃った今、こんな芸当も楽々行えるというわけだ。
リオルは繋げた波導を操作する、そして発見した。彼女の波導の乱れた部分を。それは波の様に荒れ狂っているが、そこをよく注視すると修正した様な跡が伺えた。
二匹の予想通り、美鈴の治療痕だ。
そこを、少しずつ、少しずつ、落ち着けていく。静かに流れる海流をイメージしながら、少しずつ、少しずつ……。
それがもう十分に沈静化したとリオルは判断し、接続を切り離した。
そして、ニンフィア。ニンフィアの触覚が稼働を始める。相手の心を落ち着かせる特殊な波長を放出した。波導とは違って不可視だが、効果は顕著に表れた。
パチュリーの咳が止み、その顔色も健康的なそれに変わる。そして暫くすると……すやすやと寝息をたて始めた。
「すぅ……すぅ……」
それをしかと確認した二匹は、一仕事終えたと言わんばかりに額を拭った。
『完璧だね、リオル』
『うん。とは言っても、一時的なものだけど……』
二匹が計画した作戦は終了した。紅魔館全体では無く、パチュリーにしか行っていないので、贔屓ではないか、前話のくだりは如何なったのだと思うかもしれない。よって、補足として説明をしよう。
説明しよう! (二回目)
何故パチュリー一人助ける事が紅魔館全体に繋がるかというと、先ずパチュリーの親友であるレミリア、そして主従関係にある小悪魔から感謝されるのは当然である。そして、今迄治療を施してきた美鈴の負担も減る。更に、パチュリーはこの館の正式な住民であるから、咲夜や妖精メイド達にも感謝の念は湧く筈だ。後、フランにも。
一石二鳥という諺を赤子の手を捻るかの如く凌駕する、圧倒的なまでの利率を誇る作戦だった。以外とこの二匹、腹黒いのかもしれない。……いや、頭が回るというだけで聖人レベルの善人……善ポケ(?)だが。
……というわけで、この作戦は見事成功。そしてまたまた翌日になんとかこの件、そしてこれからの事をジェスチャーで伝えて、終幕という事だ。
『じゃあ、そろそら出ようか。いつまでも此処にいるっていうのもね』
『そうだね、もう用は済んだんだから』
『『おやすみ』』
パタン、と優しく扉を閉める音が響いた。
スペルミスが無いか少し不安です。