深い濃霧が立ち込める湖畔、そこにリオルはいた。紅い双眸を閉ざし、自然体の状態で。目を閉じているものの、その雰囲気には真剣さがうかがえた。どこか気迫溢れる様な、それでいて静かなものだ。
そうして微動だにせず、ただそこに立ち続けているとその周りにわらわらと人影が現れる。
彼女達は、妖精だ。この幻想郷において、最もありふれた種族、適当に石を投げたらほぼ確実に妖精に当たるなんて揶揄される程、そこらに存在する種族。
後種族上の特性として、悪戯好きだ。と言うより、精神的に子供なのだろう。……容姿もだが。年齢は大きく人間を超える個体か大多数を占める妖精だが、精神的に成長する事はない。永遠に生き、この地ではある種不変の存在だ。
そう聞くと、何やら高名なものに思えるが、それは違う。里の人間達から煙たがられているのが何よりの証拠だろう。
その妖精達が顔を合わせ、示し合わす様に頷いた。そしていたずらっぽい笑みを浮かべると、リオルに向かって----弾幕を射出する。
それは水であったり、氷であったり、炎であったり、風であったりと様々だ。ただ一つ分かる事が有るとすれば、命中したら大惨事、という事のみ。
まぁ勿論、そうむざむざと無抵抗を貫く程にリオルは間抜けでは無い。
『ふっ……』
一つ、息を吐く。そうしている間にも、矢の如く弾幕は迫ってくる。先ずは風の刃がリオルを切り裂かんと急接近した。
が、
『っと、』
少し首を傾げ、当たるスレスレで回避。だが、まだ猛攻は止まない。水と炎がリオルの両斜め前から接近する。
『……』
少し左手に波導を溜め、水に向けて放った。----それは弾幕を相殺する為では無い。目的は、弾幕の軌道修正。
バシャァ、と水の塊が弾ける。それは炎と衝突し、そのまま消火した。しかし、まだ氷----巨大な質量の物体が、リオルの頭を貫かんとばかりに空を駆け抜ける。
『よっ……』
リオルは両足をしっかりと固定したまま、上体を大きく反らす。
……俗に言うマト○ックス避けだ。リオルは大真面目でやっているが。外来人がこれを知れば、「ポケモンがマト○ックス避け!?」と驚愕を露わにすることだろう。
そうして全てを避けきる事にリオルは成功した。……しかし弾幕の本分は数の多さ、一桁に満たないこの程度の数でこの猛攻が止むわけが無かった。
だがリオルには当たらない。体の末端も、そして急所にも、全てを最小限の動きで回避していく。流れる様に、一片の淀みも無い動きは、一種の舞と錯覚してしまう。
そうして動き続ける事二十分が経過。遂に弾幕の一斉掃射は----終わりを告げた。悪戯で何故ここまでムキになっているんだと思ったのか……いや、それは無い。ただの疲労であった。それを証明する様に、肩で息をしている。
……そこでリオルは漸くその瞳を開いた。あれだけ動き続けたというのに、呼吸は一切乱れていない。三日間程なら走り続けられるリオルからすると、大した運動では無いのかもしれない。
そこで一度溜息を吐くと、自身に敵対行動を起こした妖精達を見据え----波導を放った。
一旦区切ります