「負けたぜ……」
咲夜と魔理沙の弾幕ごっこは、圧勝とはいかないものの無事に咲夜の勝利で終わった。
あの時、直進した雨に濡れて鈍く光る銀のナイフは、見事魔理沙にヒット。
勝負は、決したのだった。
「全く、私はあなたに用なんてないのに……」
呆れ顔でぽつりと呟く咲夜。いや、正確に言えば自身の体から漏れ出る赤い靄の正体、それを調べるという事もあったが、それは勝負前の掛け合いで終わっていた。
咲夜からすれば、実に不毛な争いである。
「じゃあ戦うなよ」
「貴女から仕掛けてきたんでしょうに……」
魔理沙が愚痴を零すが、咲夜の正論という名の刃に両断されて秒で口を紡ぐ。リオルがやって来た時には既に勝負が始まる直前だったので知る由もないが、魔理沙の横柄な態度が先程の弾幕ごっこの原因だったりする。
だからまぁ、非は魔理沙にあるわけで、この二人の口論に魔理沙が勝てる道理は無かった。
それに、咲夜はさっさと出発したいわけで、あっさりと口論を終わらせた。
(この赤い靄……霧? そう考えると例のお嬢様の異変に通じるものがあるわね。まぁ、どちらにせよ、異変の犯人は懲らしめるに限るわ)
「美鈴」
咲夜はくるりと翻って、美鈴に呼びかける。
「分かってますよ、咲夜さん。勿論私もきょうりょ「貴女は留守番ね」く……えぇっ!?」
以心伝心は残念なことに不可能だった。またもバッサリである。心なしか、咲夜の所持する銀製のナイフとは別に言葉の切れ味も増してきている気がする。
「それと、リオル、イーブイ。……貴方達にはついてきてもらうわよ」
『『え?』』
疑問の声----鳴き声を上げる二匹。
「なんでさ、さくや?」
波導を操作して咲夜達にも言葉が分かるようにし、心底不思議そうにリオルは問う。
「……やっぱり、汎用性というか、あらゆる状況に対応するためにも、二匹には是非来てもらいたいのよね。波導だって総合的に見れば美鈴の気と同じなんだし。イーブイの進化なんてパチュリー様の魔法ぐらい……そこまではいかないけど、使い勝手が良いなんてものじゃない。」
説明を終える咲夜。少し遠い目をしていて、今迄の異変の事を思い出したいはのは容易に推察できた。
「ちょっと待ってください。そういう点でいえば、私を連れていってもいいのでは……」
「能力」
「あっ」
咲夜の一言で美鈴は思わず声を上げる。
そう言えばそうだった、と。リオルとイーブイ、二匹は揃う事により、真価を発揮出来るのだ。『パートナーと共に有ると、戦闘能力が向上する程度の能力』は、と言うより、程度の能力は有効利用するに限る。
十全に能力を発動出来たなら、単純にパチュリーと美鈴を連れて行くよりも良いだろう。
「けど、飛ぶ事は? リオル君のあれは消費が激しいし、イーブイちゃんはそもそも飛べませんよね?」
「あの程度の大きさなら、抱えればいいし、別に策もあるわ」
「はぁ……」
「それに、留守番係は必要でしょう?」
「いや、まぁそうですが……」
どこか腑に落ちないといった様子の美鈴。役に立てない事や、二匹に対する劣等感染みたものが心中に渦巻いているようだ。
しかし、
「あのね美鈴」
「私は貴女が役に立たないと思っているわけじゃない」
「むしろ逆よ」
「貴女が頼りになるからこそ、美鈴に任せるの」
「何が起こるか未だ不明な異変、そんな中屋敷を任せるのは、貴女への信頼の裏返しよ」
「不安だからこそ、お嬢様は何が何でも守らないと」
「ね?」
「お願い美鈴」
「この屋敷の門番として、お嬢様を守って?」
「は……はいっ!」
(堕ちた……)
堕ちた。あっさりとメイドの皮を被った小悪魔の毒牙にかかった。咲夜は顔を背け、ニヒルな笑みを零す。美鈴こそ気付いていないが、二匹も呆れた様な視線を向けていた。
「それじゃあ、リオル、イーブイ、行きましょ?」
今度こそ出発。元気よく手を振る少女を背に、メイドと二匹の獣は異変を解決しに向かった。
「頑張って下さいねーー!」
「単純……」
……向かった。