タッ、と。勝負の開始と同時に咲夜はバックステップで幽々子から距離を引き離した。何せ、相手は白玉楼の主。幻想郷全体で観ても、指折りの実力者だ。
--油断は出来ない。してはいけない。
もしもこれが弾幕ごっこでないのなら、秒殺されるだろう。秒殺どころか、秒単位も咲夜を殺すのにかからないかもしれないが。
『死を操る程度の能力』で殺され、支配下に置かれ、成仏する事すら出来ずに永遠のゴーストライフを送る羽目になる。
……本当にえげつない。残酷にも程がある。如何してこんなにも幻想郷の上位層達は洒落にならない能力を使っているのか。
そんな事を咲夜は考えているが、時間を操作するのも大概である。
……小手調べとばかりに、霊力を通したナイフを二方向に投擲する。正面と斜め下。前者は真っ直ぐ幽々子に向かって飛来、軽く上空に飛んで幽々子は躱そうとした。そして後者--そのナイフは地面にぶつかると、向きを……指向性を変化させた。
__バウンスノーバウンス___
ナイフをバウンドさせる。幽々子の動きを封じ、被弾を狙った。最初に投げた直線方向のナイフはフェイントだ。
「ふぅ」
軽く幽々子が息を吐くと、扇子を一振り。蝶の様な形をした弾丸を放ち、相殺する。ナイフは弾かれて地面に刺さり、ピンク色の蝶々は泡沫の様に霧散した。
「……!」
間髪入れず、咲夜は大量のナイフを投げ続ける。蝶形の弾幕が霧散した時、それにより視界が塞がったのをチャンスと捉えたからだ。先ずは幽々子の浮いている空間に真っ直ぐナイフを投げ、少し時間を開けて拡散型のナイフを投擲した。視界が塞がるというメリットを最大限に活用するため、ほぼ最大限に効率的な行動を取る咲夜。バウンドしたナイフもフェイントであった。
しかし数俊後、弾幕のエフェクトが完全に消えた先には、既に遠くへと消えたナイフのみ……。
「残念、読んでる」
気付いた時には、幽々子は咲夜の背後に立っていた。またも、しゃらんと扇子を一振り。真ん中が白く染まったピンク色の大型弾が生成され、そこから前方に向かって、高速で射出される。至近距離でこの攻撃は回避不可能と思われた。
__バニシングエブリシング___
その時、咲夜は奇っ怪な行動に出る。懐からトランプを取り出し、
そして、光線が命中した瞬間、咲夜が霧に隠れてしまったかのように消えた。消えた咲夜が現れた先は--幽々子の上方。既に、ナイフを投げるフォームは整っていて……攻撃は即座に行える状態。幽々子の上方から急転直下の一撃を放とうとする、こうなれば、咲夜の有利は定法であった。
「私もで「幽符『冥界ミステリースポット』」……なっ!?」
だが、それも、読まれた。裏の裏の裏の裏、数手先まで幽々子は先読みしていたのだ。咲夜が攻撃を行う直前に、スペルカードを宣言する。
その瞬間、幽々子と咲夜を囲うように円形に広がった弾幕が現れる。そして--螺旋状に回転しながら、中央へと収縮を始めた。
追い込み漁の様に誘導されていた咲夜。それでも--光明の一筋を手繰り寄せようと、急速Uターンして、高速で飛行し……何とか、収縮していく弾幕から逃れる事に成功した。
が、
そのスペルカードは波状攻撃。波打つように、何重にも、等間隔で、螺旋回転を続ける。こうなれば……文字通り、袋小路だ。
「ぎゃあっ!?」
右肩に直撃。被弾が許されるのは……残り一回。
しかし、被弾の際、力の働く方向を受け流し、とうとうこの螺旋地獄--スペルカード、幽符『冥界ミステリースポット』から逃れる事に成功した。
どうやら、スペルカード発動中は大きく動けない様で、無防備。その隙に攻撃しようとするも、ナイフは相殺され、隙間を縫っても体を少しずらされ、躱される。反撃は不可能だった。少なくとも、現状では。
そして、止む。終了直後、ほぼスペルカードの終わりと同時に咲夜は駆け出した。
走りながらナイフを投擲。それが二桁に達した辺りで足を地面から離し、高速の低空飛行で接敵。当然、ナイフの雨を降らす事は止めずに。
そして、幽々子との距離がほんの数メートル程まで近付く……そして、右手でナイフを投げながら、左手にスペルカードを持ち、
「時符『プライベートスクウェア』」
宣言--。
3月10日はさとりの日ィ!