東方闇時空   作:よひつじ

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念力

「時符『プライベートスクウェア』」

 

 ドゥゥゥゥン!

 

 妖夢との戦いでも扱った、スペルカード。その主である幽々子にも--使用。

 またも世界の動きは遅くなり、その中で咲夜は一陣の風となって中空を駆け抜ける。

 

 一度そのままナイフを投擲し、勢いはそのまま地面に片足を着ける。そして--跳んだ。

 跳躍の中、チンタラと動く無防備な亡霊を蜂の巣にせんと、銀のゲリラ豪雨が幽々子を襲う。真正面、斜め上、真上、と。

 そんな中、咲夜は山なりに幽々子の上空を跳ぶ--そうなれば、当然、幽々子の後方に彼女は移動する事になる。

 

 未だ鈍く、それでもなんとか身じろぎして鈍く輝く刃から逃れようとしている幽々子。そんな彼女にとどめを刺す--射出。

 

 確実に回避不可能な攻撃だった--しかし、咲夜が幽々子の後方、空中の斜め上からのその必殺の一撃が放たれた瞬間、スペルカードは役目を終えた。

 

 ゆっくりと時計回りに動いていく(バグが起きてしまった)、狂ってしまった時針は正常な動きを取り戻した。

 

「うっ」

 

 幽々子に向かって投げられた三方向からのナイフは幽々子に被弾。躱しようがないので、当然だろう。

 

 ……しかし、後方からのナイフは、何とか、まさしく危機一髪といった様子で、掠りながらも回避。何とか一度のスペルカードでのストレート勝ちされるという最悪の未来を--何とか凌いだ。

 

 本当に、運が良かったのだろう。

 

 そして、運というものは、『流れ』がある。賭博などで聞きがちだが、簡単に言えば--流れが続く限りは、幸福の連鎖が起きる。

 

 どうやら、今現在、『流れ』は幽々子に来ているらしく--幽々子にとって、千載一遇のチャンスがここに到来した。

 

「あっ」

 

 すってん、と。ギャグ漫画の様に、咲夜は転んだ。雪で、滑った。

 

 当たり前ではあるが--体勢を立て直すまで、無防備である。瀟洒なパーフェクトメイドにあるまじき失敗であった。この天然さんめ。

 

「……」

 

 一瞬、呆気に取られるが--持ち前の思考能力で今が攻撃の……勝利へ辿り着くための道筋が目の前に設置された事に気付く。半ば反射的に、蝶型の弾幕を咲夜に向かって射出した。

 

 いや、しようとした。正確に言えば、弾幕は撃ったのだが、咄嗟の判断で咲夜が投げたナイフの何かがおかしい事に気付いた。 幽々子を刺さんと放たれたナイフには、既に何かが刺さっていた。

 

()()()()()()()

 

 --()()()()()()

 

「念力『リターン・ザ・ナイフ』」

 

 その瞬間、突然--幽々子は被弾した。勝負は、決した。

 

 


 

「何故……いや、そういうこと……」

 

 聡明な幽々子は、瞬時に今の戦いの敗北の要因を、全て悟った。

 

「はい。少しでもナイフに視線が向けば、と」

 

 スペルカードに、宣言の仕方は決められていない。スペルカードを相手が放つ事が分かれば、何でも良いのだ。

 ……そのため、ナイフに、囮に視線が向くように、スペルカードをナイフに刺していた。事前に。

 所謂、ミスディレクション。

 

「転んだのも演技」

 

 あの失態は、故意的なものだった。幽々子を油断させる為に、咲夜が演じたのだ。

 

「そして私の後方から投げられたナイフ……」

 

「はい、あれは--」

 

 __バウンスノーバウンス___

 

 前方から投げられたナイフは、只のナイフであった。よって、後方からのナイフもそれと同様だと思い込ませた。既に散っていると、思わせた。

 

「そこからの--私が知らない、初見のスペルカード」

 

 念力『リターン・ザ・ナイフ』、イーブイが、エーフィに進化している時に使う、咲夜との協力技。念力によって、ナイフの飛ぶ方向を操作した--新しいスペルカード。一度反射したナイフを、それによって幽々子へと突撃させたのだ。

 

「正直、侮っていたわ、まさか人間がここまで考えるとは。それも異変解決者が」

 

「霊夢や魔理沙と一緒にしないでください」

 

 本来の幽々子なら、ここまで考える事は可能だった。けれども、思考の中--そこに、先入観が残っていた。それによる油断で、中度半端な所で思考を止めていた。というのが、幽々子の主張である。

 

「まぁ、それはそれとして。赤い霧の事、教えて貰いますよ」

 

「それについてはもう解決した--んぅ、そうね。霧の行方を追うと良いわ」

 

 意味深な言葉を残す幽々子。

 

「霧の行方--」

 

 その方角に何があるか、咲夜は薄々察していた。

 

「山は気が進みませんね」

 

 


 

 冥界を咲夜と一行が飛び出していく。因みに、妖夢は既に例の激痛からは開放された。リオルのお手柄である。

 

「それにしても、幽々子様が負けてしまわれるとは……侮れませんね」

 

「えぇ、そうね」

 

 軽く妖夢が感想を述べ、適当に話を合わせる幽々子。未だに雪は降り続けている。二人が座る縁側の後ろでは、火鉢の内部からぱちぱちと火花が飛散していた。

 

 そんな中、幽々子はすくっと立ち上がる。そして、奥の通路へと歩き出した。

 

 妖夢は不思議そうに見つめるが、だからといって何がする訳でもない。

 

 そして、誰にも聞こえないように--幽々子は小さく呟く。

 

「……なんてね」

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