曇天の空。進む異変解決者達。当然ながら、リオルとイーブイ、咲夜の一人と二匹だった。
「とざんびよりってやつだね」
思わずそう呟くリオル。確かに風も弱く、涼しく、日差しも雲が遮ってくれる。真夏である今、晴天の中この──妖怪の山を登るのは、厳しい。その辺の人間なら、熱中症で倒れてしまう。
そう考えると、割とこの状況は恵まれていた。
「そうねぇ……、そういえば二匹とも、登山経験はある?」
そんな中、暇を持て余した咲夜は、軽い疑問を投げかける。
『うーんと……』
「あるにはあるけど……」
そこでの、二匹の反応。何か、悩むような素振りを見せる。どうやら、回答する事が難儀な様子。
『あれは、まぁ』
「うん」
そして、リオルとイーブイが互いに頷く。何というか、『分かるわーその気持ち』みたいな感じだった。通じるものがあるようだ。
「いや、あるにはあるんだけど……」
「あぁ、あるのね。……というか、何故言い淀んだの?」
「『ツノやま』っていうやまだったんだけど、どうくつがあってね。そこからうえにいけるようになってたんだ」
「あー……成る程」
咲夜は二匹が答えを渋った理由を理解した。山に行ったけど、中にある洞窟から上に登って頂上に向かったのなら、『登山』と言えるか……正直結構微妙だからだ。
「にしても、『ツノやま』ってちょっと物騒に聞こえるわね。何かこう……トゲトゲしてそう……」
そう言って、その話題について咲夜は掘り下げようと試みた。単純に少し、興味があったのだ。
しかし、それは遮られてしまう。
突如として、暴風が吹き荒れてしまったからだ。
(((山の天気は変わりやすい……)))
全員の思考が見事に一致した。先程の快適な気候から一変。遭難まっしぐらの危険地帯へ。これならもう、灼熱の炎天下の中山を登った方が、幾分かマシだろう。
内心──というか、表情にも思いっ切り不満を滲ませながら、溜息を吐く咲夜達。世間話をしていた時の軽い空気は何処へやら──そんな中、一人の少女が舞い降りた。
「へぇ、あの館の主は、美鈴以外にもペットを飼い始めたんですね」
それに続け、新聞の新しいネタになりそうです。と、言い放つ黒髪の少女。その言動は、というかしゃべり口調は──敬語ではあるものの、その内容はリオル達に対して侮辱もいいところだった。慇懃無礼にも程がある。
リオル達ポケモン組からすれば、不幸が続けてやって来た感じで……それは、咲夜も一緒ではあるが。どうやら、咲夜はあの少女の事をあまり好ましく思っていない──どころか、途轍もなく嫌いなようで、嫌悪感をこれでもかと……周知させるかの様に、発していた。
「それにしても、ここは妖怪の山ですよ? なんで部外者がここにいるんですかねぇ……」
嫌味ったらしい声のトーンで言葉を放ち続ける少女。
「立ち入り禁止の立て札を置いてあった筈ですけど……」
「何それ? そんなファニーな立て札、見てないわ」
(全く……こんな事なら、先にお嬢様に能力を使用してもらうべきだった……)
何とか会話の応酬を交わしながらも、内心穏やかでは無い咲夜。後悔と苛立ちが募る。
レミリアの……『運命を操る程度の能力』を使ってもらうべきだったと。
彼女の能力を使用すれば、あの少女に偶然出会わなかった世界線を選び、そしてこんな厄介な事にはならなかっただろう。
(射命丸──あのエセ記者なんかに出会ったら、絶対ある事ない事書かれるに決まってる!)
射命丸文の──一人の新聞記者の、今迄の悪行が脳裏にちらつく。
彼女が出版する新聞──文々。新聞は、人気こそ無いのだが、その内容は、決して容易に見逃せるものでは無かった。
簡単に言ってしまえば、煽動……いや、洗脳だろうか。おそらく、どちらも正しい。
毎回毎回、ではないが──例えば、春雪異変が起きた時。
幽々子が雪を降らし、それは春まで続いた異変。そうなれば当然、人里の食糧事情──特に農業は、甚大な被害を被った。
ここで一つ、問題が発生する。あの気だるげな巫女──博麗霊夢の出動が遅れたのである。理由は言うまでもなく、ただ『面倒だった』からなのだが、それで人里の被害が増えたのもまた、事実であった。
そこであの鴉天狗、射命丸文は何を思ったのか、こんな記事を書き、出版した。
『亡霊との癒着!? 博麗の巫女と白玉楼の主は、裏で手を組んでいた!?』
そしてそこには、異変解決後の宴会でのワンシーン、その中に偶然──幽々子と霊夢が隣同士になっていた時の写真が載っていた。
ただ購読数を増やす為に軽はずみに行った事なのだろう。
裏で何かしようとした可能性もあるが、当然それを察知した霊夢や紫により、既にそれらの抹消は済み、その新聞もほんの僅かしか世に出回らなかったが──もしそれが人里中に広まっていたら、どうなっていただろうか?
それはもう、お察しである。
そんな危険人物と関わろうなど、咲夜が思うわけが無かった。
(どうしたものかしら……)