幻想郷──地上から遥か遠く、どんな山よりも高い雲の上──天界。
そこに……一人の人間が降り立った。
「ここが……天界?」
「あぁ、そうよ」
人間──咲夜は、ばっと振り返る。目的地に行き着いた矢先、唐突に声を掛けられた。この地での、ファーストコンタクト。
「……比那名居、天子?」
「へぇ、そこまで掴んでるんだ」
その人物は──異変の、ほぼ確実である──元凶。衣玖が言うには、『総頭領娘』とやららしいその小生意気な態度を崩さぬ少女は、大胆不敵に……ニヒルに笑った。
「貴女は? 一応聞いておくけど──異変の解決、だろうな?」
「当然、このまま貴女を野放しにしておくと、厄介だと思いますので」
咲夜はナイフを構えた。出会って数秒の時点で──
そのままちらりと背後を覗く。リオルとイーブイにアイコンタクトを取り──連携。確実に勝つ為。
しかし、その眼。眼前、そこには──
影の一つもありはしなかった。
打って変わって、リオルとイーブイ。二匹は──気が付くと、見知らぬ場所に居た。
『『ここは……』』
そう、疑問を呈する。が……その前に、一つ言うことがあるとすれば、夢遊病患者のように彷徨いここへ訪れた事は──なんとなく、覚えていた。
ふらふら。ふらふら、と。
天界に来て本当に昇天してしまったか──といった考えが脳裏を掠めたが、まずは現状の把握を急ぐ事にした。
『なんで……』
「あのメイドはお前らが消えた事に気付かなかったか? 何故こんな所にいるのか? そもそも──誰がやった?」
『『──ッ!?』』
どこからともなく声が聞こえた。するり、と。自分の認識の中に入り込むように。
敵か? 恐らくそうだろう。そう考え──警戒を強める。
「試しに
問題は敵の姿が見えないことか。全力で周りから敵の姿を探る。
ミカルゲのように小石のような姿になっているのか? いや、辺り一面は雲で覆われている。ならば、一体どこから──
「ハハ──」
と思うも束の間。相手は自ら、自ずとリオルとイーブイの前に姿を現した。
二匹に周知させるかのように、顕した。
「紫達は縮こまっちゃってるけど、可愛いもんだねぇ、なぁ?」
霧が──赤い霧ではなく、一般的に知られるような白い霧、それが集まっていく。
シュルシュルと、渦を巻くように、萃まる。
赤い霧に身を隠していたのか、その白いそれに気付けなかったのだろう。そして──見張られていたのか。有り体に言えば、監視されていたのか?
リオル達からすれば、恐ろしいことこの上ない。
シュルシュル、シュルシュル──
その姿──幼い子供。自身の頭よりも大きい角、片手に持った瓢箪。腕に付けた鎖。両手と角に付けた、図形をあしらう分銅。
可愛らしい容姿とは裏腹に、溢れでんばかりの気迫。鬼のような──鬼。正真正銘、鬼そのもの。
豪ッ
「オ、ラァッ!」
『うグッ!?』
彼女は拳を振り切った。標的は──イーブイ。
鬼の剛腕、剛力──化け物めいた威力の拳は、文字通り小動物のイーブイを──飛ばした。
その衝撃に、
錐揉み回転し、中空に投げ出される。
『イーブイ!』
リオルは叫ぶ。目の前のパートナーに危機が迫っている。何とかしなければ、と。
『ハッ!』
波導を纏い、地面を踏みしめ──前方に跳躍した。
そして、断続的に波導を放出し、加速、加速、加速。
そのまま──
『う、ぐっ!』
吹き飛ばされるイーブイに回り込み、受け止めた。衝撃を和らげようと、優しくイーブイの身体を包み込んだ。
幸い、下が雲──そもそも何故雲の上に乗れているのか、という疑問はあるが、その雲の感触は──クッションのようであった。地面だったら、体を地に擦り付ける形になるが、そんな事にはならなかった。地形ダメージは入らない。
『──!』
地面──雲の上を転がる。リオルはイーブイを強く抱き締めたまま、雲の上を転げていた。
『──っ!』
何とか地面を叩くようにして受け身を取り、ふらつきながらも立ち上がる。リオルはそのままイーブイを横に抱えた。
「おー、お見事お見事」
茶化すように、鬼は軽く言った。
「あ、そうだ。忘れてた」
鬼は続ける。
「私は伊吹萃香。お前達を──」