「お前達を──ぶっ飛ばしに来た」
そう言って、拳と手の平をぶつける。パンっ! と乾いた音が鳴った。
『大丈夫? イーブイ』
リオルは鬼……伊吹萃香を警戒しつつ、トレジャーバックからオレンのみを取り出し、イーブイの口に含ませた。
オレンのみ、ゲームとしての性能では──食べるだけで、体力を100回復する優秀なアイテム。
探検での必需品。
その証拠を見せんとばかりに──イーブイの体の傷はみるみると癒えていった。
「不思議なものを持ってるな……まぁ、いいか」
萃香は好奇心を持ったが、一瞬で思考を放棄し、リオルに語りかける。
「お前を今からぶん殴る、いいな?」
そんな訳ないだろ、と盛大に突っ込みたかったが、萃香に聞き入れる気はないだろう。ならば、今の自分に出来ること──
『ワタシも、やってやる』
リオルはイーブイを背後に、一人で戦うという選択をした。イーブイを守る為。
……しかし、パートナ──イーブイはそれを許さない。
強い意志を持った瞳でリオルに訴えかける。
──リオルだけに任せたくない!
──ワタシはリオルのパートナーなんだ!
『…………ふぅ』
──そうだね。
噛み締めるような沈黙の後、二匹は向き直る。はっきり言って、イーブイはこの闘いでの活躍は不可能に近い。イーブイは未だ──進化の力を上手く扱えないからだ。
それはイーブイが弱いからではなく、力が強大すぎるから。それでも、やれる事はやる。リオルの役に立ちたい。そう考えていた。
唐突に襲われ、はっきり言うと右も左も分からない状況だ。
相手の目的も、自分達がどうすればいいかも、よく分からない。
今迄気を回せなかったが、咲夜はどうなっただろうか。
分からない、分からないが──
「行くぞォッ!」
取り敢えず、今を生き延びよう。
またも、拳。
鋭く突く、蹴り。
切り裂かんとばかりの、手刀。
連撃に次ぐ連撃。
近接格闘で言えば、イーブイよりも優れているのは当然リオルなわけで、前線に出るのも当然リオルなのだが──
『ぐぅっ!』
苦戦も苦戦、大苦戦であった。拳がびりびりと痺れ、足がふらつく。全力で放つパンチもそれを上回る力で押し返され、蹴りを放つも萃香の体の軸は揺らがない。
──【ねがいごと】
そんな時、ベールのように光がリオルを包み込んだ。エーフィだ。
エーフィの放った技……ねがいごと。発動から一定時間経った後、発動した場所にいるポケモンを回復する効果を持つ。
またも体力が回復したリオルは、萃香に引き続き特攻した。
『やぁっ!』
「そらよォッ!」
渾身の拳も、回し蹴りで弾かれる。
「オラァ!」
『──ッ!』
次いでの拳。文字通りの、鬼のパワー。種族としての格差が、二匹を弱者たらしめんとしていた。
【ねがいごと】
「ラァッ!」
【ねがいごと】
「ハァッ!」
【ねがいごと】
圧倒的な力だった。イーブイがあれを喰らえば、粉微塵になってしまうかも知れない。
──負傷と回復を繰り返す。反撃する決定打が無いからこそ起きる、防戦一方の戦況。ねがいごとによる回復と萃香による負傷の連続、エーフィはそれを見ているだけで辛い──が、自分が闘うにも、回復役が務まらずダメージが蓄積され続け、『負け』の他に運命は傾かない。
そして、回復の難易度も高い。発動した場所に効果が起きる為──戦況を見て、動きを先読みしながらねがいごとを使わなければならない。
少しでも失敗が起きれば、敗北。薄氷の上のように危うい状況だ。
歯がゆい、歯がゆい……。
『リオル……』
ただ、チャンスを待つしか無い。
「ハッ!」
そんな中、萃香は戦法を変えた。腕に巻き付けられた鎖──それを鞭を振るうように使い始めた。
狙うは──エーフィ。流石に気付いた。回復の条件を。
回復などの援護役を先に潰すのはある種の闘いのセオリーだろうし、当然の行動だろう。
だが二匹にとっては非常に不味い。現状、何とかこの膠着状態を保っていられるが、それはエーフィの援護あってこそのもの。ここでエーフィがダメージを負うのは──
それ以前に、リオルの正義感というか、パートナーとしての意識というか、絆がそれを許さない。
リオルは──鎖を掴んだ。発射される前に。ガシッと、離さない。
しかし、そんな時、最悪、最低のタイミングで──それは起こった。
────ドクン──
(なぁっ……!)
──ドクン──
(嘘だろ……)
──ドクン──
(こんな時に……)
じ く う の さ け び