少女の歌は雷鳴の如く   作:木野きのこ

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やっぱりOTONAは強かった

 

シンフォギアには〈絶唱〉と呼ばれる決戦機能が搭載されていることを、退院したその日に説明された。

一年間も装者やってきたのに、今のいままで知らなかった自分にも驚きだが、記憶を失う前の私もそれを知らなかったことには驚いた。

どうやらシンフォギアのことなら何でも覚えているというわけではないらしい。

というか、病み上がりの人間にその仕打ちはあんまりじゃないっすか了子さん……?

まあ文句を言ったところで聞き入れられるはずもなく、解放されたのは小一時間くらい聞かされてからだった。

 

了子さんの話を要約すると、〈絶唱〉とは私たちが戦闘中に歌う歌のエネルギーをアームドギアを介して増幅させ、一気にぶつけることでクリティカルなダメージを与えられるというものなのだが、翼さんは今回アームドギアの部分をすっ飛ばし、初っ端から全解放を行なったらしい。

結果、ネフシュタンの鎧を纏った少女は撃退したものの、翼さんも〈絶唱〉によるバックファイアを受けて絶対安静の重傷を負ってしまったそうだ。

そうまでしないと倒せないあの少女の実力もそうだし、完全聖遺物のポテンシャルがここまで高いのかと度肝を抜かれた。

 

そして、何よりも問題なのは翼さんが戦線離脱をしてしまったため、次は私が戦わなければならないということだ。

ぶっちゃけ勝てる気がしない。

シンフォギアの切り札を使ってようやく相打ちになる相手にどう立ち回れと。

と、弱音を司令に伝えたところ——

 

「ならば特訓あるのみだな!メシ食って映画見て寝るッ!女の鍛錬はこれで十分だ!」

 

——とかなんとか。

いや、そんなんで何とかなるなら苦労しないし、それで何とかなるのって多分司令くらいだと思うんですけど。

司令のアドバイスが期待できないので改めて了子さんに相談したら——

 

「そうねぇ、それなら私の部屋で一晩中じっくり教えてあげるわ」

 

——と迫られた。貞操の危機、再来。

ナニカサレソウだったので、追い剥ぎされつつも、何とか逃げ切った私は、結局響ちゃんと普通にシミュレーターで特訓することを選んだのだった。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

それから数日。

シミュレーターを終了して、一息つく。

今日もいい特訓でした。

響ちゃんは私との特訓のほかに、個人的に司令の下で特訓しているらしく、そのおかげでメキメキ戦闘力が上がってきています。

コンビネーションもそこそこ取れるようになってきました。

まあ、懸念点があるとすれば、シミュレーターの敵がノイズばかりなので、ネフシュタンの少女との戦いには一切役に立たないところでしょうか。

というかそれならこの特訓、意味があるのか……。

 

「小詠さん!お疲れ様です!」

 

「お疲れ様響ちゃん。最近どんどん腕を上げてるね」

 

「そ、そうですか?でっへへ……」

 

褒められて嬉しそうな響ちゃん可愛いですね。

思わず頭を撫でたくなります。

 

「でもでも!小詠さんもすごいですよ!毎回特訓のたびに新しい技を出している気がします!」

 

「そう?といっても新しく編み出しているというよりは記憶にある技を確認がてら出してるだけなんだけどね」

 

「へぇ、そうなんですか。ちなみにどれくらい技を覚えているんですか?」

 

「んと……ひーふーみー………………48個くらい?」

 

「ええっそんなにあるんですか!?」

 

うん、そりゃビックリするよね。

私もなんでこんなにレパートリー豊富なんだって驚いてる。

記憶をなくす前の私って本当に一体何者なんでしょう。

 

「精が出るな、お前たち」

 

休憩がてら響ちゃんと話していたら司令がやって来ました。

いつものワイシャツ、スラックススタイルではなくジャージ姿なのが気になりますが、何しに来たんだろう。

 

「師匠!」

 

「師匠!?」

 

まさかの師匠呼び。

いつのまに師弟関係築いているんですかこの人たちは。

 

「どうしてここに来たんですか?」

 

「最近響くんの特訓に付き合ってばかりだったからな、たまには小詠くんの実力を見ておこうと思って来たんだ」

 

「いや結構です」

 

冗談じゃない。

生身と素手で翼さんの【天ノ逆鱗】を相殺しているような人を相手に特訓なんて無茶振りにも程がある。

 

「はっはっはっ!遠慮はいらないぞ!胸を貸してやるからドーンと来い!」

 

「いやだから——」

 

「じゃあ私が先に行きますね。師匠!対打をお願いしますッ!」

 

「おうさ!準備運動がてら相手をしてやろう!」

 

こいつら……人の話を聞く気あるんでしょうか。

師弟で勝手に始めちゃいましたよ。

 

「ほいよっと!」

 

「うわわわわわァァァァッ!!」

 

と思ったら秒で終わった。

片手で投げられた響ちゃんがすっ飛んで行っちゃいました。

やっぱりおかしいですって。

なんでシンフォギアの殴打を去なすどころか受け止めて、あまつさえぶん投げてるんですか。

しかも片手で。

 

「さあ!次は小詠くんだ!」

 

「うへぇ……」

 

面倒くさい。

大変面倒くさい。

でも、面倒くさいけど戦わないと解放してくれなさそうなので、やるしかないようです。

本当なら人間相手にシンフォギアを使うこと自体気が引けるものですが、司令が人間かどうかは疑わしいですし……あ、人間じゃありませんね、OTONAですね。

 

「どうなっても知りませんよッ!!」

 

VOLT DISCHARGER(ヴォルト・ディスチャージャー)

 

ネフシュタンの少女に使った時と同じ戦術で……!

衝撃波の後ろに隠れて、回避した先に——

 

「ただぶっ放すだけでは意味がないぞッ!」

 

「ッ!嘘でしょ!?」

 

——衝撃波を掴んだ!?

稲妻も纏わせているのに、どうやったらそんな芸当ができるって言うんですか!!

 

「おおおおッ!!」

 

「うあっ!!」

 

掴んだ衝撃波をそのまま投げ返されて、吹っ飛ばされる。

空中で態勢を立て直し、着地。

クラウチングスタートのような姿勢になり、〈バンカーシェル〉の炸裂でもう一度アタック!

 

「来いッ!」

 

「これならどうですかッ!」

 

司令の直前で再び〈バンカーシェル〉の炸裂。

でも加速ではない。ブレーキだ。

これもまたあの少女に使った戦術。

でも、あの時とは少し違うッ!

 

「オラァッ!!」

 

「あぶなっ!?」

 

迫る拳を屈んで躱し、そのまま〈バンカーシェル〉を炸裂。

急加速で司令の後ろに回り込み、勢いのままに身体を回転させてミドルキックを叩き込むッ!!

 

「ハァァァァァァッ!!!」

 

BUNKER VOLT(バンカー・ヴォルト)

 

ドン!という重たい感覚と共に鼓膜をつんざく爆音が轟いた。

これは確実に命中した。

司令でも反応できない、まさに雷電のごとき一撃だったと思う。

 

「……あ」

 

って、私なんでこんなに熱くなってるんですか。

完全に司令のテンションに乗せられちゃってるじゃないですか。

大丈夫かな?ミンチになってたりしませんよね?

こんなので明日の朝刊の一面を飾るの嫌ですよ!

【恐怖!上司をミンチにした殺人キック】なんて見出しと共に顔写真にモザイクかけられて日本中に晒されるなんて嫌だ!

 

しかし、そんな私の懸念を他所に、視界に飛び込んできたのは信じられない光景だった。

 

「……なんで受け止めてるんですか」

 

「フッ、この程度でやられては司令など務まらん」

 

いや、シンフォギアの一撃を生身で防げるのが司令になる条件とか厳しすぎ。

そしたら二課の司令はもう司令以外務まらないじゃないですか。

そもそも雷電纏って地面すら抉るほどの衝撃が直撃したっていうのになんで平然としてるのこの人。

 

「ちなみに衝撃と稲妻は発勁でかき消した」

 

なんか前も翼さんの【天ノ逆鱗】を防いだ時も似たようなこと言ってましたね。

何でもかんでも発勁で解決しすぎです。

それとも何でもかんでも解決できる司令の発勁がすごいんでしょうか。

……これ以上は哲学的な問題になりそうですね、もう考えるのはやめましょう。

 

「さて、小詠くんはここからどうするんだ?」

 

どうしようもないじゃないですか。

片足掴まれた状態で可能な技は私の記憶にある48個の内3つくらいしかないです。

そして、その3つとも全部が防がれる自信がある。

つまり詰みというやつです。

 

「では、これで特訓を終わりにするとしよう」

 

ブンッ!という風を切る音ともに、司令にぶん投げられた私はシミュレーターで作り上げられた青空に舞い上がって、そして落ちた。

 


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