少女の歌は雷鳴の如く   作:団栗きのこ
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ヤマアラシのジレンマ

 

クリスちゃんの襲撃から数時間後。

私は医療班に回収されて二課管轄の医療施設に半ば連行される形で収容された。

限界を超えて戦ってしまった私は、当然ですが司令からめちゃくちゃ怒られました。

しかも身体の方も本当の意味で限界一歩手前まで来ていたらしく、医療班の方曰く——

 

「あと一回でも強烈な負荷がかかっていれば、二度と歩けなかったかもしれません」

 

——ということらしい。

ただ、それでも〈バンカーシェル〉の使いすぎによる衝撃で足の神経はズタズタになっていたらしく、何とか縫合して治すことには成功しましたが、ふくらはぎからつま先にかけて裂傷のような跡が残ってしまったらしいです。

まあ、司令の言いつけ破って無茶しちゃったわけですし、自業自得ですよね。

幸い靴下とかで隠せそうだからいいんですけども。

 

それから司令にしばらくの間は絶対安静を言い渡され、半ば軟禁状態での入院生活だったのですが、なぜかとても賑やかな一週間を過ごしました。

響ちゃんや翼さん、二課の方々もお見舞いに来てくれたのが原因ですね間違いなく。

響ちゃんはあの日、親友にシンフォギア装者だったことがバレて気まずいことになっているとめっちゃ重たい相談を持ちかけてきますし。

翼さんは先輩らしく気遣ってくれて、色々お世話してくれるので助かりますが、刃物系のシンフォギアを纏っておきながら果物を切るのが下手だと判明しましたし。

藤尭さんや友里さんはいつものようにあったかいもの差し入れしてきますし。

たまにくる司令に至っては戦い方の参考にしろと御用達の面白映画を持ってくる始末ですし。

いやまあ、嬉しいですよ?

賑やかなのは嫌いじゃないですし。

ただみんなそれぞれの個性が爆発してて、記憶喪失って個性しかない私からすれば対応に困るんですよ。

 

仕方がないので、響ちゃんには司令が言いそうな事を伝えたら——

 

「師匠にも同じことを言われました……」

 

——と、先回りして答えを潰されていた。

じゃあもう私にできることはない!自分で考えろ!

 

翼さんは切るのがあまりにも下手すぎて、指先を何度か切ってしまったのを見兼ねた私が剥いて逆に食べさせるなんてことになっていた。

何でノイズを斬るのは上手いくせに果物切るのが下手なんですかねえ。

『きる』って字が違うから?うるせえよ。

藤尭さんと友里さんは任務の合間に交互にやってきてはあったかいものを置いていくんで、それとなく違うものをオーダーしてみたら次に持ってきたのはおでん缶……。

そうじゃなくて!もっとこうあったんじゃないですか!?

おでん缶は美味しくいただきましたけども!

 

司令は一回しか来てくれませんでしたが、その一回で数十本の映画を置いてくのやめてくれませんかね。

全部観れるわけないでしょうに。

しかもそこそこ面白いのが腹立つ。

 

とまあ激動の一週間を病室で過ごした私は、晴れて今日、退院となった。

身体も完全に快調したし、いつものようにシンフォギアも纏うことだってできるでしょう。

 

「ふっかーつ!」

 

気合いを入れて久しぶりに袖を通した制服は少しゴワゴワしてて、少しだけやる気が削がれた気がした。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「あ〜……」

 

約二週間ぶりの登校となる学院の午前中の授業を終えた私は机に突っ伏して死にかけていた。

なんだか頭が湯気が上がってる気がする。

 

「やっと……終わった……」

 

真っ白なノートをカバンに放り込み、ひんやりした机に額を押し付けて、熱を持った頭を冷やす。

たった二週間でなんという進み具合だ。

先生の言っていることが何一つ分からなかった。

難しいとかそういう次元じゃない、理解不能です。

これは進級できるかも怪しくなってきましたね……。

後で誰かに教えてもらおう。

 

「鳴神さん」

 

などと考えていると、声をかけられた。

顔を上げると、見知った顔が3つ、私を見つめている。

 

「一緒にお昼ご飯」

 

「食べない?」

 

三つ子もびっくりな連携で私の机を取り囲み、昼食に誘ってきたのは、一年の頃から何かにつけて私に声をかけてきてくれる三人娘、鏑木乙女、綾野小路、五代由貴でした。

ちなみに眼鏡をかけてる一番小さいのが鏑木乙女で、カチューシャをつけたのが綾野小路、ポニーテールにしているのが五代由貴です。

彼女たちが何度もメゲずに声をかけてきてくれたおかげで、問題児扱いされていた私がクラスに馴染むことができたと言っても過言ではありません。

まあ、まだ一部の方々からは問題児扱いされていますけどね。特に先生方ね。

それはともかく、そんな恩人たちからの誘いを断るわけがない。

 

「いいですよ、学食ですか?」

 

「ううん、お弁当持ってきたんだけど、鳴神さんは?」

 

「ありゃ、お弁当ですか。参ったな、私持ってきてないんですよねえ」

 

連絡をくれれば、適当に作って持ってきたんですけどね。

病み上がりってこともあって作るのが面倒だったってのもあるんですけども。

と、どうしようか決めあぐねていると、ポケットの中の携帯が震えた。

三人娘に見つからないように確認すると、液晶には風鳴司令の文字が。

連絡ってそっちじゃねーよ。

そっちの連絡はノーサンキューです。

なんでこうタイミングがいいのか悪いのかよくわからん時に来るんですか。

大方予想はつきますけど、あえて言うなら嫌な予感しかしません。

 

「そうなの?じゃあ学食で食べようか?」

 

「あー……そういえば先生に呼ばれてましたっけ。すみませんが先に食べててください」

 

学食に向かおうとする三人を制して、ガタリと椅子から立ち上がった私は、後ろ手を振りながら、足早に教室を後にした。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「ホンットにノイズってばタイミング悪いッ!!」

 

予想通り司令からノイズ出現の連絡を受けた私は、リディアン音楽院を飛び出して現場に向かっていた。

私ってば呪われてる!主にノイズにッ!!

どうしてこう何かするときに限ってノイズは空気を読んだみたいに現れるんですかッ!

空気を読むならもっと読め!主に私を労わる方向で!!

 

逃げ惑う人々をかき分けながら商店街を突き進み、ノイズへの恨みつらみを募らせる。

 

「ノイズのあん畜生は何処ですかッ!!」

 

司令から共有された出現地点はこの辺りのはずですが……。

辺りを見回しても人っ子ひとりどころかノイズ一匹すら見当たらない。

 

「あれは……!」

 

……いえ、ひとりいました。

視線の先、道路のど真ん中で蹲っている女の子がいます。

しかも見覚えのある姿です。

ピンときた私は駆け寄るのだが——

 

「関係ない奴らまで巻き込んで……!あたしがしたかったことは、こんなことじゃないッ……!こんな……ことじゃッ!!」

 

——蹲っていたのはクリスちゃんだった。

彼女は涙で地面を濡らしながら、何度も何度も拳を叩きつけて、叫んでいる。

血が滲んでも、皮膚が破れても、何度も何度も何度も。

 

「だけど……いつだってアタシのやることは……いつもいつもいつもいつもッ!!」

 

「クリスちゃん……」

 

「ッ!?……お前、何の用だよ!」

 

「何の用って……ノイズが現れたんだからやることはひとつでしょ?」

 

蹲るクリスちゃんに手を差し伸べるが——

 

「お前の手なんか借りなくても立てるッ!」

 

——ノータイムで払われてしまった。

ちょっと痛かったぞクリスちゃん。

 

「……ねえクリスちゃん。さっき言ってたことって……」

 

関係ない人たちを巻き込んでとか、あたしのしたかった事とか、まるで自分がこの原因を作ったみたいに言っていた。

でも、今のクリスちゃんは、あの時のようにノイズを呼び出す杖も持っていないし、そんなことができるとは到底思えない。

なのになんで……。

 

「お前には関係ない!これはあたしの問題だッ!!」

 

「またそうやって……」

 

「うるせえッ!」

 

怒髪天を突く勢いで激昂するクリスちゃんに胸倉を掴まれて引き寄せられる。

 

「人の問題に首を突っ込むなッ!どうせ本気で助けたいなんて思っちゃいねえんだろ!?見ない聞こえないで放っときゃいいだろうがッ!!」

 

「そんなことない!私はクリスちゃんがそうやって何でもかんでもひとりで背負いこもうとする理由が知りたいんだ!」

 

至近距離で睨み合いをする中、視界の端で、こちらに迫りつつあるノイズの姿が映る。

 

「————————————」

 

「Killter Ichaival tron」

 

それを見つけた私たちは同時に聖詠を唄い、シンフォギアを纏って迫るノイズをパンチと蹴りでぶっ飛ばした。

なんでこんどは空気を読まないで出てくるんですかノイズは。

さっきまでどこにもいなかったじゃないですか。

出てくるなら一言言ってから出てきてほしいですね。

わりかし切実にそう思うんですけど。

 

「邪魔しないでッ!」

 

「邪魔するんじゃねえッ!」

 

ぶっ飛ばして、炭素塊となったノイズの向こうには、たくさんのノイズが控えていた。

が、そんなことは関係ないと言わんばかりに肩を並べた私とクリスちゃんが同時に叫び、それがノイズたちとの戦闘開始の合図となった。

だというのに、ノイズには目もくれず、クリスちゃんと正面から対峙して出方を伺う。

できればクリスちゃんとは戦いたくありませんでしたが、前言撤回です。

話してくれるまで私も断固として姿勢を変えないことにします。

具体的にいうとボコボコにして理由を吐かせてやるッ!

 

睨み合いになって数十秒、先に動いたのはクリスちゃんだった。

 

「口ではなんとだって言える!あたしの知ってる連中は誰もあたしをまともに扱う奴はいなかった!」

 

両手のクロスボウがガトリングに姿を変えて、一斉に掃射してくる。

面だろうと点だろうと、快復した私にただの掃射ごときは当たりませんよ!

ひょいと射線から離脱して躱すと、その後ろにいたノイズが穴あきチーズよろしく蜂の巣になって消し炭になった。

 

「だったら私が正面から受け止めてみせますッ!」

 

〈バンカーシェル〉の炸裂で一息に距離を詰め、回し蹴りを繰り出すが、ジャンプで躱された。

でも空振りではなく、クリスちゃんの後ろから迫っていた人型ノイズの胴体をくの字にへし折り、炭素に変えた。

 

一瞬、至近距離で武器を構えたまま膠着状態になるが、眼前で放たれたエネルギーの矢を、バック転、バックステップ、サイドステップでとにかく躱して距離を取る。

 

「ならお前にわかるのかッ!?痛いといっても、やめてといっても相手にされないあたしの気持ちが!」

 

イチイバルの腰部アーマーが展開して、いくつものミサイル弾頭が顔を覗かせる。

そのまま激しい炸裂音とともにミサイルが放たれた。

 

前は林があったので盾がわりに逃げれましたけど、こんな商店街のど真ん中じゃそんなものあるはずもないですよね。

なので、こういう時はノイズを盾にして逃げるに限ります。

 

「わかるわけがないッ!私はクリスちゃんじゃないんだ!」

 

「だったらッ——!」

 

走り回りながら、逃げ回りながら、後方では着弾したミサイルが次々とノイズを紅蓮の炎で包み込んでいく。

さすがに火力では向こうに軍配が上がりますよね。

絶え間なく続くガトリングとミサイルによる波状攻撃、対してこちらは一撃は強力だが近づかないと効果を発揮できないときた。

これはもう被弾覚悟で突っ込むしかありませんね。

 

「でも!知ろうとしないと一生分かり合えないッ!」

 

攻撃と攻撃のわずかな刹那に賭けて、再び〈バンカーシェル〉の炸裂による加速で一気に距離を詰める。

その決断が功を奏したのか、見事にハマってくれた。

 

「ッ!御託をッ!!」

 

私の突き出すような蹴りがクリスちゃんの後ろから迫るノイズをブチ抜き、クリスちゃんの構えたガトリングが、私の背後から迫っていたノイズを穴あきスポンジに変える。

周囲のノイズを巻き込んで繰り広げられる私とクリスちゃんの戦いは、場所を変えて第二ラウンドが始まろうとしていた。


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