——特異災害対策機動部二課。
室内中央に備え付けられた巨大なモニターには、ノイズとの戦いを繰り広げる装者たちの様子が映し出されているのだが——
「武御雷槌とイチイバルが戦闘を開始してから十数分が経過しましたが……」
「これは……共闘と言っていいのでしょうか」
——どういうわけか、映像の中の
いや、ノイズは巻き込まれているだけと言ったほうがいいかもしれない。
しかし、知ってか知らずかその戦いの余波に引かれたノイズが街中から、ふたりが戦う場所に引き寄せられていることもまた事実だった。
情報管制官である藤尭朔也も友里あおいも、ほかに常駐しているスタッフですら唖然としてモニターを見つめている。
「何をやってるんだアイツらは……」
あの風鳴弦十郎でさえ、困惑を隠せずにモニターを見守っているのだ。
「どうしますか、司令」
「どうもこうもないだろう」
弦十郎はやれやれと頭に手を当てながら、呆れつつも、地上へ直通しているシャフトへ乗り込む。
「いつだって喧嘩の仲裁は大人の役目だ」
これ以上ないくらい頼りになる言葉を残して、シャフトのドアは閉じられた。
* * *
戦いの場所を河川敷に移した私とクリスちゃんは戦い続けたまま、でも決着は付かず、周りのノイズだけが次々と殲滅されていた。
何度目かの攻防の末、対峙した私たちは肩で息をしながら互いを見つめる。
理由を聞き出すまで戦う覚悟してましたけど、ここまで頑固なのは予想外ですね。
正直体力的にもかなりキツくなってきました。
歌いながら、説得しながら、身体を動かして休まる暇がない。
でも、それはきっとクリスちゃんも同じはず。
「どうした?もうへばったのか!?」
「……誰が!これからが本番だッ!」
売り言葉に買い言葉ってやつですかね。
挑発うまいなぁクリスちゃんは。
ふたり揃って息も絶え絶えなくせに闘争心だけはいっちょまえにあるから手に負えない。
とはいえ、いくら闘争心があっても体力は有限。
ぶっちゃけ次の一撃でもう限界なんですよね。
「そいつは奇遇だ!アタシもまだ八割くらいしか力を出してねえからな!」
「へぇ、実は私は七割くらいしか出してないけどね!」
「そうかよ!あたしは半分も出してねえ!」
「四割!」
「三割!」
「その半分!」
「「だったら——!!」」
私とクリスちゃんの声が重なり、同時に動く。
クリスちゃんは両手のガトリングと腰部のミサイルを全開にして構え、私は〈バンカーシェル〉の炸裂で飛び出す。
そのまま身体を大きく捻って、蹴りに回転を加える、いわゆるひとつの旋風脚というやつです。
「「——これが
【
【MEGA DEATH PARTY】
「おおおおおああああッ!!!」
私たちの叫び声をかき消すほどの雄叫びが聞こえた気がした。
が、その程度で私たちの攻撃が止まるはずもなく、インパクトした私の必殺技とクリスちゃんの弾幕が炸裂し、耳をつんざくほどの爆音と、衝撃が辺りを揺らして、大気は暴風となって吹き荒れ、その雄叫びすらもかき消した。
爆煙の中、何かに当たった手応えだけを感じていたが、同時にさすがにやりすぎたとも感じた。
……まあ、そんな考えは杞憂でしたし、爆煙が晴れた光景を見て、私は目を疑いましたけどね。
「翼と響くんの次はお前たちか……何をやってるんだ、まったく……」
そこには、いつぞやの訓練の時と同じように私の一撃を受け止めている司令が、しれっと立っていた。
あ、でも前は受け止められたけど、今回はがっしり足を掴んでいる辺り、前よりは成長してるってことなんですかね。
いつも着ている赤シャツも肩口くらいまでボロボロになってますし、やりぃ。
「……なんで司令がここにいるんですか」
「お前たちが周りも見ないで勝手にヒートアップしてるから、止めに来たんだろうが」
そう言われて周りを見て気づきましたが、ノイズはほぼ殲滅していたのか、炭素の山が至る所に形成されていた。
今の一撃で舞い上がった炭素も含めれば相当数のノイズが私たちの戦いのついでに倒されたってことですね。
……いや、待って。
周りも見ずにクリスちゃんと戦っていたことは認めますけど、それを現場に来て止めるって考えおかしくない?
普通、通信とかでやめろと一言言えばいいのに生身でシンフォギア同士の戦いに割り込むとか何考えてるのこの人。
しかも、結果的に戦闘止めてるし。
やっぱ司令の強さおかしいですって。
ふと、司令の向こうを見れば、足元が砂利だというのにも関わらず地面が隆起して私がやったみたいに盾にしてますし。
クリスちゃんもありえねぇみたいな顔でこっち見てますし。
「ありえねぇ……」
ついには言っちゃいましたよ。
その気持ちはわからんでもないですけど。
見慣れた私でさえおんなじ気持ちですけども。
「ともかく、これ以上の戦闘は看過できん。そんなに戦いたいなら俺が相手になる」
「いや、それはいいです」
だからなんでこの人は当たり前のようにシンフォギアと戦おうとしてるんですか。
抑止力ですか?抑止力のつもりですか?この上ない抑止力ですね!畜生!
司令が遠慮はいらないぞと言って私が結構ですというやり取りを繰り返していると、クリスちゃんは呆れたようにため息を吐き、シンフォギアを解除して、背を向けて去って行こうとする。
「——クリスちゃん!」
司令を押し退けて去ろうとする彼女を呼び止めると、立ち止まって顔だけこちらを振り向いた。
「さっきお前が言った言葉。……本気なのか」
「……うん。私はクリスちゃんのことが知りたい。あの時泣いていた理由を知りたい」
「…………」
「もし私を信じてくれるなら、クリスちゃんが話してくれるまで待つよ」
「……そうかよ」
クリスちゃんは短く返事をすると、スタスタとまた歩き出す。
この場には、私と司令だけが残されて、去っていくクリスちゃんを黙って見送った。
「……俺は、またあの娘を救えないのか」
ポツリと、でもハッキリとした司令の呟きが聞こえた。
「……クリスちゃんのことですか?」
「ああ……」
『また』というのがいつのことを指しているかは、私にはわからない。
でも、何度も失敗してきた。そんな重みを感じた。
「なら、次こそ救い出してやりましょうよ、司令」
「小詠くん……」
幸か不幸か、私には記憶がない分、他人の思いを受け止めることはできる。
それで気持ちがわかることはなくとも、わかり合うことで、思いやることはできるはずです。
何も知らないよりは、その方がまだマシです。
「ひとりではできないことも、ふたりならできます。それでもダメなら三人、四人……何度だって救いに行きます」
どうにも私は諦めが悪いみたいなので、はいそうですか、と受け止められないらしい。
まあ、受け止められるっていうのも、それはそれでどうかと思うけど。
「無意識に人助けをしてしまうような娘が、私たちの敵のわけがないです。だから、クリスちゃんは私たちの仲間になれます。きっと」
「……フッ、そうだな」
悩みのタネが取れたように、満足そうに笑った司令は、その大きな手で私の頭を掴んでわしゃわしゃと撫でてくる。
頭がボサボサになるからやめてほしいんですけどね。
はいそこ、いつものこととか言わない。
「頼りにしてるぞ、小詠くん」
頭を撫でてくる司令に抗議の眼差しを向けようと顔を上げた刹那——
「……ッ」
——以前にも似たようなことがあったのか、誰かを空目した気がした。
逆光の中で顔はよく見えないが、辛うじて見える口元は微笑んでいる。
もしかしたら、私の無くした記憶の中にいる誰かの姿なのかもしれない。
ただ一つだけわかることは、その記憶の中の手も、今撫でてくる司令の手も、どちらも優しいものだということだけだった。