なにこれ。
なんですかこれ。
なんの罰ゲームですかこれ。
眩い光が収まるのを確認した私は目を開いたのだが、視界に飛び込んできたのはノイズに追い詰められたまま何一つ変わっていない状況と、いつのまにか制服が消し飛んで、白を基調とした
〈
「って、私……これのこと知ってるの?」
記憶はないというのに、今自分が身に纏うこの鎧がシンフォギアと呼ばれる対ノイズ用プロテクターであり、人類がノイズに唯一対抗するための兵器であると、理解していた。
まじまじと自分の身体を見ていると、痺れを切らしたのか一体の人型ノイズがこちらへ向かって飛び出してくる。
「!!」
まただ。
身体が勝手に反応した。
思考よりも早く身体が反射して動く。
左足を軸にしてその場で一回転、迫る人型ノイズの首に向かってハイキックを放った。
「って、首どこよ……」
頭も首も一体化している上、寸胴体型だから余計に分かりづらい。
ヒットした脚を振り抜いて、くの字に折れ曲がったノイズをそのまま地面に叩きつけると、炭素塊になって壊れた。
それが開戦のゴングとなったらしく、控えていたノイズたちが我先にと飛びかかってくる。
「うわわ!ちょっ、一斉に来ないでッ!!」
身体の形を変化させて、突撃してくるノイズをステップで躱すのだが、いかんせん数が多い。
躱されて地面や壁に激突したノイズは再び人型に形を戻すとその場でユラユラと揺れるだけだ。
どうやら他のノイズの攻撃を邪魔しないようにとでも考えてるんですかね。
なんだかそれがノイズの術中にハマって追い詰められているような気がしてきた。
「——————!!!」
そのうちの一体が、変な奇声を叫びながら再び私に向かって真正面から突っ込んでくる。
後ろに飛び退こうとして、自分が壁際に追い詰められていたことに気づいた。
ほらね、やっぱり罠でしょ。
上手いこと追い詰めたつもりだろうけど、そう簡単に倒される私じゃない。
逃げ道がないなら押し通るまで。
ファイティングポーズを取って構える。
真正面から迫るノイズを見据え、蹴りの射程に入った瞬間、先に動いたのは私だった。
その場で前宙を行いブラジリアンキックの要領ではたき落とすように上段から蹴りを叩き込む。
「潰れて死ねッ!」
【
インパクトの瞬間、撃鉄が落ちるように、脚部パーツの中でカートリッジが弾け、装甲の表面に紫電が迸る。
蹴りの衝撃に、爆裂の威力を上乗せした一撃がノイズの存在そのものを打ち砕いた。
炭素を通り越して粉微塵へと変貌したノイズは、装甲から放出された排熱と圧縮空気で舞い上がって空に消える。
「……すご」
自分でやっておきながら、その威力にドン引きしている自分がいた。
あまりに衝撃的すぎて小学生みたいな感想しか出てこない。
ていうか潰れて死ねって……。
咄嗟に掛け声みたいに叫んでみたけど物騒この上ない。
記憶を失う前の私って一体何者だったのだろう。
謎は深まるばかりだった。
——その時。
「……?」
歌が聴こえた。
草原に吹く風のように透き通った調べが奏でられる。
それは、私が詠った謳に似ていた。
違う点があるとすれば、それは言語としてまだ聞き取れるというところだろう。
「Imyuteus amenohabakiri tron」
それは、リディアン音楽院の方から聴こえてきた。
視線を向ければ、こちらに向かって走ってくるひとりの人影が見える。
リディアンの制服を着た彼女は、空よりも深い青色の髪を風に揺らしながら歌を紡ぐと、人間離れした跳躍力で飛び上がった。
歌に呼応するかのように胸のペンダントから放たれた眩い光が彼女を包み込み、そして次の瞬間には弾ける。
フワリと鳥が地上に降り立つように、姿を変えた彼女は流れるような動作で私の隣に降り立つ。
紺碧の刀を携えた彼女は、佇まいから雰囲気から、何から何まで洗練されきっているように感じ、その手に持った刀と同じく剣のように見えた。
「だ……誰?」
「話は後、片付けるわよ」
言うが早いか、青髪の少女はその手に携えた刀を構えるとノイズの群れに突っ込んで行く。
「あ、ちょっ!……ええ」
どうすればいいんだろう。
協力すればいいんだろうか。
「
「は、はいッ!」
怒られた。
どうやら協力するという選択肢が正解らしい。
私はその場で二、三度ジャンプをすると、クラウチングスタートのように地面に手をつくと、シンフォギアで強化された瞬発力と踏み込む瞬間に脚部のカートリッジを炸裂させて、弾丸のように飛び出した。
「真っ直ぐ行って蹴り飛ばすッ!!」
【
紫電の軌跡を大地に刻みながらノイズへ肉迫し、手近なヤツに勢いのまま飛び蹴りを叩き込む。
ボールのように吹っ飛んだノイズは軸線上の仲間たちをなぎ倒しながら壁に激突し、クレーターを作ると炭素となって霧散した。
「防人の一撃!しかと見よッ!!」
【逆羅刹】
ノイズの群れに飛び込んだ彼女は両足に装備されたブレードを展開すると、その場で逆立ちをして独楽のように回転を始める。
速度を増していくにつれ、切り刻まれるノイズが増え、そしてついに片手で逆立ちをすると手にした刀も加えてさらなる刃の嵐を作り出す。
その結果、道路にひしめき合うノイズの大半が炭素となったが、それだけでは終わらなかった。
「「……!!」」
生き残ったノイズが突如集まりだし、そして巨大な人型ノイズへと変貌を遂げた。しかも二体。
さしずめ巨人型ノイズとでも言うべきだろうか。
緑色の巨躯に、蝶ネクタイような顔、ハサミの形をした両手で、どっちかといえば特撮に出てくる怪獣に見える。
私たちの体躯など遥かに超える大きさのノイズはその巨体に違わぬもっさりとした動きでこちらに迫ってきた。
「……おっそ」
「油断は禁物よ。風鳴翼、推して参るッ!」
どうやら彼女の名前は風鳴翼というらしい。
翼さんは闘争心をむき出して刀を構えると、巨人型ノイズよりもさらに高く飛び上がった。
「え!?じゃ、じゃあ私も!」
彼女に合わせて飛び上がったのだが、別に勢い任せの無策というわけではない。
あの巨体に一撃を食らわせる技に心当たりがあったから、そうしたまでだ。
やっぱり私はシンフォギアを纏った戦い方を知っているらしい。
今度は見下ろす形となった巨人型ノイズへ私と翼が同時に技を放った。
「「ハァァァァァァッ!!」」
【
【天ノ逆鱗】
振り上げた右脚の装甲が巨大化する。
それに合わせて纏う装甲の色が白から青へ、青から紫へと変わった。
大きなハンマーを振りかぶるように、グルリと前宙をした私の身体に追従して、巨大化した脚部の踵落としを叩き込む。
稲妻を纏ったその一撃は、さながら落雷のようであり、北欧神話の神、雷神トールの振るう
激しい爆音と爆煙に飲み込まれた巨人型ノイズは稲妻にその身を焼かれ、巨大化した脚部に押し潰される。
遺るものは何もない。
あまりの威力にクレーターとなった大地と、それをやり遂げた私だけが立っている。
横を見れば、同じように巨人型ノイズを、巨大な剣で貫き、その上に立つ翼さんの姿があった。
まるで壁みたいだ。
「……壁みたいだ」
「
しまった。
また思ったことが口から出てしまった。
閉口、閉口。
念のため、もう一度辺りをぐるりと見回してみるが、ノイズは一匹残らず殲滅されたらしく、街中には再び静寂が訪れていた。
燦々と煌めく太陽の下、はじめての戦闘を終えた私は、緊張の糸が切れたのか、倒れるようにして青い空を仰ぎ見る。
「入学式……行きたかったなぁ……」
俗に言う高校デビュー失敗とはこう言うことを言うんだろうなー……。
これから先の高校生活が不安になってきた私だった。