少女の歌は雷鳴の如く   作:ハシタカノミコト

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ルナ・アタック事変
二度目の春


 

私がシンフォギア装者となり、リディアン音楽院の生徒になってから、早いもので一年が過ぎた。

初日から入学式をバックれた私は、当然だが高校デビューに失敗して、問題児の烙印を押された。

私のせいではないのに理不尽極まりない。

まあシンフォギア装者であることを隠さなければならない以上、他人と必要以上に深く関わるのは危険だと司令の弦十郎さんも言っていたから結果オーライというものだろう。

翼さんが学院だと常に単独行動しているのはなぜと思っていた私だが、それをきっかけに合点がいったのは言うまでもない。

リディアンであったことといえばこれくらいだ。

学生らしく学業が忙しかったと言いたいところだが、どっちかといえば装者としての方が忙しかった。喜ぶべきか悲しむべきか……。

まあ、お陰でシンフォギア装者としてはそこそこ実力が身についたと思うし、ノイズの脅威がなくならない限り変わらない日常になっていくのだろう。

 

そうして日々は過ぎていき、始業式から少し経った頃から、お話は始まる。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

眼下には夜の帳に包まれた郊外の公園が広がっている。

そこでは、もはや見慣れてしまった巨人型ノイズが我が物顔で暴れまわっていた。

足元には人型やカエル型ノイズがお祭りばりにわんさか集まっている。

被害を拡大させまいと一課の皆さんがやれ銃火器だの戦車だので攻撃しているが、奴らの持つ位相差障壁によって完全に無効化されていた。

そんな状況を、私と翼さんはヘリから見下ろしている。

 

「うじゃうじゃいますね!」

 

「……そうね」

 

ちなみに翼さんと肩を並べて戦うようになってから一年でもあるのだが、ずっとこの調子だ。

冷静というよりは冷たいの方がしっくりくる。

ここまで態度が変わらないと、もう嫌われてるんじゃないかと少し不安だ。

……いや、実際のところ、なんでこうなったのか理由は聞いている。

だが、理由を聞いたところで私に何ができるだろう。

記憶のない私には親友を失った悲しみも、その大切さもよくわからないというのに。

……いけない、今は作戦行動中、集中しなければ。

 

『二人とも!作戦開始だ!』

 

通信機を介して発せられた司令の号令に合わせて、私と翼さんは大空へ身を躍らせた。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

「—————————————」

 

胸に湧き上がる聖詠を謳う。

光に包まれた私たちの衣服が粒子となって消え、シンフォギアのスーツが、鎧がこの身を覆う。

二重奏となった旋律が夜空に響き、それは双極の流れ星となって、公園へと降り立った。

 

『よし、二人ともまずは一課と連携して相手の出方を見て——』

 

「いえ、この程度の相手、私ひとりで問題ありません」

 

『なっ、翼!』

 

言うや否や翼さんは刀を構えて飛び出していく。

司令が止める間も無く、戦闘が始まってしまった。

 

『……止むおえん。小詠君、翼のフォローを』

 

「つまりいつも通りってことですね」

 

『そうボヤくな。頼んだぞ』

 

「了解です」

 

翼さんを見れば、突撃して間もないと言うのに、すでに半数以上のノイズを炭素へと変貌させていた。

早すぎる……。

多分、この程度の相手なら翼さんひとりでも何とかなるんだろう。

でも、戦いになると翼さんはいつも死に急いでいるように視えて仕方ない。

それがどうしようもなく不安だった。

 

「でもこれ……私の出る幕なさそう」

 

空に飛び上がった翼さんが巨大化した剣で必殺技の【蒼ノ一閃】を放ち、巨人型ノイズを両断する。

激しい爆煙が立ち上り、辺りにノイズの反応は一匹も残っていない。

本当に出る幕がなかった。

私がシンフォギアを纏った意味とは——

 

「……ッ!」

 

——いや、まだだ。

難を逃れていたノイズが一匹、翼さんの後ろにいることに、私は気づいた。

巨人型ノイズの影にでも隠れていたのだろうか、どちらにしろ翼さんからは視えていないようだ。

 

「翼さんッ!」

 

紐状になったノイズが翼さんへ突撃すると同時に私は条件反射で飛び出していた。

〈バンカーシェル〉の炸裂で一気に加速、亜音速でノイズへと肉迫する。

 

「遅せぇッ!!」

 

BUNKER BLITZ(バンカー・ブリッツ)

 

亜音速のまま繰り出した音速に迫る蹴りは、衝撃波と轟くような大音響と共にノイズを文字通り粉々に砕いた。

 

「勝って兜の何とやらだ。油断したな風鳴」

 

「……鳴神、か?」

 

「——はい?どうかしました?」

 

なんでそんなに目を丸くして驚いているんだろう?

この程度の攻撃で驚くような人じゃないと思うけど、無我夢中だったからよく覚えていない。

けど、とにかく翼さんを助けることには成功したみたいだ。よかったよかった。

 

「いや、なんでもない。……助かったわ、ありがとう」

 

「いえいえ、背中はお任せください」

 

ポンと叩いて胸を張ってみるが、そこに翼さんの姿はない。

見回してみれば、いつのまにかシンフォギアを解除し、帰投準備に入っているではないか。

この場には、ドヤ顔で胸を張る奇特な格好の女だけがその場に残されていた。

 

「……悲しい」

 

いつになったら翼さんは心を開いてくれるのだろうか。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

そう言うこともあって、翌日。

翼さんを昼食に誘った。

無論、ただ誘うだけでは来ない可能性があったので、話があるとだけ伝えて呼び出した。

これを機に翼さんと私の間にある壁を取っ払って、せめて雑談ぐらいはできる関係になるんだ。

 

待ち合わせはもちろん食堂、席が埋まるといけないので、先に注文も済ませ席を確保し、翼さんを待つ。

 

(……遅い)

 

翼さんを待つこと約十分。

一向に翼さんが来る気配はない。

このままではせっかくのカレーライスが冷めきってしまう。

というかもう冷たいぐらいだというのに。

連絡を取ろうと携帯を取り出したところで、何やら食堂の入り口が騒がしいことに気づいた。

このリディアンで騒がしくなる要因なんてひとつしか考えられない。

視線を向ければモーゼの十戒のごとく混み合う食堂を分断して、凛とした佇まいで悠然と歩いてくる風鳴翼嬢が現れた。

 

「待たせたわね」

 

「いえ、全然」

 

「……嘘が下手ね、鳴神は」

 

「いやぁ根が正直なもんで」

 

冷めきったカレーを見て、冷めきった態度の翼さんと、そんなやり取りをしながら対面に腰掛ける。

 

「それで、話って?」

 

「話っていうか……一緒にご飯を食べたかっただけなんですけど」

 

「……は?」

 

「だって翼さんと組んでから一年経つっていうのに一向に心を開いてくれる気配がないじゃないですか、小詠さんはそれが悲しいのです」

 

「用がないなら失礼する」

 

「あああ待って!昼食まだじゃないですか!?せめて何か食べましょうよ!」

 

「昼餉ならもう済ませた」

 

「え……」

 

なんという誤算、詰めが甘すぎる。

 

「それじゃあ失礼するわ」

 

「あ……」

 

行ってしまった。

その名の通り風が吹くように、あっという間に終わってしまった。

なんとこの間約二分の出来事である。

食堂には私ひとりと冷めたカレーだけががポツンと残された。

なんか昨日のデジャヴを感じる。

 

「……冷たい」

 

カレーはやっぱり暖かい内に食べるに限る。

今度からは冷たいものを頼んでから翼さんを呼ぼう。

 

そう決心した私だった。……あれ?

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