少女の歌は雷鳴の如く   作:木野きのこ

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三人目の適合者

いやね。

ノイズって本当に空気読まないことに定評ありますよね。

私の入学式の時もそうだったけど、何かにつけてはうじゃうじゃうじゃうじゃと。

こっちの事情も少しは考えてほしいものです。

 

つまり何が言いたいかというと。

すごく気まずいんですよ。

翼さんとの交流会が失敗に終わったその日にノイズが出現して目下現場に急行中、しかも新しいシンフォギアの反応まであるらしい。

それを見た翼さんは何を思ったかバイクで現場に向かうなんて言い出す始末。

しかもすこぶる機嫌が悪い。

それだけならまだしも——いや本当はよくないけど、司令の指示でまさかのタンデムで向かうことに……。

颯爽と風を切る単車に跨り、現場に向かうまでのこの時間がたまらなく気まずいんです。

 

「あ、あの……翼さん?」

 

「……なに?」

 

「なんでそんなに血相を変えていらっしゃるんでしょう……」

 

「貴方ならあのシンフォギアが何かくらいは知っているでしょ?」

 

「え、ええ。まあ」

 

新しいシンフォギアというのには少し語弊があったかもしれない。

今回確認されたアウフヴァッヘン波形は〈ガングニール〉と呼ばれる聖遺物のものだ。

この〈ガングニール〉は二年前に亡くなった翼さんの相棒である〈天羽奏〉という人が纏っていたらしい。

つまり〈ガングニール〉の装者はすでにこの世に存在していないのだ。

だというのになぜ今になって適合者が現れたのか理由はわからない。

しかし、アウフヴァッヘン波形が確認された以上、誰かが"それ"を起動させたという事実は変わらないのだ。

だから、その起動した人間が誰かを見極めるためにも、私たちは現場に向かっている。

 

「あれは奏のギアよ……なのに彼女以外の誰かが起動していい代物じゃない」

 

「そういうものですか」

 

「……貴方には関係のない話だったわね」

 

「あ、いや、そういうつもりでは……」

 

ゔ……言葉にトゲがある。

怖い、翼さんめっちゃ怖い。

切れたナイフどころか切れた剣だこれ。

ほぼ一緒じゃないかって?剣の方がより物騒でしょうが。

 

「見えてきたわ」

 

郊外の工業区画に侵入した私たちの進行方向に、これでもかという数ノイズの大群が相も変わらず元気にユラユラと左右に揺れながら集まっている。

何が楽しくて日本昔ばなしのエンディングみたいに、いいないいなやってるんですかね?

理解に苦しみます。

 

「ノイズを突っ切ったらあなたは飛び降りなさい」

 

「翼さんはどうするんです?」

 

「何とかする……行くわよッ!」

 

スロットルを全開にしたバイクのエンジンが唸りを上げる。

後方からの奇襲に対応できないカエル型ノイズを蹴散らした先に、新たなる適合者の少女はいた。

たぶん、ここで飛び降りるべきだろう。

 

「とおッ!」

 

後ろに飛び退くようにしてバイクから華麗に飛び降りて、少女の近くに着地する——

 

「あ゛」

 

——とはいかなかった。

着地の際に足を捻ってバランスを崩した私は華麗に降り立つなんてことは出来ず、バイクの慣性を殺せないまま、盛大にコケた。

坂から転げ落ちる樽のごとく地面を転がり、最終的に少女の近くで制止する。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

大丈夫なわけがない。

すっごい痛い、できることなら今すぐ痛いって叫びたい。

でも私は助けに来たヒーローなのでそんな弱音を吐いてはいけないのだ。

 

「へ、へーきへーき」

 

うつ伏せのまま、サムズアップだけ返して答える。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

巨人型ノイズへバイクによる特攻を仕掛け、直前で空へと飛び上がった翼さんが、聖詠を謳いながら華麗に降り立ち、私の隣にいる新たなる適合者の少女を一瞥して前を向く。

 

「呆けない、死ぬわよ」

 

「あ、え、でも、この人は……」

 

「放っておきなさい」

 

「ちょっ、少しは心配してくださいよッ!」

 

「ほらね」

 

「ははあ、なるほど」

 

何がほらねですか。

うら若き乙女が鼻血を出して頭をボサボサにしているんですよ?少しは心配してくれてもバチは当たらないでしょうに。

あ、頭はいつものことか、失敬失敬。

 

「———————————」

 

さっさと聖詠を謳い、シンフォギアを纏う。

先にシンフォギアを展開した翼さんの隣に並び立ち、ぐしぐしと鼻血を拭った。

 

「そうだ、あなたの名前まだ聞いてなかった。なんて名前なの?」

 

「あ、えと、響です、立花響」

 

「響ちゃん、ね。じゃあここから先は私たちに任せて」

 

「でも……!」

 

「貴方はここでその女の子を守っていなさい!」

 

またひとりで全て片付けるつもりなのか、翼さんは刀を構えると、一気に飛び出していった。

本当にこの人は……。

響ちゃんに任せろとジェスチャーをした私は呆れつつも、同じように飛び出して、翼さんと肩を並べる。

そして——

 

「「ハァァァァァァッ!!」」

 

VOLT DISCHARGER(ヴォルト・ディスチャージャー)

 

【蒼ノ一閃】

 

——振り下ろした踵から発せられた紫電の衝撃波と刀の衝撃波がノイズの大群を打ち砕いた。

それでもまだ全滅させるには至らずに生き残ったノイズが紐状に変化して、突撃してくる。

 

「だからッ!一斉に突撃してくるなッ!」

 

ああ、本当に面倒くさい。

なんで一体ずつかかってこないんですかね。

私のシンフォギアって翼さんのとは違って通常攻撃は一対一向きなんですけど。

心の中で愚痴を呟きつつ、迫るノイズをステップで躱し、時にはカウンターを叩き込み、次々と粉砕していく。

その隙を突くようにして二体のノイズが響ちゃんと女の子に接近する。

 

「——いい判断だ、だが私が見逃すと思ったか?炭素共」

 

響ちゃんたちに背を向けたまま、両腕の装甲から射出されたアンカーが、ノイズを絡め取る。

そのまま力任せに引き剥がし、フレイル或いはモーニングスターのようにノイズの群れに叩きつけられた。

 

「……まただ」

 

一体何度目だろう。

戦闘でいっぱいいっぱいになるとどうしても語気が荒くなってしまう。

まるで自分の身体なのに、そうではないみたいだ。

手のひらをまじまじと見つめながら、そんなことを考える。

 

「お姉ちゃん!」

 

「!!」

 

女の子の逼迫した声が聞こえ、反射的に振り向くと、そこには新たな巨人型ノイズが現れていた。

 

(いつの間に……!)

 

挟まれる形になってしまった。

けど、この程度で追い詰められたというには少し早いかな。

 

「一体は任せるぞ鳴神ッ!」

 

「ま、任されましたッ!」

 

この距離で技を使えば響ちゃんと女の子にも被害が出る……。

私の〈武御雷槌〉は技が強力になる程、周囲への被害も甚大になるのだ。

ならば、私が狙うべきは距離の離れた方の巨人型!

〈バンカーシェル〉の炸裂で弾丸のように飛び出した私は巨人型ノイズの腹?のような部位に飛び蹴りを叩き込む。

だが、それだけでは終わらない。というかこの威力では巨人型は倒せない。

だから背中のブースターを点火し、推力でノイズを押し倒す。

 

「痺れて消えろッ!!」

 

VOLT COLIDER(ヴォルト・コレダー)

 

脚部装甲が展開し、無数の電極がノイズへと突き刺さる。

フォニックゲインが位相をズラして存在するノイズを現実の空間へと引き摺り出し、流し込まれた高出力の電流が深緑色の身体を焼き尽くす。

激しい閃光と稲妻が迸り、やがてノイズは炭素の塊となって自壊した。

炭を蹴散らしながら振り向けば、響ちゃんの近くに現れた巨人型ノイズは翼さんの【天ノ逆鱗】でその身を貫かれ、炭素の山に変わっている。

どうやら無事に終わったようだ。

私はつま先についた煤を振り払いながら一息をつくと、呆然としたままの響ちゃんたちの元へ向かった。


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