どういうことかというと。
こ こ か ら が 本 番 だ。
ブドウノイズを追っていたら、いつのまにか地下鉄を脱し、外へと出ていた。
そこは私が夕方までいた公園で、今は夜の帳が下りて静寂に包まれている。
「————————!!」
訂正、ノイズがめっちゃいた。
ブドウノイズから生まれたピンク色の人型とかカエル型ノイズがワラワラ集まってお祭りみたいになってる。
なんか無駄にノイズ多いなと思っていたけど、
「おのれフィクサーめ」
地下から出たことで、こっちの技に制限はなくなったからいいけど、こうも数が多いと面倒ですね。
幸い〈バンカーシェル〉は一発も使っていないので余裕はありますが、あの数を殲滅するとなると、地盤沈下を引き起こすレベルの一撃じゃないと厳しそうです。
「小詠さ〜ん!」
「えっ!?」
聞き慣れた声に振り返ると、そこには友達と流れ星を見に行ったはずの響ちゃんの姿があった。
しかもすでにシンフォギアを纏って臨戦態勢だ。
「ひ、響ちゃん!?なんでここに……!」
「ごめんなさい!でも、やっぱり放っておけなくて……!」
「響ちゃん……」
この娘は……本当にどこまでもお人好しなんですね。
自分が傷つくとわかっていても、他人のために行動を起こせるって、普通に考えてすごいことだと思います。
それゆえに、その真っ直ぐな信念が時折歪んで見えてしまう。
「まったく……!」
でも、その問題と目の前にある問題はまた別の話。
いつかは解決しなきゃいけない問題なんでしょうけど、今は目の前の問題を片付けます。
「——ついて来れる?」
「どこまでだって追いかけてみせます!」
「いい返事ッ!!」
両足の〈バンカーシェル〉が炸裂すると同時に、私と響ちゃんはノイズの群れに向かって飛び込んだ。
* * *
しかし、意気込んで戦いを挑んだまでは良かったが、最後の最後でおいしいところは、空からやってきた最後の刺客(ノイズ視点)の翼さんによって奪われてしまった。
ヒーローは遅れてやってくるってことですね。
仲間とここまで険悪になるヒーローも珍しい気がしますが。
「翼さん……」
ほら、響ちゃんもどんな顔していいかわからなくて困惑してるじゃないですか。
「やっぱり私は、あなたを受け入れられない」
「え……」
「戦う覚悟もないあなたに、私は背中を預けられない。だから——」
フワリと着地し、振り返った翼さんが刀の切っ先をこちらに向ける。
その時だった。
「だからァ?んでどうするんだよ」
静けさに包まれた公園に、突如として女の子の声が響いた。
夜空の雲が流れて、月明かりが差し込み、夜の帳を振り払う。
暗闇から姿を現したのは、白い鎧を纏い、紺碧のバイザーで素顔を隠した、私たちと年はそう変わらなさそうな少女だった。
「ネフシュタンの……鎧……」
「ネフシュタン?」
確か、以前聞いたことがあります。
二年前にツヴァイウィングのライブ中に暴走して、消失した完全聖遺物だと。
その時に、二課に保管されていた完全複合聖遺物であり、私が纏うシンフォギアでもある〈武御雷槌〉も同様に消失したんでしたっけ。
ということは、今この場には二年前に装者を失った〈ガングニール〉と消失した〈ネフシュタンの鎧〉、〈武御雷槌〉が一堂に会しているということですか。
奇妙な運命の巡り合わせですね、同窓会を開くなんて聞いてませんよ私。
「へえ、てことはアンタ、この鎧の出自を知ってんだ」
「……私の不始末で奪われた物を忘れるほど無責任な人間ではない!」
……いけない。
さっきまでの冷静さがなくなっている。
無責任ではない点には同意するけど、翼さんは責任感が強すぎるきらいもありますからね、悪い方向に向かわなければいいんですけど。
「何より、私自身の不手際で亡くした命を忘れるものかッ!!」
「ああそうかよッ!」
刀を構えた翼さんが、弾丸のように飛び出す。
対して謎の少女は迎え撃つために構えているが、翼さんよりは冷静に物事を見据えている気がする。
この場合、私が取るべき最善の行動は——ッ!!
「はぁッ!!」
〈バンカーシェル〉の炸裂で翼さんよりも速く襲撃者の少女との間に割り込み、振り下ろされた鞭をサマーソルトで弾いた。
「なにッ!?」
「鳴神!?」
「翼さん!少し落ち着いてください!」
感情に任せて動いたら悪い方向に進みかねない。
何よりも、シンフォギア対完全聖遺物なんて今まで一回も経験がないんです。
なにが起こるか想像もつかない以上、軽率な行動は控えるべきだと私は思いますね。
「そうです!落ち着いてください!相手は人です!同じ人間じゃないですか!」
響ちゃんグッジョブ!
そのまま抱きついて翼さんの動きを封じてほしい。
「「
おおう、ハモって怒られてる。
「むしろ、あなたと気が合いそうね」
「だったら仲良くじゃれ合うかいッ!?」
あれ、女の子の方も結構ヒートアップしてません?
意外と戦闘狂なんですかというかその鞭の攻撃って間に入った私にも当たるコースですよねって——うぉぉぉぉ!?ちょっ、おま、問答無用ですかァーーッ!?
再び振り下ろされた鞭の一撃を横っ飛びで躱す。
後ろにいた翼さんも響ちゃんを突き飛ばして回避し、戦闘が再開された。
ああもう!やっぱりこうなっちゃうんですか!
話を聞いてくれる雰囲気でもないし、実力行使してでも止めるしか……。
【蒼ノ一閃】
空中に飛び上がった翼さんの振るった刀から発せられた蒼穹の衝撃波が少女に迫るが、鞭の一振りであっさり軌道をそらしてしまう。
続けて空中から鷹のごとく強襲を仕掛けるが、鞭で防がれ蹴り飛ばされた。
「「翼さん!」」
——強い。
完全聖遺物のネフシュタンの鎧の出力もそうですけど、あの娘の戦闘センスも突き抜けて高い……!
実戦経験が一番長い翼さんが、ああも簡単にあしらわれるとは。
翼さんが洗練された剣ならば、彼女は抜き身の刃とでも言えばいいだろうか。
近づくものすべてを傷つける、そんな感じだ。
とはいえ、仲間がやられて黙っているわけにもいかないので、ちょっとばかりお灸を据えてやりましょう。
「
【
紫電の衝撃波を少女に向かって放つ。
それを目くらましにして、衝撃波を振り払うと同時にッ——!!
「へえ、お前も遊んで欲しいのか!?」
左足を軸にして回転、鋭い回し蹴りを叩き込もうとするが、身体を逸らして躱される。
「ならッ!」
今度は右足を軸にして逆回し蹴りだッ!!
「甘ェよ」
「!?」
しかし、読まれていたのか、片手で止めらてしまう。
嘘でしょ……タイミングは完璧だったはずなのに!?
「おらよッ!!」
「カハッ——!?」
力任せに空中にぶん投げられ、振るわれた鞭が直撃して、盛大に吹っ飛んだ。
距離にして約百メートル離れた位置まで飛ばされ、木に激突して止まる。
「痛った……ッ」
防御フィールドである程度軽減されているとはいえ、ダメージは入るし、気分的にも痛いものは痛い。
「小詠さん!」
「お呼びではないんだよ。コイツらでも相手してな」
あの娘の持ってる杖からノイズが現れた!?
どういうこと……?ノイズは自然発生するものなのに、どうして……!
「その子にかまけて、私を忘れたかッ!!」
「ハッ!お高く止まってのぼせ上がるな人気者ッ!!」
「何を……!」
「誰も彼もが構ってくれると思うんじゃねぇ!!」
「お高くとまってるのはどっちだッ!!」
【
稲妻のごとき勢いで、少女へと肉迫する。
細かいことは無視だ。一点突破で叩きのめす!
目の前で着地と同時に〈バンカーシェル〉を炸裂。
急ブレーキをかけて、慣性の勢いを上乗せするッ!
「月までぶっ飛べッ!!」
「邪魔すんなよ!いいところなんだから!」
しかし、相手の虚をつくために蹴りではなく右ストレートで殴りかかることを選んだというのにガッチリと拳を掴まれ、防がれてしまった。
(防がれた!?)
「お前もこの場の主役と勘違いしているってんなら教えてやる。狙いはハナっからコイツを掻っ攫うことなんだよ」
そう言って、ノイズに捕まった響ちゃんを指差す。
……そういうことですか。
響ちゃんはガングニールの欠片と融合した融合症例第一号って言われてましたね。
聖遺物と融合した人間なんて珍しい事この上ない、だから狙っているってわけですか。
「だったら私もターゲットのはずですッ!」
私だって胸に〈武御雷槌〉の欠片を埋め込まれた融合症例第零号なんですから。
「お前はイレギュラー過ぎていらないんだとよッ!!」
「くっ……!」
そう言われるとなおさら響ちゃんを渡すわけにはいかなくなる。
それに翼さんもいい加減解放しないと……!
「翼さん!今助けます!」
「それには……及ばない」
「え」
スッと。
流れるような動作で剣を持ち上げる。
「!!」
天に向かって掲げられた動き、間違いない。
即座に反応した私は、掴まれている手を振り払い、バック宙で一気に距離をとった。
次の瞬間、空から無数の刃が少女に向かって降り注ぐ。
【千ノ落涙】
「そんな攻撃!」
再び鞭の一振り。
自分に当たる軌道の刃だけを器用に弾いてみせる。
でも、これで隙ができましたッ!
「脇がガラ空きだッ!!」
【
一気に距離を詰め、ミドルキックを叩き込む。
ついでにシェルの炸裂付きだ!
「連携とはちょせぇことを……!」
ぶっ飛ばされた少女が空中で態勢を立て直して着地する。
〈バンカーシェル〉の衝撃でヒビが入り、砕けたネフシュタンの一部の破片が舞っていた。
どうですか、一矢報いてやりましたよ。
これで悪い流れは断ち切れたはずです。
「合わせろ、鳴神ッ!」
「はいッ!」
立ち上がった翼さんが刀を構え、私は〈バンカーシェル〉の次弾を装填する。
両サイドに散開した私たちは、少女を挟み込む形で飛び込んだ。
「「ハァァァァァァッ!!」」
翼さんは縦一直線に刀を振り下ろし、私は飛び上がって全身を回転させてその勢いのままに蹴りを繰り出す。
「舐めるんじゃねぇッ!!」
私たちの一撃がほぼ同時に直撃する。
大地が陥没するほどの衝撃が地面を揺らした。
それでも、少女を倒すには至らない。
刀に鞭を巻きつけて軌道を逸らされ、鞭を巻きつけた右腕が私の蹴りを防いでいた。
「なっ!これでもダメなの!?」
「この強さ、本物か……!」
決して油断していたわけではない。
この娘が私たちの予測を上回っていただけのことだ。
それでも、必殺の一撃を防がれたのはちょっとショックではある。
「ここでふんわり考え事たぁ度し難ぇ!!」
弾かれた私たちは、竜巻のように渦巻く鞭によって吹き飛ばされた。
「ガッ——!」
また木に激突してしまいました。
今度は後頭部から行っちゃったせいで意識が朦朧とします。
ドサリと地面に落ちて、霞む視界の中翼さんたちの方を見れば、いつのまにかノイズの大群に囲まれていました。
「つ、翼……さん、響……ちゃん」
駆けつけようにも身体が動かない。
叫ぼうとしても声が出ない。
何も——何もできない。
「Gatrandis babel ziggurat edenal——」
遠のく意識の中、月明かりの下で大いなる歌を歌い上げる翼さんと、そのメロディが聞こえた気がした。
* * *
——翌日。
私は二課の医務室でベッドで目が覚めた。
痛む頭を抑えて起き上がると、お見舞いに来てくれた司令から昨晩の事を色々話された。
戦闘は収束したが、ネフシュタンの鎧を纏った少女は取り逃がしてしまったこと。
響ちゃんは無事だった事。
そして、翼さんが入院して、生死の境を彷徨っていることを知らされることとなった。