特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
イカ素麺美味しかった…………!
唸るタコの足を見た瞬間、凪はすぐにその場を離れた。
地面から生えてきたそれは明らかに普通のタコの大きさではない。その上鎧を着けているのだから間違いなくカルカッサファミリーの奥の手というやつなのだろう。
隼人の方も一瞬遅れたもののすぐさま現状を把握する。
凪より反応が遅かったとはいえ、この場に居るマフィア達よりも反応が早い。特訓の成果が出ている証拠だろう。
「まさか…………伝説の怪物クラーケン、もしくはリヴァイアサンか!?」
とはいえ、元々オカルトやら
生来の頭の良さもこうなってしまっては使い物にならないだろう。
凪は幼い少年のように瞳を輝かせてタコの足を見ている隼人に辛辣な評価を下しつつ、タコの足に向かって突貫する。
「爆弾の人! 援護をお願い!!」
「ん、お、おお。分かった」
手に持った刀の刀身に
タコの足は自らに迫り来る凪を捕らえようと振るわせる。
「果てろ、ロケット・テンペストボム!!」
そこを隼人が嵐属性の死ぬ気の炎を灯した8本のロケットボムで攻撃。
それぞれの足に一本ずつ攻撃を加えて動きを止める。ついでに嵐属性の炎の特性である分解のダメージも与えた。
「時雨蒼燕流・攻式八の型」
隼人が作った隙を凪が見逃す事は無く、動きが止まったタコの足に刃を振るう。
「篠突く雨」
繰り出される連撃を容赦なくタコの足に叩き込む。
霧属性の死ぬ気の炎は七つの属性の中で最も多様性及び利便性、そして特殊性に優れている反面攻撃性能というものが欠けていた。
だがそれはあくまでも死ぬ気の炎の中での話。一番攻撃力が弱い霧属性の死ぬ気の炎でも、それを拳に纏った状態で殴れば人体など簡単に破壊出来る。剣に纏わせた上で一点に集中させれば鋼鉄を焼き切る事など造作も無い。最も義兄である沢田綱吉や兄弟子である少年は死ぬ気の炎を使わずとも斬鉄を行う事が出来る例外も居るのだが。
とは言え、いくら怪物とはいえ所詮生物に過ぎない、それも軟体動物である巨大タコの足を斬る事など二人程実力が無い容易いものだった。
――――そう、考えていたのだ。
ギャリィンとまるで金属が削れるような甲高い音が響き渡る。
その音が鳴ったのは柔らかい筈の巨大タコの足と凪の刀がぶつかり合ったのが原因だった。
「…………嘘っ?」
巨大タコの足には鎧がある。だがそれは足全体を覆っているわけでは無い。
だから斬れる、斬ることが出来る。そう考えていた凪だったが現実は残酷なまでに無慈悲だった。
ダメージが無かったわけではないが、ダメージ程度では何の意味も無いのだから。
「がっ!!?」
「――――凪っ!?」
再び動き出したタコの足は鞭のようにしなり、凪に対して叩き付けた。
それによって凪の身体は氷塊に叩き付けられて何度かバウンドし、ボロ雑巾のように転がる。
最悪死んでいてもおかしくないような酷い怪我、明らかに戦線復帰は不可能だろう。
「っ、野郎!! 2倍ロケット・テンペストボム!!」
凪が倒されたのを見た隼人は怒りの形相で16本の嵐の炎が灯ったダイナマイトをタコの足に向けて投擲する。
だがタコ足はそれが爆発するよりも先に隼人の身体を叩き潰した。
+++
「うわぁ…………酷い」
叩き潰されて蹂躙される自分達の姿を遠目で視界に収めながら、凪は顔を青褪めながらそう呟いた。
「幻覚で私達を作ってけしかけなきゃ多分ああなっていたと思う」
「…………っち、悔しいが凪…………お前の言う通りだよ」
目の前で蹂躙されている自分達の有幻覚の姿を見ながら隼人は悔しそうに顔を歪める。
戦いの最初から幻覚だったわけじゃない。最初の攻撃をした時点では実体だった。
だが攻撃した瞬間に今の自分達では勝てない事に気が付いた凪がすぐさま幻覚を作り、隼人を連れて逃げる事にしたのだ。とはいえ、ただ逃げたわけでは無い。現時点では勝てないのは事実だ。が、それはあくまで現時点での話。
相手の能力、強さ、そして弱点が分かれば状況は変わる。
その為に幻覚で相手の情報を少しでも引き出す。
「取り敢えず今はあのタコの情報を集めよう」
「だな…………」
凪の言葉に同意しつつも隼人は浮かない表情をしていた。
分かっていた事だが自分はこの少女よりも遥かに弱い。死ぬ気の炎の練度が、使い方が、量が、質が違う。当然ではあるが覚えて一週間も経っていないような自分とは違い、長い間使ってきた事が分かるぐらいに熟練されている。
だからといって、それに劣等感を抱かないわけではないのだ。
隼人はそう考えながら隣に居る凪と同じようにタコの足を眺めていると、突如凍り付いた海面に亀裂が走る。
そして凍った海面が割れて、今まで足だけしか見せていなかったタコの頭部が姿を現す。
「ゲホッ! ゲホゴホガッハゲボファアアア!!」
ついでにタコの頭部に乗っかっていたフルフェイスヘルメットにライダースーツ、そして紫色のおしゃぶりを付けた赤ん坊が激しく咽ていた。
「ど、何処のどいつだぁ!! いきなり海面を凍らせやがった奴は!!」
長時間、常人であるならばとっくのとうに溺死しているであろう時間を海中で過ごしていたのにも関わらず、ぴんぴんした様子で怒り狂っていた。
「銀髪の人、あの赤ん坊…………」
「ああ。あいつはアルコバレーノだ」
二人は赤ん坊の胸元にある紫色のおしゃぶりに視線を向ける。
常人であれば、超人であっても死ぬ事は免れないというのに生きていた。
つまり、あの赤ん坊こそアルコバレーノ・スカルであるということだ。
「なんか、想像していたのと違う。なんか、三下過ぎる」
「リボーンさんと違って威厳ってものが感じねぇな」
視界内に映る小物臭が隠せないスカルの姿に二人はそれぞれ酷評する。
だが同時にさっきの攻撃が失敗したのはこの赤ん坊の仕業である事を知る。
かなり見え辛いがスカルの身体から紫色に燃え上がる雲属性の死ぬ気の炎が出現している。
恐らくあの炎をタコの足に纏わせることで強化してさっきの攻撃を防いだのだろう。
見た目や口調、全身から
「だけどよ、あのタコが厄介過ぎるだけで本体はそこまで強くはねぇな」
隼人はタコを操っているスカルの姿を観察しながらも評価を下す。
あのタコが脅威なだけで、スカル自身の戦闘力はそこまででも無い。
「多分だけど強さ以外に何かしらの奥の手があると思う」
取り敢えずあのタコ、もといスカルの弱点を観察して見つけよう。
二人がそう決めた時だった。綱吉が刀を片手にスカルが居る方に歩いていくのを見たのは。
まるで緊張していない様子の彼はさも当然と言わんばかりにスカルに近付いていく。
「ちょっ、ボス!?」
「10代目!?」
二人はそんな綱吉の姿を見て思わず声を上げてしまう。
幻覚で姿を隠しているからこそ、スカルにはバレなかったが綱吉は違う。
遠くの場所で戦っていた綱吉は凪の幻覚で姿を隠していない。
「お、お前だな!! 海面を凍らせたのは!! 海中で待機していたせいで溺れたじゃねぇか!!」
スカルは綱吉の姿を見た瞬間、明らかに怒っていると言わんばかりに怒声を上げる。
「不死身のスカルっていうぐらいなんだから、海の中でも平気だと思うんだが」
「死ななくても苦しいものは苦しいんだよ!!」
それに対し綱吉は笑みを浮かべたまま語り掛ける。
「でもまぁ、うん。やっぱりアルコバレーノってタレ眉含めて超人揃いだな」
「た、タレ眉!!? お、おい…………それってまさかリボーン先輩のことを言ってるんじゃねぇだろうな?」
「へぇ、そう思っていたんだ。俺はタレ眉としか言ってないんだけどなぁ」
その言葉にスカルは凍り付いてしまう。
「ああ、大丈夫大丈夫。スカルがタレ眉の事をどう思っていようが俺にはどうでも良い事だから。でも何かの拍子で口を滑らせちゃうこともあるかもしれないからね。だからさ、ここでの事は何もかも忘れてあげるからスカルもカルカッサの連中を連れて帰りなよ。今なら許してあげるから」
(こ、こいつ…………オレを脅してやがる!!)
綱吉の口から語られた言葉にスカルは戦慄する。
そして同時にこうも思った。コイツをこのまま生かしていたらきっと大変なことになると。
と、いうかリボーン先輩の事をタレ眉と罵倒するこの子どもを生かしていたらきっと自分も酷い目にあう。
その事を理解したスカルはこの得体の知れないガキを倒そうとタコに命令を下す。
「はぁ、どうしてこうなるんだろうか。親切で言っているのに」
綱吉は自らに迫り来る触手を視界に収めながら溜め息をつく。
「血も戦争も好かない。暴力だって本当は嫌いだ。まぁ、ルールがある試合や戦いで殺し合いが目的じゃないのなら話は別だけど」
そう呟くと同時に綱吉は跳躍し、刀を走らせる。
すると綱吉を捕らえようとしていた四本のタコの足が斬り落とされた。
「まあ、そういうわけだアルコバレーノ・スカル。今からお前を死ぬ気で倒す」
鋼鉄すら焼き切る斬撃を防いだ足を、綱吉はいとも簡単に斬り捨てる。
その事実に幻覚で身を隠していた二人は驚きに満ちた目をして綱吉を見つめる。
額から出現している大空の死ぬ気の炎でよく見えないが、額に揺らいでいる炎のような赤い痣が出現しているのを見えた気がした。
ファンタジー世界であるのだから技術であるならば再現は可能です。
でも主人公は波紋の再現出来なかったのです。
関係は無いですが技術の中には両立できないタイプの技もありますからね。
既に使ってしまっているのだから当然ですよね。