特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
それでは本編どうぞ。
やべぇ、マジやべぇ。
語彙力が低下して何を話したら良いのかが分からなくなる程に今の現状はやばいと超直感が告げていた。
実際、超直感が無くてもこの状況は不味いと理解出来るだろう。
「急に黙んな」
「問答無用で銃をぶっ放すなよ。理由も理不尽過ぎるし」
自らに向かって放たれた弾丸を斬り捨てる。
本当に恐ろしい赤ん坊だ。いや、アルコバレーノになる前は普通に大人だったからそれも当然と言うべきか。
少なくとも真っ当にやりあったところで俺がリボーンに勝てる確率は皆無に等しい。あったところで小数点以下だ。
独学で修行してはいたもののこれはちょっときつい。
まぁ、それはあくまでリボーンが俺を殺すつもりで戦い、俺の方も真っ向から戦いを挑んだ場合の話だ。
誰がまともにやるものかこんな奴相手に。
心の中で逃げる算段を立てているとリボーンはニヒルな笑みを浮かべる。
「どうしたタレ眉。いきなり笑って…………何か変なものでも食べたのか?」
「お前には地獄を見せる事は確定だが、中々良い目をしてるな。オレと対峙してまだ勝ち目があると思っているだろ」
「思っているわけじゃ無いよ。戦ったところでほぼ負けるだろうし。でも倒すことと勝つことは別の話だ」
俺の勝利条件はリボーンから逃げること、倒す必要が無いなら勝ち目は十分にある。
戦闘力で劣っているのは事実だが、単純な速度はこっちの方が上だ。
ただ普通に逃げるだけじゃ多分捕まるだろうから凪と獄寺君と連携して足を止める必要がある。
それでも成功率は決して高くは無い。が、リボーン相手ならばこれでも高い方だ。後はそれを少しでも成功できるように確立を上げて、幸運の女神とやらに祈りを捧げて成功を祈るしかない。
そうと決まれば早速行動しよう。内心そんな事を考えていた時だった。
リボーンが口を開いたのは。
「そうか。まだ逃げるつもりがあるということだな。今までも沢山の生徒を育てたがここまで反骨精神溢れる問題児は初めてだぞ」
「良かったじゃないか。何事も経験が大事だし」
そう呟いた瞬間、リボーンが持っていた拳銃の撃鉄が鳴った。
恐らく下手な事を言えばあの銃に込められた弾丸が俺自身に襲い掛かるだろう。
「それで、一体何がおかしいんだ?」
「さっきから仲間の方に意識を割いていたみたいだがな、オレは一人で来てる訳じゃ無いんだぞ」
「あ」
リボーンの言葉を聞いて、獄寺君がら聞いた話を思い返す。
『ちなみに参加しているアルコバレーノはコロネロ、バイパー、
その言葉を思い出した瞬間、爆音が鳴り響いた。
音が聞こえた方向に視線を向けると、そこには三人の赤ん坊が凪と獄寺君の二人を襲撃していた。
いや、既に戦闘は終了していた。
「凪!? 獄寺君!?」
地に倒れ伏す二人の姿を見て叫んでしまう。
「うぐ、じ…………十代目」
「ボス…………ごめん、なさい」
「おいリボーン! こっちは終わったぞ、コラ!」
青いおしゃぶりをつけたアルコバレーノ、コロネロはそう言い放つ。
「スモーキンボムの獄寺隼人、沢田綱吉の義妹である沢田凪。二人ともかなりの実力者でした。また手合わせをしたいですね」
「全く、術師だったなんて…………探すのに手間が掛かりすぎたよ。本当に割に合わないよ。後で文句を言って金をふんだくってやる」
コロネロの言葉に赤いおしゃぶりのアルコバレーノ、
「サンキュー」
「なっ、なっ、なっ…………いくらなんでも大人気なさ過ぎるだろっ!! お前に人の心は無いのか!?」
リボーン以外のアルコバレーノが俺の事を探しているのは知っていた。
だけどそれはそれぞれ単独で探していると思っていた。と、いうかエゴの塊であるアルコバレーノ達が徒党を組んでいるなんて考えられなかった。
特にリボーンはプライドが高過ぎるところがある。風ならまだしもコロネロとバイパーが手を組むなんて滅多な事が無い限りありえないだろう。いや、コロネロは意外とありえそうだけど、家出した子ども捕らえる為に助力を求めるなんて思えない。
あのプライドの塊としか言いようが無いリボーンが、そんな事をするとは思えないのだ。
一体何があのリボーンをそこまで駆り立てたのか。
「面白い事を言うなダメツナ。心があるからこそ、お前が絶対にされたくない事をある程度は予測し、実行する事が出来るんだぞ」
「性質悪いな」
「日本にはこういう言葉があったな。他人が嫌がる事は進んでやれって」
「意味が違うよ」
これがアルコバレーノ・リボーン。
噂通りの傍若無人っぷりに加えて鬼畜の極み、サディストの極致。
本当に厄介な相手だよ此畜生。しかもリボーン以外にも三人のアルコバレーノが居るとか、無理難題にも程がある。
盛大に溜め息をついて、刀と槍を手に取る。
「謝らなくて良いよ凪、獄寺君もそんな風に心配そうな顔をしないで。これはただの不運だ」
超直感に従ってマフィアランドを出ようとした矢先にカルカッサファミリーの襲撃を受けた。
そのせいでマフィアランドから出る事が出来なくなり、結果としてリボーン達の襲撃に間に合わなかったというだけなのだ。
ただ、それだけの話なのである。
起こってしまったものはもうしょうがない。ならばどうするべきなのか――――その結論は既に出ている。
「だからちょっと休んでて。すぐにこいつ等を倒すから」
倒れ伏している凪と隼人にそう告げた瞬間、通常の死ぬ気モードから
額から出ている大空属性の死ぬ気の炎は更に激しく燃え盛り、透き通った宝石のような純度に変化する。
そして額に浮かんでいた痣が濃く広がり、身体にも出現する。
超死ぬ気モードと痣が出るレベルで鍛え上げられた全集中の呼吸・常中の同時使用。
負担は結構あるが、まぁそれは気にしないで大丈夫だろう。
「――――――ッ!」
身体から溢れる威圧感に真正面から向かい合うリボーンは僅かに顔を顰める。
「成る程、それが舐めた態度を取るわけか」
「別にお前を舐めているつもりは無いんだけどな」
「オレが家庭教師としてお前の家に来た当日に行方を晦まして、それから暫くの間はあっちこっちで大騒ぎを起こしていやがるんだ。これを舐めていると言わずに何て言う?」
「問題ごとが向こうからやって来るんだから仕方がないだろ。それに」
「それに?」
「俺の前で俺を怒らせるような事をする奴が悪い。目の前で子どもが殺される光景を見て黙って逃げ出すなんて選択、俺の中には存在しない」
俺がそう言い放つとリボーンは僅かに笑みを浮かべる。
「それで、オレ達を倒すとか言っていたが本気か?」
「本気だ。と、いうかこの状況だとそれ以外の方法が無いんだが」
少なくともアルコバレーノ四人とのボスラッシュとか地獄としか言いようが無い。
だから真っ当じゃない方法をやる。
成功すればリボーンを倒す事が出来る素敵な策だ。失敗したとしても普通に戦う事になるだけだ。
「だが、まぁ…………那由他の果てに勝機が一つある。ならそれだけで十分だ」
「お前馬鹿だな」
「馬鹿だよ。じゃなきゃこんな事していないからなぁ!!」
槍を宙に放り投げ、刀を構える。
両の足に力を込めて踏み込み、左手の死ぬ気の炎の推進力と組み合わせてリボーンに接敵する。
「円舞一閃!!」
「成る程、中々速いな」
死ぬ気の炎を纏った刃を峰打ちにしてリボーン目掛けて振るう。
リボーンは形状記憶カメレオンのレオンが変形した十手で受け止める。
ガキンと金属がぶつかり合う音が鳴り響き、互いの武器が火花を散らす。
「だがまだまだあめぇな」
ニヒルな笑みを浮かべながらリボーンは銃口を此方に向ける。
それを見て俺は思わず笑みを浮かべる。本当にやり辛い相手だ。
そう考えながら俺は集中力を高める。するとリボーンの身体が透き通って見えるようになる。
「リボーンの方こそ、な!」
正直な話、リボーンは俺なんかよりも遥かに強い実力者だ。
実戦経験は勿論、戦闘能力、身体能力、そして才能に能力。それら全てを極めに極めた文字通りの天才だ。
その上、殺気を弄び相手の攻撃を読む力がある。
正直な話、真っ当にやり合って勝ち目なんか欠片も無い。
だからこそ――――殺気を発さない、無我の境地とも至高の領域とも呼ばれているこの透き通る世界が必要だった。
「なっ!?」
リボーンの肉体に左手で作った氷の刃を叩き込む。
身動きを取れないように凍結するのと同時にリボーンをぶっ飛ばす。
殺気を弄ぶのなら殺気の無い、それでいて集中した一撃を叩き込めば良い。
口にするだけならば簡単だが実行するのは本当に難しい。だがしなければ負けるのはこっちなのだから。
「ぐっ!!」
斬り払われた事によりリボーンは宙を舞う。
空に吹き飛ばされる彼とは正反対に最初に放り投げた槍がくるくると回転しながら落ちて来る。
落下してくるその槍の石突部分に蹴りを叩き込んで蹴り飛ばす。
同時に死ぬ気の炎を送り込んで穂先に炎を灯し、より威力を高める為に鎧のように纏わせる。
「遣らずの雨改め、遣らずの日輪!!」
死ぬ気の炎を帯びた槍は宙を舞っているリボーンに直撃。
盛大な音と共に大爆発を引き起こした。