特別だからって世界を救う義務は存在しない。   作:霧ケ峰リョク

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大分遅くなっちゃってすみません。
二月はちょっと休みが無かったものでして、その上リアルで風邪ひいたり体調崩したりしてました。
いや、二月は地獄でしたねはい。

取り敢えず先に言っておきます。
2、3話で終ると言ったな――――あれは嘘じゃ。
予定だと今回で終わるつもりだったんですけど何故か長くなっちゃいました。
恐らく後2~3話かかります。
それまでもうちょっとお付き合いください。


逃亡生活その13

凪がこの家に来て家族となり、俺の義妹になって三年ぐらいの時が過ぎた。

最初はオドオドしていて自分の意見をはっきりと言う事が出来ないでいた凪だったが、本当に明るくなったものである。

正直な話、幼少期の頃からコミュ症を拗らせていたから彼女の将来をかなり心配していたのだが、どうやらその心配は無用なものだったようだ。

元々が大人しい気質をしていたとはいえ、凪が暗くなってしまったのは決して良好とはいえない家族関係が、はっきり言ってしまえば殆ど育児放棄されていたのが原因だった。逆に言えばそれらの原因が無くなり、解消してしまえば少なくとも暗くはならないだろう。

その結果、取り返しがつかない事になってしまったのだが、まぁそれはどうでも良い事だ。

 

クローム髑髏(骸に救われた少女)沢田凪(俺が助けた少女)

 

何方が幸せだったかは分からない。分岐点はとうに過ぎ去り、既にIF(もしも)となった。

クローム髑髏に聞けばきっと骸に救われたから幸せだったと答えるだろうし、沢田凪に聞けばきっと俺が助けたから幸せだと言うに違いない。

これでクローム髑髏でも沢田凪でも無い、ただの■■凪に聞けば分かるのだろうが過去に戻る術は無いし、その問いを彼女に投げかけたところできっと無意味な物でしかない。

心の奥底に残ったこの僅かな後悔は胸の内に押し込めておくことにしたのだけれど、一つある疑問が頭に浮かんだ。

 

「凪はさ。何で俺の事をボスって言うの?」

 

風呂場にて凪の頭を洗いながら、彼女に抱いた疑問を尋ねる。

クローム髑髏が俺の事を、沢田綱吉の事をボスと呼ぶのは分かる。

だけど彼女は沢田凪だ。正直な話、凪が俺の事をボスと呼ぶ理由が分からない。

 

「ダメ?」

「いや、ダメじゃないんだけどさ。ただお兄ちゃんだと思われてないのかなって」

 

血の繋がりが無いとはいえ、俺は凪の事を妹だと思って可愛がっている。

だからもしそうだったらちょっとショックである。

 

「だって、私にとってボスはボスだから」

 

凪は髪の毛を洗われながらそう呟いた。

 

「どうしてボスなの?」

「だってボスは、いつも前に立って皆を引っ張っているから」

 

その言葉を聞いて少しだけ納得する。

成る程、だから凪は俺の事をボスと言うのか。

言われてみれば確かにそうだ。凪から見た俺は確かにボスと呼ばれるだけの事をしている。

だけどそのように振る舞っているのは既に知っているからであり、その為に頑張っているからで、俺にとって必要な事だからだ。

知識があるというのはそれだけで誰にも負けないアドバンテージになる。

故に俺は他の皆に比べれば少しだけ前に出ていてるという、かなりのズルをしていることになる。いや、実際にずるいのだ。

だからだろうか、凪の言葉を聞いて少しだけ後悔したのは。

知識があるからこそ知らなかった時の行動は出来ない。

無知は罪とは言うが既知だって罪である。

結局のところ、俺は凪が思っているような人間じゃ無い。

あの時凪を助けた事を今も後悔して悩んでいるような、酷い人間だから。

そう考えていると凪は振り向いて笑みを浮かべた。

 

「だから、私はボスにこれからも引っ張っていてほしい」

「凪…………」

「あの時、私を助けてくれた時のように導いてほしい。私はそんなボスとずっと一緒に居たいから」

「…………そっか」

 

凪の口から語られた言葉にほっと安堵の息を漏らす。

意味の無い質問だったのだろう。目の前の少女は沢田凪であってクローム髑髏では無い。

だけど、自分が助けた少女がそう言ってくれることがとても嬉しかった。

自分は間違ったことはしていないのだと、言ってくれているみたいで――――。

 

「もし、俺が間違えた時はさ。凪が止めてくれる?」

「うん。分かった」

「ありがとう。なら大丈夫だ」

 

俺は自分にそう言い聞かせるようにそう言った。

あの時、凪を助けた事を本当にこれで良かったのだろうかとこれからも後悔し続けるだろう。

だけど――――あの時、助けなかったとしても一生後悔し続ける。いずれ救われると分かっていたとしても、これで良かったのだろうかと同じように悩むに決まっている。

これは正解の無い選択で、きっとどっちを選んでも地獄なのだろう。

 

「そこまで言うなら俺も頑張らなくちゃな。ボスって呼ばれるのに恥じないくらい、それこそ王様になるくらいのつもりでね」

 

なら、俺は自分のやりたいようにやろう。

後になってやらなかった事を後悔するより、やった事で後悔した方が何万倍もマシだから。

 

   +++

 

意識が浮上し、目を開けると海中だった。

 

「――――ぐごぼっ!?」

 

海の中に居るという事実を認識した瞬間、口から気泡が飛び出る。

呼吸が出来なくなって苦しいと言う感覚が脳を駆け巡り、眠っていた脳みそが強制的に覚醒させられる。

それによってどうして自分が海の中に居るのかを思い出す。

どうやら俺はリボーンに狙撃されて海の中に落ちたらしいようだ。

本当に強い。いや、強いなんてレベルじゃない。零地点突破・改を発動する事すらできなかった。流石は最強のアルコバレーノと言うべきか。スカルとは比べ物にならない。

その上、リボーン以外にもまだ三人も居る。

もうこんなの無理ゲーとしか言いようが無い。正直な話、勝ち目が皆無だ。

だけど、そろそろ良い頃合いだろう。

今まで散々好き勝手にやって来たんだ。ここらが潮時だろう――――。

 

――――なんて、俺は欠片も思っていない。

 

確かに自業自得、因果応報、身から出た錆びというのは事実だ。

だからといって俺がそれを甘んじて受け入れるわけではない。

俺は必ずこの困難を乗り越えて見せる。何もかも諦めて納得するなんていうのは全てをやって、やりつくして、もうどうしようもなくなった時だけで良い。

 

「ぶはっ!! ぜぇ、ぜぇ…………」

「まだ戦えるみたいだな」

「生憎、そんな柔な鍛え方はしていないし、途中で敗北を認める程物分かりが良いわけではないからな」

 

海中から顔を出して再びリボーンと相対する。

ヒノカミ神楽、もとい日の呼吸は有効。

全集中は人間の身で鬼の如き怪力を会得する力がある。常中ならば呼吸をするだけで肉体が鍛えられるという効果もある。

基礎能力を高める常中と死ぬ気の相性は極めて高い。だけど身体が出来上がっていない今の俺だと下手に使い過ぎたら身体がダメージを受ける危険性もある。

刀を失ってはいるが、そもそもとして俺は剣士ではない。

武器が無いなら無いで普通に戦うだけだ。それに日の呼吸の動き方を死ぬ気の炎の推進力に加えれば無駄も少なくなるし、威力も速度も上がる。

ただ鎧のように纏う方法はダメだ。一点集中だと簡単に貫通される。

いや、そもそもとして覇気と死ぬ気の炎は全くの別物だ。同じやり方をしたところで持ち味を活かせない。なら、今まで使っていたやり方をアレンジし、発展させれば良い。

後は地力だけなのだが――――。

 

「俺は絶対に諦めない。お前に勝って、ボンゴレからの追撃からも必ず逃げてやる」

「前向きにネガティブな奴だな」

「悪かったな。でも、これで終わりだ」

 

残った炎の残量は結構減っているもののまだ戦う事は出来る。

が、リボーンを相手に戦う場合だとそれじゃあダメだ。今のまま戦ってもボロ負けするんだから、このまま戦っても勝ち目は絶無だ。

ならどうするべきか――――、その答えは決まっている。

 

超死ぬ気でダメで、到達点に至らないなら新しい領域を作ってしまえば良い。

 

   +++

 

「悪かったな。でも、これで終わりだ」

 

綱吉がそう言った瞬間、ゴウッという音を上げて激しく燃え上がった。

炎は火柱、やがては竜巻にと変化し大きなうねりを上げて海上に渦潮を発生させた。

ボンゴレファミリーの血統、そしてアルコバレーノ等の一部の者しか知り得ないが死ぬ気の炎は生命エネルギーである。

使えば当然疲労するし、無駄遣いなんかすれば体力を使い切って倒れてしまい、最悪の場合命を落とす危険性もある。

この戦いを観戦しているコロネロ、バイパー、(フォン)、そして直接戦っているリボーンですら今の綱吉が行っている事が愚行だと判断するだろう。

 

――――そう、いつもだったのなら。

 

「…………一体何をする気だ?」

 

ここまで見事な戦いっぷりを見せている綱吉がそんな愚かな事をするとは思えない。

方向性こそ違うものの百戦錬磨のアルコバレーノは違和感を抱き、実際に戦っているリボーンは余計にそう感じた。

 

「――――ッ!? ダメ、ボスッ!!」

 

そして、それは凪も同じ。いや、幼少期から綱吉の事を知っている凪は綱吉が何をしようとしているのかも理解していた。

 

「それは、まだ未完成――――」

「――――大丈夫だ」

 

凪が悲痛そうに叫ぶと同時に炎の向こう側から綱吉の声がした。

 

「凪、そんな声を出すな。獄寺君も心配そうな顔をしないで。いつも色々と心配かけさせているし、この後も更に心配かけさせることにはなると思うけど――――」

 

それと同時に炎の竜巻が弾け飛んだ。

 

「お前の兄を、お前達の(ボス)を信じろ!!」

 

弾け飛んだ死ぬ気の炎から火の粉が舞い散り、海面を吹き飛ばしながら綱吉はその姿を晒す。

炎の中から現れた綱吉の姿は変貌していた。

額から燃え上がっていた死ぬ気の炎は消失し、顔に浮かんでいた赤い炎のような痣は全身に駆け巡り、左目の下あたりに時計の針のようなものが刻まれている。

それだけでも十二分に目を惹くものだったが、それ以上に目を惹いたのが髪だった。

何らかの手段で伸ばしたのか、腰まであった髪が死ぬ気の炎で煌めいていた。

髪の毛に死ぬ気の炎が灯っているのか、それとも死ぬ気の炎と化した髪なのかは分からない。

ただ一つ分かる事があるとするならば――――あれは不味いと言う事だけだった。

 

「…………まぁ、自分でも成功するとは思っていなかったが」

 

綱吉はリボーンに撃たれた個所を軽くなぞりながら変貌した自らの身体を確かめる。

 

「仮に名前を付けるならオーバーロード…………いや、溢れ出ているような感じだから(ハイパー)死ぬ気・オーバーフローモードって感じか。長いからオバフロで良いか」

 

そう言って綱吉はリボーンに向かって拳を構え、次の瞬間には消えていた。

 

「っ、何処に――――ッ!!?」

 

一瞬で姿を消失させた綱吉を見つけようとリボーンは周囲を見渡そうとし、それよりも先にリボーンの肉体に凄まじい衝撃が走った。

 

「ぐ――――」

 

自分が殴り飛ばされた、その事実にリボーンは気がつく。

だがそれよりも先に進行方向に移動していた綱吉に蹴りを叩き込まれる。

吹っ飛ばされたリボーンの身体に再び衝撃が全身を駆け巡り、空高く蹴り上げられる。

最早声すら出せない状況の中、リボーンは吹っ飛んでいる自分よりも速く頭上に移動する炎の竜を幻視する。

 

「うおらぁあああああああああああああああああああああ!!!」

 

そしていつの間にか頭上を取っていた綱吉が両手を組んで振り下ろし、リボーンを海面に叩き付ける。

 

「い、つまでも…………好き勝手出来ると思うんじゃねぇ! カオスショット」

 

海面に激突する前にリボーンは綱吉に向かって銃弾を放つ。

放たれた銃弾は無数に枝分かれをし、四方八方から綱吉に襲い掛かる。

いくら速く動く事が出来ようとも無数に襲い掛かる弾丸を避ける事は不可能だ。

しかし、綱吉はその全ての弾丸を回避した。中には死角から襲い掛かった物があるにも関わらずにだ。

 

(…………まさか)

 

リボーンはその光景を瞳に焼き付ける。

そして海面に叩き付けられ、巨大な水柱が立ち上がった。




※補足
凪のあれは告白同然でした。
ただし主人公はそれに気づいていません。
そして凪もその事は分かっているので色々とやっています。
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