特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
リアルというか、プライベートというか。
取り敢えず一言。コロナぜってぇ許さねぇ。
本当、割に合わない戦いだ。
心の中でそう思いながら、水柱が上がり海中に沈んだリボーンを見下ろす。
多分、外面は至って平静を保ってますと言いたげな顔をしているのだろう。
だが内心では余裕が無く、非常に焦っている。
リボーン強過ぎる。知っていたとはいえ、此方の予想をことごとく上回るのは本気でどうしようも無い、勝てないと思ってしまった。
本当に、心の底から超死ぬ気モードになると静かになる自分の特徴に感謝するしかなかった。
もし、これがいつもの自分だったならきっとバレていた事だろう。
死ぬ気の炎と同化した鮮やかな髪を風で棚引かせていると、不意に悪寒が襲い掛かった。
「っ、やっぱり倒せていないか」
顔を顰めてそう呟いた瞬間、海中から無数の光弾が放たれた。
様々な曲線を描きながら進むその軌道は明らかに銃弾のものではない。
まるで生きているかのようにうねりながら、リボーンが放った弾丸が四方八方から襲って来る。
回避は不可能、この弾幕に当たらないように避ける程の隙間は存在しない。
なら防御するしかない。
「っ、らぁ!!!」
向かってくる弾丸から身を守る為に炎のシールドを張る。
それだけでリボーンの攻撃を全て防いだ。その事に自分自身、若干の驚きを覚えつつも、それも当然だと理解する。
リボーンは破壊力よりもテクニカルを重視した技を多用する戦闘スタイルだ。
確実に、的確に急所を狙い着実に勝利に進んでいく、最強の殺し屋らしい、隙という隙が存在しない堅実な戦い方。その上、威力だって弱いわけではない。特殊弾を使って収束した後、一気に解放する分、破壊力そのものも高い。
本当に、本当にやりにくいったらありゃしない。
しかし、だからといって弱点が無いわけではない。
リボーンの生物の如く出鱈目な軌道で曲がる弾丸はオートではなくマニュアルなのだ。それは本来なら弱点とは呼べないものだが、それが分かれば対処は可能だ。
「ぁぁああああああああああああっ!!」
リボーンの攻撃を出力任せに強引に突破し、さっき刀身を砕かれた刀を持つ。
「イクスバースト!!」
刀の鍔、茎穴から死ぬ気の炎を放出して海中に沈んでいたリボーンを狙い撃つ。
「ぐぁっ!」
海の中で隠れてれば狙われにくいとでも考えたのだろうか。
確かにそれは有効だ。だけど透明な世界を使える俺にそれは無意味だ。
「っち、やるな!」
「やらなきゃ負けるからな!!」
狙撃されたリボーンは海中から飛び出し、攻撃を回避しつつ氷に飛び移ろうとする。が、当たらなかった炎弾は不規則な起動をした後、一発だけリボーンに直撃した。
「ぐっ!!」
「これで、終わりだっ!!」
リボーンはスカルと違って不死身の肉体を持っているわけではない。
今までの攻撃は受け流されたり、防がれたり、直撃を回避されたりしていた。
だが、それでも積み重なったダメージは無視出来ない。
好機は今しかない。
ようやく訪れたチャンスを逃さないようにリボーンに接近して止めの一撃を叩き込もうとして、
「がはっ!?」
自身の身体が背中側から光弾に撃ち抜かれた。
+++
二人がドボンと音をたてて海に着水する。
その音が不自然なまでに広がり、周囲一帯を静けさに満たす。
沢田綱吉とリボーン。この二人の激突を見ていた者達は全員が全員、言葉を失っていた。
裏社会最強のアルコバレーノ。その実力を間近で見て息を飲み、それと真っ向から戦い合う沢田綱吉にも畏れを抱く。
「っ、いった…………」
「…………今のは効いたぞ」
海中から姿を現し、氷の上に飛び乗った二人は互いに向かい合う。
「成る程、お前から殺気を感じなかったのはこういうわけか」
ボロボロになりながらもニヒルな笑みを浮かべてリボーンは呟き、綱吉の事を真っ直ぐ見据える。
リボーンの瞳に映る綱吉の姿は、何故か透けて見えていた。
「…………くそ、もっと早く倒せれば良かったんだがな」
それを聞いて綱吉は何かを察したのか、額から汗を流す。
「世界が透き通って見える。そうする事で最小限の動きで最大の力を発揮し、なおかつ無駄な思考も無くなる。通りで殺気を発さないわけだ」
「…………リボーン、お前がそれを使えるのは反則なんじゃないか?」
「お前もオレのカオスショットや殺気の弄び方を使ってるじゃねぇか。家庭教師だって生徒を育てる事によって成長するもんだぞ」
リボーンがそう告げると綱吉は顔を歪める。
「アルコバレーノは自らの奥義を特殊弾に込めて放ち、相手に伝授させることが出来る。さっき直撃した時には奥義は込めていなかったが、どちらにせよオレの炎が込められた物であることに違いは無い。ならそこから超直感で技の使い方を導きだした、といったところか」
「…………」
「沈黙は肯定と受け取るぞ」
「…………やっぱり、お前は怖いな」
恐怖心を隠そうともせずに吐露する綱吉にリボーンは笑みを深める。
今までの戦いの中で、綱吉が一度たりとも油断して戦った事は無かった。
恐いと思う事を素直に受け入れ、死ぬ気で相手に戦いを挑むその姿勢。
そして仲間達の前に立って引っ張るボスとしての資質。
自身が教育しなくても立派なボンゴレ10代目になれるだろう。
だからこそ見てみたい、こいつの行き付く先を。
まぁそれはそれとして結果的に成功したものの自分自身を壊しかけたあの暴挙には、これまでの事と纏めて文句を言うつもりだが。
「だけど、俺の有利には変わらない」
綱吉はそう呟くと立ち上がり、両手から炎を放出して空を飛ぶ。
既にダメージは回復しているみたいだ。
「まぁ、そうだな」
対しリボーンの身体にはダメージが蓄積していた。
アルコバレーノであるとはいえスカルのような強靭な肉体を持っているわけではない。
その上、これまでの戦いで死ぬ気の炎を無駄遣いしまくった。
このまま戦っても負けは確定だった。
「仮にオレを倒せたとして、この後どうするんだ? お前のそのオーバーフローモードとかいうやつ、そんな長時間は使えないだろ」
「流石に見抜かれてたか。だけど、まだ勝ち目はある。バイパー、コロネロ、風の順で倒せば」
「まぁそうするしか無いな。その姿ならまだ勝ち目はワンチャンあるしな」
綱吉は右手をリボーンに向けて攻撃を放とうとする。
「だが、それは一対一で戦えばの話だ」
その瞬間、世界が突如として歪み、宙を舞う綱吉に赤い炎の龍と青い炎の隼が襲い掛かった。
「っ、幻覚!?」
綱吉はその攻撃を察知し、回避しようとする。
リボーンの奥義を不完全ながらも体得した今の綱吉ならばなんとか避ける事が出来る。
「甘ぇぞ」
だが、出来た隙を見逃す程リボーンは甘く無い。
取り乱した綱吉に向けて銃を放つ。綱吉と同じ透き通る世界を使って。
「あぐぁっ!?」
透き通る世界を使うことが出来る者は殺意を相手に悟らせる事はない。
ついさっきまでリボーンを苦しめていた攻撃をやり返され、綱吉の右手は撃ち抜かれる。
それから少し遅れて二つの攻撃が綱吉の身体に容赦なく殺到した。
「あ…………」
単純な破壊力ならばリボーンを上回る風とコロネロの二人、そして反応を遅らせたバイパーの幻覚。
其れ等のコンボによってダメージを受けた綱吉は凍り付いた海面に落下した。
「ぐ、が…………くそ…………」
「最後の最後で油断したな。オレ達がお前と一対一で戦う理由は無ぇぞ」
受けたダメージが大きかったせいか、伏して呻き声を上げる綱吉にそう告げる。
「随分とボロボロですね、リボーン」
「お前のそんな姿を見るとは思ってもみなかったぜ、コラ」
風とコロネロは傷だらけになったリボーンを一瞥する。
その視線には嘲りや侮蔑といった感情は秘められていなかった。
ただリボーンにこれ程の傷を負わせたと素直に感心していた。
「悪いが話なら後にしろ。まだ終わっちゃいねぇ」
話しかけて来る二人に対しそう告げるとリボーンは視線を綱吉に戻す。
「ぐ、ぅううううううう!!!」
綱吉は苦痛に呻きながらもその場から立ち上がっていた。
その身体はリボーンよりもボロボロで、今にも倒れてしまいそうな程にフラフラとしている。
髪の毛を覆っていた死ぬ気の炎も最初に比べれば弱々しくなっており、力が尽きるのも後少しといったところだろう。
だが、それでもその瞳から光は消えていなかった。
追い詰められた獣程、恐ろしいものは無い。オーバーフローモードという境地を作った以上、何をしでかすか分からない。
だからこそ、やるなら徹底的にだ。
「悪いけど、僕はこれ以上手伝う気は無いからね。ただ働きはごめんだよ」
「分かった。お前には期待してねぇ。カオスショット!」
「爆龍拳!」
「マキシマム・バースト!!」
バイパーの言葉を聞き流しつつ、リボーン達三人はそれぞれの必殺技を綱吉に放った。
手加減しているとはいえまともに食らえばそれぞれが意識を手放すであろう威力。
それが動けないでいる、だが決して諦めていない綱吉に迫った。
+++
本当にどうしようもない絶望的な状況である。
自分に向けられて放たれた三人のアルコバレーノの必殺技を見て、素直に弱音をぶちまけたくなった。
最も、その弱音を吐く事すら出来ない程にボロボロなわけなのだが。何とか言葉にして吐き出そうとしても呻き声にしかならない。せめて凪や獄寺君に対してかっこつけであっても大丈夫だって言ってあげたかったんだけどこんな有様じゃ無理そうだ。
本当に何でアルコバレーノが手を組んで襲い掛かって来るんだよ。
そこは強者の余裕とか見せろよ。正真正銘最強の連中が慢心とか油断とか捨てて来るんじゃねぇよ。
別に最初から一対一の戦いだったとは思っていなかった。だけどリボーンのプライドやアルコバレーノ同士の仲の悪さとかを考えたら、格下である自分に対し仲間と連携して戦う可能性は低いと思っていた。
だけど現実は想定していたものを遥かに超えて最悪だった。
こっちが超直感に従って、死ぬほど鍛えて、ようやく体得したリボーン対策の透き通る世界を奪われた上に右手を潰されて使用不能にされたのだから。
一応こっちもリボーンの技を少しだけ体得したけど、全く釣り合っていない。
右手を潰された事によって炎を使った超高速移動及び死ぬ気の炎を吸収するゼロ地点突破・改は使用不能。
いや、そもそもとしてオバフロモードの維持ももう限界か。
オーバーフローモード。体内の炎を五分間で使い切る様に出力を強引に引き上げ、その全てを戦闘力に変えた状態。表現としては超死ぬ気モードと初期の死ぬ気モードを同時に使用しているといったところだろうか。
これによる戦闘力の増強は恐らく超死ぬ気の十数倍で、短時間限定とはいえリボーン相手にほぼ優勢に戦えるほどの強大な力を獲得する。
が、当然そんな無茶な真似をしたら大きなダメージを負う事になる。
恐らく自分はこの後、地獄を味わう羽目になるだろう。
――――まぁ、既に地獄を味わっているわけなのだが。
とはいえ、本当によくやったと思う。
アルコバレーノ4人相手に善戦した方だろう。少なくともあのリボーン相手に実質勝利したのだから。
「負け、るか…………!」
だというのに俺はただ只管に前を見つめていた。
炎は枯渇し掛け、身体は傷だらけで、もう勝ち目が無いというのに諦めきれないでいる自分が居た。
ああ、やっぱり自分は諦めが悪いらしい。
ならば超直感よ。俺がこの状況で戦って勝つ為にはどうすれば良いのか、今の自分が出来る事を導きだせ。
残った炎が少なくてもまだ立っていられるのなら、全てを費やしてでも動くんだ。
そう自分に言い聞かせて動き出そうとする。そして、世界が真っ白に染まり何もかもがスローになったような気がした。
+++
綱吉とアルコバレーノ達が戦っていた場所が、目が眩む程の光に包まれる。
その光景を見ていた誰もが瞳を閉じ、光から目を逸らす。
それと同時にあれ程までにひっきりなしになっていた戦闘音が一切聞こえなくなった。
戦いが終わった、そう判断した誰もが目を開ける。
「…………ッ! ボスッ!!」
抑え込んでいたアルコバレーノが居なくなった事により自由になった凪は、眼前の光景を見て喜びの声を上げる。
海は凍り付いており、四人の赤ん坊は巨大な氷の中で氷像となっている。
そして氷の大地の上で一人、ボロ雑巾の様にズタボロになりながらも立っている綱吉の姿。
誰がどう見ても勝利した者が誰なのかは明白で、揺るぐ事がない答えがそこにはあった。
――――この戦いが後にマフィアランドの決戦として後世に畏れられる事になる事は、今は誰も知らない話である。
次回、逃亡生活最終回。