特別だからって世界を救う義務は存在しない。   作:霧ケ峰リョク

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以上で逃亡生活終了でございます。
いや、長かったです。本当に長かったです。
取り敢えず逃亡生活最終話、どうぞ。


逃亡生活その最後

死ぬ、マジで死ぬ、もう限界。

言葉にするのも億劫になる中、俺は氷の上に立っていた。

眼前には氷の中に閉じ込められたアルコバレーノ達の姿がある。

あの時、アルコバレーノ達の必殺技が命中すると思ったら、急に視界が真っ白になった。そして気が付けばアルコバレーノ達が氷の中で封印されていて、死ぬ気を維持できなくなった俺がそれを見下ろしていた。

何が起きたのか分からなかった。

ただ一つ分かることがあるとするならば、どうやら自分は勝利したようだ。

実感なんてまるで無いが。

 

「はぁ、はぁ…………」

 

筋肉が痙攣してまともに動く事が出来ない。呼吸だってしたくないし、そもそも心臓を動かす事すら止めたい。身体のあらゆる機能が死に向かっているというのはこういうことか。

死ぬ気の炎も空っぽになり、肉体も酷使し続け疲弊しきった。

もう、身体に余力なんか残されていない。

何とか根性だけで立っているがそれもいつまで保つだろうか。

だけど、どれだけ余力が無かろうと、死に掛けであろうと勝利したのは事実だ。

一先ずはこれで終わり、そう考えたその時だった。

黄、青、紫の死ぬ気の炎が突如として出現したのは。

 

「ほら、先輩達も見ただろ? ツナが勝ったぜ」

「そんなの言われなくても分かるよ」

「うぉおおおおおおおお!!! 久しぶりだな沢田ぁあああああああああ!!!」

 

それと同時に酷く聞き覚えのある、それでいてここ暫く聞いていなかった友人達の声が耳に響いた。

 

「…………えっ? 山本に雲雀さんにお兄さん?」

 

ここに居る筈の無い人間の声に思わず困惑する。

特に雲雀さんなんか並盛から離れたがらないから居る事自体が信じられない。

そう考えていると氷の上に着地した三人が姿を見せる。

 

「よっ、ツナ。久しぶりだな」

「あ、うん。久しぶり山本――――」

「そしておやすみ、だな」

「――――――へっ?」

 

山本の発言に呆気に取られた瞬間、雨属性の死ぬ気の炎が編み込まれた海水の塊が俺の真上から降り注いだ。

既に死ぬ気の炎を使い切った今の自分にそれを回避する方法は皆無で、雨属性の鎮静も相まって俺の意識は強制的に闇に沈められた。

 

   +++

 

酷く痛む身体を動かしながら瞳を開くと、目に映ったものは檻だった。

 

「ぐっ、つぅ…………ここは?」

 

目が覚めると牢屋の中という意味が分からない現実に困惑しながらも、自らが置かれた状況を理解しようとする。

だが身体は縄でぐるぐる巻きに拘束されており、芋虫が這う程度の身動きしか取れなかった。

そうでなくても身体にはダメージが残っているせいで真っ当に戦う事は難しいだろう。

 

「やぁ、ようやく目が覚めたみたいだね。沢田綱吉生徒会長」

 

何とか縄を解こうと身悶えしようとした瞬間、雲雀さんの声が聞こえた。

声のした方向、即ち牢屋の外に視線を向ける。

そこには椅子に座って此方を見下ろしている雲雀さんと、その部下である風紀委員会副委員長・草壁哲也こと草壁さんが立っていた。

 

「ひ、雲雀さん? これは一体どういう」

「どういうも何も、逃亡したきみを捕縛しに来たんだよ」

 

俺の問いに雲雀さんは少しだけ眉を顰めながらそう言い放つ。

あ、これはかなり激怒しているっぽい。その事を一瞬で理解した俺は雲雀さんの背後に立っている草壁さんに視線を向ける。

 

「草壁さん。俺はどうして牢屋の中に放り込まれてるんですか?」

「職務の多忙さから逃亡したからですよ、生徒会長」

「いや、俺は生徒会の仕事から逃れる為に逃げたわけじゃないからね?」

「本当のところは?」

「…………二、三割くらいは無くも無いかな」

「三割もあるじゃないですか」

 

いや、しょうがないだろう。毎日毎日問題ばっかり起こす生徒のせいで俺の仕事は増えに増えて、特にロンシャンのせいで胃がストレスでやられかけたのだから。

その上、リボーンが襲来してきたら間違いなく酷い事になる。

草壁さんのつっこみに内心文句を呟いていると、ある事に疑問を覚える。

 

「っていうかそもそもここは何処なんですか?」

 

まだ日本の並盛でない事は分かる。

マフィアランドの位置は一定ではない。あの島は人工島で場所を変える事が出来るからだ。

そして当時のマフィアランドの位置は日本からかなり離れている。最も、意識を失っている期間が長かったら日本におかしくはないのだが。

そう考えていると草壁さんは普段の日常を過ごしている時のように淡々と言う。

 

「ここは風紀委員会が保有している艦艇の中です」

「そうなんですか…………おい、今何て言った?」

 

草壁さんの放った言葉に思わず素に返る。

するとその様子を見ていた雲雀さんが呆れた様子で此方に視線を向けた。

 

「副委員長が言った通りだよ。この船は風紀委員会が保有している船だよ」

「雲雀さん。俺、その事について知らないんですけど」

「きみが逃亡生活を送っている間に完成したものだからね。他にもきみが居ない間に色々とあったから。これがその書類だよ」

 

そう言って雲雀さんは格子の隙間から入れられた用紙に目を通す。

 

「コフッ!?」

 

用紙を見た瞬間、胃が一瞬で荒れ果てて吐血した。

 

「さ、沢田さん!?」

「気にしなくて良いよ草壁哲也。いつもの事だから」

 

慌てる草壁さんに対し、雲雀さんは淡々と呟く。

俺が居ない間にどうやら並盛中はかなり愉快な事になっているらしい。

紙を見ただけだから実際に見ないと何とも言えないが、地下施設に球場にスタジアム。

実際に目を通してみたら間違いなく吐血する事だろう。既に吐血しているが。

いや、ちゃんとやっているなら予算とかも使って色々として良いとは言ったよ。でもここまで酷い事になるなんて思ってもみなかった。

まぁ俺も色々とやってるから人の事はあまり強く言えないけど。

 

「そういうわけだから予算が少し足りなくなっているんだけど」

「はいはい。分かりましたよ。俺のお金も使って良いですから、確か100億とかありましたし、足りると思いますよ」

「じゃあ遠慮なくいただくよ」

 

本当にこの前、名前忘れたけどマフィア一つ潰しておいて良かった。

カジノで稼いだお金とマフィアを潰した時に手に入れたお金が無かったら暫く身動きが出来なかった事だろう。

 

「じゃあ、僕は自室に戻るとするよ。きみも並盛に着くまで大人しくしておくことだね。その為にきみの部屋を造ったのだから」

「待って、ここ牢屋じゃなくて俺の部屋なの?」

「ああ、それときみの武器とリングは全て没収させてもらったよ」

「何で牢屋が俺の部屋なんですか! 待って、もう少し待遇の改善を――――!!」

 

俺の魂が籠った叫びも虚しく、雲雀さんは去っていった。

 

「では生徒会長。私もこの辺で。一応この船の船長をやっていますから」

「あ、草壁さん。部屋を改善してとまでは言いませんからこの縄を外してもらえませんかね?」

「すみません。生徒会長の四肢を自由にしておくと間違いなく脱走しますので」

 

俺の哀願も虚しく、草壁さんは去っていった。

って言うかあの人多芸すぎるだろう。

 

「…………俺ってそんな脱走するように見えるかな?」

「おーい。ツナ、大丈夫か?」

 

雲雀さんや草壁さんからの言葉に一人傷付いていると再び聞き覚えのある声が聞こえた。

視線を再び牢屋の外に向けると、今度は山本やお兄さんが居た。

それだけじゃない。京子ちゃんにハル、凪に獄寺君もだ。

ただ凪と獄寺君は傷だらけで、特に獄寺君が包帯塗れだったが。

 

「山本にお兄さん、京子ちゃんにハル!!」

「久しぶりだねツナ君」

「はひっ、ツナさん! 芋虫のようになってますけど大丈夫ですか!?」

「出来ればすぐに自由にして欲しいんだけど」

「それは駄目だ! 沢田に自由を与えると何をしでかすか分からんと言われてるからな」

 

お兄さんの言葉に項垂れる。

本当に雲雀さんは俺を何だと思っているのか。

 

「それにしても、本当に久しぶりだなツナ。お袋さん心配してたぞ?」

「一応家を出る前には書置きを残していったんだけど」

「そういうところとかお前の親父さんにそっくりだって言ってたぞ」

「ぐふっ」

 

山本の言葉に俺は再び吐血する。

ま、まさか母さんが俺を父さんに似ていると言うなんて…………まぁ、色々やっちゃってるからそう言われても仕方が無いけどさぁ。

でもかなりショックだった。あいつの事はそれなりに分かっているとはいえ、結構気にしているんだから。

 

「まぁ、でも元気そうで良かったよ」

「山本…………ごめん、今度試合見に行って死ぬ気で応援するから許して」

「別にそこまでしなくて良いって。ただ今度はちゃんと俺達にも言ってほしいってだけだから」

「うぅ、本当にごめん」

 

ニコニコと笑みを浮かべてそう言う山本に対し、俺は太陽の光を浴びて浄化されるアンデッドの気分になる。

本当に眩しい、鎮魂歌(レクイエム)の雨という言葉を体現している。

 

「凪もごめんね。色々と無理させちゃって」

「大丈夫――――ううん、私の方こそごめんなさい。ボスの役に立てなかった」

「そんな事は無いよ。凪が居て本当に良かったよ」

「でも、私自身が納得してない。だからボス、この前言ったご褒美はまだ貰わない。もっと自分を磨いてから貰います」

「そう、なら強くならないとね」

 

これは自分にも言える事だ。

今回は何とかリボーン達に勝てたが、次に戦えば間違いなく勝てない。

もっと実力を高めなくちゃいけない。少なくとも、最後にアルコバレーノ達を倒した瞬間、その境地を自分自身で自覚し、使えるようにならないと。

 

「獄寺君は、えっと…………大丈夫?」

「は、はい…………何とか。あの雲雀って野郎に『サボってた転入生、かみ殺す』とか言われて」

「あ、あぁ。成る程、雲雀さんならやるなぁ」

「ですが10代目! 次はこんな事にならないように致します!!」

「分かったよ。山本、悪いけど獄寺君を連れてってもらって良いかな? 結構怪我してるから」

「分かったぜ。じゃあ行くぞ獄寺」

「くそっ、放せ野球バカ!」

 

怪我をした獄寺君を連れて山本は去っていく。

それに続くように他の皆も少し会話をした後、戻っていこうとする。

 

「ああ、凪。あの赤ん坊達はどうなったの?」

「一緒に船に乗っているけど、でもボスの攻撃が効いたのか暫く動けないみたい」

「分かった。引き止めちゃってごめんね。俺もちょっと身体が痛むからさ、少し休んでるよ」

 

最後に凪からリボーン達がどうなっているのかを聞きだしてから、俺は去っていく皆の後姿を見届けた。

 

「…………あー、もう。本当に疲れたなぁ」

 

芋虫のように這いながら壁際に移動する。

 

「ゲホッ…………でも本当に心外だよなぁ。ゲホゲホッ、俺って雲雀さんより問題児じゃないと思うんだけどなぁ」

 

流石の俺も手の打ちようが無かったら脱走とかはしない。

だというのにあそこまで信頼されないとかなりショックである。ある意味信頼されているとは思うが。

 

「っぺ」

 

心の中でそう思いながら口から硬い物を吐き出す。

カランと音を立てて床に転がったそれは、橙色の石が着いた指輪だった。

 

「さて、逃げるとしますか」

 

身体を捩る事で転がった指輪を握り締め、俺は死ぬ気の炎を灯した。

 

   +++

 

マフィアランドでの激闘、最強の赤ん坊達の敗北。

その一報は瞬く間に裏社会全体に広がった。

次期ボンゴレ10代目。後継者が全滅した為、選ばれた補欠の補欠。軟弱な日本人(ジャポネーゼ)

そんな評価は一瞬で覆り、誰も彼もが手の平を返して畏怖した。

 

「クフフ、流石に今あれを相手に戦いを挑むのは自殺行為というもの。勝ち目が無い戦い等やる意味がありません」

 

ある者はその力を手に入れる為。

 

「クソがッ! ド畜生がッ! この俺が、あの沢田綱吉に劣るだとッ!!」

 

ある者は自らに憤怒し。

 

「あれが沢田綱吉、ジョットの子孫。まるで変わりませんね。彼より凄まじいですが」

 

ある者は引き摺り落とす為に。

 

「運命は、変わらないというのか?」

 

ある者は運命を嘆き。

 

「困ったね。予定とは違うが、このままでは破綻する事になる。そうなると厄介だ。うん、僕らの為に彼を捕らえる事としよう」

 

ある者は復讐の為の不穏分子を排除しようとし。

 

「決まりだ。彼には次期大空のアルコバレーノとなってもらおう」

 

ある者は生贄の主柱として彼を定めた。

未だ目覚めぬ海の大空は退屈を持て余し、幼き虹の大空は先に舞台に上がる。

かくして物語は次の舞台に移り変わる――――。

 

   +++

 

「お兄ちゃんこっちこっちー!!」

「待ってって。もう、そんなに走ったら危ないよ」

 

とある小さな島に暮らしている二人の兄妹が砂浜を走っていた。

兄である少年は走る妹を心配し、妹である少女はそんな心配をよそに焦った様子だった。

 

「で、でも急がないと!」

「落ち着いて。焦って転んだりしたら危ないよ」

「う、うん。ごめんなさい」

「それで、一体何があったのかを教えてくれるかな――――真美」

 

少年の言葉に少女、真美は遠くに指を指した。

 

「あっちに紫色のおしゃぶりを着けてヘルメットを被った大人の男の人が巨大な蛸に捕まってたの!」

「一体どういう状況なの!!?」

 

真美の説明を聞いた少年はあまりのおかしさにツッコまずにはいられなかった。

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