特別だからって世界を救う義務は存在しない。   作:霧ケ峰リョク

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少し余裕が出来たので第二部の始まりです。



第二部
労働生活その1


リボーン達アルコバレーノを倒し、風紀委員会が所有する艦艇から逃走してから三日ぐらいの時が流れた。

我ながら本当にどんな星の下に産まれたらこんな酷い事ばっかりになるのか疑問を覚えるが、そもそもとして主人公に転生している時点で碌な人生にはならない事が確定している。

まぁ、それはどうでも良い話である。と、いうかちょっとそんな事を考えられないくらいに今は余裕が無い。

 

「…………どうしてこうなった」

 

現在、俺は絶望を味わっていた。

リボーン達と戦った時と同じくらいの絶望である。

自分にとっての終生の敵、全ての元凶、出来うることなら二度と関わりを持ちたくない。

こうして家出をする事になった原因のボンゴレファミリーが存在する国、イタリアの首都ローマの路地裏に俺は立っていた。

 

「はぁ…………ここには来たくはなかったんだけどなぁ」

 

風紀委員会専用の艦艇から脱出したのは良かったけど、まさかあの船がイタリアの近くに来ていたのは予想外だった。

残ってた炎が少なかったのと身体の疲労が溜まっていたのもあって、ここ以外には上陸できなかった。ただそれでもここには来たくなかった。

 

「まぁ、来ちゃった以上は仕方がないか」

 

とはいえ、だ。

過ぎた事はもう戻らないし、今ある手札でなんとかするしかないのも事実。

雲雀さんに没収されたせいで武器は無いし、リングも口の中に隠していたEランクリング一個だけとかなり寂しい状況。その上、身体の調子も絶不調。

本当に笑えるくらいに酷い状態だ。もし神様が居るなら俺に恨みでもあるのかと文句を言いたくなるくらいに最悪だ。

そんな事を考えながら、背後から俺を襲おうと武器を振り被っていた男の一撃を受け止める。

 

「なっ――――!?」

「さっきから殺気が丸出しだ。うざったいたらありゃしない!!」

 

背後の男の腹部に蹴りを叩き込み、武器として使われていた鉄パイプを強引に奪い取る。

 

「ぐはぁ!!」

 

蹴り飛ばした男はそのまま煉瓦で出来た壁に激突して減り込み、短い悲鳴を上げた後意識を手放した。

リボーンとの戦いで手に入れた奴の奥義。

本当に手に入れる事が出来て良かったと思う。まぁ、こうなったのは殆どあいつのせいだから全く嬉しくは無いが。

 

「取り敢えず武器は…………これを使うしか無いか」

 

本当ならばグローブ、次点で剣か槍が良かったのだけれど、無いなら無いで使うしか無い。

この鉄パイプと今使っているリングとの相性が悪いとはいえ、戦えないわけではないのだから。

軽く三度ぐらい鉄パイプを振るって感触を確かめながら、空を見上げる。

 

「ひい、ふう、みい…………ああもう、分からないな」

 

これがリボーンならばすぐに分かったのだろうが、生憎俺のこれはそこまで精度は無い。

もっと鍛えて実戦を積んでいけばまた話は違うとは思う。ただ会得したばかりの技なのだからこれはこれでしょうがない。

最も、攻撃が何処に当たるのかが分かっていればそれだけでも十分使えるが。

 

「面倒だ。全員纏めて相手にしてやるからかかってこい。来ないならこっちから行くぞ」

 

俺がそう言い放った瞬間、そこら彼処から殺気が膨れ上がり爆発した。

堅気とは思えないような格好をした人間が窓や物陰、果てにはゴミ箱の中から姿を現し、それぞれが俺に獲物を向けた。

マシンガンやナイフ、中にはおたま等の様々な武器だ。

何でおたまを使ってるんだよ。ボンゴレⅣ世がフォークを使っているからこっちとしてもなんとも言えないけど。

 

「くたばれボンゴレ10代目!!」

 

マシンガンやショットガンの弾丸が放たれ、それを回避する。

さて、現在の自分の状態を再確認しよう。

死ぬ気モード、及び超死ぬ気モードの使用は不可能。

やろうと思えば死ぬ気モードは可能だが、疲弊し切った今の状態だと多分体力を使い切る。

リングの炎も使えないわけではないが、多分長時間の使用は出来ない。

身体の疲労もリボーンとの戦い以降癒えてなく、この三日間の移動でピークに達している。

ただ全集中及び透き通る世界は行使可能。一つ不安な事があるとするならば体温が高くなり過ぎていることぐらいだろうか。

奇異の視線を集めるし普段は疲れるから出してなかった痣が今もずっと出ているのだから。

とはいえ、左頬の時計の針のような痣しか出ていないのだが。

 

「やっぱりいつものような戦い方は無理だな」

 

改めて自分の身体の状態が絶不調である事を思い知らされる。

これではいつものように大技で殲滅する事は不可能だろう。

ならば自分がするべき選択は一つ。体力を無駄遣いせず、最小限の動きだけで相手を倒す。

 

「死ね!!」

 

自らを殺そうとおたまを振るう男の攻撃を回避し、宙で身体の天地を入れ替える。

 

「斜陽転身」

「ごえば!!?」

 

鉄パイプを水平に振るって首を捉える。

強烈な一撃をカウンターで喰らったおたまの男はさっきの男同様に壁に叩き付けられて意識を失った。

 

「ッ、ジョニー!!」

「くそっ! ベンだけじゃなくジョニーまで…………大人しくくたばりやがれ!!」

 

マシンガンとショットガンを携えた男達は仲間が倒された事に怒りを露わにする。

そして俺に銃口を向けて引き金を引こうとし、

 

「幻日虹」

 

高速の捻りと回転による回避技を使用し、相手の視界から外れる。

 

「なっ!? ど、何処に消え――――」

「からの烈日紅鏡」

 

俺が視界から消えた事に困惑する男達に駆け巡りながら鉄パイプの一撃を叩き込んでいく。

後頭部に強烈なのを叩き込んだからか悲鳴を上げる間も無く気絶した。

 

「さて、と…………後は一人だけだ」

 

そう呟くのと同時に瞳を閉じて超直感に問い掛ける。

リボーンの奥義、殺気を弄ぶこの力を探知能力として使用する方法を。

殺気は生物が放つもの。肌で感じ、弄ぶことが出来るのならば殺気を出している本人が何処に居るのかをも見つけ出す事が出来る筈なのだから。

そして俺の考え通り、超直感はその使い方を導き出す。

 

「――――見つけた」

 

自分に向けられている殺気を辿り、視線を近くの建物の屋上に向ける。

最後の敵を見つけた瞬間、その場から跳躍する。

同時にリングに死ぬ気の炎を灯し身体を、主に脚力を強化。そのまま俺に向けて放たれたライフルの弾の上に飛び乗る。そこから足に力を込めてライフルの弾丸を足場に跳躍し、自身に殺気を向けていた男の頭上を取る。

 

「これで終わりだ! 輝輝恩光・跳!」

 

鉄パイプに死ぬ気の炎を灯し、ライフル使いに振り下ろす。

ライフル使いは俺に攻撃されるよりも先に仕留めようと銃口を此方に向けようとする。

が、時既に遅く、銃口が俺に向けられるよりも先に鉄パイプの一撃を叩き込んだ。

建物の屋上が爆発し、砂煙が巻き上がる。

それと同時にライフル使いの身体はその場に崩れ落ちた。

 

「…………ぐ、はぁ…………疲、れた」

 

意識を失った男を尻目に使い物にならなくなった鉄パイプを放り捨てる。

やっぱりと言うべきかこの鉄パイプでは死ぬ気の炎に耐え切れなかったらしい。

 

「グローブがあれば空も飛べるんだけど…………武器が無いと言うのがここまで辛いとは」

 

せめて超死ぬ気モードを使えれば、もしくはこのヒノカミ神楽、日の呼吸の正しい形と正しい呼吸法を身に着ければ話は違うのだが。

そう考えているとサイレンの音が耳に届いた。

音がした方向に視線を向ける。複数のパトカーがサイレンを鳴らして此方に向かっていた。

 

「っ、やば…………早くここから逃げなくちゃ」

 

どうやら少しばかり暴れ過ぎたらしい。

屋根の上から急いで降りてその場から離れる。

 

「急いで、もっと急いで…………」

 

このままだと警察に捕まってしまいそうだ。

もしそうなったら何が起こるかは分からないが間違いなく酷い目にあうと超直感が告げている。

だというのにも関わらず、俺の身体は鉛のように重かった。

どうやら自分の体温が高く感じたのは気のせいでは無かったらしい。

何とか離れる事に成功するものの、その頃には身体は言う事を聞かなくなっていた。

 

「あ、もう、無理…………か…………」

 

身体に襲い掛かった眠気と疲労がピークに達し、その場に倒れ込む。

そして俺は意識を保つ事が出来ず、そのまま気絶した。

 

   +++

 

その日は少女の母親と使用人が居ない日だった。

母親は仕事で忙しく、使用人は風邪を拗らせてしまい入院する事になったからだ。本来ならば他にも使用人が居るのだが、何の偶然か全員が体調を崩してしまったのである。

急に決まった事故に母親も新しい使用人を雇う事が出来ず、少女は今日だけ一人で過ごす事になったのである。

幸いな事に明日になれば母親は帰って来る。

だから今日は一人で頑張ってみよう。少女はそう考えて、家の外にゴミを出そうと扉を開けた。

 

――――そして家の前で倒れている一人の少年を見つけた。

 

「っ、大丈夫ですか!?」

 

倒れている少年に駆け寄り、少女は言葉を投げ掛ける。

だが返事が返って来る事は無く、顔色も酷く真っ青だった。

身体もガタガタと震えており、触れると凄く熱い。

 

「なんて酷い熱…………意識はありますか?」

 

少女は少年の顔を覗きながら声をかける。

だが少年が返事を返す事は無かった。

呼吸も荒く、素人目から見ても大丈夫とは言えない。

このまま放置すれば間違いなく命を落とす。そう思ってしまう程に弱々しかった。

そして少女はそんな少年を見捨てる事が出来なかった。

 

「…………ちょっと待ってて下さいね。すぐに何とかしますから」

 

そう言って少女は少年を背負い、引き摺りながら家の中に連れて行く。

きっと母も同じ事をするだろう。そう考えながら少年を運ぶ少女の左頬には花のような痣が浮かんでいた。


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