特別だからって世界を救う義務は存在しない。   作:霧ケ峰リョク

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遅くなりましたが投稿します。
ちょっと応募用のやつ書いてたので。


労働生活その3

食欲を刺激するような、とても美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐった。

目を覚ましたユニは瞼を擦りながらゆっくりと起き上がり、部屋の外に出る。

この家には今、調理する事が出来る人間は居ない。料理が出来ないわけではないが、作る時は母親と一緒に居る時だけだ。

一体誰がこの美味しそうな匂いを出す物を作っているのだろうか。

疑問を抱きながら匂いがする方に向かう。

 

「あっ、もう起きたの?」

 

ユニの瞳に映ったのは台所に立ち、手慣れた様子で朝食を作っている綱吉の姿だった。

エプロンを身につけ、髪の毛を纏め、流れるようにフライパンを振るう。

作っているのはオムレツだろうか。ただケーキのようにふわふわとしている。

 

「何をやってるんですか?」

「朝食を作ってるんだよ。こうして泊まっている以上、何かしないと気が済まないし」

「体調の方は大丈夫なんですか?」

「昨日に比べたら確実に良くなったよ。いやー、身体が軽い軽い」

 

たはは、と困ったように笑いながら綱吉は皿に盛り付けていく。

パンにオムレツ、サルシッチャにサラダ。健康的な朝食である。

食欲を誘う、美味しそうな匂いにユニは思わず顔を綻ばせる。

 

「美味しそうですね」

「俺の母さん程料理は上手じゃないけどね。まぁ人並みには作れるよ。飲み物は何が良い?」

「紅茶で――――って、そうじゃないです」

 

ユニは改めて綱吉の顔に視線を向ける。

昨日、彼を助けた時は今にも死にそうなくらいに弱っていた筈なのだから。

 

「沢田さん。いくら体調が良くなったとはいえ、昨日は身体の具合が悪かったわけですし」

「大丈夫大丈夫。さっき体温を測ったけど問題は無かったから」

「そうですか…………」

 

その言葉と共に腕をぶんぶんと振るう綱吉の姿にユニは少しだけ安堵する。

どうやら本当に治ったようらしい。

 

「それなら何度ぐらいだったんですか?」

 

そして何気なく体温がどれくらいだったのかを尋ねる。

体調が良くなったとはいえ、病み上がりである事は違いない。

あそこまで快活に料理を作っている為、大丈夫だとは思うが聞いた方が良いだろう。

そう考えて尋ねたユニに対し、綱吉は満面の笑みを浮かべる。

 

「ああ、39度だったよ」

 

朝食の用意を終えた綱吉はトレーに乗せて此方に運びながら答えた。

 

   +++

 

「沢田さん。寝てて下さい」

「いや、本当に大丈夫だから…………」

「体温がそれだけあって大丈夫等と言われても信じられません。いいからこれを付けて寝ててください」

 

頭の上に氷水が入った袋をユニに乗っけられ、俺はソファーの上に座らせられる。

 

「全く、何が体調が良くなったですか。全く良くなってないじゃないですか」

 

ユニは酷く怒っているといわんばかりにジト目で俺を睨み付ける。

言葉の節々に棘があるように感じるのは決して気のせいではないだろう。

 

「そうは言われても俺の体温ってかなり高いからなぁ」

 

全集中・常中を行っているせいか、俺の体温は他の人に比べてもかなり高い。

それでも死ぬ気モード、超死ぬ気モードにならない限りは痣が出現する事も殆ど無かった。

だというのに今は痣が浮かび上がっている。最も、それは今はどうでも良いのだが。

それよりも今はユニに対して自身が健康である事を伝える方が重要だ。

 

「だからほら、動き回っても大丈夫――――」

「沢田さん」

 

ソファーの上に立ち上がり、身体を翻して見せようとする。

それはユニに止められてしまい、彼女に両手を掴まれて目と目を合わせる。

 

「お願いです。自分の身体を大切にして下さい」

「うぐっ…………」

 

ユニの放ったその言葉に言葉を詰まらせる。

やっぱりセピラの末裔には弱いと言うべきか。彼女に心配を掛けさせたくはなかった。

 

「分かったよ…………でも何時までも世話になるわけにはいかないし」

「大丈夫です。今日はお母さんが帰って来ますし、沢田さんの事を話します」

「待て、待って。それをやったら間違いなくボンゴレ送りにされちゃうんだけど」

 

ボンゴレ10代目になりたくないからここまで頑張って逃げて来たというのに、ここに来て体調不良からの強制送還だなんてあんまりすぎる。

いや、体調だって悪くないしむしろ絶好調なのだが。

内心ボンゴレ送りにされる事に恐怖心を抱いているとユニは誰もが見惚れる笑顔を浮かべる。

だというのにも関わらず、俺にはその笑みが死神の笑みにしか見えなかった。

 

「沢田さん。そろそろ家に帰った方が良いと思います」

「…………えっと、どうしてかな?」

「仲間の人達にきちんと事情を説明して、リボーンおじ様達にも謝った方が良いです」

「あははは。謝ったところで痛い目見るのは確定してるし、それなら逃げてた方がずっと、良いんじゃないかなって思うんだよ」

「た、確かにリボーンおじ様は厳しいですけど…………いえ、いいえ。ここはちゃんと言った方が良いですね――――沢田さん」

 

ユニは俺の目を真っ直ぐ見据える。

 

「いつまでも逃げ続ける事は出来ませんよ」

 

その言葉に思わず言葉を失う。

 

「それは…………俺も分かってるよ」

 

彼女の言う通り、というよりもこれはユニに言われなくても分かっていた事だ。

どれだけ小細工や手段を弄してもボンゴレファミリーは俺を逃がすつもりは無いからだ。

何故なら俺はボンゴレⅠ世の子孫であり、ボンゴレリングを唯一使う事が出来る人間だからだ。

父さんもボンゴレの血統である為、ボンゴレリングを使えないわけでは無い。

だが9代目の超直感が俺を後継者として据えた方が良いと告げた以上、ボンゴレは俺を後継者として据えるだろう。

そして、世界最強のマフィアの名に相応しい連中を相手にいつまでも逃げられる等、俺も思ってはいない。

凪が居ても無理だったのだから、俺一人じゃどう足掻いても無意味な抵抗にしかならない。

 

「沢田さんがマフィアになりたくないのは、仲間の人達も巻き込んでしまうからですよね」

「…………そうだね」

 

ユニが言った理由に俺は自嘲しながら肯定する。

俺がマフィアになりたくないその理由の一つ、というかこれが主な理由だった。

マフィアのボス候補になれば皆も裏社会の事情に巻き込まれるのは当然なのだから。

そして俺はその事を重々に理解していた。

 

「白状するとさ。俺、最初はマフィアのボスになるって決めてたんだよ。いや、違うな…………マフィアのボスになる運命を受け入れていたんだよ」

 

幼少の頃、前世の記憶というやつを思い出してしまい、この世界の知ってはいけない秘密の殆どを知ってしまったあの日。

それが転生者特有の原作知識とでもいうやつなのか、メタ視点とでも言うべきやつなのかは知らないが俺は自分がどうなるのかを知った、知ってしまった。そして決められた道筋を変えるべきではないと思った。

だが――――、

 

「それなのにさ。何時の間にかそんな事がどうでも良くなっちゃっててさ。マフィアのボスの事なんかすっかり忘れちゃってたんだよ」

 

山本と出会い、雲雀さんと出会い、京子ちゃんとお兄さんに出会い、ハルに出会い、そして凪と出会い、気が付けば取り返しがつかない事になっていた。

だったらその状況を利用してやろうっていう思いが無いわけでも無かったのだが、皆と関わる内に脳の片隅から忘却していた。

それだけ皆と過ごす日常が楽しくて、愉快で、辛い感情が吹き飛んでいたからだ。

勿論、全く何もしてなかったわけではない。男子勢だけで修行をして過ごしたり、女子勢に混じって料理をしたりしていた。他にもリングの原石を探しに雲雀さんや風紀委員会と一緒に鉱山を見つけたり、並盛中学の生徒会長になって色々とやったりとかもした。

とはいえ、楽しい事ばかりだったかと聞かれればそういうわけでもない。

リングの原石やリングを探している際にヘルリングを二つ程見つけてしまったり、凪がヘルリングの力を引き出してとんでもないことになったり、その過程で校舎が全壊したせいで雲雀さんとガチで殺し合う羽目になった事もある。

その後、新しく出来た校舎の地下に角が生えたようなデザインのヘルリングを凍結処理した上で封印し、それが原因で雲雀さんとのガチの殺し合いパート2になった事も今では良い思い出だ…………うん、まぁ楽しかった――――筈。酷い目にも結構あってたけど。

 

「まぁ、それで皆を俺の血の業に巻き込むのは嫌だなって思ってさ。まぁ、俺がマフィアのボスになりたくないって思いもあるにはあるんだけどさ」

「沢田さん…………」

「うん。分かってる。ユニとの話しで俺も覚悟を決めたよ」

 

ここに来て色々とうじうじと悩んでいたが、ようやく決心がついた。

 

「俺はこれからも逃げ続ける! 絶対にマフィアのボスになんかならない!!」

「はい、がんばって――――どうしてそうなるんですか!!」

 

改めて決意を固めた俺の宣言を聞いて、ユニはツッコみを入れた。

 

「いや、だってさ。並中の生徒会長やってるだけで胃壁がガンガン削れるんだよ。人には向き不向きっていうものがあるし、やっぱり俺、人の上に立つとか無理だよ」

 

今でも思い返すだけで血反吐を吐きたくなる。

何時の間にか生徒達に行き渡っていたリングの数々、死ぬ気の炎を出せる人数は多くはなかったが少なくもなかった。

毎日が地獄絵図とは正にあの事を言うのだろう。

あれこそが本当の黒歴史だ。何だよ並盛戦国時代って、本当に思い出したくも無い。

 

「そんな事は無いと思いますが…………」

「ユニは俺の事を買い被り過ぎだよ」

 

心を凍らせれば出来ないわけではないが、そこまでして頑張る義理が俺には無い。

そんな事を考えながらユニの頭を軽く撫でる。

 

「と、それはそれとして、だ。ユニ、何か悩みがあるんなら相談に乗るよ」

「…………えっと、それはどういう意味ですか」

「昨日、トイレに行った時に聞いたんだよ。ユニの泣きながら呟いていた寝言を」

 

俺がそう告げるとユニは少しだけ驚いた表情をする。

 

「ごめん。聞くつもりは無かったんだけど」

「いいえ。大丈夫ですよ…………沢田さんは私の、大空のアルコバレーノについて知っていますか?」

「ある程度は知ってる。だから、言わなくて良い」

 

大空のアルコバレーノは他のアルコバレーノと違い、短命の呪いを背負っている。

だから彼女は長生きする事が出来ない。下手をすればあと数年の命なのだ。

 

「周りを幸せにしたいなら、嬉しい時こそ笑いなさい。お母さんはそう言ってました」

「良い言葉だね。うん、きっと、それは本当に大切な事だよ」

「でも、私はまだそこまで上手く出来ません。一人で過ごしていると、どうしても怖くなってしまって」

「そうか…………」

 

どうやらこの時代の彼女はまだ自身のファミリーについて殆ど知らないらしい。

なら、それも仕方がないか。短命の事実は幼い彼女にはあまりにも重過ぎるし、そして今の彼女は一人ぼっちなのだから。

辛いことを忘れさせる人達にまだ出会っていないのだから。

ましてや彼女はまだ未来の体験をしていないし、まだ愛というものを知らない。

それなのに無責任な言葉を彼女に投げかけるのは不適切だし、彼女を傷付けるだけだろう。

そう考えて何か慰めの言葉を投げかけようとした瞬間、全身を包み込むような殺意を感じた。

 

「さ、沢田さん。いきなり顔を真っ青にして、どうし――――これは!?」

「…………っ! ユニ、危ない!!」

 

何が起こるのかは分からないが、まず間違いなく身の危険を覚える程の何かが起こる。

その事を理解した俺はユニを庇おうとして、ユニはそんな俺の様子を見て未来を視たのか顔色を真っ青にする。俺も超直感を使ってユニの心を読み、彼女が視た未来を察知する。そして、これからこの家が爆発に巻き込まれると言う事を知る。

だが時既に遅く、突如起こった爆発に建物は吹き飛ばされた。




日常編でも暗殺者を送られたりしてたし、リボーン世界では建物が爆発に巻き込まれるのもよくあります。
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