特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
本当はバトルに入りたかったんですが、ちょっとやりたい事があったので。
運が悪かったといえば、間違いなく悪かったと言えるだろう。
綱吉とユニ、二人が突如として爆発に巻き込まれたのはマフィア同士の抗争によるものだったのだから。
とはいえ、ユニの家があるのはジッリョネロファミリーの縄張り。
ボンゴレに匹敵する伝統と格式のあるマフィアだ。本来ならば無闇矢鱈に、一般人を巻き込むような事は起こらない筈だった。
そう、その筈だったのだ。
ジッリョネロファミリーにとって不運だった事は、彼等に抗争を仕掛けた側のマフィア、ラーニョファミリーが最近勢い付いていたからである。
ボンゴレ10代目によるサーレファミリーの襲撃と物理的な解体。
それが切欠となり、サーレファミリーの縄張りを敵対ファミリーだったラーニョファミリーが手に入れる事で勢力を拡大する事に成功したのである。
勢い付いたラーニョファミリーは他のファミリーに抗争を仕掛けて更に勢力を拡大。
そして現在、ラーニョファミリーはジッリョネロファミリーに抗争を仕掛けたのだ。
何かが悪かったわけではない。綱吉の行動が遠因になってしまってはいるが、それはただ切っ掛けに過ぎず、その切っ掛けがなくともラーニョファミリーは攻め込んでいただろう。
――――そう、誰かが悪かったわけでは無い、ただ間が悪かっただけである。
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ポタッと音をたてて顔に落ちた水滴の音を耳にして、ユニは意識を取り戻した。
どうやら自分は爆発の衝撃で気を失っていたらしい。
「う、うぅ…………」
身体の節々から感じる痛みに顔を顰め、周囲の状況を確認しようとする。
完全に意識が覚醒していないからか、瞳に映る風景がぼやけて見える。
だが、それでも凄惨極まりない光景だった。
ついさっきまで自身が暮らしていた建物は倒壊しており、所々に火の手が上がっている。
否、自分の家だけでは無い。隣で暮らしていた隣人の建物も、他の誰かの家も、近所で商売を営んでいる人の店も同じように燃え上がっていた。
――――この爆発騒ぎは誰かの悪意によって引き起こされたものだ。
未来を視た事で知ったその事実にユニは思わず心を痛める。
詳しい事は知らないし分からない。未来を視る力はあっても過去を視る力は無い為、どうしてこうなったのかという過程を知ることが出来ない。
だがこれは自分の母親の、否、自分のファミリーに対しての攻撃だということだけは分かった。
幸いだったのは死者が出ていない事だろう。見た限りでは死んだ人間は居ない様にも見える。怪我を負っているようだが、死に至る事はないだろう。
良かった、と心の中で僅かに安堵し、同時に疑問を抱く。
――――何故、自分は無事なのだろうか?
あれ程の爆発だ。家が完全に瓦礫の山と化しているというのに、何で自分は殆どといっても良い程、怪我を負っていないのか。
「――――大丈夫? 怪我は無い?」
その答えは自身に覆い被さっている綱吉の姿を見てすぐに分かった。
「さ、沢田さん…………! け、怪我を…………!」
恐らく爆発の衝撃から自分を守る為に覆い被さったのだろう。
ユニを爆発から庇った綱吉の身体は酷く傷付いていた。
右半身はそれ程でもないが、左半身は言葉を失う程だった。服は爆風で焼け焦げてズタボロになっており血で赤黒く染まっている。所々服が破けており、傷口が露出していた。
見ているだけで痛々しいと感じてしまう程に酷い怪我だが、それ以上に左腕の方が問題だ。
何故なら、上腕の真ん中から先が無くなっていたのだから。
「う、腕が…………」
「大丈夫。血は止めてるから死にはしないよ」
言葉を出す事すら出来ないほど混乱しているユニに対し、綱吉は笑みを浮かべながら告げる。
だが、その笑みが単なる痩せ我慢に過ぎない事は理解できた。
むしろこれ程の大怪我を負っているのを見て何処が大丈夫等と言えるのだろうか。
答えは否だ。顔を真っ青にし、痛みに震え、焦点が定まっていない綱吉の姿を見て大丈夫等と口が裂けても言えなかった。
「ぜ、全然大丈夫なようには見えないのですが…………」
「そりゃ死なないからって痛くないわけじゃないよ。でも、バリアを張るのがもう少し遅れてたら二人とも死んでたからさ。もうちょっと早く気が付いていたら話は変わったんだけどなぁ」
溜め息交じりにそう呟きながら綱吉は零地点突破・初代エディションを使い、左腕を含めた全ての傷口を凍らせて止血する。
急に現れた氷が傷口を覆った事にユニは目を見開く。
「それは、ボンゴレⅠ世の奥義の…………」
「零地点突破・初代エディション。ご先祖様が辿り着いた境地だよ。よし、応急処置はこれで終了っと」
一通り傷口を凍り付かせた綱吉はフラフラとした足取りで立ち上がる。
そしてユニに目線を合わせ、困ったように笑みを浮かべた。
「さて、ユニ。これ、マフィアの攻撃だよね」
「っ、沢田さん。どうして――――」
どうしてその事を知っているのか。
そう続けようとしたところで、ユニはある事を思い出す。
ボンゴレの血統、ボンゴレリングの適合者に宿る異能。
「超直感」
「うん。それでユニの心を覗き込んだんだよ。いや、人の心とかを勝手に読むとか本当はやっちゃいけない事だとは思っているんだけどさ。緊急事態だったしユニなら未来を視ているから何が原因だったのか分かるから良いかなって」
さらっと言っているがそれは途轍もない事をやっていた。
要するに彼は自分の未来視で見た内容を超直感を使って閲覧、同じように未来で何が起こったのかを察知したのだ。
神の采配と謳われたボンゴレ9世でさえ、ここまでする事は出来ないだろう。
「俺さ、これからこんな酷い事をした奴等の所に行って来るからさ。ちょっとだけ身を潜めててもらっても良いかな?」
「えっ、で、ですが…………その傷じゃ…………」
「こう見えても俺、強いから腕が一本くらい無くなってても大丈夫だよ」
そう言って綱吉は右腕を軽く振り上げる。
瞬間、右手の中指に付けていたリングからオレンジ色の炎が出現した。
それと同時に彼の額からもリングと同じように燃え上がり、瞳も澄んだオレンジ色に変化する。
――――
自らのリミッターを外し、戦闘力を高めるボンゴレⅠ世と同じ力。
感じる圧は確かに凄まじいものだった。だが、それでも彼は負傷している。その上、体調だって決して良くはない筈だ。
「それじゃあ、少し行ってくるから」
「っ、待って、下さい!」
自身に背を向けてこの場から離れようとする綱吉に、ユニは引き止めようと手を伸ばそうとしたその瞬間だった。
未来視が突如として発動したのは。
「う、うぅ…………」
意図せずして発動した未来視にユニは思わずその場で膝をつく。
「えっ、だ、大丈夫か!?」
綱吉は急にその場に膝をつき、倒れ込んだユニの身体を受け止める。
とてもではないが立っていられず、綱吉に身を預ける。
自身の予知、未来視が発動する際に疲労したり、断片的にしか見れない時はある。だがここまで痛む事は一度たりとも無かった。
その事実に困惑していると、脳裏に未来の光景が映り込んだ。
――――そこは知らない場所で、見ているだけで辛くなるような空間。
鉄帽子を被った男が血だらけになって倒れていた。
その周囲には包帯を身に纏った者達と透明なおしゃぶりを付けたアルコバレーノが存在し、彼等は一ヶ所に視線を向けている。
視線の先には綱吉が居て、その手には血に染まった大空のおしゃぶりが握られている。
そして、彼の背後に居る未来の自分が、泣きながら彼に抱き付いている姿を見た。
――――これは、一体…………?
薄れ行く意識の中で視界が暗転し、意識を手放そうとする。
その瞬間、ユニは何者かの声を聞いた。
『彼を手放しちゃ、ダメだよ』
それが誰なのかは分からないが、酷く懐かしい声だった。