特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
多分次回も遅くなると思うのでゆっくり待ってて下さい。
意識を失ったユニを背負いながら建物の屋根を飛び回る。
片手を失い、残った方の腕も背中にユニが居る為に使えず、争いの真っ只中に居る今の現状に思わず舌打ちをしてしまう。
「もう少しだけでも優しい世界にならないのかな?」
意図せず口に出た弱音に自己嫌悪する。
別に弱音を吐く事自体は問題無い。と、いうかボンゴレ10代目になりたくないからって逃亡生活を送っている時点で情けない奴なのだから。
だけど、それでも守るべき人が居る時に言ってはいけなかった。
気絶しているから聞かれなかったとはいえ、ユニに今の言葉を聞かれていたら心配させてしまっただろう。
「…………大丈夫。何とかするから」
背中で眠っているユニに、弱気になっている自分に言い聞かせるように呟く。
正直に言って今の自分に出来る事は少ない。武器も無ければ片腕も無い、そしてリングもDランクが1個だけ。加減しながら使えば持つだろうけど、本気で使えばそのリングも破損する。
本当に酷い有様だ。出来ればこのリングは後の為に取っておきたいのだけれど、いざという時には使うしかないか。
そう考えながら移動していた時だった。
視界の端にあるものが映り込んだのは――――。
「ん? あれは…………」
それは黒いスーツを身に纏った二人の男と一人は少年だった。
路地裏に身を潜めながら拳銃を手に持ち、機会を窺っている金髪の男性と浅黒い肌の男性、そして彼等二人の背後にピンク色の髪の毛の少年が居る。
恐らくマフィアの関係者、いや、間違いなくマフィアだろう。
ただ彼等三人の姿を見る限り、この町を戦場に変えた連中とは違うだろう。
ピンク色の髪の少年が腕に抱えているのはパンが入った紙袋で、買い物をしている最中に巻き込まれたというのが分かる。
「確か…………ジッリョネロの三兄弟だったっけ?」
γ、太猿、野猿。いずれ来る未来において、ミルフィオーレファミリーとの抗争において戦う事になる敵でもあり後に味方にもなる人達。太猿と野猿は未来に来て最初の脅威として、γは未来の現実を獄寺君と山本に突き付けた相手でもある。
「何であの三人が…………いや、居て当然か」
ここはジッリョネロファミリーの縄張りだ。
ならば彼等が居てもおかしくはないし、不思議でも無い。
しかし、どうした事か。正直な話、微妙――――いや、一言では言い表せない人達だ。
何せ未来の世界で皆を襲ったのだから。
太猿と野猿は京子ちゃん達に襲い掛かった上、太猿には大怪我を負わせられたし、γには獄寺君と山本を死の一歩手前まで痛めつけられている。
その事自体は酷いって今でも思っているし、許しちゃいけない事だと思っている。
でも彼等によって助けられたのも事実だし、彼等が居なければ世界は救えなかった。
後に和解したとはいえ、彼等の行いは決して忘れてはいけない事だ。
――――尤も、今この時を生きる彼等にとっては何の関係も無い話なのだが。
「…………本当、記憶があると先入観が邪魔になるなぁ」
まぁ彼等の事はそこまで嫌いではないから特に問題は無いが。
これが白いのだったら間違いなく警戒心剥き出しになっていただろう。
心の中でそう考えながら零地点突破・初代エディションを使って炎上する建物の炎だけを凍結する。
「そういえば、γは雷のマーレリングの所有者だったよな」
未来では平行世界の白いのが、幽霊みたいな奴が所有していたけど元々はγの物だった筈だ。
だったらまだミルフィオーレではない、ジッリョネロの彼が持っていてもおかしくはない。
正直なところ、このまま一人でユニを庇いながら戦い続けるのは無理があるのだから。
誰かの助けが必要なのだから、それを選ばない理由が無かった。
「…………可能性に賭けてみるか」
そう呟いた俺は屋根の上から飛び降りて――――、
+++
「が、γ兄貴! 太猿兄貴!!」
背後に居る涙ぐむ野猿の声を聞き、γは苦笑を漏らす。
「野猿。男がそんな声を出すな」
「だ、だってよ太猿兄貴…………拳銃で撃たれて…………っ!」
「安心しろ野猿。俺も太猿も大したことはない。こんなものは掠り傷だ」
血を流している左腕の傷口を軽く摩りながら、γは心配そうに此方を見ている野猿に言う。
「っち、まるで蠅のようにうじゃうじゃと居やがる」
路地裏から覗き込むように町の様子に目を向ける。
其処等彼処に敵対マフィアの、最近勢いがあるラーニョファミリーの構成員と思わしき連中が武器を持って蔓延っていた。
「全く、今日は厄日だ」
太猿と共に野猿を連れて町を歩き回っていたというのに、唐突に他のファミリーが襲撃を仕掛けてきたのだから。
苦々し気に懐から拳銃を片手に様子を伺う。
本当ならば今すぐにでも敵を迎撃し、ボスの所に戻ってその身を守らなければいけない。
ジッリョネロファミリーはボンゴレファミリーと同等の伝統と歴史を持っているが、その勢力は決して巨大というわけではない。争いを好まない歴代ジッリョネロのボスの気質のせいか、ジッリョネロファミリーの勢力は小さい方だ。
その上、今日はよりにもよってファミリーの構成員の殆どが外に出払っている。
アジトに戦える者が居ないわけではないが、敵のファミリーであるラーニョが攻め込めばまず耐え切れないだろう。
もしそうなったら――――、
「…………くそっ」
脳裏に過った最悪の想像にγは思わず舌打ちをする。
「兄貴、このままだったら埒があかねぇぞ」
「ああそうだな。なら無理矢理にでも突破して、急いでボスの下に行くぞお前等!」
「お、おう! 分かったぜγ兄貴!」
そして三人は意を決し、路地裏から飛び出そうとした――――その瞬間だった。
空からオレンジ色に輝く炎の柱が降り注いだのは。
「ぐわぁあああああああああああああああああっ!!?」
炎の柱によってラーニョファミリーの構成員達は薙ぎ払われていく。
明らかに彼等だけを狙った攻撃に、飛び出そうとしたγ達三人はその場で動きを止める。
一体何が起こった?
疑問を抱く間も無く、少女を背負い、フードで顔を隠した少年がふわりと着地した。
「初めまして」
少年は此方に視線を向けながら何事と無く歩み寄る。
そしてフードの隙間から顔が覗き見えるくらいに少年が近づいた時、γは驚愕に顔を歪めた。
「ボンゴレ10代目! どうしてここに!!」
ボンゴレ10代目、沢田綱吉。
裏社会において歴史、伝統、勢力を兼ね備えた最強のマフィア。
そのボスの9代目に直々に後継者として指名された、戦闘力とカリスマに秀でた存在だ。
アルコバレーノを五人も倒したその戦闘力は規格外と言っても過言ではなく、自分達三人では勝ち目が見えない相手だった。
左腕が無いようにも見えるが、欠片も油断出来ない相手だ。
「その質問に答える前に、少しだけ力を借りるよ」
綱吉は一瞬でγの右手を掴み取る。
「一体何を――――」
――――する気だ。そう言葉を続けようとした瞬間だった。
γが指に嵌めていたジッリョネロファミリーの至宝、雷のマーレリングから緑色の雷が迸ったのは。
「なっ!?」
突如として現れた雷にγを含めた三人は驚愕の声を漏らす。
そして、雷はさっきの炎の柱による攻撃が当たっていなかった残りの敵を貫いた。
「がああああああああああああ!!?」
一人、また一人と連鎖的に感電し、γ達の周囲に居た敵は残らず地に倒れ伏す事になった。
「さて、っと。これで邪魔は居なくなったな」
綱吉はγの腕から手を離し、三人を見据える。
「じゃあ、少しだけ話そうか」
+++
「――――成る程、ここには偶然辿り着いて、それでこの抗争に巻き込まれたというわけか」
「そういうわけなんですよ」
一頻り敵を倒し終えた後、俺はγにここに至るまでの経緯を伝える。
尤も、全てを伝えているわけではなく、ユニを含めて色々と隠してはいるが。
「信じられねぇな。って、普段なら言ってるんだが」
「流石にこんな状態で嘘をつく奴は居ないと思うけど」
訝し気に此方を見るγに対し、欠損した左腕を振るう。
「今言った通り俺がここに居るのは本当に偶然だ。敵対する理由も無いし、する意味も無いから」
「…………分かった。つまり、だ。お前は味方と考えて良いって事だな?」
睨みながら言い放つγに対し、俺は淡々と告げる。
「味方だよ。見ての通り今の俺は怪我人だから出来る事は殆ど無いけど」
腕を失っているのもそうだけど、やっぱり完全回復していなかった影響が今来ている。
この左腕は後で何とかするが、それはこの抗争が終わった後だ。
「一つ、聞いても良いか?」
「俺が答えられる質問であるのなら。ただ手短にして」
「お前はどうして、俺達の味方なってくれるんだ?」
「まぁ、一言で言えば恩があるから、かな」
ジッリョネロファミリーには、セピラには色々な恩がある。
そうでなくてもユニに命を救われたんだ。恩を仇で返すような真似はしたくない。
一概に一言で説明出来る話ではないし、話しても信じられないような事だから話すつもりは無いが。
「…………お前にどんな理由があるのかは知らないし興味も無い。だが、お前のお陰でこの街から彼奴等を倒す事が出来た。礼を言う」
「まだ全員倒し終えたわけじゃないんだけどね」
「それでも、だ。お前が居なければ俺達の身も危なかった」
「ああ! そうだぜ! サンキューなツナの兄貴!」
γ、太猿、野猿の言葉を聞いて笑みを浮かべる。
嗚呼、この人達は本当に良い人達だ。マフィアに良いも悪いも無いけれど、気の良い人達だ。
そう考えていると、此方に拳銃を突き付けている男達の姿が視界に入った。
どうやらまだ生き残りが居たらしい。ならとっとと倒さなくちゃ。
そう考えて敵の所まで接近しようとした瞬間、γが男達の周囲に銃弾を放った。
放たれたその弾丸には雷の死ぬ気の炎が灯っており、閃光が迸った。
「ギャッ!?」
スパークした弾丸の攻撃により、男達は倒れていく。
リングの炎を使った一撃。電気に似た性質を持つ雷の炎ならではの技だ。
「その怪我じゃ足手纏いだ。その娘を連れて俺達のボスの所に行け」
確かにγの言う通り、今のままじゃ足手纏いだ。
とはいえ、教えたばかりのリングの炎でどこまで戦えるのかは分からない。
やはりここはユニを太猿に背負ってもらって、俺も戦うべきだろう。
そう考えているとγが俺の頭の上に手を乗せた。
「本来ジッリョネロとは関係の無いお前にこんな事を言うのはおかしいだろうが、ボスを頼む。俺達じゃあ、すぐは戻れそうにないからな」
「…………分かりました」
流石にあんな風に頼まれたら断る事は出来ない。
γ達に背を向けて、教えて貰ったジッリョネロファミリーのアジトがある方向に走り出した。