特別だからって世界を救う義務は存在しない。   作:霧ケ峰リョク

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労働生活その7

先に結果を述べるのならば、ジッリョネロファミリーとラーニョファミリーの抗争はジッリョネロの勝利に終わった。

尤も、全くの無傷で勝利したと言うわけではなかったのだが。

ジッリョネロファミリーの内部に居たラーニョファミリーに情報を横流ししていた裏切り者や唐突の襲撃。それによってジッリョネロファミリーは決して無視出来ないダメージを受けてしまったのである。

もし、俺が介入しなかったら負けはしなくても勢力としては大きく弱体化していたかもしれないらしい。

以上の経緯を病院のベッドの上でユニから聞いた。

 

「本当にありがとうございます沢田さん」

 

ユニから告げられる感謝の言葉に少しだけ苦い顔を浮かべる。

 

「別に気にしなくて良いよ。殆ど何も出来なかったも同然だし」

 

実際、俺が出来た事はユニを背負って逃げ回ることと、危なさそうな人の救助と、目についたラーニョファミリーの連中を倒す事だけだった。

負傷してたという事実を加味しても、リングと武器が無い俺の現在の力はかなり弱くなっている。

ここまで頑張って鍛えたとはいえ、まだまだ弱いという事だ。

その上、サポートしてくれる味方も今は居ない。

本当に嫌になる。こうして自分の実力不足を突き付けられるのは。

 

「そんな事を言わないで下さい」

 

心の中で少し、いや、かなり落ち込んでいるとユニが俺の左手の上に自身の手を乗せた。

再生、もとい復元した腕は感覚こそあるものの、その動きはまだぎこちない。

そんな動きが鈍い俺の左手に触れて、彼女は少しだけ目を細めた。

 

「沢田さんは沢山の事をしてくれました。貴方が居なかったら、もっと沢山の人が命を落としていたかもしれません」

「…………そう言ってくれるだけでも救われるよ」

 

とはいえ、結局行きつく答えは実力不足だ。

 

「まぁ、それはそれとして」

 

もっと鍛えないとダメだなぁ、心の中でそう考えているとユニに触れられていた左手が強く掴まれる。

 

「沢田さんには色々と言いたい事があります」

「い、いててて…………ゆ、ユニ? いきなり強く掴んでどうしたの…………? と、いうか何で怒ってるの?」

「ええ、怒ってますよ。凄く怒ってます。むしろ怒ってない方が不思議なくらいです」

 

誰もが見惚れるであろう笑みを浮かべたまま、ユニは俺の手を更に強く握り締める。

 

「凄く…………心配したんですよ」

「…………ごめん」

 

彼女の言葉を聞いて、謝る事以外出来なくなる。

これに関しては本当に言葉が出て来ない。あんなことになったのだから当然といえば当然だが。

いや、そもそも幼い子に顔の穴という穴から血を流して倒れるという姿を見せてしまったのだ。自分で言うのもあれだが、トラウマになっても仕方がない光景だっただろう。

ユニには本当に悪い事をした。

心の中が申し訳ないという気持ちでいっぱいになる。

思わず、この嫌な空気を変えようと何かを言おうと口を開ける。

 

「お邪魔するわ。沢田綱吉君」

 

だが言葉を言うよりも先に見知らぬ女性が病室の中に入って来た。

女性はユニに似た顔立ちをしており、このまま成長すれば瓜二つになるのではないかと思わせた。

そして、左の頬にはユニと同じ花のような痣があった。

 

「お母さん」

「ごめんねユニ。話している最中なのに邪魔しちゃって」

 

女性、ユニがお母さんと呼んだ人はゆっくりと歩み寄り、ユニの隣に座る、

 

「初めまして、私の名はアリア。ユニの母親で、ジッリョネロファミリーのボスをやっているわ」

「あ、これはどうもドンナ・ジッリョネロ。私はボンゴレⅠ世の末裔、沢田綱吉と申します」

 

アリアと名乗った女性の自己紹介に、俺自身も自己紹介をする。

その際にユニが「礼儀正しく挨拶出来るんですね」と言わんばかりの驚いた表情で此方を見ていたが気にしないでおく。

 

「先ずお礼を言うわ。貴方の尽力のおかげで被害を最小限に防げたのだから」

「気にしなくて良いですよドンナ・ジッリョネロ。私も貴女の娘、ユニ嬢に命を救われた身なのですから。むしろ礼を言うのは此方の方ですよ」

「私は何もしていないわ――――さて、それじゃあ本題に入りましょうか」

 

優しそうな笑みを浮かべていたアリアさんだったが、目を細めて真面目な表情に変化する。

感じる雰囲気は変わらない。だがその姿は正しく一つの組織の頂点に立つボスとしての風格を抱かせた。

 

「沢田綱吉君。貴方の事情はある程度は把握しているわ。表向きには武者修行をしているとされているけれど、本当はボンゴレから逃げているということも」

「…………知ってたんですか」

 

まぁ、ジッリョネロファミリーのボスならば知っていてもおかしくはないだろう。

俺の逃亡生活が武者修行扱いにされているのは初耳だが。

 

「きみのその思いも分からないわけではないわ。でも、流石にそろそろ帰った方が良いんじゃないかしら? そんな状態になっている以上、そろそろ逃げ続けるのも難しいだろうし」

「それは…………」

「今すぐ決めろってわけじゃないわ。ただきみにその気があるのなら、私の方からリボーンに伝えておくわ」

 

アリアさんの言葉に俺は何も言えなくなってしまう。

実際、彼女の言う通りだった。一人で行動して挙げ句の果てには病院のベッドの上で安静にしていなくちゃいけない状態になってしまった。

普通なら、というか普通じゃなくても諦めざるをえないのだ。

俺一人ではここまでが限界なのだから。

しかし、だからといって諦めるわけにはいかない。

アリアさんがこの病室から去ったら逃げ出そう。体調はまだ戻ってないが逃げることぐらいは出来る筈。

心の中でそう考えていると、不意に左手が引っ張られる。

 

「沢田さん。今逃げようって考えましたね?」

 

そう告げたユニの表情は、感情を欠片も感じさせないような無表情だった。

超直感を使わなくても分かる。明らかに怒っている。

 

「えっ、いや、あの…………その…………」

「…………はぁ、もう。仕方がありません。放っておいたらマンボウもびっくりの速度で死んでしまいそうですし…………多分、これが一番良い方法なんでしょう」

 

ユニは溜め息交じりに独り言を呟いた後、母親であるアリアさんの方に視線を向ける。

割と失礼な事を言っているが、俺自身否定できないので何も言う事が出来ない。

 

「お母さん。お願いがあります」

「あら、何かしら?」

「一つお願いがあるんですが、沢田さんをうちに置いてもらえないでしょうか?」

「んなっ!!?」

 

ユニの発言に俺は思わず声をあげてしまう。

 

「いや、いやいやいや…………ユニ、どうして!?」

「このままだと沢田さん逃げ出してしまいそうですし。それなら近くに居て貰った方がまだ安心できます」

「う、うぐ…………」

「沢田さんって今お金無いじゃないですか。その上、そんな酷い怪我までしているのに追手から逃げられると思っているんですか?」

「…………すみません。逃げられないです」

 

此方をジト目で見るユニの視線に何も言えなくなってしまう。

と、言うよりも彼女の言う通りだった。このまま逃げたところで絶対に捕まるのは確定している。

 

「でも、だからといってユニやアリアさんのお世話になるわけにもいかないし」

「お世話も何も、気にする必要は無いですよ。むしろ私は沢田さんに恩がありますし、良いから大人しく恩を返させて下さい」

 

ああ、これはもう断ることが出来ない。

こうなった女の子は何を言おうが言う事は聞かない。凪や京子ちゃん、ハルの三人でそういうのはよく知っている。

尤も、こうなってしまったのは全部俺の自業自得なわけだが。

 

「それに…………いいえ、何でも無いです。お母さん、お願いできますか?」

「ええ、別に大丈夫だけど…………そう、ユニがねぇ。ふふふ」

 

ユニの言葉を聞いてアリアさんは一人笑みを浮かべた。

その瞳は何か微笑ましいものを見るような目だった。

 

「お母さん?」

「ふふ、何でもないわ。綱吉君はうちの恩人でもあるわけだし、置いても大丈夫よ。でも、流石に彼の素性を隠さないとね」

 

そう言ってアリアさんは俺の方に視線を向ける。

何故かは分からない。だけど、今までで体験したことが無いような嫌な予感がした。




次回は主人公以外の現在をやっていきたいと思います。

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