特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
次から労働生活第二部が始まります。
「ふぅ…………ようやく人心地がつきましたね」
ラーニョファミリーとの抗争が終了してから約一週間の時が流れた現在。
ジッリョネロファミリーのアジトにある花々が咲き誇る庭園にて、ユニは座椅子に腰を掛けて一時の休息を味わっていた。
母、アリアは幼い自身が裏社会に関わるのはまだ早いと考えていた。
その為、自らがボスを務めているジッリョネロファミリーにも明かしてはいなかった。が、この前の抗争で暮らしていた自宅、もとい自分の身を隠す家が木っ端微塵に吹き飛んでしまった事が切欠となり、身の安全の為にジッリョネロファミリーに身を寄せる事になったのである。
当然と言えば当然の話だが、アリアからの説明があったもののユニの事を知った当時のファミリーの皆は酷く混乱した様子だった。
「あっ、このお茶菓子とても美味しいですね」
とはいえ、問題があったかと聞かれればそういうわけではない。
ラーニョファミリーとの抗争の後始末やそれ以外の仕事等々、一時の混乱など頭の隅に追いやって忘れかける程に忙しかった。
幼い身ではあるものの、ユニも食事の用意等出来得る限りの事をした。
その結果、最初こそ隔たりのようなものがあったもののすぐに打ち解ける事が出来た。
本当にあっという間の出来事だった。
口の中に残った上品な甘さに顔を綻ばせつつ、ハーブティーで潤す。
「このお茶もとても美味しいです。沢田さんもいかがですか?」
そう言ってユニは後ろに視線を向ける。
「なんで…………どうして…………」
ユニの視線の先にはメイド服を身に纏った一人の少女が居た。
重量に逆らいながらも刺々しい印象は与えず、どちらかと言えばふわふわとしているようにも見える茶色に近い琥珀色の長い髪は腰の辺りまで伸びている。
そして顔色は青く、見るからに体調が悪そうにも見えた。
「それにしても…………意外と似合いますね」
「まぁ母さん似だから…………って、そうじゃないよ!!」
ノリツッコミを披露しながらメイド服を着た少女、沢田綱吉はユニに詰め寄る。
「何で俺、メイド服を着てるんだよ! 助けられた身だからあまり文句は言えないけどさ、仮にも俺は男だよ!?」
「沢田さんの身を隠す為です。流石にそのままだと直ぐに見つかってしまいますよ」
「確かに、その通りなんだけど…………だからといって女装はしなくても良いんじゃないかな?」
「その姿の方が分かりにくいですので」
納得いかない、物凄く納得いかない。口にしてはいないものの物凄く不貞腐れていると分かる。とはいえ、ボンゴレファミリーや彼の友人達、そして彼の命を狙う者。その数はあまりにも多いのだ。
何も対策していなければすぐに見つかることになるだろう。
だからこそ、こうして素性を隠していなければいけなかったのである。
「それに沢田さんは、いいえ、チヨヒメ・ディケイドさんは今女の子ですし、その姿の方が良いんじゃないですか?」
「やめて…………人前なら兎も角二人で居る時とかでその偽名で呼ぶのはやめて…………」
しくしくめそめそと死んだ魚のような目で綱吉は、チヨヒメ・ディケイドは涙を流す。
今自分が言ったように、彼は彼女になっていた。
原理としては大空の特性である調和を応用して男から女に変わっているらしい。
一体どうしてそんな方法を思い浮かぶのか、そして実行してしまうのか。
内心疑問を隠せずにはいられなかったがあえて聞かない事にした。
(一先ずは、これで大丈夫ですね)
その姿を瞳に収めながらユニは再びハーブティーに口をつける。
本来ならば彼は、今は彼女であるが、ボンゴレファミリーや友人の下に帰るべきなのだ。
だが、この前の抗争の際に見た未来がその選択肢を外させた。
倒れている帽子の男や血塗れの大空のおしゃぶり。断片的にしか分からなかったが、あれはきっと良くない未来だ。
恐らくだが近い内にあの未来が訪れて、そこには自分も居る。
ならば近くに居て貰った方が良いと考えた。
(この考えが正しいかは分からないですけど…………)
予知を行使して未来を見ようとしても狙って見ることが出来ない以上、今の自分が打てる最善手である事には違いない。
そう考えながらユニは再び泣いている綱吉、もといチヨヒメの姿を見やる。
(それにしても…………さっきから泣いている沢田さんを見ていると胸の奥から、こう、何かが湧き上がるような気が…………)
そして胸の奥から湧き上がる得体の知れない奇妙な感覚に戸惑った。
+++
どうしてこうなった、どうしてこうなった、どうしてこうなった。
心の中で絶望に染まりながらメソメソと涙を流す。
一週間しっかりと身体を癒すことが出来て、調子も何とか元に戻った。
その上、自身の身はユニ、ジッリョネロファミリーが隠してくれている。
これなら暫くボンゴレファミリーには見つからないだろう。
それに新しい大空のリング、恐らくBランク相当のも手に入れる事が出来た。
本当にそれは感謝している。そう、感謝しているのだが――――、
「だからといって女になる必要は無いだろ…………」
自分の姿を見て思わずそんな言葉が出る。
大空のリングが必要になるものの、大空の特性である調和を応用した他者を基点に自身を変化させる技。
これに加えて以前受けた特殊弾から体得したリボーンの
尤も、俺としてはあまり愉快な話ではないのだが。
「はぁ…………本当に鬱だ」
気分が暗くなっていくのを実感しながら溜め息をつく。
幸いなのはジッリョネロファミリーの人達に俺が沢田綱吉だということを知られていないことだろう。
知っているのはユニとアリアさん、そしてγ三兄弟だけである。
あの時のγ三兄弟から向けられたあの視線は二度と忘れる事ができないだろう。
と、いうか大空の炎を常に使い続けるというデメリットがあるとはいえ、よく女になる事が出来たものだ。
まあ肉体が石になっても後遺症とかが一切無いのだからこれぐらいは出来て当たり前なのかもしれないが。
「はぁ、もう仕方が無い。これ以上考えていても鬱になってくるだけだし、別の事を考えよう」
休息を取って体調は戻ったとはいえ、身体の方は少しばかり鈍っている。
本調子に戻るまではリハビリを重ねないと無理そうだ。
やっぱり長期間動かさないと思った通りに動かない。特に左腕なんかはまだ少し遅く感じる。
それでも身体能力を維持できるのは全集中の呼吸・常中のおかげである。
心の中でそう考えていると、ふとある疑問が脳裏に浮かぶ。
「…………今更だけど、何で俺は全集中を、ヒノカミ神楽を使う事が出来るんだろう」
全集中の呼吸はそもそもこの世界とは違う世界の技術だ。
とはいえ、幼少期から雷に打たれる事で電撃に耐性を手に入れたり、使用した張本人には一切ダメージが無い広範囲の自爆を使えるビックリ人間が横行するこの世界だ。全集中の呼吸を使う事が出来てもおかしくはない。
実際に山本が時雨蒼燕流に全集中の呼吸を組み合わせたり、雲雀さんも使ったりしているのだから。
――――だけどヒノカミ神楽、否、日の呼吸を使えるのはおかしい。
この呼吸は全集中の呼吸の始祖、継国縁壱と彼から教えられた竈家の一族が使う事が出来る技だ。
別に呼吸法そのものを使う事はおかしいわけではない。
だけど、日の呼吸の型を、技を使う事が出来るのはあまりにもおかしかった。
知識があるとはいえ、何度も練習したとはいえ、超直感が正解だと告げたとは言えその技を使う事が出来るのだろうか。
そもそもとして、何で俺はあれを日の呼吸だと断言出来たのだろうか。
いや、そもそもとして他の技術もどうしてこの世界で使えるのか。
「…………いや、違う。俺は知ってる、知っている」
日の呼吸の型を知っている。
身体の動かし方も、呼吸の仕方も、一晩中踊り続ける方法も全部知っている。
だって何度も何度も実際に試したのだから。
「――――ガッ!?」
瞬間、頭に激しい痛みが走り、その場に膝をついて頭を抱えた。
とてもではないが立ってはいられない激痛の中、視界がチカチカと明滅する。
そして脳裏に様々なイメージが浮かび始めた。
――――長い時間の中、沢山の人を犠牲にし続けた元凶に無理矢理力を注がれた剣士。
――――娘を守る為に身を挺して庇った歴戦の異能者。
――――強過ぎるが故に命を蝕み、生きたいのか死にたいのかすら分からなかった一振りの刀。
他にも様々なイメージが浮かんでは消え、浮かんでは消失していく。
そして最後に浮かんだのは時計の姿だった。
何故主人公が他作品の技術を使う事が出来るのか。
それにはちゃんとした明確な理由が存在します。
なのでその点を指摘されてもネタバレになっちゃいますので、その、すっげぇ困ります。
まぁ、他作品の技術に他作品の力をクロスさせたい理由付けですけどね!