特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
新しいパソコン買うまで遅くなります。
ジッリョネロファミリーのアジトにある庭園にて俺は一人座り込み考え事をしていた。
「…………はぁ」
最も、一人で考え事をしていたところで明確な答えが出てくるわけではないのだが。
溜め息をついてベンチから立ち上がり背筋を伸ばす。
「やっぱり、分からないなぁ」
何故自分に前世の記憶があるのか、何故自分が沢田綱吉になったのか、何故自分が他の世界の技術を使う事が出来るのか。
暫く考え込んでいたが答えには至らなかった。超直感もこの考えに関しては働いてくれないようであるらしい。
今まで考えないでいた。いや、そもそも考えた事自体が無かった。
メタ的な話になるがそもそもそういうものなのだと思い込んでいたのだろう。
だが結果は違った。自分が沢田綱吉になったのは、自分が他の世界の技術を使う事が出来るのには理由があったのだ。
――――だからといってその理由が何なのか分かるわけではないのだけれど。
「本当、一人で考えているとどんどん悪い方向にドツボに嵌ってくなぁ」
自分が本当の沢田綱吉を塗りつぶしてしまったのか、自分がこうして沢田綱吉をやっているのは何者かの思惑があるのか。
思考はどんどん悪い方向に傾いていく。
「まぁ、流石に気のせいだろ」
自分の魂が本当の沢田綱吉を塗り潰してしまったりしたとかは無いだろう。
転生者だと言う自覚こそあれど、同時に自分こそが沢田綱吉だという自負もある。
最もこれはあくまで自己評価でしかないから意味が無いのかもしれない。が、別にそれは今はどうでも良いことなのだから。
ただ自分自身でも最低三つくらい何か混ざっているような気がするのは否定できないが。
そして今の自分の現状に何者かの意思が介在しているとかも無いだろう。
一人そう言ったことが出来そうな奴に心当たりが居ないわけでも無い。が、奴は超越者ではあっても未来を視たりすることは出来ないし全知全能ではないのだから。
――――ただ、これ以上他の世界の力や技術を新しく覚えようとするのは止めた方が良いかもしれない。
既に覚えたものや血肉になったものは今更使わないというのは勿体ないし、何より自ら力を制限して戦うというのは性に合わない。
これから先もきっと使うだろう。
だけど新しく覚えようとしたりするのはとても不味い気がする。
超直感はそんな事は告げていないけれど、警戒しておくに越したことは無い。
「よし、一人で考えるのは終了! 少し身体を動かして忘れよう!」
仕事の方も一通り片付いたし、今はやる事が無い。所詮休暇のようなものだ。
流石は外国。ブラック企業気質が未だ蔓延る日本やリボーンが求めるボンゴレボスと違って、マフィアの世界においてもホワイトだ。
取り敢えず今やる事は現在の自身の能力を高めることぐらいだろうか。
死ぬ気の炎の出力を高める事や俺自身の基礎能力を高める事。
――――要するにいつも通りである。
背中に背負っていた刀を手に持ち、刀身に炎を灯す。
最初は覚束なく安定しなかったこの動作も今となっては慣れたものだ。
「ふぅ―――――」
一通り日の呼吸の型を繰り返す。
久々にやったせいか、それとも怪我が治ったばかりで身体が固まっていたせいか、振るっている自分ですら笑ってしまうような酷いものだった。
「まぁ、それも仕方が無いか」
暫く練習していなかったのだから当り前だろう。
そんな風に自嘲しながらも俺は特訓に耽った。
+++
それは偶然視界に映り込んだ光景だった。
庭園にて刀を手にした使用人と思わしき一人の少女が炎を纏った刀を片手に舞っていた。
見事な剣舞だった。見事な剣舞と言う他無かった。
自身も剣士の端くれである。だからこそその少女の剣技に男は見惚れた。
動きに無駄が多い事も分かる。一つ一つの動作が僅かながらもぎこちないと言う事も分かる。
きっと彼女はまだ本調子ではないのだろう。
それでも間違いなく自分が理想とする剣技の極致の一つだった。
――――挑んでみたい。
未熟であっても仮にも剣士という事か。
少女の身でありながらもあそこまで鍛え上げられた剣士に対して剣を交わしてみたいという思いがあった。
+++
「沢田さ――――こほん…………ディケイドさん!!」
刀を振るう事に夢中になっていると俺の偽名を呼ぶ声が聞こえた。
声が聞こえた方向に視線を向けるといつの間にかベンチに座っていたユニが此方を見ていた。
「あれ、ユニ? 何時から其処に?」
「一時間ぐらい前から居ましたが」
ユニの言葉を聞き、周囲の状況を把握できないぐらいに舞う事に集中していた事に気が付く。
「ごめん。集中していて全く気が付かなかった」
「別に大丈夫ですが、沢田さんの方こそ大丈夫なんですか? まだ病み上がりだというのに」
「大丈夫。ちょっときついくらいがリハビリだから」
額から流れる汗を拭いながら心配そうに此方を見るユニにそう告げる。
だがユニは俺の言葉を微塵も信じていないのか、疑っていますと言わんばかりの表情を浮かべた。
「いや、いくら俺でも流石に其処等辺は守るよ。身体を壊したら元も子も無いし」
「本当ですか? 嘘だったら許しませんよ?」
ユニの疑いの籠った視線を受けて思わず乾いた笑い声を漏らす。
全くと言っても良い程に信頼されてないな。まぁ俺自身、身体を壊しても後で直せば良いと考えているからそういった視線を向けられてもしょうがない。
とはいえ、好き好んで身体を壊す趣味も無いが。
「流石に嘘はつかないよ。あくまで軽くだから」
「それなら沢田さん。さっきの剣舞をやってからどれぐらい時間が経ってますか?」
ユニの言葉を聞いて俺は時計に視線を向ける。
「ああ、ざっと5時間ぐらいは経ってるかな?」
正確には5時間59分ぐらいだが。
そう考えながら何気無しに呟くとベンチから立ち上がったユニが俺のお腹にパンチをして来た。
ボスっという音が耳に入る。
幼い少女の軽いパンチだった為、全く痛くない。が、ユニがこんな事をするとは思わなかった為、正直困惑していた。
「えっ、あれ? ユニ、どうしたの?」
「どうしたの、じゃありません。それのどこが軽いんですか」
困惑する俺に対し、ユニは酷く怒った様子で俺を見ていた。
「いや、今日は6時間ぐらいしかやってないんだけど。本当なら一晩中やるんだけど…………」
それから先の言葉を言おうとしたところで、ユニの顔を見て固まってしまう。
笑顔だ。とてつもない笑顔だ。だというのにも関わらず物凄く怒っているのが分かる。
「ディケイドさん。貴方は本当に自分が病み上がりだって言う事を理解しているんですか?」
「はい。理解しています」
「理解していないですよね。していないからそんな無茶ばっかりして…………死にたいんですか貴方は」
「はい。すみません…………」
自分よりも年下の少女に怒られると言うのは正直堪えるものがある。
そう考えているとユニは溜め息をついた。
「別にその特訓をやるなとは言いませんから、少し自重して下さい」
「分かりました」
「やるにしても一時間。そして私が見ている時だけにして下さい」
「はい…………」
ユニの言葉に思わず項垂れてしまう。
「あ、後お母さんがディケイドさんの事を探してましたよ」
「分かりました…………少し片付けをしてから向かうから…………」
去って行くユニの後ろ姿を見て溜め息をつく。
流石は大空のアルコバレーノ。怒らせると滅茶苦茶怖い。
もう逆らう気力とか全く起きなかった。これから練習する時はユニに隠れてやった方が良いかもしれない。
ただ暫くは彼女の言う通りにしておいた方が良さそうだ。
そんな事を考えながら刀を片手に後ろに振り返り、
「それで、何の用でしょうか?」
向けられた闘志に対し、同じぐらいの闘志をぶつけ返した。
「…………分かっていたか」
「よく言いますね。気配を隠してなかったのに」
最も殺意は全く無かった為、警戒はしなかったが。
木の影から姿を現した男の姿を見て、僅かに目を見開く。
男は特徴的な形の眉をしており、纏っている空気は斬り裂かれるかのように鋭い。
幻騎士。今はまだ未熟であれど、10年後の世界において時代最強の剣士と称される存在だ。
最もそのメンタルはあまり強いとは言い難く、この時代でも弱さが垣間見えるが。
「これは幻騎士様ではありませんか。この使用人風情に一体何用でございましょうか」
「手合わせを願いたい。チヨヒメ・ディケイド」
自分の言葉に幻騎士は剣を片手に構える。
「申し訳ございませんが私は一介の使用人でございます。幻騎士様が望まれるような戦いになるとは思いませんが」
「ただの使用人が死ぬ気の炎を使えるわけがない。何より、ボスがユニ様の護衛として付けた貴様が弱いわけがあるまい。さっきの剣技を見れば尚更だ」
幻騎士の言葉に思わず溜め息を吐きたくなる。
が、溜め息をついたところで事態が好転するわけがないという事はよく分かっている。
ならばここは素直に挑戦を受けた方が良いだろう。
「良いでしょう。では、一合だけ」
「感謝する」
刀を構えて幻騎士と向かい合う。
そして、互いの刃がぶつかり合う音が響いた。
「ぐっ!」
カキンと甲高い金属音が鳴り、幻騎士の剣の刀身の真ん中から先が宙に舞う。
振り抜いた刃を納刀し、地面に折った刃の切っ尖が刺さった。
「勝負はつきました。見事な剣技でした」
地面に膝をつく幻騎士に背を向ける。
本当に強かった。10年後の世界での幻騎士に比べれば未熟なのだろう。戦闘経験とかもまだそこまでではなかったし、驚異かと聞かれればそういうわけではない。
だけどこれから間違いなく強くなるという事が分かる。
間違い無く時代最強の剣士を名乗れるだけの素質はあった。
単純な剣技だと恐らくすぐに追い越されて勝てなくなるだろう。
「では、用事が入りましたので失礼致します」
そう言って俺はこの場から立ち去った。
――――この時の対決が原因となって、後に脅威として襲い掛かって来るのをその時の俺はまだ知らなかった。
+++
「え、えっと…………すみません。もう一度仰って貰ってもよろしいでしょうか?」
アリアさんの部屋に訪れた俺は彼女の口から語られた言葉を聞いて困惑していた。
恐らく俺の聞き間違いなのかもしれない。いや、多分そうに決まっている。
そう思う俺に反して、アリアさんはにこやかに笑みを浮かべながら告げた。
「チヨヒメ・ディケイド。貴女にはユニと共に学校に行ってもらうわ」